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2006年10月27日(金)更新

あえて部下と特別な関係を結ぶ

●前号で、「才能ある部下が遅刻の常習犯。あなたならどうしますか?」という質問をしました。代表的なご意見を紹介しましょう。

◇服務規程や就業規則に違反する社員は、規定にそって罰することが組織の秩序維持には欠かせない。
◇遅れたら、その分よぶんに働いてもらえば結構だ。
◇時間を守れないのは時間にルーズな証拠。ましてや常習犯なら解雇する。
◇才能重視で考えるのなら、フレックスタイム制を検討するべきでは。

どの回答も誤りではありません。各社各様の対応策があってしかるべきでしょう。
しかし、それらの行動の前にやるべきことがあるはずです。

●前号のマガジンでご紹介したギャラップ調査によると、すぐれたマネージャーは、異口同音に次のような回答をしたといいます。

まず、理由を聞く

●この答えはマネージャーと部下との信頼関係をあらわしています。
「理由のいかんにかかわらず、遅刻は遅刻。つまり規則違反なので罰する」
というのではなく、まず理由を聞く。それは、甘やかすという意味ではありません。
上司と部下との間にある特別な信頼関係の重要さです。

固定観念にとらわれて物事を考えてはいけません。この場合の固定観念とは、

◇誰であろうと規則やルールを守らなければならない。したがって、今のルールを守れない人間には、ペナルティーを課さねばならない。
◇遅刻は本人の怠慢によるもので、理由のいかんを問わず許すわけにはいかない。
◇社員は平等に扱うべきであって、個人ごとに異なる対応をしていては組織が維持できない。

これらはいかにも、もっとらしく聞こえる固定観念です。

●もちろん、単なる怠慢と甘えによってルールを破る社員もいます。それに対しては毅然とした処置が必要でしょう。しかし、その場合でもまず、理由を聞くのが先決です。


●才能ある部下、しかし遅刻の常習犯、こんな部下に理由を聞くといろいろな個人的事情がみえてきます。単なる私生活のルーズさもあるでしょう。でも、もしかすると家族の健康問題、バスの運行事情、本人の体調の問題などが隠れているのかも知れない。

●部下がもつ才能を存分に活かし、組織の目的を達成することが経営者やマネージャーの任務です。そのためであれば、捨てなければならない常識というものがあります。

部下全員に同じような貢献を期待してはいけない。たとえば、営業課長が3人いれば3人とも異なる成果を要求して良いはずです。社員が20人いれば20通りの期待があっても構いません。それを鋳型にあてはめて画一的な評価基準を作ろうとするところに無理が生じます。

●有能な部下ほど上司に対して、特別な扱いと特別な関係を期待するのです。それを無視し、全員が同じ時間に勤務を開始し、同じ時間に終わることに価値をおく意味はありません。

●経営の現場では、欠点を是正させるような教育指導が目につきますが、中小企業やベンチャーには欠点だらけの人間が集まるものと開き直りましょう。いや、それこそ武器なのです。

●欠点をはるかにしのぐ個人的才能をもっていれば、その欠点を補う工夫をするのがマネージャーの仕事です。誤解をおそれずに言えば、社員に対しては不平等に接し、えこひいきも辞さないことが、中小企業の強みを活かすことにつながるのです。

2006年10月20日(金)更新

使いにくい社員

●すぐれた経営者は現実的な視点を忘れません。夢や理想を追い求めながらも思考回路は現実を直視しています。

●では、何が非現実的なことで、何が現実的なことなのでしょうか。

●非現実的なこととは、変えることができないことを変えようとすることです。
それは、「過去」と「他人」。過去と他人を変えようとすることほど非現実的なことはありません。他人が変わろうとすることを手助けすることは出来ても、他人を変えることはできない。親子や夫婦といえども同様でしょう。

●すぐれた経営者が持ち合わせている現実的な考え方とは、未来と自分を変えるために今できることに関心を集中することです。

●ギャラップ調査でおなじみのギャラップ社には膨大な数におよぶインタビュー調査レポートがあります。その中におもしろいものがありました。
あなたも一緒に考えてみてください。
あなたはマネージャーとして、次の2人の部下のうち、どちらを選ぶか?
1.一人で2億円を売り上げるが独立心が強く一匹狼のような人間
2.売上は半分だが、和気あいあいでチームプレイする人間

●私がお付き合いしている人たちにこの質問をしたことがないので、結果はわかりませんが、おそらく日本の中小企業では、2番の方を選ぶ人が多いと思われます。

●しかし、ギャラップ調査によるとすぐれたマネージャーは1番を選択すると答えています。これは、才能に重きをおくのか、管理しやすさに重きをおくのかの選択の問題です。

●すぐれたマネージャーは、管理しやすい人材をさがすのでなく、世界水準をめざせる才能の持ち主を求めています。管理しやすいからという理由で、生産性の劣る人を重用して、しかもそのタイプを才能ある人に変えようということは、上記の「非現実的」な考え方なのでしょう。

●こんなことを書くと、「当社は、価値観や理念の共有をいちばんに重要視している」という批判をもらいそうです。それは、たしかに大切なことです。

●ところが、実際には自分の手に余るような部下を総称して、すべて、「うちには合わないヤツ」と切って捨てているケースも多いです。
・報告・連絡・相談が出来ないが、飛び抜けたセールス実績を上げる営業社員
・ずば抜けたデザインセンスをもったデザイナーだが、遅刻の常習犯
・完璧な月次決算をまとめるが、社内親睦会にはすべて欠席する経理社員

強い会社には、こうした人材が必ずいる。いるだけではなく、いきいきと活躍しています。そして、こういうタイプがどんな会社にも一人や二人いるはずです。あるいはかつて、いたはずです。このような人材が一人もいなくなった会社が、その後、強くなることはありません。

●この稿、次回に続きますが、ひとつ質問をお出しします。
才能ある部下が遅刻の常習犯。あなたならどうする?
お考えいただきたい。優秀なマネージャーの答えはひとつです。

2006年10月13日(金)更新

十三の徳・応用編

●前号でご紹介したフランクリンの「十三の徳」とは、節制、沈黙、規律、決断、節約、勤勉、誠実、正義、中庸、清潔、平静、純潔、謙譲でした。これらの項目は、フランクリンがビジネスを発展させるために自分に課した成長目標です。

●これらの徳を同時進行で磨こうとしていては、かえって注意が散漫になります。一定期間どれか一つに注意を集中させ、その徳が修得できたら次に移る。また、順番にも工夫をこらし、基本的なものを優先し、応用的なものは後回しにします。

●そして、一つの徳を一週間かけて自己チェックする。一年は52週間あるので、十三徳あればちょうど4回転することになります。

●第一週が「節制」であれば、日曜日~土曜日までは、「節制」だけに注意を集中させる。チェック表に毎日、○△×の印か、あるいは点数をつけていく。これ以上詳しくお知りになりたければ、『フランクリン自伝』(岩波文庫)の137ページ以降をお読みになってください。

●この方法を組織全体で用いると、どうなるか。「基本の徹底」というスローガンを掲げている会社なら、その「基本」自体をいくつかの項目に分けて、毎週チェックするしくみを作ることもできます。

●たとえば、時間厳守、服装・身だしなみ、笑顔、挨拶、お辞儀、報・連・相、などという項目に落とし込んでいきます。もちろん13項目にこだわる必要はないですし、部署単位で異なる内容にしてもいいでしょう。応用の仕方は無限です
●私自身もこうした取り組みに挑戦してきたし、組織全体で取り組んだこともあります。その経験から助言を。

1.本当に必要性を感じる徳を選ぶこと
フランクリンの十三の徳のうち、私にも必要だったのは半分くらいでした。残りの半分は、「目標意識」「素早い始動」「奉仕」「読書」「部下育成」などの項目に差し替えたのです。これらは私にとって必要なテーマだったからです。

2.継続が大切なので、仲間を作ろう
十三の徳を自らに課すのは、孤独な作業でもあります。フランクリンのように一人で一生続けるのは並大抵ではありません。しかし、一緒に取り組む仲間がいれば、話は別です。会社全体でやれば、なお良いでしょう。

●あなたが考えている「良い経営者像」を定めるのが十三の徳の制定であり、フランクリンのこの方法は、日々“複利計算”のようなイメージで自らを成長させる効果的なしくみではないでしょうか。

2006年10月06日(金)更新

十三の徳

●アメリカ資本主義の育ての親、ベンジャミン・フランクリンをご存知の方も多いと思います。岩波文庫『フランクリン自伝』でもおなじみですね。

●そのフランクリンを称して、「Selfmade man」(自らを創り上げた人)という言い方をします。この表現に込められた意味は、“人生の成功は自己啓発の成功にほかならない”、ということです。

●フランクリンは、印刷工から身を起こし、実業界で立身出世。科学者、出版業者、哲学者、経済学者、政治家、そしてさまざまな啓蒙活動を通してアメリカ資本主義の原点を作った人物です。

●彼は、独立宣言書の起草者でもあります。そのフランクリンが25歳の頃、借金を背負って印刷会社を経営しつつ子供が誕生。いままで以上に、自分が精進しなければならない、と発奮して「十三の徳」を樹立しました。

生まれながらの性癖や習慣、交友のために陥りがちな過ちを克服したい、との動機から生まれたこの「十三の徳」は、フランクリンにとっての成功のパスポートでした。

第一 節制・・・飽くほど食うなかれ、酔うほど飲むなかれ
第二 沈黙・・・自他に益なきことを語るなかれ、駄弁を弄するなかれ
第三 規律・・・物はすべて所を定めて置くべし。仕事はすべて時を定めてなすべし。
第四 決断・・・なすべきことをなさんと決心すべし。決心したることは必ず実行すべし。
第五 節約・・・自他に益なきことに金銭を費やすなかれ。すなわち浪費するなかれ。
第六 勤勉・・・時間を空費することなかれ。つねに何か益あることに従うべし。無用の行いはすべて絶つべし。
第七 誠実・・・いつわりを用いて人を害するなかれ。心事は無邪気に公正に保つべし。口に出すこともまた然るべし。
第八 正義・・・他人の利益を傷つけ、あるいは与うべきを与えずして人に損害を及ぼすべからず。
第九 中庸・・・極端を避くべし。たとえ不法を受け、憤りに値すと思うとも、激怒を慎むべし。
第十 清潔・・・身体、衣服、住居に不潔を黙認すべからず。
第十一 平静・・・小事、日常茶飯事、または避けがたき出来事に平静を失うなかれ。
第十二 純潔・・・性交はもっぱら健康ないし子孫のためにのみ行い、これに耽りて頭脳を鈍らせ、身体を弱め、または自他に平安ないし信用を傷つけるがごときこと、あるべからず。
第十三 謙譲・・・イエスおよびソクラテスに見習うべし

●彼が、これらの徳を作りあげるときに気をつけたのは、ひとつの「徳」に多数の内容を盛り込みすぎないことでした。その結果、名称は増えても、おのおのに含まれる意味は、狭く限定しようと考えたのです。

●この「十三の徳」は、もちろん各人各様でアレンジできることは言うまでもありません。

●私自身も15年ほど前、セールス関係の会社にいた頃に、自分と部下のためにこの「十三の徳」を応用しました。仕事に密着した内容に改め、「時間」「読書」「情熱」「集中」などの項目を取り入れ、実践しました。

●フランクリンは、これらの徳を自らの第二の天性である習慣にまで育て上げるために、さらに工夫を凝らしています。次回は、その知恵と応用に関してお伝えしましょう。

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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