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2008年07月11日(金)更新

理解と同意

●私が40代後半だったある日のこと、名古屋市内にある電気設備会社のE会長(70歳)からこんなことを言われました。

「武沢くん、男も還暦を超えるとね、若いときのようなパワーや欲望が薄らいできて、自分のエネルギーのはけ口をコントロールしなきゃならんのですよ。限られてくるからね、エネルギーが。きっと何年かしたら、あなたもそれを実感するときが来るに違いない」
「はぁ、そんなものですか。ノートパソコンみたくパワーマネジメントが必要ですかね、ハハ」

●このE会長、その枯れたセリフに似つかわしくない漆黒のテスタロッサを操りながら、私を名古屋駅まで送ってくれました。

「今から東京出張だね、がんばってきなさいよ、向こうには全国からすごいヤツらが集まってきてるから、気を抜くんじゃないよ」
「はい、がんばってきます」
「まるで出征兵を送りだすみたいだね、ワハハ」

新幹線に乗りこみ、E会長の言葉を反すうしてみました。
「男も還暦を気にする…、あなたもそれを実感するときが来るに違いない。あと12年か……」

●それから6年経ち、私も54歳になりましたが、故人となられたE会長のあの笑顔と言葉と運転技術の確かさは忘れることができません。しかし、その意見にはいまでも「同意」していません
●加齢によってパワーが落ちるのは一般的なことですので、当然「理解」はできます。しかし、私は「そんな歳のとりかたはしたくない」と思っているので、「同意」はしていません。あくまで、「理解」と「同意」は別物です。トレーニングジムやヨガ教室に通って体を鍛えていますし、精神的にも老けることを拒否しようとしています。ですから、仮に若い世代の経営者とキャバクラへ行くことがあってもホステスさんとは話題に事欠かないようにしているつもりです。

●キャバクラのことはさておき、「理解」と「同意」は別物という話に戻りましょう。経営者としてのあなたが示す会社の方針や目標は、部下に「理解」されるだけでなく、「同意」されているでしょうか? 「部下が動いてくれなくて…」と悩むリーダーは、「理解」と「同意」、どちらの手前で止まっているのかをチェックしてみましょう。また、あなた自身も、部下の意見や気持ちを「理解」しているのか、それとも「同意」しているのか、考えてみてください。

●「理解」を得るだけなら、一度の説明で済むかもしれません。ところが「同意」を得るためには、繰り返しくりかえし、さらにはくり返して反復することや、感情に訴えかけるようなメッセージで共感を得なければなりません同時に、相手の意見や気持ちも積極的に聞かなければなりません

そんな取り組みがあって初めて、「理解」が「同意」に進化していくのだと思います理解と同意は別だということをいつも忘れずにいたいものです

2008年06月27日(金)更新

Thank you と I love you、I need you

●社会人になってすぐのころ、職場の先輩から「武沢、サンキュー上手になれよ」と教わったのを思い出します。「サンキュー上手ってなんですか?」と聞くと、“気持ちよくお礼を言える人間になれ”ということでした。そのためには、「少なくともお礼は三度言え」とまで言われました。

●たとえば、夕食をご馳走になったとき、一度目はその場でお礼を言う。二度目は翌朝、会社で会ってすぐにお礼を言う。三度目は後日何かの会話のときにさりげなく「そういえば、あそこの唐揚げうまかったですね」とご馳走になった話題をする。そこまでされると先輩から、「こいつは、おごり甲斐があるヤツだな」と可愛がられます。「周囲から引き立てられる必要がある若者は、サンキュー上手になってナンボ」と教えてくれた先輩に、今も感謝しています。

●それから10年たって結婚したときには、「サンキュー上手だけでなく、アイラブユー上手にもなろう」と心に決めました。でも、これはなかなかうまく言えませんでした。

●「アイラブユーって先週言ったでしょう。だから今日は言う必要はないんだ」という理屈は通らないとはわかっていても、そうそう言えるものではありません。本当は「 I love you 」の気持ちが変わっていないかぎり、惜しまずに今日もそれを言葉で伝えるべきなのかもしれません。受け手にとって、愛情メッセージは満たされた瞬間に消滅し始め、すぐに飢えてしまうもので、たえず補給が必要なビタミンのようなものです。
●しかし、与える側はどうでしょう? 四六時中「 I love you 」と言えるものではありません。ですから、言葉と態度でそれを表そうとしました。

●それから10年たって40歳で経営コンサルタントとして独立し、会社を作りました。初めて採用したアルバイトは女性でした。職場で「アイラブユー」と言うわけにはいきませんから、「アイニードユー(I need you)」という気分で仕事をお願いしました。

●今、オフィスには私を含めて5人が働いていますが、「サンキュー、アイラブユー、アイニードユー」という気持ちを忘れないようにしています。同時に、スタッフから「サンキュー、アイラブユー、アイニードユー」と言われる自分でいたいとも思っています。

2008年06月20日(金)更新

ファシリテーション

●あるプロジェクトがひと段落したあとの、ご苦労さんパーティでのことです。一人の女性幹部が、ビールグラス片手に私のところにやってきたのですが、とんがった口元をみると、何か不満げな様子です。

「武沢さん、ちょっと聞いてほしいのですが……。うちの部長は気まぐれなんだから」
「何かあったのですか?」
「部長が『アイデアを自由に出せ』って言うから、いろいろと突飛なことや奇想天外なアイデアを言ったのに、その場ですぐに否定されてしまうの。ときには、怒り出しちゃったりもする」
「へぇ、そうなんですか」
「そう。たとえば私が何かのアイデアを出すとするでしょ。そうすると、『どうやってそれを実現するんだ!』とか、『我々に与えられた予算や時間という制約条件を無視するな』とか言って、ホワイトボードに私のアイデアすら書いてくれない」
「それはちょっとつらいね」
「でしょ? それでもって自分のアイデアはどんなにつまらないものでも、ホワイトボードの目立つ位置にデカデカと書くわけ。これもひとつの『パワーハラスメント』じゃないかってメンバーとひそひそ話しているの」

●たしかに、彼女がかわいそうですね。全員の感情参加が必要なこうした会議では、進行者の何気ない発言や態度によって、参加メンバーの気持ちが左右されていることを忘れてはなりません。会議やミーティングにはいろいろな目的や手法がありますが、アイデアを幅広く求めるときには、アイデアを出すことそのものを目的にすべきです。アイデアの実現可能性や、達成への方法論を問いかけてはいけません。もちろん、誰の発言かによってアイデアを差別するのも禁止です。

●ミーティングや会議の運営を「ファシリテーション(促進)」と言い、米国では、この専門家「ファシリテーター(促進者)」のプロには高い値がつくといいます。日本でも組織の風通しの良い会社には、必ず一人はファシリテーターの役を果たせる人がいます。的確なミーティング運営ができる人は、コミュニケーションの達人として高く評価すべきです
●「お前も意見を言え」と強制的に発言させるのではなく、意見を言いたくなるようにメンバーの感情をコントロールできるファシリテーション法をマスターしましょう。たとえば、
・いつも、「今、考えてほしい、発言してほしいテーマは何か」を明確にする
・どんな小さなこと、間違ったことでも構わない。発言すること自体が貴重であるという雰囲気づくり
・発言された内容は無視されたり批判を浴びることがない
・誰が正しいかではなく、何が正しいかをみなで考える
・特定個人が発言を独占することがない
・特定個人の発言に影響されないように、まずは発言内容を全員が前もって紙に書き、それを読み上げていくことからミーティングが始まる
いつ始まり、いつ終わるかを明確にして会議に専念させる
・否定的意見や批判的意見が出て会議のムードが暗くなっても、明るく全体を鼓舞させる進行
などなど。

●ファシリテーションをマスターした人は、それだけで市場で1000万円の値が付くと私は思います。さっそく明日の朝礼からでも、そうした運営をこころがけてみてはいかがでしょうか?

2007年09月06日(木)更新

鉄は熱いうちに打つ

鉄は熱いうちに打て、とは良くいったものです。逆に、「あの時がんばっておけば良かった」と感じることもしばしばあります。

●この春もワンセグ対応の携帯電話を買ったのですが、いまだに使い方がよくわかっていません。買ったばかりの頃に、説明書を見ながらある程度の時間を投資しておけば良かったと、後悔しています。

●そういえば、私が経営コンサルタントとして独立した三年目のときも、こんなことがありました。

●ある日、使い慣れたワープロ専用機をお払い箱にして、パソコンセット一式を購入しました。当時、インターネットにはまだ興味がなかったので、パソコンにはもっぱら機能の向上を期待していたのですが、ワープロ専用機に比べてあまりに多機能なこともあり、かえって使い方に困った記憶があります。

●そこで、自分に時間とお金を投資することにしました。パソコン学校へ通うことにしたのです。
●そこでは、パソコン入門講座やWindows入門からはじまり、ワード・エクセル・アクセスといったMS Officeの講義などを経て、最後に応用・実践編といった具合でカリキュラムが進んでいきました。それと同時に、タッチタイピングソフトを買ってきて、一か月の間に毎日一時間以上練習をしたものです。ですので、今の私のパソコンレベルはほとんどこの頃に学んだものであって、それ以上でも以下でもありません。

●それから4年後、今度はインターネットに興味をもった私は、一週間オフィスにこもってホームページ作りを一人で行いました。それが今日の「がんばれ社長!」サイトの原型になっているのですが、この一週間がなかったら、メールマガジンを始めていたかどうかもわかりません。今の私からメールマガジンを取り去ったとして、一体なにが残るのかと思うとゾッとします。

●孫子の言葉に「兵は拙速を尊ぶ」というものがあります。何事も、グズグズしているとやれなくなってしまうことが多いので、タイミングをとらえて一気に事を運びたいもの。特に、完璧主義者は要注意でしょう。完璧さを求めるこだわりが、かえってグズの原因になります。

『いまやろうと思ってたのに…』(リタ・エメット著、光文社知恵の森文庫)という本でも、次のような例が出ています。

ある営業部長が、新しいオフィスを飾るために、やる気スローガンが入った額を何万円分も買い込みました。ところが、引っ越しから5か月たっても、額は未開封のままで、オフィスの壁も殺風景な状態。
たかがオフィスの壁を飾るよりも大切な仕事がたくさんあるし、人にまかせるとどこに飾るかわからない。そうして延ばしているうちに、いつのまにかそれが、「やりたくない仕事」になってしまいました。理由は特にないのに、やりたくないのです。
ところがある日の昼休み、思い切って着手してみると、あっけないほど簡単に出来てしまい、オフィスの雰囲気は一変しました。部下はやる気にあふれたオフィスの雰囲気を称賛するのですが、部長は「この5か月間はいったい何だったのか」と思いました。


「彫ることは彫りだすことだ」とはミケランジェロの言。同様に、「書くとは書き始めることだ」「作るとは作り始めることだ」などとも言えるのではないでしょうか。
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ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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