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2008年02月15日(金)更新

困ったらあかん

●東京に本社のある松下電送(現・パナソニック コミュニケーションズ)がファクシミリをつくり始めた頃の話です。社長の木野親之氏が松下幸之助氏から呼ばれて、大阪の門真にある松下電器本社をたずねました。

●そして幸之助翁に「君、何か困ったことはあるか?」と問われ、木野氏はとっさに「はい、問題はいろいろありますが頑張っています」と答えたそうです。

●そうしたやりとりの後、幸之助翁は最後に「困っても困ったらあかんで」と言われたそうです。それを聞いた木野社長は、帰りの飛行機のなかで心が晴ればれとして、やる気がみなぎってきたとか。

●このやりとり自体は禅問答のようなものだと思います。しかし、ファクシミリという新しい商品を世に送り出し、事業として軌道に乗せることは、決して容易なことではなかったはずです。新規商品の開発につきものの問題があちこちで発生し、困ったことばかりだったのでしょう。

●当然そのことは、幸之助翁も知り抜いていたはず。その上で翁はこう言いたかったのではないでしょうか。
「困るような事はいっぱいあるやろうが、しかしそれは外的なことや。けど、そのせいで君の心までもが困ったらあかんのや」と。
木野社長をわざわざ来阪させたのは、そのメッセージを伝えるためだったのかもしれません。

●また、幸之助翁は別の場所でこんなことも語っています。
「心配するのが社長の仕事や。社長が心配するのが嫌になってしまったら、それは社長を辞めるときや」
心配し、心まで困り果てるのが社長の仕事。ナンバー2以下はその必要なしということでしょう。トップらしい、潔い心意気ではないでしょうか。