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2008年05月23日(金)更新

わかりやすいところから入る

●まずは、米国のコンサルタント、トム・ピーターズ氏の著書『経営破壊』(TBSブリタニカ刊)の中に出てくる一節をご紹介しましょう。

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その日、ホテルのボーイたちは見事な手際のよさで1,000台近い車を駐車させていた。身だしなみもこぎれいで、びっくりするほど丁重で、文字通り車の前後を走り回っていた。実に見事なショーだった。
そこで私はスピーチのなかでこの点に触れ、「マリオットに敬礼!」と言った。聴衆の間から盛大な拍手が起こったことからみて、ほかの人たちもあの素晴らしいショーを堪能していたようだった
・・・

●マリオットのボーイさんたちは駐車の訓練も受けているのか……。 と思われた方もいるかもしれませんが、実はそうではありません。駐車場で活躍していたのは、「プロフェッショナル・パーキング・サービス社」の駐車場誘導を専業とするプロ集団だったのです。ホテルのマネージャーであろうと、誰であろうと、彼らに勝る情熱で駐車誘導をする人間は他にいません。

●この会社は、プロの駐車場誘導スタッフを派遣するというニッチな分野に生死をかけているのです。そして、スタッフも、あたかもビル・ゲイツが次世代パソコンソフトの開発に情熱を注いだのと同じように、駐車場誘導に情熱を注いでいるのです。ちなみに、聴衆の中には創立者のパリスカもいたそうです。
●そういえば昔、ある町で一番繁盛しているというラーメン屋に案内されたことがありました。車でそのお店へ行ったのですが、駐車場のスペースが3台分しかなく、大混雑。近所に路駐もできず、結局お店に近づくこともできませんでした。かつおダシがよく効いた醤油ラーメンのスープが絶品だと聞き、お腹も減っていたのですが、その日は仕方なく断念しました。もし、このラーメン屋さんが、プロフェッショナル社と契約していたら、もっと売上を伸ばすことができたかもしれませんね。

●さて、本題に戻りましょう。プロフェッショナル社の仕事ですが、実は駐車場誘導だけで終わりではなかったのです。マーケティング戦略はしたたかなもので、その深慮遠謀は、凄みすら感じます

●まず「駐車誘導」というニッチでわかりやすい分野で「マリオット」や「ヒルトン」などの大手ホテルと契約し、信用を得ます。そして、絶大な信頼を得ながら次のステップで、ホテルのフロント業務全体を請け負うというやり方なのです。

●なるほど、そうだったのか! これぞまさしく「わかりやすいところから入り、わかりにくい所で勝負する」という戦略です。もし最初から「フロントを任せて下さい」と営業していたら、門前払いだったことでしょう。あなたの会社の営業活動にも活かすことができるかもしれません。戦略を見直してみてはいかがでしょうか?

2008年05月16日(金)更新

問題は怠慢にあり

●以前、草野球の捕手をしていた時期があります。強肩が自慢だったのですが、ある日、肩を痛めてしまいました。肩をかばって投げているうちに、ひじも痛めました。それからは一塁手に転向したのですが、肩の痛みからか、いつの間にか野球をやめてしまいました。

●今でも時々子供とキャッチボールをしますが、昔痛めた肩とひじは今も治っていないようで、山なりのボールしか投げることができません。

私の肩は問題でしょうか、それとも問題ではないのでしょうか

●私の目標が「野球選手として活躍すること」であれば、痛んだ肩は大問題でしょうし、すぐに治すべきでしょう。しかし、インターネットで情報発信する今の職業ならば、そのままでも特に問題にはなりません。

●それが問題なのか、問題でないのかは、目標や理想によって変わってくるということです。「問題」とは、理想と現実のギャップのことであり、理想が低ければ問題もなく、理想が高ければ問題だらけになるということです

●月間売上高目標を例にして考えてみたいと思います。
目標は当然100%以上ですが、実績が80%で終ったとしたら、そこには、理想(目標)と現実(実績)のギャップが生まれます。

A社ではそれを大問題として会議の議題にあげ、討議し、手を打ちます。
B社では誰一人それを問題視せず、議題にも話題にものぼりません。

こうした違いが生まれるのは、A社とB社では、理想が違うからです。

●では、目標未達成が繰り返し起こった場合はどうでしょうか? 理想の高低に関係なく、B社でも問題になるのは明白です。しかし、そのような状況になる前に手を打たなければ、それはただの怠慢です。ドラッカーはこう言っています。
繰り返し起こる混乱は、ずさんさと怠慢の兆候である
●別の例として、ある建設会社で実際にあった話を紹介しましょう。
借入依存度が大きかったこの会社では、毎月金融機関に業績報告書を提出していました。ところが、支店が東京・横浜・名古屋・大阪・広島・福岡と分散しているうえに、社内データの整備やメール網が不十分だったので、報告書の作成は困難を極めていました。

●50歳になるM取締役の仕事の半分は、銀行への提出書類の作成で終わっていました。秘書やアシスタントも各支店との諸連絡に忙殺されました。月末・月初になると徹夜になることもあったのですが、その都度、気力と体力で乗り切り、そして、業績報告書を銀行に提出した翌日は会社を休む、ということを毎月のように繰り返していました。彼の役職は『経営戦略室 室長』とものものしいものでしたが、仕事の実態はこの程度のものでした。

●そんな状態が5年も続いたある日、この会社は倒産しました。
毎月繰り返される問題を放置していたことこそが、問題だったのです。M取締役の本当の仕事は、書類作成ではなく、業務システムの改善でした。それをM氏は怠っていたのでした。まさに、ドラッカーの言う「繰り返し起こる混乱は、ずさんさと怠慢の兆候である」という状態だったのです。

●当たり前のことなのですが、混乱が繰り返し起きないようにするための根本的な方策が必要なのです。こうしたずさんさと怠慢さを問題だと思わない会社は、必ず破綻するでしょう。

●気力と体力で「そのときだけ」乗り切ることを繰り返していると、「忙しいから仕事をしている」と勘違いてしまいます。しかし、これを問題視しないことが、本当の「怠慢」なのです

2008年05月09日(金)更新

執行責任者制の意義

●先日、ある方からご相談を受けました。

武沢さん、うちも新年度から、CEOとかCOOとかいうポストを導入しようと考えているのですが、どう思いますか?
「ほー、なるほど。その狙いは何ですか?」
「何となくカッコイイじゃないですか」
「カッコいい? それだけの理由ですか……」
「若手社員の動機づけにもなるかと」

●本来は「カッコイイ」とか、「社員の動機づけ」を目的に役職名称を決めるものではありません。しかし、最近はこうしたカタカナ名称の名刺をもらう機会が増えており、間違いなく日本の中小企業にも浸透しつつあるようですので、少しおさらいしておきましょう。

☆ CEO(chief executive officer)…… 最高経営責任者
☆ COO(chief operating officer)…… 最高執行責任者
☆ CFO(chief financial officer)…… 最高財務責任者
☆ CIO(chief information officer)…… 最高情報責任者
☆ CTO(chief technology officer)…… 最高技術責任者

●その他にも、最高知識責任者(CKO)、最高個人情報保護責任者(CPO)、最高顧客市場分析調査責任者(CMO)などもあります。そんなに新しい肩書きをつくってどうするのだろうと思いますが、大企業ではそれでもまだ足りないほど経営の守備範囲が広くなっているようです。
●日本の商法では、「代表取締役」が株式会社の最高責任者とみなされているだけで、これらカタカナ名称は非公式の社内ポストに過ぎません。ソニーが1976年にこの名称を採用したのが第一号となっており、徐々に国内ビジネスでもこの執行責任者の名称を使うケースが増えているようです。キヤノンやシャープのように従来からの漢字名称をそのまま使っている会社もありますが、海外ビジネスではむしろカタカナ名称が一般的です。

・ソニー
   会長兼CEO ハワード・ストリンガー
   社長兼エレクトロニクスCEO 中鉢良治
   副社長、コンスーマープロダクツグループ担当 井原勝美

・ユニクロ
   代表取締役会長兼社長 柳井正
   取締役兼常務執行役員COO 大笘直樹
   社外取締役 松下正

●このように、世界企業の一部ではごく自然にカタカナ名称が使われています。もちろん、カッコ良さの問題ではなく、経営戦略上の確固たる意味があってのことです。

●経営の4大役割である「ビジョン」「戦略」「執行」「戦術」の各々について、一人で何役もこなせるほど今の経営環境は甘くありません。CEOはビジョンと戦略を、COOは執行と戦術を分担しようというような狙いがそこにあるのです

●「カッコイイから」「社員のモチベーションのため」という理由ではなく、経営の役割を分担するのであればカタカナ名称の役員チームにすることも充分な意義があるはずです

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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