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2008年10月24日(金)更新

凡人が勝つ

●私が京都で講演していたときのことです。

「最後に笑うのは凡人なんだ。だから自分がエリートじゃないことを卑下してはいけない。勝つのは凡人の方だ。なぜならば…」

と、禅の大師、鈴木大拙氏の教えを引用しつつ、熱く語っていました。

●講演終了後、現役の京都大学生のA君が名刺交換にやってきました。彼は一通りの挨拶を終えると、即座に反論を語り始めました。彼の反論の趣旨はこのようなものです。

「たしかに凡人でも勝てるという話は勇気がでたが、『凡人がエリートより勝っている』という根拠がわからない。『凡人が勝つのではなく、凡人でも勝てる』というのが正しい表現ではないか。エリートが凡人より劣っているなどとは思えないにも関わらず、武沢さんの話からは、凡人のほうが優れているように受け取れた」

しかし、私の意見はあくまで「凡人“でも”勝つ」ではなく、「凡人“が”勝つ」です。エリートではいけません。世間一般で用いるエリートとは、先生から教えられたことを理解し、暗記する才能に富んだ人です。しかし、実社会において勝つのは凡人であって、学校教育のエリートではありません。もっとも、「凡人が勝つ」とは言っても、並の凡人ではなく、大いなる凡人でなければなりません

●私は発明王である「トーマス・エジソン」の幼少時代のエピソードに、凡人とエリートの論争へのメッセージがあるような気します。エジソンは「天才とは、99パーセントの努力と1パーセントのひらめきである」という言葉でも有名ですが、彼の母親の存在を抜きにしては、かの天才は世に出なかったでしょう。
●母親の名前はナンシーといいます。のちに天才と称されるエジソンですが、実は幼少期はまともに読書もできないほどのADHD(注意欠陥・多動性障害)であったといいます。それだけではなく、異常なまでに好奇心と探究心が強かったエジソンは、周囲に対して「なぜ~なの?」と大人たちを悩ませる質問ばかりを発していたそうです。

●小学校の教師は、「1+1=2」に対して異議を唱える彼を、「頭が腐っている」とまで評しました。

・1杯の水にもう1杯の水を足しても、やっぱり1杯ではないか
・1個の粘土にもう1個の粘土を加えても、やっぱり1個になるではないか

一事が万事こんな調子で異議を唱えられては、学校の先生が困るのは無理もありません。

●さらにエジソンは、「火とは何か。なぜ炎が燃え立つのかを自分で確かめたかった」という理由で、製材所を営んでいた父親の倉庫を燃やしたこともあります。その他にも、ニワトリの卵を自分で温めてヒナをかえそうするなどの奇行を目の当たりにした父は、とうとうエジソンを見放しました。当然、学校も彼を見放し、事実上は小学校を退学になっています。

●しかし、ナンシーはエジソンの真の可能性を見抜き、自らエジソンを教育しようと決心しました。他人が見れば単なる問題児ですが、真理や真実を知ろうとする好奇心・探求心を、母だけが評価していたのです。

●国語、算数、歴史、文学、物理、化学、と教えていったナンシーですが、とりわけエジソンに科学の才能があったため、自宅の地下室で好きに実験できるように、環境を整えました。そこで、大好きな実験と研究を通じて湧き出る疑問の答えをみずから導きだしていくことができたから、発明の天才が生まれたのでしょう。

●私たちは他人を評価するとき、何をもって優秀か否かを決めているでしょうか? エリートと凡人の違いって何だろうか、を考えてみる必要がありはしないでしょうか

人よりもはるかに劣る弱点をもち、失敗と挫折を経験しているエジソンのような凡人が勝つのです。そのためには、自分が没頭でき、得意と思える一点に集中する必要があります。そんな凡人だけが、偉大な仕事ができるのです。

2008年10月17日(金)更新

育成と選抜

●「Jリーグに選手を送り込むことだけが目標ではない。むしろ選手には、それが最終目標でサッカーをやってるんじゃない、と教えています」と語るのは、サッカー指導歴20年のA氏。

●Jリーガーになれる確率は、「1000人に1人いるかいないか」といいますが、その狭き門を潜り抜けてピッチに立つJリーガーたちは、アマチュアサッカー選手からみれば憧れの存在でしょう。しかし、それに憧れるのは結構なことですが、先のA氏の話にあるとおり、Jリーガーになることだけがサッカーをやる目的ではありません。

●A氏は、「サッカーを通じて健全な身体や心、それにチームプレイというものを指導していきたい。サッカーを一生のスポーツとして愛し、人生の重要な場面にはいつもサッカーがあるような関わり方をしていってほしい」と続けます。

企業の人材育成においても同様の視点が求められるはずです。それは、「選抜」と「育成」という二本柱です

「選抜」とは、ふるいにかけて優れたものを選び出すこと。
「育成」とは、選手を育て組織全体のレベルアップをはかることです。

この二つのうち、いずれが良いかという問題ではなく、両方が大切なのではないでしょうか
●能力主義型の人事制度の中には、単なる選抜主義だけのものが少なくありません。がんばった人に大きく報いるのは当然のことですが、その一方で、がんばっても結果が出なかった人や、何らかの事情によりがんばれなかった人に対するフォローのしくみが伴っていないとうまくいきません。

●組織の基礎となる育成のしくみを最初にきちんと作り込んだうえで、さらに選抜システムを付け足すのが理想でしょう。人材が豊富な大企業ならば、育成のしくみがある程度構築済みですので、そこに新たに選抜システムを組み込んで、あとは社員間の自由競争に任せるだけでいいですが、中小企業ではそうはいきません。まず育成のしくみを作ることがが必要なのです

最初にすべきことは、なぜ人材を育成するのかという「目的」を「育成理念」として明文化することです。社長が「立派な人材を育成したい」と思って教育に力を入れていても、社員に「どうせ会社の都合、社長のエゴと趣味で教えているんだろう」と思われていては何も伝わりません。

●戦前の日本には、世界から賞賛されていた「教育勅語」というものがありました。「教育勅語」は、人が学ぶ目的を明文化したものだったのですが、戦後になってから日本はそれを取り下げてしまいました。そのときから、教育の理想がなくなってしまい、日本の教育の混迷が始まったといえるのではないでしょうか。

●その事実を反面教師とし、私は企業にこそ「教育勅語」を制定する必要があると思います。経営者の思いと教育を受ける側との思いを一致させる「教育勅語」を制定し、それをベースにして、あなたの会社に育成と選抜のしくみを構築していきましょう

2008年10月03日(金)更新

書斎を持とう

●「小説を書いてみたい」。

私が10年以上前から持ち続けている願望です。最近、その思いがますます強くなり、敬愛する司馬遼太郎さんの記念館に行ってきました。二年ぶり二度目の見学なのですが、前回は司馬さんの一ファンとして足を運び、今回は作家になったつもりで、蔵書や書斎がどのようになっているのかに焦点を絞っての見学です。

司馬さんは一冊の本を書くのに何百冊、何千冊の本や史料、資料を読破し、その中から一滴、二滴としずくを搾りだすように文章を書いていったそうです。それを裏付けるように、司馬さんの蔵書は5万冊とも6万冊とも言われており、記念館にあった2万冊の展示も実に圧巻でした。

●私のオフィスにある書棚は1000冊くらいで一杯になってしまいます。そのほとんどが300ページ以内の薄い本です。もちろん、この程度では収まりきらないので、2~3か月に一度は書棚のメンテナンスをして不要な本を処分しています。

●オフィスも自宅もスペースに限りがありますので、それ以上の蔵書は持たないようにしてきたのですが、ついにこの秋、書棚を増設することにしました。司馬さんに影響されたのもありますが、やはり1000冊では少なすぎます。今回の増設で2000冊程度なら収められるようになりましたが、それでも焼け石に水かもしれません。

整理術の基本は「いつでも手に入るものは手元に持たない」だそうですが、蔵書はそういう訳にはいきません。書きたいときに参照する本が手元にないと困ることが多いのです。
●経営者も読書好きであってほしいと思います。ビジネス分野はもちろん、あらゆる分野の本を読むことが、人間としての幅や厚みを持たせてくれる元になります。そして、読んだ内容を整理し、自分や自社に当てはめて考える。そうした思索のためにも、本を保管するスペースが経営者には必要ではないでしょうか。

●そこで、私は経営者のみなさんに提案します。
「本を読もう」「大きい書棚をもとう」「書斎をもとう」と。

●ところが私たちの多くは、結婚と同時に書斎や書棚どころか、一人になれるスペースをも失います。“結婚は知的退化の始まり”という評論家もいますが、仮にも経営者たる者が自宅にもオフィスにも書棚がないとか、ゆっくり本を読める場所をもっていないというのは大問題ではないでしょうか。

●『書斎の造りかた』(光文社)を書いた林望さんは、書斎確保のためには家庭内別居も必要だと説いていますが、そこまではしなくとも、狭くても良いので一人になれるスペースを確保したいものです。そこを読書や沈思黙考の拠点として、明日のビジョンや経営方針について考える知的生産に励みましょう

●多くの企業では“社長は穴熊になってはいけない”として、社長室を取り壊してきた歴史があります。一理はあるのですが、社長室と同時に社長が本来行なうべき知的生産活動を放棄してしまっては本末転倒です。

●ブースで仕切るだけではダメ。行きつけの喫茶店でもダメ。内から施錠できる物理的空間をオフィスに確保しましょう。それを「社長の知的生産工場」にするのです。

取り戻せ、社長室! 新設しよう、社長室!! 作れ、書斎!!!

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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