大きくする 標準 小さくする

2007年05月21日(月)更新

責任の行き止まり

●ホワイトハウスにある大統領執務室の壁に、「責任の行き止まり」と書かれた一枚のプラカードがかけられているそうです。これは、「自分にとって、責任を転嫁する相手は存在しない」ということを暗示しているのでしょう。大統領であれ、社長であれ、最終責任者には常にそれくらいの覚悟が要求されます。

●「会社組織における最終責任者は、社長である」ということは、もはや言うまでもないでしょう。

●では、幹部や社員には責任転嫁する相手がいてもいいのでしょうか? 時と場合によっては、幹部や社員の席にも「責任の行き止まり」カードをぶら下げておく必要があると思うのです。

●「おっかしいなぁ。なぜこんな結果になるのか、理由を聞かせてくれ」
靴販売の「シューズマート田仲(仮名)」の田仲社長は、経営会議の席上でそう言って、眉間にシワを寄せました。その理由は粗利益の急激な落ち込みです。3か月前に改装したばかりの本店の粗利益が29%から22%にまで低下したのです。

●「シューズマート田仲」は本店の改装オープンにあわせ、外国製の低価格シューズを目玉商品に据えました。このシューズ自体の粗利益は40%あり、他の定番商品を値下げ販売しても、最終的には全体で30%を超える粗利益が出るはずでした。それなのに、結果が22%というのがどうにも解せないというのです。
●この会社の役員は、社長、専務(奥さん=経理担当)、仕入部長、店舗運営部長、総務部長の5名です。商品価格の決定権は仕入部長にありますが、値下げする権限は店舗運営部長にも与えられています。また、7店舗それぞれの店長にも値引きをする裁量が与えられているのです。田仲社長は「いったい、だれの責任だ?」と続けました。

●社員数が増え、組織として仕事をこなすようになると、責任の所在があいまいになることがあります。

●この会社の場合、本来なら粗利益責任は仕入部長にあるはずです。店舗での値下げ権限があるとは言え、それらを常に把握して粗利益をコントロールする責任があります。しかし、仕入部長は仕入れのための出張が多く、社内にいることはめったにありません。外国出張も多いため、この件について責任を追及するのは気の毒だ、ということは社長もわかっています。

●一方、店舗運営部長も7つの店舗の指導で忙しく、粗利益の低下をリアルタイムで把握することは困難な状況にありました。販売促進の企画に加え、チラシや販売マニュアルの制作など、同じく多忙を極めているからです。

●この場合、二つの視点が必要です。一つは、社長が発した質問の通り、「誰の責任か?」という視点。もう一方は、「何が原因で、どうすれば改善できるのか?」という視点です。多くの会議に参加して気づくことは、「何が原因なのか?」という議論は必ずされますが、「誰の責任か?」という議論が足りないことです。どうすれば改善されるかを論じる前に、まずは誰の責任なのかを明確にしておくべきでしょう。

●会議では次のような結論が出ました。

1.これまでは、粗利益をコントロールする責任の所在が曖昧であった。
2.今後は、毎週月曜日に専務が販売集計表を作成し、各役員に配付する。
3.各役員は、その集計表をもとに問題を発見して解決策をレポートにまとめ、火曜日の経営会議に提出する。
4.それに伴い、月曜日に開催していた経営会議を火曜日に変更する。
5.売上高は店舗運営部長、粗利益と在庫は仕入部長、経費は専務を、それぞれ最終責任者とする。

責任の所在を曖昧にしたままでは、組織全体としての問題を議論しても真剣味に欠けるのです。もちろん、すべての結果に対する最終的な責任は社長にありますが、個々の現象に対しては社長が最終責任者なのではありません。役員や幹部なのです。

●明日の経営者を育てるためにも、幹部に責任を負わせることを避けてはなりません。たとえば、「粗利益責任の行き止まり」「売上高責任の行き止まり」というようなカードを作って、天井からぶら下げてみてはいかがでしょうか。