大きくする 標準 小さくする

2010年12月24日(金)更新

2倍を目指せ!

●この15年間、名古屋で経営計画講座を毎年二回開催してきています。
Wish List、理念作りから始まって決算書の読み方、数字目標作り、顧客創造計画、人と組織作り計画、そして経営計画の進捗チェック体制までを成文化し、互いに発表しあって終わる合計7回の講座です。

●あるとき、講座のなかで5年後の数字目標を作っていたら、一人の社長が手をあげこんな質問をしました。

「武沢さん、当社はまだ設立3年目の会社です。5年先にうちがどうなっているかなんて、とても分かりません。せいぜい来年の目標を作るのが精一杯です」

●私は逆に質問しました。
「じゃあ、あと何年したら5年先までの数字が作れるようになりますか?」
彼は言葉につまったようですが、「せめてあと5年はいろいろやってみないと分からない」というのです。

●彼が言わんとすることは「数字予測」のようなもので、なるべく誤差の少ない予測をしようという発想です。
そうではなく、数字目標というのは社長の意思です。せめてここまで到達したいという思いや、
ここまではやりたいという希望が先に必要なのです。予測値なのではありません。

●ドラッカーは、「1年でできることはことのほか少ないが、5年でできることはことのほか多い」と言っています。5年あれば、思っていることのすべてが叶う可能性があります。

そして、ドラッカーはこうも言っています。
「10年以内に規模を倍にできないのであれば、資金、人、資源の生産性を倍にする目標を掲げなければならない。生産性の向上はつねに現実的な目標であり、つねに実現可能な目標である」

●10年で倍増を目標にしましょう。いや、5年で倍増でも構いません。10年なら年率7.2%の成長、5年なら年率15%の成長が必要になります。
大企業にとっては大変な数字ですが、中小ベンチャーにとっては難しくなんかありません。もしその程度の成長が見込めない事業なのであれば、そうなるような事業構造を作る必要がある
と考えましょう。

組織には挑戦が必要であり、それは大胆なものであるべきです。

2010年12月17日(金)更新

顧客満足度レベル表

●コンサルタントとして駆け出しのころ、あるパチンコホールの経営者から「店舗用のマニュアルを作りたい」という依頼がありました。
お引き受けしたのはよいのですが、参考事例がなくて困りました。小売店や飲食店のマニュアルは市販の参考書で充分役に立つのですが、パチンコホールとなると、きわめて特殊な仕事や用語を使います。「ゴト師」とか「ドル箱」とか「サービス玉」とか「景品交換」など、まずパチンコにあまり縁のなかった私自身が覚えることがたくさんありました。
そのおかげで、現場のベテラン店長や幹部からたくさんのことを教えていただき、ほぼ1年がかりで「新人用」「一般社員用」「店長用」の三種類のマニュアルを作りあげることができました。

●「接客マニュアル」を整備するにあたって、まず「顧客満足度レベル表」というものを作りました。これは、"あなたは今、どのレベルにいるか。上のレベルに行くには何をすべきか"を明確にしたものです。

★レベル1.顧客たたき(社内にいてはいけないレベル)
 自分の都合を優先し、お客様に感謝の気持ちを表せていない。時にはお客様に嫌な顔を見せ
 たり、ぞんざいな口のきき方をしたりする。

★レベル2.義務感だけ(三ヶ月以内に改善しないと社内にいられない)
 お客様に対して最低限のマナーは守ってはいるが、お客様の立場にたって何かをしてあげよ
 うという気持ちまでは持ち合わせていない。むしろお客様は、店側の都合に合わせるべきだ
 と思っていてイレギュラーな対応を嫌う。

★レベル3.ハンバーガーショップ店員(最低限の社員合格レベル)
 お客様から言われたことを速やかにこなすことができる。だが標準化された受け答えをする
 ことが大半で、臨機応変に人・時・状況に応じた対応まではできない。

★レベル4.デパートガール(社員として及第点を与えることができるレベル)
 標準化された対応がきちんと出来るだけでなく、お客様の期待や要望にしっかり応えるため
 の個別対応もできる。お客様の顔を覚え、好みを覚え、お客様が望めば親密なコミュニケー
 ションも取ることができる。

★レベル5.ホテルマン(一般社員が目指したい究極のレベル)
 一流ホテルのフロントのような落ち着きと信頼感、それにフレンドリーさをもってお客様に
 接し続ける。もし、クレームやトラブルなどでお客様との関係にヒビが入りそうになっても、
 お店側を防衛しようとするだけでなく、お客様の立場や言い分を尊重し、双方が納得できる
 答えを見つけ出すことができる。

★レベル6.ドクター(店長以上の役職者に期待したいレベル)
 お客様の表面的なニーズの裏にある本当のニーズをつかみ取り、そのニーズを満足させるサ
 ービスを提供しようとする。お店の短期的な利益に合致していなくとも、お客様との長期的
 な信頼関係構築を尊重する。

●この会社では「レベル6」まで作りましたが、現場の社員には「レベル5」までを要求しました。
この「顧客満足度レベル表」は、これを仕上げる過程で徹底的な議論がなされました。実は、その過程に価値があったように思います。店舗間の認識のズレや作業の不統一がなくなっていったからです。さらに、「我社は誰のために、どのように喜ばれたいのか」という大切な問いかけに対して、幹部以上が共通の答えを持てるようになっていったのが大きな財産でした。

●マニュアルは作ることが目的ではなく、作るプロセスに経営者が入って議論することが大切です。
ちなみにこの会社はある県内でも有数なパチンコ企業として優秀な若者たちが入社する会社になっています。

2010年12月10日(金)更新

念ずることの磁力

●壇上の講師が聴衆にむかって質問しました。

「このじゃがいもにストローが貫通すると思う人、手をあげて下さい」

「そんなのムリだ」と思った私は手をあげませんでした。周囲をみてみたら、なんと半数以上の人が手をあげています。「そんなバカな」と私。

指名された数人がステージにあがり、講師の号令にあわせて「突き通す」と言いながらストローを振り下ろすと、全員が貫通しました。

●私は目を疑いました。
「では、もう一グループあがってもらいましょう」と私も指名され、ステージにあがることになりました。さっきは全員貫通したわけですから、私もできると思いました。「突き通す」と言いながら迷わず振り下ろすと、見事貫通しました。
しかし、隣の人は結局数回やってもできず、「ほら、やっぱりできない」と言いながら席に戻っていきました。

●それは今も忘れられない神戸でのできごとでした。
席にもどって、改めて「念ずる」ということがどういうことなのかと考えさせられました。そのときの講師が「加賀屋感動ストアーマネージメント」の加賀屋克美さんでした。彼は「念ずる人」でした。

●加賀屋さんが東京ディズニーランドに初めて行ったのは小学校6年生のときだったそうです。それは、ディズニーランド開園の年でした。
子供ながらに「僕を子供扱いせず、ひとりのお客さんとして接してくれることに感動した」という加賀屋さんは、以来、ディズニーのことなら何でも知りたい、見たい、欲しいというディズニー・フリークの人生が始まりました。

●「ディズニーランドで働きたい」と思うようになるまでに時間はかからなかったそうです。
学生になったとき、近くでアルバイトさがしするときも、将来に備えたバイトを選びました。それはマクドナルドでした。当時、女性の深夜労働が禁止されていたので、午後10時以降になると加賀屋さんはカウンターで接客できました。「0円スマイル」を毎日実践したそうです。

●「念ずれば花ひらく」

やがて加賀屋さんはディズニーランドを運営するオリエンタルランドに入社しました。悲願達成でしたが、それで満足しませんでした。
今度は、アメリカ・フロリダにあるウォルト・ディズニーワールドで働きたいと思いました。まず英語を覚えよう! と、自宅にあった中学校の教科書を引っ張り出してきて英語の特訓をはじめました。そして、ついに1年後、渡米勤務が実現したのです(今では、加賀屋さんはイギリス人も賞賛する美しい英語を話すまでになりました。私はその場面を目撃したことがあります)。

●日本勤務にもどったとき、「スプラッシュ・マウンテン」が日本にも出来ると聞きました。加賀屋さんはその乗務員になろうと決意します。どんなアトラクションになるのか誰よりも早く知りたいと思った加賀屋さんは、毎日工事現場に通って、作業員たちと仲良くなりました。作業の様子を聞きながら情報収集にはげみ、自らは「ビッグサンダーマウンテン」に乗って一瞬だけみえる「スプラッシュ」の工事現場をカメラにおさめました。それを紙で模型にして、自宅に完成予想の模型を作り上げてしまいました。加賀屋さんの自宅でそれをみた友人は、絶句するとともに、念じている男の執念を感じたといいます。

●「念ずれば花ひらく」

加賀屋さんの感動追求はまだ始まったばかりです。今はディズニーを退職し、「加賀屋感動ストアマネージメント」という会社を設立しました。こんどは自分自身がテーマパークになるのです。自らの人生体験を通して、感動作りを求める企業や店舗を支援するサービスを始めたのです。感動の輪を全国、全世界に広げていきたいという加賀屋さんの思いが形になったのです。


●「念ずれば花ひらく」

幕末の思想家・吉田松陰は、「思想を維持する精神は狂気でなければならない」と語っています。周囲の人からみれば、狂気変人のようにみえるぐらいにひとつのことに打ち込むことを恐れてはなりません。

思いの力があれば、じゃがいもだって貫通します。同じじゃがいもでも、「できない」と思っている人にとっては、できないのです。できるかできないかは、自分で前もって決めていることが多いのです。最初は単なる思いつきに過ぎなかった夢やアイデアも、徹底的に念ずることによってそれを可能にするエネルギーが生まれてくるようです。

2010年12月03日(金)更新

傷ついた枝

●かつて、ホームセンターで薄板を買ってきて手書きの年賀状を作ろうとしたことがあります。
さっそく板を切って葉書サイズにし、墨汁で「謹賀新年」と書いてみたのですが、かすれてうまく書けません。どうしたものかと試行錯誤するうちにある方法を思いつき、成功したことがあります。
それが現場の智慧とでもいうもので、技術の粋を凝らした自動車製造現場でも、ボディの仕上げ部分には人の職人芸が必要だそうです。理論よりもコンピュータよりも人間の方が優れていることがまだまだたくさんあるようです。

●先日、柿の栽培に情熱を注ぐ農家の方からたいへん興味深いお話しをうかがいました。
それは、「美味しい柿の実は傷ついた枝になる」という話です。
ベテラン農家ではそれを知っていて、故意に枝に傷をつけるなどして活用しているというのですが、それがどんな理由によるものかは農家の方もよくわかっていないそうです。

●たぶん、枝が傷ついて弱っているのをみて、根っこや幹が必死になってその枝を救おうと養分を送るからだろう、というのが憶測ですがそれが証明された訳ではありません。
私はその話を聞いて、野菜ビジネスで失敗したユニクロの柳井会長の談話を思い出しました。

「当社の野菜ビジネスは、カネがあり人材もいたから、うまくいかなかった」

さらに、こう続きます。

「カネがない、ヒトがいない、モノがない、チャンスがないことは、事業を成功させる4大条件だと僕は思っています」と。

●柿の実のように、厳しい環境にあることそのものが成功の条件だと考えるようにしましょう。

・「美味しい柿の実は傷ついた枝になる」

    ↓   応用    ↓

・「優秀な人材は困難な部門で育つ」
・「すぐれた事業は過酷な条件下で育つ」
・「逆境がないということが大問題だ」

なにもない過酷な環境だからこそ智慧が出せるのです。

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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