大きくする 標準 小さくする

2007年01月26日(金)更新

中小企業にとっての「自立化」とは何か

●日本の各都道府県それぞれに中小企業家同友会という組織があります。私も愛知県のメンバーとして活動していますが、活動目的のひとつに「経営の自立化」を掲げています。

●しかし、実際には製造業や建設業に属する中小企業のなかには、まだまだ自立できていない企業が数多く見受けられます。

●まず、「自立」とは何かを辞書で調べてみると、こうありました。
「他の助けや支配なしに自分一人の力で物事を行うこと。ひとりだち。独立」

●さっそく、中小企業家同友会の中で「経営の自立化とは何か」を議論しました。このグループは、たまたま製造業の経営者が多く、そのほとんどが下請け依存度の高い会社でした。

●参加者に、「自立型企業の条件」として考えるものをアトランダムに書き出してもらい、それを発表しあうところから議論をスタートしました。100項目近くがリストアップされたので、とてもすべてはご紹介できませんが、ピックアップしてご紹介しましょう。

1.下請け仕事の比率が少ないこと
2.価格決定権があること(ある程度でも)
3.納期決定権があること(ある程度でも)
4.新規の客先開拓が断続的にできていること
5.相見積もりの仕事が少なく、指名で仕事がくること
6.オリジナル商品・オリジナル技術があること
7.客先がきちんと支払い条件を守ってくれる力関係であること
8.仕事を確保するごとに金策に走らなくて済むこと
9.値段を決めずに仕事が先行するような状態ではないこと
10.社員に突然の残業を頼まなくてもよい状態であること
11.年間労働時間数が世間並みにおさまる状態であること
12.求人広告に対してそれなりの反応がある状態であること
・・・.etc

●次に、自立型企業になるために何が必要かについて、話し合いました。こちらの議論は活発とはいかず、散発的な意見しか出ませんでした。

1.その日暮らしでなく、計画的な経営がなされていること
2.自ら発信できる情報をもっていること
3.社員教育をして経営者が孤軍奮闘しなくても済むようにしておくこと
4.弱者同士が結束して大企業に立ち向かうこと
5.研究開発のための費用と時間を予算化すること
・・・.etc

●議論の過程では、「下請け仕事でも良いじゃないか、どこにも負けないものを持っていれば」という意見も出ました。これは、私も同感です。下請けがいけない、という議論ではありません。自立化していないことが問題なのです。

●さて、同友会のミーティングでこの日たどり着いた最終結論は、次のようになりました。

<経営の自立化の手順>

1.競争の武器をもつ
  同業他社との違いをしっかり作り、画期的な技術や製品がなくても競合に勝てる魅力を開発する。特に中小零細企業の場合、コスト競争力と小回りの効いた対応、柔軟性とやる気などが武器になるはずである。

2.自由研究
  勤務時間の10%を自由研究時間にあて、製品開発や技術開発を社内で奨励する。または、勤務時間を午後7時までとして、それまでの時間は下請け仕事をやり、それ以後は自由研究時間にあてるのも良い。

3.自由研究から生まれたナイスアイデアに対し、開発資源を確保する
  製品開発・事業開発に時間と予算を付けて計画する

4.独自の製品・サービスを世に問う
  ただし、一発で成功させようと思わないこと(肩の力を抜いて)
 
 このサイクルをくり返し、ナンバーワンからオンリーワンづくりをめざそうということです。

●要するに、自立化するのだという決意を鮮明にすること。そして、それを実行に移すための方策をもっていることが大切なのです。

2007年01月19日(金)更新

サービスを売る

●某日、ある地方家電販売店の社長とお会いしました。この会社は、50坪程度の売り場面積の本店と、30坪程度の支店が3店舗あるそうです。大手による寡占化が進み、利益率の悪化に苦しむ同業他社が多い中で、この会社は順調に業績を伸ばし、一度も減収減益になったことがないのです。

●"当店よりも安く売る店があればそのチラシをご持参下さい。そうすれば、それよりも安く売ります"という商法が流行るなか、この店ではそうした流れに追随しない。きっちりと粗利益を確保しているというのです。

●秘訣を聞いてみると意外な答えがかえってきました。
「私は家電製品が好きだから今の商売を始めたんじゃないんですわ。商品にこだわっていたら販売店はやっていけない。我々がこだわるのは、お客さんなんです。」

●この会社では、お店から半径3キロ圏内の全世帯をデータベース化しているのです。
住所・氏名・電話から始まって家族構成や家庭にある家電製品の品名や品番・購入日・購入店など入手した情報がすべてデータベース化されているというのです。

●もちろん空欄も多いそうですが、当面の目標は50%を把握することだといいます。「個人情報保護法」でガードが固くなった個人宅ですが、このような情報を入手するのは比較的簡単だともいいます。その秘訣は、「無料出張修理」にあります。

●「電気製品無料修理(部品交換実費)。他店製品も設置無料」
まず、新聞にチラシに入れます。そして、「テレビが映らなくなった」とか「大店量販店でDVDレコーダーを買ってきたけれど据え付け方法がわからない」などの電話がかかってきた個人宅へ24時間以内に訪問します。可能ならばその場で直しますし、部品交換が必要ならば取り寄せて後日訪問します。

●こうして誠心誠意作業をする合間を利用して、お客様に「家電アンケート」の協力をお願いすると、ほとんど抵抗なく情報を提供してくれるというのです。

●このお店ではこうした地道な努力を始めて、はや20年。今ではパソコンやテレビなどの購入相談から操作指導なども無料サービスに加えており、サービス拡充のために若いスタッフも増員しているそうです。

●「一人のお客さんが困っていることは、百人のお客さんの悩みでもあるはずです。それを解決しますよってアピールしたら、みんなうちへ電話してきてくれます。そこからお客さんとの長~いお付き合いが始まるんです。」
と語る社長さんに、気になる収益の仕組みを質問したところ、次のような答えが返ってきました。

●「感謝してくれたお客さんでもパソコンや大型テレビのような高額品は量販店で買われます。でも、子供さんが独り暮らしを始めることになったとか、ご主人が単身赴任されることになったとかいえば、すべてうちで揃えてくれる場合が多いですね。大手量販店と同じ土俵に立たない。それは我々逃げているのではなく、彼ら(大手)こそが我々から逃げているというべきでしょう」

●こうした中小零細店の生き残り戦略には、私たちに多くのヒントを与えてくれます。決してスモールビジネスに限定された収益モデルなどではなく、地域に根ざした高収益かつ高顧客満足戦略だからです。

●今回は、“サービスを売り物にする”と場合の典型的な事例をご紹介したわけですが、あらゆる業界にも似たようなニーズが存在するのではないでしょうか。「ニッチ市場=スモールビジネス」ではありません。ニッチでもトップに立てば、リターンは大きいのですから。

2007年01月12日(金)更新

成果主義とは何か

●前回は、7つの経営スタイルについて、私の考えを述べました。あなたの経営スタイルは、いずれかにあてはまるかも知れませんが、欲を言えば、あなた独自の経営スタイルというものを築いていただきたいものです。

●ある経営者が私にこう語ったことを覚えています。
「武沢さん、うちは完全な能力主義でやっていますからある意味、気が楽なんです。社員も大人ですから独立独歩、固定給は低くし、あとはすべて歩合給にしました。やればやっただけ報酬がもらえるし、自分や家族のためにもがんばらざるを得ないでしょう。それと、新人研修以外の社員教育も減らしていって、本人たちの自己責任で勉強してもらおうとも考えています」
 この考え方は「独立独歩の経営」のようで、もっともらしく聞こえますが、何だか変だと思いませんか?

●トヨタ自動車の奥田前会長は、かねがね「全力で雇用を維持するのが会社の責務であり、終身雇用が前提であることに変わりはない」と強調していました。同時に「トヨタの社員もプロ化しないと生き残れない」とも語っています。

●一見すると矛盾しているように聞こえますが、「雇用の維持」と「実力主義人事の導入」とは矛盾したものではありません。

●昨今の実力主義型人事を語るときに、言葉が誤用されていることがあるので確認しましょう。それは、
 「能力主義=成果主義=業績主義ではない
 ということです。

●能力主義とは、文字通り能力に対してお金を払うものです。技能の成長や管理力、育成力などの能力を評価し、成長した部分が昇給されます。その最たるものが、何かの国家資格をとると手当が加算されるというものです。

●一方の成果主義とは、なしとげた成果に対してお金を払う。したがって、能力の高低は評価せず貢献してくれた成果を評価し、それを賃金などに反映させるのです。

●業績主義とは、社員の評価基準がズバリ「業績」だけにある会社です。売上高とか利益とかの数字だけが期待されている会社です。

●昭和40年代から50年代にかけての高成長を支えてきた日本的経営とは、終身雇用を前提としていただけに、もともとは「能力主義」だったことがわかります。社員の成長を促進するような期待給賃金でもあったわけです。

●そして今、トヨタに代表されるように日本の企業は、大急ぎで「成果主義」に移行してきているわけで、その流れは中小零細企業にまで及んできています。

成果主義型人事に必要なものは、期待される成果を定量化することです。それも部門ごと、個人ごとに行われる必要があります。そして四半期ごと、または半期ごとに評価し、評価結果をフィードバックして納得性と透明を高めるべきものでしょう。

●管理職であれば、人材の育成についても目標を数値化する必要があります。たとえば、「今期中に新しくマネージャーを1名養成する」などです。

●もちろん、経営者の仕事は目標設定とその割り当てだけで終わってはなりません。社員の成長を促し、目標達成を支援するのが経営陣の大切な仕事です。成果主義を導入したからといって、冒頭の経営者のようにふんぞり返って人材育成まで放棄するようでは、本末転倒なのです。

●いずれにせよ、会社の経営管理システムは、経営者の意向を充分にふまえたものでなければならないことは、言うまでもありません。

2007年01月05日(金)更新

7つの経営スタイル

●経営者にとって、自信をもって会社経営を行うことはとても大切です。しかし、それが過信になると問題が起こります。その意味で、経営者の最大の敵は「自己満足」かもしれません。

●今の仕事に関して、知るべきことは全て知り尽くしてしまったかのように錯覚したり、経営者として自らの経営スタイルを変えようとしないのは、大変危険なことなのです。経営者の経営能力開発というテーマは、終わりなき旅であると言ってもよいでしょう。

●経営者は、自分にあった経営スタイルを持っています。私は、経営スタイルは7つに分類できると考えています。

1.民主的経営
2.家族的経営
3.育成型経営
4.権威型経営
5.率先垂範型経営
6.強制型経営
7.権力誇示型経営

それぞれについて、具体的に説明しましょう。

1.民主的経営
  社員の意思やアイデアを尊重し、合意形成に重きをおく経営。社員からの経営への参画意欲を高めることや、目標達成のモチベーションを高めることを重視します。経営陣と社員との信頼関係があり、社員の基礎能力が高い場合には、お互いがパートナーのような関係になれる可能性があります。

2.家族的経営
  「人間対人間」というよりは「親対子」として社員に接するもの。友好的で家族的な
関係を重視することで信頼関係を築き、成果も上げようとするもの。事業規模が小さく、経営が安定している場合に有効でしょう。
  
3.育成型経営
  経営者というよりは教育者であるかのように、人を育てることに重きをおく経営。社員の成長を支援し、動機づけし、絶えず成長課題を明確にしようと努力します。組織を作り、事業を長期にわたって発展させるために有効です。

4.権威型経営
  会社の理念や方針、ビジョンを明確にし、あるべき姿に向けて社員を導こうとする経営。新たな方向付けが必要とされる企業や、起業家にとって有効です。
  
5.率先垂範型経営
  社長自らが現場で行動し、模範を示す経営。社員に仕事のやり方を学ばせるとともに、共感を呼ぶこともできる。独立したい社員、向上心が強い社員が多い場合に有効です。

6.強制型経営
  超ワンマンで、社員を手足のように使う。しかし、それが的確なので社員もそれに付いてくる。カリスマ社長と素直な幹部、社員が揃っているとこうなりやすい。会社が
危機にあるときや、思い切った方向転換が必要な場合に有効です。

7.権力誇示型経営
  雇用を維持し、賃金を支払う立場である強みをちらつかせることで社員を動かそうとする経営。かつてはこれが有効な時代もあった。きわめて高い給与水準にある場合にのみ、今でも限定的ですが有効ではあります。
  
●このように、実にさまざまな経営スタイルがあることがおわかりいただけたと思います。経営者は意識しているかどうかはともかとして、これらのスタイルのいずれかを採用しているか、あるいは複数のスタイルを組み合わせています。

●そして、大切なことは、次の3点を知ることではないでしょうか。

 ◆今の経営スタイルだけが最善とは限らないし、「唯一正解」と呼べるようなスタイルも存在しない
 ◆会社の状況に応じて、経営スタイルを変えていくことも必要である
 ◆各々のスタイルの完成度を高めるために勉強すべきことはたくさんある

ということです。

●今回は、7つの経営スタイルの確認をしました。次回は経営能力の開発について考えてみましょう。

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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