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2007年06月29日(金)更新

文官を召し抱える

●武官と文官ということばがあります。武官とは軍事に携わる武将であり、文官とは軍事以外の行政事務に携わる事務方のことです。

●戦国武将の物語や中国の歴史物を読んでいると、必ず合戦の場面が出てきますが、その中で戦(いくさ)上手といわれている武将は、輜重(しちょう)隊などと呼ばれる補給部隊のリーダーに、優れた人材を配置しています。

●戦は武将だけでは勝てません。兵隊集めやその移動、武器弾薬・食料の輸送、資金調達などといった、裏方の戦略も勝つための重要な要素です。つまり、戦をする武官と裏方をつかさどる文官のそれぞれで、有能な武将を抱えていることが勝どきをあげる条件なのです。

●経営も同じです。企業にとっての武官とは、営業部門や技術部門の人材。文官とは、総務・人事や財務・経理など、総称して管理部門の人材です。会社によっては、「直接部門」「間接部門」という表現を使うこともあります。

●いろいろな会社を見ていて気づくのは、強い会社は必ず武官だけでなく、有能な文官を抱えているということです。
●私の友人であるA社長(49歳)の会社は、社員数17名。社名はA建設工業といい、建造物解体と産業廃棄物の中間処理を営んでいます。年商は10億を少し切るのですが、売上高税引前利益率は毎年5%前後を計上するなど、優れた財務体質の会社です。A社長は8年前、産業廃棄物の分野に参入した時点で優れた文官を採用しました。

●この文官であるB経理部長(51歳)が大変有能なのです。以前は役所に勤めていたほどの事務処理能力の高い人物なのですが、民間企業に必要な財務・経理からパソコン、総務・人事、労務においてまですべて独学で勉強し、業務をこなしていきます。

●攻めが大好きなA社長と守り重視のB経理部長の意見衝突はたびたびありますが、あくまでも衝突であって、対立ではありません。A建設工業が優れた財務体質を有しているのは、優秀な文官であるB経理部長を重用してきた、A社長の見る目があってこそでしょう。

●一方で、千人近い社員数規模でありながらも、ほとんど文官が存在しない会社もあります。つまり役員以下、幹部のほぼ全員が武官なのです。

●一応、何名かの文官がいるにはいるのですが、評価が低い社員ばかりで構成されています。当然そんな会社ですから、「賃金制度の改革をやろう」となっても、外部コンサルタント頼みになり、改革が完成しても運用がうまくいきません。武官揃いの幹部構成では、管理部門が弱くなってしまうのです。

◇コストダウンできない会社は、管理が弱い
◇人が育たない会社は、管理が弱い
◇優秀な人がとれない会社は、管理が弱い
◇労務に問題を抱えている会社は、管理が弱い
◇社長の方針が徹底しない会社は、管理が弱い
◇成長が止まった会社は、管理部門から弱体化する

「管理部門を強化するには、優秀な文官を召し抱える」ということを忘れてはなりません。

2007年06月25日(月)更新

黄金の日々の始まり

●講演後に催された懇親会の席上で、ある初老の紳士からこんな話を聞きました。

「武沢さんはメルマガやブログで活躍されていますが、私は住宅業界だけで生きてきました。本当は住宅関係の記事を書く、プロのブロガーになりたいと思っているのですが、自分の経験や知識だけでは足りなくて、他人様に認めてもらえるようなものは書けそうもない」

●彼はどうみてもまだ60歳手前。前途洋々たるビジネスマンなのに、「できそうもない」と言うとは、なんて消極的なのだろうと思いました。

●もしかすると、他人の凄いブログやメルマガを見て、気後れしておられるのかもしれません。確かにすごいブロガーって言われている人はたくさんいますが、最初はみなさん見よう見まねのヨチヨチ歩きだったと思います。

●ところで、一生涯の持ち時間は約70万時間あるといわれています。その計算根拠は平均寿命が80年として、24時間×365日×80年=70万800時間というわけです。その中から仕事に割ける時間は、わずか10万時間。総持ち時間の7分の1しか私たちは仕事をしないのです。
●たとえば、上場企業のサラリーマンだったら、年間労働時間数2,200時間×定年までの40年間勤務として8.8万時間となります。中小企業で働く社員でしたら、もう少し多くなって年間3,000時間労働×40年勤務で12万時間。どちらにしたって、8.8万~12万時間という範囲内でしか仕事をしないのです。

●10万時間と一口に言っても、あまりに大きい単位なのでピンと来ないかもしれません。そこで、仮に一日24時間のすべてを仕事に回して不眠不休で働くと仮定すると、80年の生涯で12年間しか働かないという計算になります。

●同じように計算をすると、私たちは80年の生涯を次のように使っていることになります。

睡眠・・・・25年
学校・・・・ 3年
その他・・・40年(休日、生活、家族や友人との時間、自由時間)

●こうしてみても、やっぱり仕事時間は短いと言えます。学校で勉強する時間と仕事する時間を合計したとしても、それでも15年間に過ぎません。しかし、この15年間の過ごし方が、他の人生時間に多大なる影響を及ぼしている訳ですから、大切に使いたいものですね。

●ちなみに、この計算には一つトリックがあります。それは、60歳で引退するという古い前提にたっているのです。そこで、終生現役をめざす中高年のみなさんに、残り時間はまだまだたっぷりあるぞ、というお話をしようと思います。

●例えば私の場合、今年で53歳になりました。仮に80歳までバリバリと働くとすると、人生の残り時間が27年となり、次のような計算ができます。

・人生の残り総時間は、236,520時間(24時間×365日×27年)
・睡眠時間は、68,985時間(7時間×365日×27年)
・仕事時間は、67,500時間(10時間×250日×27年)
・休日は、52,785時間(17時間×115日×27年)
・他の生活時間・自由時間(47,250時間)

●この計算結果を簡単に要約すれば、睡眠7時間、仕事7時間、他の自由時間10時間(合計24時間)という一日を27年間繰り返すということになります。これから27年間、一日も休まずに7時間労働して10時間の自由時間があるのです。なんて素敵なことでしょう。

●まだまだ結構仕事ができるもの。もちろん、仕事ではなく、趣味やライフワークに打ち込んでも構いません。

●60歳で引退するのではなく、終生現役でいくと決めたら、まだまだ使える時間はたっぷりあります。むしろ、若いころと違って、子育てが終わり、家族サービスもほぼ終わった中高年にとって、睡眠時間以外の全時間が自分のものとなるのです。

●子どもや家族サービス、親戚や地域活動などといった、社会的雑事に割かれてきた時間の多くが、これからは自分のためだけに使えるという新事実に気づいてほしいのです。

●残された人生時間のマネジメントを上手にやれば、今からライフワークの一つや二つものにできるはず。ヘッセが言うような「人は成熟するにつれて若くなる」という人生を送るのも自由。他人の手助けを受けながら老醜をさらすのも自由。選ぶのはあなたなのです。

若いときと違い、金も時間も経験もある中高年こそ、人生でもっとも自由度が高い黄金期だと私は思います。そんな時期を大切に過ごすために、今から人生計画と人生ビジョンを作る必要があるでしょう。

●もちろん、冒頭の紳士にもそのようなお話をしました。そして彼は今、すでに毎日欠かさず1記事を執筆するブロガーになっておられます。これを一年続けたら、間違いなく人気ブロガーになられることでしょう。

●やるべきこと、やれることはまだまだ多いのです。

2007年06月15日(金)更新

マーケットイン

●「より良い品をより安く」・・・美しい言葉です。

●品質を向上させながら、価格を下げていくわけですから、お客の立場としてはこれほどありがたいことはありません。実際に、「より良い品をより安く」という言葉をスローガンに掲げている会社やお店がどれほどあるのかGoogleで検索してみたところ、なんと11,200サイトがヒットしました。

しかし、「より良い品をより安く」が常に正しい経営戦略だと思うと大間違いで、一部の業種業態ではそのスローガンを捨てた方がよいこともあります。

●「より良い」「より安い」とは、あくまでも現状と照らし合わせての話です。今までにない、まったく新しいものを生み出そうとする会社にとっては、「初めてのものをより高く」という考えの方が適切でしょう。

●マーケティグに使われる用語で、「プロダクトアウト」と「マーケットイン」という言葉があります。「プロダクトアウト」とは、作ったものを売る、という生産者側の視点に立った言葉ですが、こうした自己都合の考え方では、会社は先細りする恐れがあります。一方、「マーケットイン」はその反対で、消費者の視点に立って商品作りを行なうことです。
●「従来の製品よりも高品質で、かつ低価格で提供しているのに全然売れない」ということがよくあります。例えば、素晴らしい品質の草鞋(わらじ)を一足100円という圧倒的な安さで提供したとしても、うまくいきません。製品そのものが顧客ニーズから逸脱してしまったわけですから。

●私たちは「マーケットイン」の発想をもちたいものです。そのための方策は、お寿司に例えると「並」と「上」の2つがあります。

「並」とは、顧客の意見や要望を取り入れそれに対応すること
「上」とは、顧客のニーズをくみ上げ、先回りして提案すること

「並」のことをやっている会社は顧客対応型企業、「上」のことが出来ている会社は顧客創造型企業と言えそうです。

●あるレストランが、市場調査会社に依頼して近隣住民から聞き取り調査を実施しました。その結果をもとに、最大公約数的なニーズを拾い集め、メニュー表にそれを反映しましたが、業績は振るいませんでした。マーケットインをやろうとしたまでは良かったのですが、「並」の方策を選んでしまったからです。

プロダクトアウトでは問題外ですが、マーケットインでも「並」の方策では勝てません。マーケットインの「上」だけが勝てるのです。そうした視点で、あなたの事業活動がどのように進められているか、もう一度見直してみましょう。

2007年06月11日(月)更新

夢を語る

●A産業という会社を訪問したときの話です。近くまで来たのですが、場所がわからなくなり、たまたま通りかかったビジネスマンに道を尋ねたところ、「A産業は私の勤務先です。すぐそこですからご案内しましょう」と言って、同行してくれました。

●歩きながら私は、「A産業さんって、どのような会社なのですか?」と聞いたところ、彼はほんの一瞬、間をおいた後、こう言ったのです。

「夢のある会社です!」

●私は思わずうなってしまいました。このようなセリフは、そう簡単に言えるものではありません。会社のビジョンと社員のやり甲斐とがリンクしているからこそ、出てくるセリフではないでしょうか。

●夢とは、誰かに与えられるものでなく、自ら作るべきものです。同様に、会社のビジョンも社長から与えられるばかりでは、優秀な社員ほど嫌になります。なぜなら、社員もビジョンを与えられるのではなく、作ることに参加したいと思っているからです。冒頭の彼が「夢のある会社です」と胸を張って言えるのは、きっと会社のビジョン作りに参加できているからに違いありません。
●話は変わりますが、私が20代の頃、毎月のようにお見合いをしていた時期がありました。最初は初対面の女性の前で緊張して、話題もとぎれがちでしたが、途中から作戦を変えました。

●自作の「人生25か年計画」を初対面の女性に話すようにしたのです。具体的に言うと、大学ノートに書きためたビジョンを熱心に語りました。その結果、それまでとは明らかに違う反応が返ってきました。

●いわゆる「ドン引き」というやつです。私が、自分のビジョンを熱っぽく語れば語るほど、彼女たちは逆に引いていくのです。最初はその理由がわからず、「きっと、計画のどこかが甘いからだろう」と思い、ますます詳細な計画を作っていったのですが、うまくいきません。

●そんなある日のことです。いつものように通り25か年ビジョンを語り終わったあと、女性からこのような質問をされました。

「それで奥さんは何をすればいいの?」

●私はこの質問を聞いたときにドキッとしました。とっさに、「できれば家庭を守って、家事に専念してもらえれば、ありがたいと思います」と答えながらも、男の自分が未来を全部切り開いていくものだ、と気負っていたことに気づいたのです。私はその女性に、理想の家庭像を聞き、自分の考えも述べました。それが今の妻です。

●経営でも同じことが言えます。詳細で完璧な計画を作れば作るほど、優秀な社員はかえって引きます。ある会社では、毎年一回、社内論文大会を開催しています。主眼はあくまで業務の改善改革ですが、論文のテーマは自由に設定できることとし、優秀作品の執筆者は、無料で2週間の米国企業視察旅行に派遣する、というものです。最初の頃はほとんど応募がなく、社長も困ったそうですが、10年たった今では、全社員のほぼ8割から応募があるほどのイベントになりました。

●最近では論文に限らず、小説やマンガ、映像、歌なども受け付けていて、昨年の受賞作品は、「2015年宇宙への旅」と題した会社の未来予想小説だったそうです。

●さて、あなたの会社の社員は、社外の人から会社のことを尋ねられたら何と答えるでしょうか。気になるところですね。

2007年06月01日(金)更新

仕事はすべてが「顧客へのサービス業」である

成功している営業マンと冴えない営業マンとでは、意識も行動も違います。以前、印刷会社に合い見積もりを依頼した際に出会った二人の営業マンを例にあげながら、そのことを考えていきましょう。

●最初にやって来たのは冴えない雰囲気のB君です。彼は、事前に依頼しておいた条件に沿った見積書を持ってきました。価格は想像よりちょっと高かったのですが、おおむね内容を理解できたので20分ほどで打ち合わせは終わりました。

●次にやってきたのがA君です。見積書を提示しながら説明するところまでは、B君と同じです。ところがそこから先が大きく違いました。的を射た質問を連発して私の業務の内容や今後の構想、現状で困っていることなどを実にうまく聞き出すのです。

●こうしてA君は、その日の見積り案件以外に、いくつかの課題を私から持ち帰ることに成功しました。印刷が必要になる他の案件を抱えていた私にとっても、一度に複数の用件が済んで助かったのです。

●私が伝えた案件の処理だけで終わったB君に比べ、A君は、一歩進んで顧客を理解しようとしました。仕事の案件に興味があるのか、顧客に興味があるのか、興味の持ち方によって仕事ぶりは大きく変わります。目の前の受注を取りたいという気持ちも大切ですが、お客様のために役立ちたいという気持ちはもっと大切なのです
●先日、設計事務所を訪問したときにも同じような出来事がありました。この会社は最近、大手ゼネコン出身者を営業部長として採用したばかりです。彼は入社早々、顧客からある不動産物件について問い合わせを受け、その土地を所有する大手運輸会社を訪問しました。

●普通の営業マンならその物件だけを話題に交渉して結果を持ち帰るはずです。ところが、彼はそうしませんでした。その大手運輸会社が保有するすべての遊休土地リストを入手して持ち帰ってきたのです。もちろん、日本中のリストです。

営業マンには、発注者と受注者、買い手と売り手という立場を超越したものの考え方を教えましょう。自社の製品やサービスをお客様に売ることが営業マンの仕事ではありません。“お客様の問題解決や潜在的な願望の実現のために自社がある”ということを、営業マンに叩き込むのです。言い換えれば、こういうことです。

「ビジネスはフィフティ・フィフティだ」
「ビジネスはギブ&テイクだ」

●冒頭のB君は、いまも見込み客を探して日夜奔走しているに違いありません。かたやA君は、顧客と太いパイプをもち、信頼関係を結ぶことで充実した仕事をしていることでしょう。

●印刷とは、顧客の望みを実現させるための一つの手段に過ぎません。にもかかわらず営業マンの意識と行動によって、これだけの差が生まれるのです。製造業も建設業もサービス業も飲食業も、およそ事業と呼ばれるものすべてが「顧客へのサービス業」だということを、決して忘れてはなりません。

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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