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2011年01月28日(金)更新

人を使う

■新任社長に就任した渡部敏夫(仮名)は、悩んでいました。
父が育て上げた鋳造会社を守ってゆけるのだろうか、と考えはじめると、夜も眠れません。
今年30才になる渡部は、学校卒業と同時に大手工作機械メーカーに就職。昨年、倒れた父の会社に入るまで経理畑一本をあゆんできました。
経営のイロハもわからないし、子どもの頃から人の上に立ってリーダーシップを発揮したことなど一度もありません。

■そんな渡部も、高校生の頃から学校休みの多くを父の鋳物工場でアルバイトしてきたので、鋳物に関する知識や技術は相当もちあわせています。
ですが、親分肌を発揮して会社を大きくしてきた父とは違い、渡部はどちらかというと几帳面で細かいことが気になるタイプ。自分のことを「悩み多き小心者」と思っているのです。

■前社長の父が急逝した今、悩んでいるヒマはありません。来週の月曜日には、"あの"古参社員と二人で会食しなければなりません。
"あの"古参社員とは、自分のことを父と比較して"小僧"呼ばわりしているらしい太田製造部長(55才)のことです。敏夫社長にとって、一番気がかりな存在なのです。

■「息子の敏夫は赤ん坊のころから俺が面倒みてきた」が口ぐせで、「敏夫」と渡部を呼び捨てにするのが直りません。
それどころか、「敏夫に社長はつとまらない。会社を潰すに決まっている。俺もそろそろ転職情報誌のお世話かな」などと工場内で言いふらしているようなのです。

■複数の社員からそれを聞いた渡部。
勇気を振り絞って太田に告げました。「部長、ちょっと二人で話をしませんか。近々、夕食の時間を確保してほしい」と伝えました。それが来週の月曜日なのです。

どんな話をしようか・・・。渡部はまた悩みはじめました。とにかくよく悩みます。

■その夜、敏夫社長が何気なく見ていたDVDに松下幸之助翁が登場し、こんなことを語り始めました。

・・・
私は従業員が40人位になったとき、悪い人が社内に混じるようになって、悩むようになった。ずっと悩んだが、ある時、これは悩んじゃあかんと思うにいたった。
天皇陛下の徳をもってしても日本から悪人はなくならない。悪人を隔離することはしても国から放り出すことはしない。天皇でもそうならば、自分が悪人を放り出すことなんて出来っこない。会社は良い人ばかりでやろうなんて思っちゃイカン。それ以来、人を使うということに私は非常に大胆になった。
・・・

■「国ですら悪い人を追放しないのに、どうして自分の会社から悪い人を追放などできるものか」という松下翁のメッセージに、渡部は、目から鱗が落ちる気分でした。経営の神様が、今の自分に語ってくれているように思えました。
「このDVDは父が見せてくれたのだ・・・」

■ついに月曜日が来ました。
渡部は太田と格闘したり、関係が確執化させるのをやめようと思いました。
本音で太田にぶつかり、これからの彼の協力をお願いしようという素直な気持ちでいたました。そしてこう告げたのです。

「太田さん、小さいころからお世話になってきました。おかげで自分もオヤジの意志をついで社長を任されるときがきました。30年なんてあっという間です。太田さんから見たらいつまでも自分はガキでしょうが、社長らしくなったとあなたから言われるようがんばるので、これからも、いろいろ、応援をよろしくお願いします!」

■新社長に頭を下げられ、酒を勧められた太田はビックリしました。
ひょっとして自分の放言が新社長の耳に入り、クビになるかも知れないと内心おそれていた太田ですが、彼も男です。その後、意気に感じてくれて、新社長を最も支える活躍をしてくれているといいます。天国の父もそんな二人の関係をほほえみながら見てくれていることでしょう。

■人を使うということに悩まない社長はいません。ですが悩んでしまってはいけません。
人使いは大胆にいきたいものです。案ずるよりぶつかる、それが対人関係の基本です。
しかも、上(立場が上の者)から下に降りていくのが鉄則なのです。

2011年01月21日(金)更新

経営の困難

●「おかげさまで幸せです」が口ぐせの社長がいます。社員のおかげ、家族のおかげ、お客様のおかげ、と「おかげ」ばかりを連発するのです。そういう言葉を発するときは、物腰も自然に謙虚になるものです。
その反対に「あいつのせい」「こいつのせい」と「せい」ばかりを連発する社長もいます。
その表情はいつも怒っている人特有の眉間をしています。

●これまでにたくさんの社長とお会いしてきましたが、「うちの会社には、何ひとつ問題がありません」と胸をはって答えられる社長にはお会いしたことがありません。きっとこれからも会うことはできないと思っています。もしそんなことを言う人がいるとしたら、よほど理想や目標が低い人なのでしょう。

●では、「問題はたくさんあるが、困難には直面していない」という経営者はどの程度いるのでしょう?
それにはデータがあるのですが、正解は、おおむね1割です。9割の経営者は困難を抱えながら経営を行っているという調査結果が出ているのです。

●中小企業金融公庫が2004年に「経営環境実態調査」として発表したもの。少々古いデータではありますが、何らかの参考になるでしょう。

問1.あなたは今、経営上の困難に直面していますか?
    はい、いいえ
問2.はいの場合、経営に最も影響の大きい問題は何ですか?
    売上が伸びない、資金繰難、人材不足、後継者難、技術力不足、その他

●当然、従業員規模によって回答内容に微妙な違いがあります。「困難に直面していますか?」に対して『いいえ』と回答した企業の割合をみてみますと、従業員数20名未満の企業は10.3%、従業員数301名以上の企業は13.6%となっています。企業規模が大きいほど、その割合も高くなっていますが、おおむね10%強が「困難はない」と認識しています。

●逆から見ると90%近くの会社が「困難がある」と答えているのですが、その内訳は、
一位:売上が伸びない、減少している(40%~47%)
二位:人材不足(21%~32%)

●ちなみに三位の「資金繰難」については

企業規模が小さいほど大きな問題になっています。従業員20人未満の会社の15.7%がこの問題を抱えており、301名以上の企業になるとこれは、3.4%の会社に過ぎません。

●整理してみましょう。

1.困難を抱えている会社はざっと9割(残り1割は困難を抱えていると思っていない)
2.企業規模を問わず「売上が伸びない」が最大の困難
3.企業規模を問わず「人材不足」が二番目の困難
4.企業規模が大きくなるほど、「人材不足」と回答する企業の割合が増える
5.企業規模が小さくなるほど、「資金繰難」と回答する企業の割合が増える

●困難に直面しているのはあなただけではありません。
それを抱えながら前進するのが社長業。逃げずに立ち向かい、困難を乗り越えて強くなっていきましょう。

2011年01月14日(金)更新

社長と社風

●年明け早々から、寒さが一段と厳しくなっているようです。

年初に、群馬県に出向きました。当初は温泉目的だったのですが高崎市の経営者団体から講演依頼が入ったため、仕事も兼ねることになりました。
高崎に到着し市内散策に出たところ、あまりの強風にくしゃみを連発してしまいました。マツモトキヨシで薬を買ってから思い出しました。ここは上州「からっ風」の本場だったのです。

●上毛三山から吹き下ろす風は想像以上だったのですが、「風」といえば、「風」にまつわる単語が日本にはたくさんあります。

風味、風貌、風格、風習、風俗、風評、風説、校風、家風、社風・・・という具合。
「風」という文字を明鏡国語事典で調べてみると「様子、様式、やり方、しきたり、流儀」というような意味でした。

●社長の場合、一番気になる「風」といえば、やはり「社風」でしょう。

好ましい社風を作っていきたいものですが、大会社と中小企業、はたして社風が強いのはどちらだと思いますか?

少し古い資料ですが、2005年の『中小企業白書』で興味深いデータがあります。従業員規模別に企業風土の形成にどれだけ社長が強い影響を与えたかを調べたものです。

回答は次の三つでした。

A・・代表者の人柄、考え方が影響した社風が表れている
B・・代表者の人柄、考え方とは関係ない社風が表れている
C・・社風のようなものはない

として、調査結果は次のようなものでした。

  従業員数     A    B    C    合計
  20名未満    69.8%    9.2%  21.0%  100.0%
  21名~50名   76.5%  11.7%  11.7%  100.0%
  51名~100名  77.5%  11.2%  11.3%  100.0%
  101名~300名  78.1%  13.1%   8.9%  100.0%
  301名以上~  81.3%  13.4%   5.3%  100.0%

●規模が小さい会社ほど社長の個性が強く表れるように思っていたのですが、実態は逆でした。企業規模が大きいほど代表者の人柄がストレートに社風に表れているのです。視点を変えれば、代表者の個性が強いからこそ大きな会社になったと言えなくもないでしょう。

●社長は「からっ風」ほど強い風を吹かさなくても良いのでしょうが、規模の小さい会社はもっともっと個性を前面に出していきましょう。ご自分の思いを「理念」や「ビジョン」としてカタチにして発表することが肝心だと思います。そのことに遠慮はいりません。

2011年01月07日(金)更新

模倣と独創

●芸事などで、新弟子が基礎を学び、成長し、名人になっていくプロセスを、「守 → 破 → 離」の三段階で語ることがあります。
特に「守」の段階は、建物の基礎にあたる部分として一番重要でしょう。
徹底的に基礎を学び、反復訓練する段階です。ある意味、師匠の物まねに徹する時期でもあります。

●そこで武沢仮説・・「独創は師匠(お手本)の物まねから始まる」

物まねがうまい人とは、それだけ観察力が高い証拠であり、上手にお手本の物まねができる器用さがある人です。
外国語の習得もそれと同じです。小さい子供のほうが耳で聞いたとおりに話しますからネイティブに近い発音ができます。しかし大人は単語のつづりや意味の理解から勉強しますから、日本語脳をつかっての発音になるので、ネイティブには通じにくいものになるのです。

●物まね上手になりましょう。
役者や作家だって一流どころは皆、物まね上手が多いようです。かつて、ダスティン・ホフマンがアカデミーの受賞スピーチでこう語りました。

「ハンフリー・ボガードにあこがれ、ボガードを真似し、ボガードを演じ続けるうちに今日私はダスティン・ホフマンになりました」

●シェークスピアだってそうです。
『オセロー』も『ヴェニスの商人』も『ハムレット』も、その元になる民話や物語を上手にアレンジし、世界に影響を与える作品に仕上げました。
あの『リア王』も元の話は、「レア王とその三人娘、ゴネリル、レーガン、コーデラの実録年代記」です。また、その『リア王』を下敷きして作られた黒沢映画が『乱』だといいます。

●古典から生まれた文学作品も少なくありません。
井原西鶴の「好色一代男」は『源氏物語』のパロディだといいます。芥川龍之介の「鼻」や「芋粥」も『今昔物語』などが下地になっています。

●「発明する方法は一つしかない。それは模倣することだ」とアランが語るように、私たちは何かを模倣することに臆病であってはならないのです。

●模倣したいような会社、
模倣したいような経営者、
模倣したいような売り方、
模倣したいような・・・

模倣すべきものを見つけてくる能力は立派な才能であり、実際それを模倣し、元のもの以上に仕上げることはすでに独創なのです。

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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