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2007年08月31日(金)更新

中小企業はもっとプロジェクトを

●非日常業務というものは、ルーチンワークにかまけるあまり、なかなか手が回らなくなることが多いものです。だったら、すべて日ごろの業務に落とし込んでしまおう、としてタスクフォースやプロジェクトチームの結成という手法がとられます。

●タスクフォースとは、部門横断的に短期集中で問題解決にあたる組織のことで、日産自動車のゴーン改革で有名になったクロス・ファンクショナル・チーム(CFT)もこれと同じと考えられています。一方、プロジェクトチームとは、タスクフォースよりも中長期的な組織として、プロジェクトの目的を達成させるためのチームとして、結成されることが多いようです。

●たとえば、ある地域に7つの店舗をもつスポーツクラブがあります。大手チェーンの寡占化がすすむこの業界のなかでは、かなりの好業績を残し、地域での評判もすこぶる良いそうです。このクラブは、通常の会社と同じように、営業、総務、人事、教務の四つで構成されているのですが、ユニークなことに、四つの組織とはまた別の、六つのプロジェクトチームが常設されていて、店舗や組織をまたいだ人の交流を図っています。

●そのスポーツクラブのプロジェクトチームの内容は以下のとおり。

1.会員新規開拓プロジェクト・・・新規の会員開拓
2.会員満足向上プロジェクト・・・会員の定着率向上
3.品質管理プロジェクト・・・サービスの質を高める
4.開発プロジェクト・・・新サービス・新メニュー・新事業の開発
5.人事構築プロジェクト・・・スタッフのやる気を高めるための人事制度
6.業績管理プロジェクト・・・各目標数値の進捗確認と対策

各チームは、月に1回から4回のペースでミーティングを開き、その議事録を「プロジェクト総括事務局」で一括管理した上で、グループウエアで社内に公開しています。

●事務局長を兼ねるのは、同社の専務だそうです。クラブにとって、この六つのテーマはとても大切なのですが、今まではルーチンワークに埋没して後回しになったり、通り一遍のやり方になっていたので、数年前から今のプロジェクトチーム方式に切り替えたそうです。

●ミーティングのたびに移動の時間や交通費が発生するようになりましたが、そうしたコストをはるかに上回るメリットが出ているそうです。部門を横断する交流があることで、メンバーは活性化し、成長スピードも早まるのです。

●たとえ結果に対する責任を負うのがトップ一人であっても、業務の遂行に対する責任者は複数にした方がうまくいくことが多いもの。プロジェクトチームにすることで、お互いに牽制しあったり励まし合ったりするチームワークの関係が生まれます。日本人には、個人主義でやるよりも、プロジェクトチームごとの連帯責任、こういうスタイルの方があっているようです。

2007年08月24日(金)更新

無私の人間関係

●今日は日頃もてない私が、もてる方法を考えてみました。

●その昔、坂本竜馬が同志の新宮馬之助に対し、「君は男ぶりがよいから女が惚れる。僕は男ぶりが悪いがやっぱり女が惚れる」と語ったように、古今東西、実力者が異性にもてるのは変わらないようです。

●これはなにも人間に限った話ではなく、たとえばサルの世界でも「メス猿にもてないオスは、群れのボスになれない」と言われています。そうなると、ボス猿ならぬ社長もやはり、異性からもてなければなりません。

●さて、どちらにしても異性からもてる必要がありそうなのですが、問題となるのは、そのもて方でしょう。もてることに汲々としてしまい、女性の心理学について書かれた本を読みあさったり、ナンパのテクニックだけを勉強しているようではすでに失格。あなたの本質とは違う表面的な部分で相手に好かれても意味がないのです。ありのままのあなたを見せ、それでもてるようになってこそでしょう。

●できる社長は社員からもてるものですし、できる営業マンはお客からもてます。異性としてもてるのか、取引先として信頼されるのか、担当者として可愛がられるのか、社長として尊敬されるのか、いずれにしても相手の心をつかむという点では似ています。

●私はこれまで、「実力のある人は例外なくもてるものだ」と思っていました。しかし逆に、「もてる人」が「仕事のできる人」かというと、必ずしもそうではないようです。
●先日、ある人材派遣会社を訪問したときのことです。「あそこにいるうちの社員は、お客さんにはとてもウケがいいのですが、社内ではどうも評判が良くないんです」という話を聞きました。実際にその人に会ってみると、たしかに営業マンとは思えないほどぶっきらぼうで、ひとクセもふたクセもありそうな人です。

●「お客さんには好評だけど、社内では不評」なんて、いったいどういうことだろうと最初は疑問に思いましたが、考えてみたら自分もそうだったではないか、とそのとき気づいたのです。

●誰でも外では外面(そとづら)が、内では内面(うちづら)があります。そのギャップ自体は、大小の程度の差はあれど、誰にでも多少はあります。言い換えると、外面と内面のギャップが少ない人ほど、自分に無理をさせない毎日を送っているとも言えます。

●人は誰でも、自らに魅力がないと思っていたり、自信がないときは外面を取り繕おうとします。同様に、自分が働いている会社や製品・サービスに自信をもてないときも、やっぱり外面を取り繕わなければなりません。

●かくいう私も、メルマガやブログをやる前は、顧問先を増やさないと売上が伸びませんでした。振り返ってみると、その頃は「経営コンサルタントなら専門家っぽくふるまおう」「尊敬されよう」「相談されよう」などと汲々としている時期でもありました。実力を誇示するため、いつも緊張して、夜の宴席ですらくつろげないほどでした。そのような状態ですから、一日の仕事を終えて帰宅すると、当然ドッと疲れます。

●でも、今は当時と違い、いつでも本音を出し、いつでもリラックスした状態でいます。なぜそうなったかというと、「私心」がなくなったから、つまり「無私」になれたからです。相手から何かの見返りを求めなくなったのです。

●「無私」になるためには、経済的にも精神的にも独立しなければならないのに加え、真の自信が必要です。無私の状態になるのは決して簡単なことではありませんが、これが営業のキモであり、リーダーシップのツボであり、異性にもてる秘訣だと、私は思うのです。

2007年08月17日(金)更新

名を好む病

●陽明学の聖典といわれる『伝習録』のなかに、以下のような話があります。

●あるとき、師の助言をあおごうと、弟子のひとりが王陽明に向かって自分の考えを述べました。ところが、横から別の弟子・孟源が「その考えは、私が以前考えていた内容と同じだ」と口を挟みました。

●陽明は孟源に向かって、「お前の病気がまた始まった」と言うと、孟源は気色ばんで弁解しようとしました。しかし、陽明は再び「お前の病気がまた始まった」と言いました。今度は黙ってしまった孟源に向かって、「汝一生の大病根は、名を好むの病なり」と言い、次のようなたとえ話を言って聞かせたそうです。

あなたの存在をたとえて言うならば、一丈(3m)四方の狭い土地に植わっている、一本の大きな樹木です。仮に、その土地で良い穀物を栽培しようとしても、樹木の根が邪魔して、穀物の生育を妨げる。それだけではなく、枝や葉で穀物が成長するための日光もさえぎってしまう。あなたがそんな樹木のような存在になってしまっているのは、「名を好む病」が原因なのです。(『伝習録』より)

●この『伝習録』を愛読していた松下村塾の吉田松陰も、晩年自らをふり返った手紙のなかで、「名を好む病」がたびたび発病したことを告白し、反省しています。要するに思想と行動の純粋性に欠け、世間からの評判や喝采の方を先に意識してしまう病気です。

●私たちのまわりにも、ほめられたい、認められたいと強く思うがあまり、他人の目を過剰に意識している人が大勢います。そういう人は、自分がものすごく損をしていることに、気づいていないことが多いようです。

●企業経営において「名を好む病」とは何でしょうか? 会社の知名度をあげようと努力することも「名を好む」ことに入るのでしょうか。

●私は「否」だと思います。
●市場原理のなかで働いている私たちですから、知名度を上げてお客様に認知してもらわないことには、何もはじまりません。しかし、度が過ぎると、自社の実力以上によく見せようと、見栄を張ってしまうことがあります。そこまでくると、完全に「名を好む病」と言えます。

●ウシオ電機の牛尾治朗氏は、「『無名有力』の時代を経ないで有名になるということは、最も危険なことだ」と述べておられますが、その真意は、有名になることがいけないのではなく、実力以上に見せることが危険である、というものです。たとえば、経営者がマスコミにしばしば登場したり、成功のノウハウ本を書いたり、講演をしたりするのは、名を好むがゆえの行為である可能性が高く、危険だということです。

●『伝習録』のたとえ話や、牛尾氏の言葉から学ぶべきは、「『実力はあるのに無名』という時代を経ることを惜しんではならない」ということなのです。

2007年08月10日(金)更新

成果主義に欠けるもの

●近頃、大企業・中小企業はもちろんのこと、家業と言っても差し支えないような零細企業にまで、成果主義賃金が普及するようになりました。たとえば、先日お会いしたリフォーム業(社員数2名、パート1名)の会社にも社員の評価表があり、驚かされた記憶があります。

●かつて、社員の雇用維持と生活の保証が、経営者にとってのいわば義務になっていました。しかし、最近は社員にプロフェッショナリズムが要求される時代になり、「成果主義」や「能力主義」の名の下に、会社に貢献した分だけ、報酬を分配するという考え方になってきています。

●私は、成果主義・能力主義が普及していくこと自体は賛成です。ですが、そうした制度さえ導入すれば、優秀な社員が皆やる気になってくれる、と信じている社長には、警告を発したいと思っています。

●成果主義は、昔の西洋の農園で発達したものだといわれています。農地所有者は、収穫時期になると人手が足りなくなるので、臨時に人を雇うことで、すみやかな収穫を期待しました。ですが、給料を固定給や時間給で支払うと、個人の能力差が反映されないため、出来高で支払うことを考えました。

●そこで一部の農地所有者は、他の農園よりも早く収穫を終え、いち早く市場に出荷するために、労働者に対する出来高報酬率を引き上げて、彼らの勤労意欲をそそろうとしたのです。
●少しでも多くのお金がほしい労働者は、報酬率の高い農園にあっさり移籍しますが、お金にこだわらない労働者は移籍しません。たとえば、こっちの農園は、休憩があるとか、食事が付いているとか、人間関係が良い、などといった理由が、その代表格です。

●上記の例のように、賃金の単純な上げ下げだけが、人間の勤労意欲をコントロールできるわけではないとわかっています。

●では、賃金以外にどのような要素が人の意欲を左右するのでしょうか。それは、一言でいうと「やりがい」です。この「やりがい」を因数分解していくと、

・理念や夢・ビジョンといった目的意識を共有できる
・物理的、精神的に恵まれる職場環境が用意されている
・信頼や尊敬できる上司や経営者がいる
・研修や教育などを通じて、自分が成長できる
・自由裁量の余地がある
・仕事そのものが面白い

などといった要素があります。これらをうまく組み合わせて、突出した魅力を作っていけば良いのです。

●話をわかりやすくするために、読者のみなさんに質問をしてみましょう。あなたがこれからアルバイトをするとしたら、次のどの会社に申し込みますか?

・ヤマト運輸
・ディズニーランド
・マクドナルド
・ヒロセ電機
・牛角
・ブックオフ
・セブンイレブン
・ユニクロ
・がんばれ社長

●もちろんあなたの好みなので、正解はありません。これらの企業に共通しているのは、思ったほど時給が高くないことです。しかし、パートやアルバイターも、場合によっては社員以上の自覚をもって、働いているような会社です(一番最後は私の会社です。少々冗談気味ですが、まったくの冗談でもありません)。

●たとえば、東京ディズニーランド・ディズニーシーでは、正社員が2,500名、パート社員(準社員)が2万人が働いていますが、パート社員の時間給は1,000円前後です。マクドナルドのアルバイトは、最高ランクでも1,000円強。パートが生産現場を取り仕切るため、「パート王国」とも呼ばれるヒロセ電機ですら、時間給が1,000円を切る水準、といずれもけっして高い時給ではありません。(ただし、賃金データは少し古くて2002年のものです)

●これらの事例を見ると、パートの戦力化と賃金水準は、けっして強い相関関係があるわけではないと、ハッキリしてきました。もちろん、パートだけではなく、正社員にも同じことが言えるのです。

●以前、「日経ビジネス」にこんな記事が載っていました。マクドナルドのアルバイト歴が9年になるPさんは、28歳の大学院生なのですが、ASWと呼ばれるアルバイト社員の中における最高ランクまで上りつめたそうです。Pさんの時間給は1,050円。他にも時給が高いアルバイトがあるのに、なぜ9年も続けたのかという質問に、彼は「面白みの更新があったんです」と答えました。

●「面白みの更新」とは素晴らしい表現です。経験を積むごとに、新しい仕事・より責任ある仕事を任され、今では40人いるアルバイトの評価をする立場にあるそうです。彼の言葉こそ、社員戦力化の大きな鍵を握っています。

「やりがい、面白み、楽しみ、喜び、感動」。これらすべてが更新されつづけるような会社でなければいけません。

●あなたの会社にどのような「更新」があるか、今一度点検してみませんか。

2007年08月03日(金)更新

無能集団を作る社長

●経営コンサルタントの仕事を始めたころ、「社長は、どうして自分の部下の悪口を言うのだろう?」と思ったものです。

●世間には、社員をあからさまに批判する社長がけっこう多いことに驚きました。逆に、決して部下や他人の批判をしない社長もいます。要するにそれらは、クセの問題でもあるのでしょう。もし、悪口や批判を言いたいのなら、本人に直接言うように心がけるべきです。

●しかし、それで解決できるほど、単純な問題ではありません。部下を批判する・しないというのは、単なるクセでは片付けられない、そうさせるような問題が別にあるのです。部下の悪口を言う社長は、悪口を言いたくなるような仕事のさせ方をしており、悪口を言わない社長は、悪口を言わずに済むような仕事のさせ方をしているものです。

●有名な「ピーターの法則」というものがあります。この法則の意味は、「階層社会にあっては、その構成員はそれぞれ無能のレベルに達する傾向がある」という、とてもコワイものです。もしかしたら、部下の能力を殺しているのは社長本人かも知れない、と考えてみることも必要なのです。
●ある社員が、日ごろの働き振りを認められて、課長に昇格しました。昇格してからも、さらに期待に応えてくれたる働きぶりでしたので、今度は部長にしてみました。しかし、部長としては「並」程度の仕事ぶりとなってしまい、取締役として経営陣に加えてからは、ほとんど「無能」に近い存在になってしまいました。

●こんなケースは決して少なくありません。行くところまで行きつき、その結果アップアップになっている人が管理職の大半を占めているのです。

●このように、人は成功し、出世するにつれて無能レベルに近づいていきます。また、このピーターの法則には、次のような「系」と呼ばれるものがあります。

◇系1・・・階層社会のすべてのポストは、時が経つに従って、その責任をまっとうできない従業員により、占められるようになる傾向がある。
◇系2・・・会社の仕事は、まだ無能のレベルに達していない従業員の手で遂行される。

とあります。

●一つの職場に何年も何十年も置いておく、ただそれだけで人は無能になります。そこからさらに、職位を上げていくわけですから、無能な人はアップアップになって当然なのです。

●部下の批判をする社長の会社では、このピーターの法則がはっきりと働いています。逆に、部下の批判をしない社長の会社では、ピーターの法則が働いていない場合が多いのです。

●社長としては、この法則が働かないように、未然に防止しなければなりません。そのために、例えば、人材の育成や流動化・活性化策が必要になります。

・体系的な社員教育の実施
・ジョブローテーション(定期的な配置転換)
・上司や部下、客先などの組み合わせ変更

●とにかく、日常をパターン化させない方法を考えることと、教育投資をし続けることが大切なのです。官庁のエリートは1~2年で異動すると聞きますが、それは理にかなっているといえるでしょう。

●このピーターの法則は、会社に限らずとも、なんらかの組織構成員であれば、誰にも当てはまります。そう、社長だって無為に過ごせば、この法則の例外ではなくなってしまうのです。他人の批判をする前に、まず自らをふりかえってみることが大切です。

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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