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家康の強運

投稿日時:2010/05/21(金) 10:43rss

●徳川家康は三方原(静岡県浜松市の北部)の合戦(1753年)で武田信玄に大敗を喫しました。野球で言えばコールドゲーム、ボクシングならタオルが投げられるほどの完敗です。
なにしろ相手が悪い。川中島で上杉謙信と幾たびも交戦し、戦上手この上ない日本を代表する屈強武田軍団なのですから。

とにかく家康は馬上で脱糞しながらも、ほうほうの体で逃げ伸びました。

●家臣にも笑われるほどの惨めな姿で城に戻った若き家康は、そのあとが立派でした。この敗戦を教訓にするため、自分のみじめな姿を絵師に描かせているのです。トップとして、なかなかできることではありません。

★家康敗戦の絵 http://www.hamamatsu-navi.jp/shiro/history/002.html


●この敗戦が忘れられぬ家康は、後々になっても「負けを知らない人はよろしくない。私の場合、三方原で・・・」というようなことを周囲に語っています。

余談ながら、家康はこの敗戦でかえって有名になります。天下の“赤具足”武田軍団に真っ向から立ち向かった若武者がいると全国にその名を轟かせるわけですが、家康という男はこのころから強運の持ち主だったのでしょう。

●さて、「運」といえば先日、数人で居酒屋に行きました。その中にいた初対面の20代後半とおぼしき男性ビジネスマンが私に向かってこう言いました。

「武沢さんって、経営の秘訣をメルマガに書いてるの? へぇ、どんなこと書いてるの? オレが思うに、経営者ってまず運が大切だと思うの。こう見えてオレも相当なツキ男。だって付き合ってるやつら、みんな明るくて幸せそうだし、自分的にもまずまずハッピーだし。ま、不運そうなやつが寄って来たらこっちから逃げるけどね、ハハハ。この前も失敗している同級生から電話がかかってきたけど居留守使っちゃったもの。たしか、松下幸之助さんも運の良い人と付き合えみたいなこと、言ってるじゃん」

●残念ながら、この人は運というものについて表面的な理解しかしていないように思います。まずは、そのタメグチを改めることが大切でしょう。

ともかく、負けや失敗を周囲から排除するから運がよくなるのではない、と私は思うのです。どれだけ沢山の失敗や挫折、それに不遇というものを知っていたり、体験しているかということが、人間の深みにつながるのではいでしょうか。

●成功しか知らない人(そんな人はいないと思いますが)や、成功することしか興味がない人(こういう人は多い)は、他人の感情や心の痛みが理解できなくなりがちです。そういう経営者では良い会社は作れないと思います。

●哲学者ヴィトゲンシュタインは、「人間の偉大さを測る尺度は、その仕事に支払った犠牲の多寡である」と述べています。この言葉を引用しつつ、評論家の森本哲郎氏はこう語っています。「犠牲を支払えばだれでも後悔するだろう。しかし、その後悔が偉大さを生むのだ。だから、私のモットーは宮本武蔵とは逆である。『我、事において、常に後悔す』」。

●家康の大敗戦に学ぶように、私たちも負け、失敗、犠牲、後悔、不運、不遇といったものを避けるのではなく、それらの上に成功や偉大さが成り立っていると考えみてはどうでしょうか。

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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