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2009年11月27日(金)更新

喜怒哀楽の共有

●名古屋で冠婚葬祭センターを営んでいるA社長と会ったときのことです。

A:「武沢さん、ちょっと相談があるのですが・・」
武:「何でしょう」
A:「会社の方針や目標を社員に浸透させる方法がわからない。
   いろいろ手を尽くしているのですが、浸透していかない」
武:「もう少し詳しくお聞かせください」

●A社長の悩みは次のようなものでした。

・・・
毎年、決算期にあわせて方針書を作っているのだが、ときには2~3日社長室に閉じこもることもある。

そうして作った方針を発表し、その後も社内報や社内ネットを用いて繰り返し伝えているのだが、新しく決めたことが実行されることはめったになく、毎年変わりばえがしないまま終わってしまう。

「目標の浸透」というのか「目標の共有」というのか、表現はともあれ、会社全体が一体感をもって動いていくような経営をしたい。
・・・

●こうした経営上の課題をもっている会社は多いようですが、上意下達の意識だけでは、「目標を共有する」企業文化は生まれません。「共有すべきものは目標だけではない。まずその前に共有すべきものがある」というのが私の考えで、それには4つの段階があります。
●最初に試みるべきは、「事実の共有」です。
「事実の共有」なんて、決算書や報告書を公表さえすればそれで終わり、などと思わないでください。日々の出来事やそれに伴う感想、そして、ありのままの現実を共有し、そこから一歩進んで問題を共有するということが、「事実の共有」なのです

●そのためには、ネットやメールに頼るまえに、まず顔をつきあわせましょう。報告だけの会議なんて無用、と会議を廃止する前に、フランクに事実を交換しあう場を作るのです。雑談でも朝礼でもいいので、こうしたことを普段から行なうのが第一歩ではないでしょうか。

次に必要なのは「価値の共有」です
すでに価値観や使命、ミッションなどが決まっている会社は、それをトコトン社員の意識に刷り込んでいきましょう。ジョンソン&ジョンソン社の「我が信条」のように、大切なものを順位づけしていくのも効果的です。

★我が信条:http://www.jnj.co.jp/group/community/credo/index.html

一方、まだ価値観などが決まっていない会社では、社員との対話の中でそれを成文化していけばいいでしょう。

3番目にくるのが「目的や目標の共有」です
努力と奮闘の結果、どのようなゴールが期待できるのか。また、どのような面白いストーリーで自分たちの道を歩もうとしているのかを語り合いましょう。

そして最後が「結果の共有」です
結果を厳粛に受け止め、良い結果の場合は勝利の美酒を、悪い結果の場合は苦い冷や水を飲み明かし、改めて、最初の「事実の共有」というスタートラインに戻っていくのです。

1.事実の共有
2.価値の共有
3.目的・目標の共有
4.結果の共有
  ↓
1.事実の共有
  ・
  ・

このサイクルをくり返すことで、企業文化が発展していくのです。

2009年11月20日(金)更新

常識は自分で塗りかえろ

●「武沢君は内向的で、一見すると茫洋とした性格の持ち主で・・・」

これが小学一年生のとき、私が最初にもらった通知表に書いてあったコメントです。小学校一年生の私にはその漢字が読めず、理解もできませんでしたが、母親に「要するにおとなしくてボーッとしてるってことだよ」と教えられて、納得しました。

●小学生ながら、自分が同級生に比べて口数が少なく、恥ずかしがり屋であることはわかっていました。
しかし、尊敬する先生から「おとなしくてボーッとしている」とハッキリ言われ、親もそれを認めるということは、相当に内気だったのでしょう。

●55歳になった今でも自分のことを内向的だとは思います。若いころは社交的な方がかっこいいとのでは、と思うこともありましたが、今では自分の性格のことをあまり気にしなくなりました。むしろ、内向的だからこそ、こうしてメルマガやブログで自己表現するようになったのかもしれません。もし私が活動的な人間だったら、こうした執筆作業が10年間も続いたかどうか疑問です。

●「あがり症で人前でまったく話せなかった少年が、コンプレックス克服のため弁論部に入り、自己改造した」というような話をよく聞きます。セブンイレブン躍進の立役者として知られ、現在はイトーヨーカ堂のCEOを務める鈴木敏文氏もその一人です。
●氏は、小学生のときは教科書の朗読をさせられたりするとあがってしまって読めず、中学でも口頭試問で頭がまっ白になってしまい、何も発言できずに叱られたといいます。しかし、鈴木少年は積極的に自己改造に取り組み、高校生のときには生徒会長をつとめたり、卒業式で送辞や答辞を読むほどになったそうです。

●また、自己改造の分野は性格だけではありませんでした。足が遅くてからかわれたことから陸上部に入り、県大会に出場するほどの選手にもなりました。肉体面・性格面の両方で、自分のイメージを塗り替える経験をしたのです

●その後、鈴木氏はトーハン(東京出版販売)に入社し、友人の斡旋で1963年にイトーヨーカ堂に転職しました。当時はまだ4~5店舗の中堅企業だったイトーヨーカ堂ですが、そこで出店説明の仕事や広報の仕事をするうちに、世間の常識に疑問を感じるような場面に遭遇したといいます。

●出店候補地に出向き、地元商店街の人たちを相手に説明会を開いた際に、「規模の小さい店が大きい店に勝てるはずがない」と激しい反対を受けしました。しかし、鈴木さんは、「規模が問題なのではなく、生産性が問題なんだ」といった確信のもとに商店主と接しました。このときの経験が、のちにセブンイレブンの立ち上げにつながったのです。

●セブンイレブンは当時のアメリカで成功をおさめていましたが、その独特な業態を日本に持ち込むことに対し、FC契約を検討していたヨーカ堂社内ですら賛否両論がありました。むしろ、「日本では無理」という意見が主流派で、鈴木氏も絶対的な自信があったわけではなかったそうです。

●ですが、商品の調達を多品種少量方式とし、店舗運営の情報システムをすべてアウトソーシングするなど、当時の業界の常識をすべて塗りかえ、日本独自の精緻なシステムを作ってきました。そこまでできたのはもしかすると、氏の内向的でコツコツ努力するタイプのおかげだったのかもしれません。

この記事をお読みのみなさんも、自分自身と社員の個性や強みをより活かせるビジネス展開を考えようではありませんか

2009年11月13日(金)更新

考えすぎると悩みがふえる

●以前、作家になりたいという、知り合いのAさん(35才、女性)から、次のように言われたことがあります。

「私の使命は書くことです。私の文章で日本の若者に生きる勇気を与えたい。それ一本で生計がなりたつようにしたいのです」

私はそう聞いて、「ほぉ、すばらしい。私と同志ですね。私も書くことを通じて、日本の経営者を応援したいと願っています」と申し上げました。

●以下、その時のやりとりです。

武沢 :具体的には今、どんな仕事をされているのですか?
Aさん:現実には、物書きの仕事がありませんので、人材派遣会社に登録して
    短期の派遣仕事を複数かけ持ちすることで、生計を維持しています。
武沢 :それは大変ですね。派遣仕事の合間をぬって、若者に勇気を与えるための
    ブログかメルマガをやっているのですか?
Aさん:いえ、まだ何もやっていません。
武沢 :え?
Aさん:物書きの仕事はまだ構想の段階でして、何も書いていません。
    この2~3年はリサーチしている段階です。
武沢 :2~3年もリサーチですか。あとどれくらいの期間、リサーチされるのですか?
Aさん:詳しく決めてはいませんが、「これで行こう!」と思える時がくるまで、
    周囲の成功事例を焦らずにウォッチしていくつもりです。

●私はそれを聞いて、「時間がもったいないから、粘土細工のように、あれこれ考えを練りながらかたちを作っていくほうが得策ですよ」と申し上げました。
●キリストは、布教に出かける弟子達に向かって次のようなアドバイスをしています。

=====
金も袋も下着も靴も杖も持たずに出かけなさい。
あなた方に必要な一日の糧は必ず満たされます。

そして、あなた達が語る神の教えを聞いても、誰も信仰をもたない村があれば、
とっととそこを引き上げて次の村へ行きなさい。

ついでに、その不信仰な村を後にするときには、足についた土ぼこりを
きれいに払い落としてから次へ行きなさい
=====

●キリストの言葉を私なりに解釈するとこうなります。

あなたたちは人類すべてに責任を負う必要はない。むしろ、あなたたちの責任は、誠意をもってたくさんの人にメッセージを伝えることである。それを相手がどう受け止め、どう反応するかはあなたの問題ではない」、と。

●「物を書く」、あるいは、「何かを伝える」といったとき、次のポイントについて考えておくことが大切ではないでしょうか。

1.あなたが伝えたいメッセージを要約すればなにか?
2.あなたのメッセージは誰に伝えたいか?
3.相手にメッセージを効果的に伝える方法はなにか?
4.今すぐできることはなにか?

●ここまで決めてあれば、あとは迷わずやるだけです。まだ決めてないのであれば、今すぐに決めてしまいましょう。こういうことは、考えれば考えるほど思考をめぐらせるだけになり、かえって行動できなくなってしまうものです

2009年11月06日(金)更新

社員に「上機嫌」を演じさせよう

●ある映画のロケ現場にて。

---

「シーン11、カット6、スタート!」。カシャッ。
「・・・」
「はい、カット」

以下、監督と俳優・渥美太(仮名)のやりとり。

監督:「渥美ちゃん、ムスッとした顔してどうしたの。ここはあんたがニコッと笑う絵が
    欲しいのよ。わかる? 笑顔だよ? じゃ、もう一回行ってみよう」
渥美:「・・・監督、たのむ。今日は勘弁してほしいんだ」
監督:「勘弁してほしいって何よ。笑顔くらい作れるでしょうが」
渥美:「実は、ちょっと今悩んでることがあって笑える気分じゃないんだよ」
監督:「はぁ?」

---

●もし、こんな役者が本当にいたらどうでしょうか。おそらく、二度と仕事は回ってこないでしょう。

役者の仕事は、台本通り、あるいはそれ以上に役を演じ切ることです。今の自分の気分がどうであれ、瞬時に期待された役を演じなければなりません。それがプロの役者です。

これは、別に役者に限った話ではありません。たとえば、ディズニーランドでミッキーの着ぐるみに入っているキャストが、今日はブルーな気分だからといってステップを踏まずに、パーク内をトボトボと歩きまわるでしょうか? そんなことはありえません。

●では、会社のなかではどうでしょう。私たちが演じるべきことは何でしょうか。
●会社や組織など複数の人で仕事をするならば、「笑顔をみせる」、「時間を守る」、「お辞儀をする」、「あいさつする」、「報告する」などが、基本的な演技です。もちろん、顧客に笑顔を見せてはいけない仕事や、あいさつしてはいけない仕事もあるでしょう。ですが、一般的な職場内では、それらが要求されます。これは、本人の気が向く・向かないかとか、納得できる・できないの問題ではありません。それが仕事なのです。それが演じるべき行為なのです

●「こうした行為が、仕事そのものなのだ」ということをしっかりと社員に教えましょう。仕事だから笑う、仕事だから時間を守るというような義務感で行なうのではなく、自然にできるように鍛えるのです

●経営者は社員の成長を期待しましょう。成長するとは、必要によって本能に逆らえるようなることでもあるのです

●フランスの哲学者・アランの言葉に、次のようなものがあります。

「もし道徳論を書くようなことがあったら、私は『上機嫌』を義務の第一位におくだろう」

「上機嫌」を演じきれる社員を、育てましょう

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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