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2008年01月18日(金)更新

誰を選ぶべきか

●「優秀な人材が優秀な部門にいる」。会社ではよくある話です。ですが仮に、一番優秀な人材を一番問題のある部門に異動させたら、どうなるでしょうか

●こんな例があります。かの名著『ビジョナリー・カンパニー2』(ジェームズ・C・コリンズ著 山岡 洋一訳 日経BP社)でもたびたび対比して紹介されている、「キャメル」で有名なR・J・レイノルズ社と、「マルボロ」でおなじみのフリップ・モリス社の話です。

●両社とも世界的に有名なタバコ会社ですが、実は経営力における格差は相当あり、フィリップ・モリスのほうが格段に上のようです。

●1960年代の初頭の話です。両社ともに売上高の大部分は国内(アメリカ)事業部のみによるものでした。その頃は、R・J・レイノルズがフィリップ・モリスより勝っていたそうです。
●やがて、両社とも国際事業を展開していくことになったのですが、当時の経営陣の意思決定が未来の命運を決めることになります。

●R・J・レイノルズの経営者は、当時のビジネスウィーク誌のインタビューで「世界のどこかにいる外国人が『キャメル』を買いたいというのなら、電話をかけてくればいいんだ」と答えました。
●つまり「欲しいのなら買いに来い」という姿勢です。これはトップの発言だけにとどまりません。事実、同社はしばらくそういった経営姿勢にのっとった販売戦略を展開していました。

●一方、フィリップ・モリスのCEOだったカルマンはどうしたか。当時、まだ1%に満たない国際事業こそが長期的な成長の宝庫とみていた彼は、そのための戦略を考え続け、ついにある結論に達しました。戦略として「何をすべきか」を考えるのではなく、「責任者として誰を選ぶべきか」を決めることが、自分の役目だと気づいたのです

●カルマンは、社内でもっとも優秀だったジョージ・ワイスマンに白羽の矢を立てました。全売上のうち99%を占める国内事業の責任者だった彼に、国際事業部を任せる決断を下したのです。

●当時の国際事業部は、名ばかりの不採算部門でした。当然、そこへの異動が決まったワイスマンは、最初は左遷だ、降格だ、と社内外で騒ぎ立てられましたが、カルマンはワイスマンを支援し続けました。

●その後、国際事業部はフィリップ・モリスでもっとも高い成長率を記録。最大規模を誇る部門になるとともに、看板商品の「マルボロ」はアメリカ国内市場よりも3年早く、世界市場で首位に立ったのです。この頃には、件の人事も「天才的なものであった」と評価されるようになりました。

●フィリップ・モリス社の話は、問題部門やお荷物整理に優秀な人材をあてるのがよい、という単純な話ではありません。今は不振でも、将来的に成長の見込みが高い部門には優秀な人材を当てるのが良い、ということです

社長の決断には「何をすべきか」だけではなく、「誰を選ぶべきか」もとても重要なのです
(参考:『ビジョナリーカンパニー2』ジェームズ・C・コリンズ著 山岡 洋一訳 日経BP社)