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2009年07月07日(火)更新

責任感は育てるもの その1

●私の自宅近くにあるマクドナルド・ハンバーガー(以下、「マック」)に、とても優秀な女性店員のAさんがいました。彼女は大学に通いながらここでアルバイトをし、同僚のアルバイトたちのリーダー格でもあり、顧客からの評判もとても良い人でした。私もときどき話しかけたりしましたが、受け答えもハキハキしていて、「うちで働いてくれないかな」などと考えたほどでした

●ある日を境にAさんを見かけなくなったので、他の店員に聞いたところ、家庭の事情で退職したということでした。

●それから3か月ほど経ったころでしょうか。地元商店街の書店で、週刊誌を手にとってレジに行ったところ、前の客が買った何十冊ものコミックに一冊ずつカバーを付けてほしいと要求したようで、時間がかかっていました。私は少し急いでいたので、後ろから「あとどれくらい掛かりそうですか」と声をかけました。

●すると、店員さんは手を止めてこちらを見たのですが、その顔をみて私はドキッとしました。Aさんだったからです。でも、彼女は私のことを覚えていなかったようで、表情を変えずにすぐに下を向いて作業を続けながら「5分ぐらいはかかりますが」と言いました
●そのとき私は、別人ではないかと思いました。なぜなら彼女は無愛想というよりも無表情で、カバー付けの作業もとても遅かったからです。幸い、前の客が私を気づかってくれたのですぐに雑誌を買うことができましたが、Aさんはそんな順番すらどちらでも良いようでした。

●マックでキビキビ・ハキハキしていたAさんは、すでにそこには居ませんでした。今でもその場面を思い出すと、いろんなことを考えてしまい胸が痛くなります。

・「家庭の事情」っていったい何だったのだろう? よほど辛いことでもあったのだろうか
・マックを辞めてこの本屋で働くということは、ひょっとしてここが実家なのだろうか
・この本屋ではやり甲斐がないのだろうか? なぜこんな無愛想になったのだろう
・それともマックではどのようにして彼女のやる気を引き出していたのだろう。

などと、考え出すとキリがありません。

●『現代の経営』でドラッカーは、「働く人たちが責任を欲しようと欲しまいと関係はない。働く人たちに対しては、責任を要求しなければならない」と述べており、続きにはこうあります。

・・・
責任は金で買うことができない。もちろん、金銭的な報奨や動機づけは重要である。しかしそれらのものは、消極的な意味をもつにすぎない。

金銭的な報奨についての不満は、マイナスの動機づけとして、仕事に対する責任感を低下させ、腐食させる。しかし金銭的な報奨についての満足は、明らかに、積極的な動機づけとして十分ではない。金銭的な報奨が動機づけとなるのは、他のあらゆる要因によって、働く人たちが責任をもつ用意ができているときだけである。
・・・

●そこで、働く人に対してどのようにして責任を持たせるのかが問題になります。次回のコラムでそのあたりを掘り下げて考えてみることにしましょう。

<次回につづく>