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2009年02月02日(月)更新

K君が学んだこと

●K君のアルバイト先である、ディズニーランドにて

上司
「Kさん、長い間の勤務ご苦労様でした。書類に記入すべきことはすべて私が書いておきましたので、あとはあなたの署名が必要です。ここにサインをお願いします」
K君
「えっ? ちょ、ちょっと待ってくださいよ。これって退職届じゃないですか」
上司
「そうですよ?」
K君
「何回も遅刻したのは申し訳ないと思ってます。でも、僕はやめるつもりなんかないです。もう遅刻しませんから許して下さい
上司
「Kさん、今日で何度目ですか? 遅刻は雇用契約違反になるということをご存知ですよね。自分から契約を破っておいて、いまさら『やめるつもりはない』なんて言えますか?」
K君
「……」

●これまでK君は、「自分は“単なる”バイトであり、正社員ではないので気軽な身分なんだ」と思っていた。事実、彼はディズニーランド以外に、近所のガソリンスタンドで働いており、そこでは「すいません、今日ちょっと体調悪いんで休ませてもらいます」と電話すれば、あっさり許可をもらえた。極端にいうと、ウソやごまかしでも通用した。

●今回の遅刻も、徹夜で遊んでて寝過ごしたのが理由だった。心のどこかでは、ディズニーランドでの仕事も、スタンドと同じ「“単なるバイト”のやること」と高をくくっていが、ここでは通用しなかった。
●上司はスタッフのしつけに普段から厳しく、彼自身も「おいK! おまえなぁ…」と何度となく叱られた。だが、この日は「Kさん」と呼び、それを聞いた瞬間、彼は「あっ、敬語だ。自分は大好きなこの上司に見放されようとしている。もしそうなれば、この先僕はどうなってしまうのだろう」と思った。

自分を一人前の社会人とするべくここまで育ててくれたのは、その上司のおかげだった。「この人に見放されたくない」と思うと涙が自然とこみあげ、土下座して上司に謝った。そして、二度と同じことをしないと心に誓った。

●すると、「おまえなぁ、いいかげんにしろよ」と上司の口調が普段に戻り、彼は「やった、助かった」と歓喜すると同時に、社会人として大切なことを学んだ。

その一件以来、私生活を自分でコントロールするようになった。それは社会人として当たり前のことではあるが、この時のできごとが彼自身にプロの自覚をもたらしたのだ。

●翌年、K君はディズニーランドの年間最優秀スタッフに選ばれ、シンデレラ城の前で全スタッフから喝采を浴びた。そのとき、彼とその上司の胸に去来したものは何だったのだろうか。