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2007年06月11日(月)更新

夢を語る

●A産業という会社を訪問したときの話です。近くまで来たのですが、場所がわからなくなり、たまたま通りかかったビジネスマンに道を尋ねたところ、「A産業は私の勤務先です。すぐそこですからご案内しましょう」と言って、同行してくれました。

●歩きながら私は、「A産業さんって、どのような会社なのですか?」と聞いたところ、彼はほんの一瞬、間をおいた後、こう言ったのです。

「夢のある会社です!」

●私は思わずうなってしまいました。このようなセリフは、そう簡単に言えるものではありません。会社のビジョンと社員のやり甲斐とがリンクしているからこそ、出てくるセリフではないでしょうか。

●夢とは、誰かに与えられるものでなく、自ら作るべきものです。同様に、会社のビジョンも社長から与えられるばかりでは、優秀な社員ほど嫌になります。なぜなら、社員もビジョンを与えられるのではなく、作ることに参加したいと思っているからです。冒頭の彼が「夢のある会社です」と胸を張って言えるのは、きっと会社のビジョン作りに参加できているからに違いありません。
●話は変わりますが、私が20代の頃、毎月のようにお見合いをしていた時期がありました。最初は初対面の女性の前で緊張して、話題もとぎれがちでしたが、途中から作戦を変えました。

●自作の「人生25か年計画」を初対面の女性に話すようにしたのです。具体的に言うと、大学ノートに書きためたビジョンを熱心に語りました。その結果、それまでとは明らかに違う反応が返ってきました。

●いわゆる「ドン引き」というやつです。私が、自分のビジョンを熱っぽく語れば語るほど、彼女たちは逆に引いていくのです。最初はその理由がわからず、「きっと、計画のどこかが甘いからだろう」と思い、ますます詳細な計画を作っていったのですが、うまくいきません。

●そんなある日のことです。いつものように通り25か年ビジョンを語り終わったあと、女性からこのような質問をされました。

「それで奥さんは何をすればいいの?」

●私はこの質問を聞いたときにドキッとしました。とっさに、「できれば家庭を守って、家事に専念してもらえれば、ありがたいと思います」と答えながらも、男の自分が未来を全部切り開いていくものだ、と気負っていたことに気づいたのです。私はその女性に、理想の家庭像を聞き、自分の考えも述べました。それが今の妻です。

●経営でも同じことが言えます。詳細で完璧な計画を作れば作るほど、優秀な社員はかえって引きます。ある会社では、毎年一回、社内論文大会を開催しています。主眼はあくまで業務の改善改革ですが、論文のテーマは自由に設定できることとし、優秀作品の執筆者は、無料で2週間の米国企業視察旅行に派遣する、というものです。最初の頃はほとんど応募がなく、社長も困ったそうですが、10年たった今では、全社員のほぼ8割から応募があるほどのイベントになりました。

●最近では論文に限らず、小説やマンガ、映像、歌なども受け付けていて、昨年の受賞作品は、「2015年宇宙への旅」と題した会社の未来予想小説だったそうです。

●さて、あなたの会社の社員は、社外の人から会社のことを尋ねられたら何と答えるでしょうか。気になるところですね。