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社長の器~太閤秀吉より

投稿日時:2006/11/04(土) 18:30rss

●よく、「会社は社長の器以上にはならない」と言われます。では、「社長の器」とは具体的にどんなことを指すのか。今回は、太閤・豊臣秀吉の例で考えてみましょう。

日本史上最大の急成長組織は豊臣秀吉がつくりあげた豊臣家でしょう。尾張中村郷(今の名古屋市中村区)の農民の倅(せがれ)が蜂須賀小六と出会い、織田信長に仕えてから天下を平定するまでわずか30年。おそらく世界史でみても指折りの急成長です。

●織田家での秀吉のスタートは雑役夫で、足軽以下です。しかも、当時彼はすでに18歳。この時代としてはかなり遅いスタートでもあります。

●しかし、30年後には徳川、毛利、上杉、伊達など歴史と伝統と格式をもつ大大名を傘下におさめる巨大組織の頂点にたつのです。その間、秀吉とその組織は成長と変質をくりかえしてゆきます。

●企業でいえば、サラリーマンから個人の自営業として独立。零細企業の社長から中小企業、中堅企業の社長を経て、一部上場会社、そして日本中の会社を傘下におさめることになるのです。

そのプロセスで秀吉の組織はどのように進化し続けたのでしょうか

●足軽頭になった頃の部下は、数人から数十人の規模です。企業でいえば、零細企業から中小企業のトップです。一人ひとりの足軽に対して、直接指揮をとる段階といえましょう。

●やがて、墨俣築城の頃が数十人から二百人規模。元気の良い中小企業規模で、秀吉とその部下とのドラマチックなエピソードがもっとも多い時期でもあります。

●近江長浜の城主になるころには、部下が千人から三千人規模。この時期には竹中半兵衛や黒田官兵衛などの知将が部下に加わっています。さらに、加藤清正や石田三成といった小姓組織も作っています。

●企業でいえば、中堅企業から上場企業という段階ですが、織田家という親会社をもつ気楽さと大らかさをあわせもっていたようです。

●やがて、本能寺で信長が急死。その直後、天下分け目の天王山の戦いを勝ち、賤ヶ岳の合戦で勝利をおさめ、天下をとると、諸大名のすべてが部下となりました。個人的な裁量で組織を動かすことはできなくなり、規則・規定と事務官僚が組織運営の中枢を握り出すという段階です。

●さて、秀吉個人はこの間に、兄貴分からおやじに、大将から殿、やがて太閤へと呼称は変わるわけで、その都度、彼は部下のと関係や自分のリーダーシップを変えていくのに成功しているのです

●呼称が変わるだけでなく、その時々の組織改革とみずからの変身を同時に成し遂げたところに、類をみない成功の原因があります。その変身ぶりは今日のビジネス社会でいうところの「自己啓発」などという生やさしいものではなく、命をかけた環境適応でした。

●組織が小さい段階ではお互いに気心をつかみ、規則に反するものがいても寛大。戦場で結果を出せ、といったところです。しかし、組織が巨大化し、お互いの気心がつかめなくなると、就業規則も賃金規程も必要になり、それを守らなければならなくなります。

●古参の武将からはそうした官僚的な組織運営に対する不満と若手エリートが幅を効かせることへの不信感が芽ばえるでしょう。しかし、秀吉はそうした対立への処置が実に適切でした。

●たとえば、初期の段階で役に立った猛烈社員は、天下平定後の豊臣家ではほとんど役に立っていません。しかし、俸禄で報いることで対立のバランスをとり続けたのです。

●秀吉の生涯は、強運としか言いようのないものですが、実は彼自身がものすごい成長をしていたという点に注目したいものです。

●もちろん左遷も経験し、腹を切ってもおかしくないほどの失態も演じています。しかし、もともとが尾張中村郷の水飲百姓の小せがれ、はなっから捨て身ですから陽気です。

●私たちも太閤秀吉のような変身力をもつことが、「天下平定」「目標実現」の大きな条件になっていると思います。立場や年令を超越して変身・成長できることが、社長の器ではないでしょうか。

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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