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敵情報知

投稿日時:2010/05/14(金) 16:05rss

●たしか数年前のことですが、ソフトブレーンの創業者・宋文洲さんが社長時代のとき、一度対談させていただいたことがあります。
正確にいえば、宋さんの秘書の方が私にメールを下さり、あなたの書いた本のことで一度お会いしたいと宋が申している、ということでした。
私も宋さんの活躍を存じ上げていたので、すぐに面談の日時を取り決め、八丁堀の本社までうかがいました。

●名刺交換して着席するやいなや、宋さんは手にしていた私の本の表紙を叩きながら、「あなたのこの本、ひどいよ」というのです。
怒った表情ですが、目は笑っているので私も笑いながら「何がひどいのですか?」と聞きました。

●すると宋さんは、本のタイトルがひどいというのです。
『勝ち抜く経営者の絶対法則』というあなたの本のタイトルだと経営者しか読まない。この本には経営者の切実な心があるから、むしろ若い社員に読んでほしい、というのです。
要するに、苦情を言うフリをしながら誉めてくれているわけで、人の心をつかむのが上手な方だなというのが第一印象でした。

●今ではマスコミを賑わす論客の一人として活躍中の宋さんですが、この当時からすでに一流の論客でした。たくさんのことをメモした覚えがありますが、その中で「情報」に対する宋さんの持論は膝を打つ内容でした。

●ビジネスに必要な「情報」とは何かということを本質的に考えることが大切だと説きます。宋さん自身は、情報ということばの語源にまでさかのぼって考えたそうです。
それによれば、情報とは「敵情報知」を略した言葉だといいます。敵情を報知する(知らせる)活動が情報なのだと。
敵の情勢を報知するとは、「敵がどこに何人いてどのような装備をしている」というような事実を伝えることなのです。そこにあるのは、すべてが事実であり、客観的なものであって予測や憶測・主観は含まれません。

●ビジネスや経営に必要なのは敵情報知という意味での「情報」だと宋さんは考えました。特に営業活動を支援するソフトウエアを開発するのが当時の宋さんの会社でしたから、営業活動における情報とは何かを根本から考え尽くしたそうです。
そして、日本企業ではどのように情報収集とその活用が行なわれているのかを調べていくと、そこには唖然とするものが待っていたというのです。

●例えば日報などの報告書関係。
多くの会社では次のような「情報」が報告され、それを経営者は経営判断に活かしているというのです。

・何とかがんばって今月中の受注に持ち込みたいと考えている
・この会社には予算がないと思われ、当面は期待がもてない
・この会社から紹介客を得るために最善を尽くしたい
・あの会社は担当者が変わったので、当社に対する信頼度が薄まった
・・・etc.

残念ながらこれらの「情報」は、敵情報知という意味からすると失格だそうです。それらは営業社員の主観や決意であって、経営者の意思決定のために使える情報になっていないのです。

●では何が本当に使える情報なのか。
それは、主観が交わらない事実です。出来れば定量化されるような、択一アンケートの方式に近い営業日報であれば良いと考えました。それが宋さんの会社のソフトウエアの根幹を成す発想だというわけです。

●「敵情報知」という言葉の敵情の中には、自社も含まれるでしょう。
要するに知りたい対象はすべて敵だと考えれば良いのです。あなたが意思決定するために必要な敵情は何か? それを客観的に知るためにはどうしたら良いかを考え、そうしたものだけが日々集まってくるようにすれば、それが立派な情報になるのです。

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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