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2012年01月27日(金)更新

攻略ノート

●昭和30年代後半、大手スーパーの経営者や人事担当者は、狙った学校の正門前で下校時にビラを配ったそうです。
「ちょっと君、パフェをおごるから話を聞いてくれないか」
学生を誘って喫茶店に入り、自社のビジョンを語って求人活動をしたのです。しかも交通費は全額負担して会社見学などをさせ、熱心に学生を口説き落としていったといいますから、涙ぐましい努力です。「大学卒業生が行く業界ではない」と見られていた業界ですから、そこまでする必要があったのです。
 
●「うちのような会社にはヤンキーとニートと引きこもりとオタクのような奴しか入社してこない」と自虐的に嘆く社長がいます。たとえば、どこにでもあるような町工場で典型的な3K産業(キツイ、キタナイ、キケン)の場合、普通の求人活動だけではよい人材が入ってこないのは当然でしょう。
どのようにしたら、優秀な学生が入社してくれるか?という設問を掲げ、真剣に知恵を絞りたいものです。
 
●学生の側でも、ものすごい努力をしているケースがたくさんあります。私が実際に出会った Y 君のような努力をすれば、就職難なんて全然こわくないでしょう。
 
Y 君は三年生になってすぐに自分の進路を決めました。製菓会社の「A」、家庭用品会社の「B」、食品会社の「C」の三社を受験すると決めたのです。それ以外の会社には行くつもりはなかったし、実際この三社しか受験しませんでした。
「この三社のいずれかで営業をやる」と心に決め、それぞれの企業ごとに一冊の「企業攻略ノート」を作りました。
 
●その「企業攻略ノート」には、企業情報、株価、マスコミ記事、OB訪問メモ、などその企業に関する情報すべてを書き込み、貼り付けていきました。その企業に対する自分の思いもそのノートに書きつづったのです。
 
そうした活動を一年以上にわたって続けた結果、社員よりもその会社に詳しくなったそうです。
 
●こうしたノートを持参し企業訪問にのぞむ Y 君 をみて、驚かない人事担当者はいませんでした。彼はこの三社すべてから内定が出ました。もちろん、順番は決まっていて、迷うことなく「A」を選んだのです。
 
●Y 君はどこからみてもエリートという感じではありません。外見はまったく普通の学生です。しかし熱意と努力は誰にも負けないものをもっていたのです。そんな彼を見て、「うちの社員も見習ってほしい」と思う経営者は多いはず。しかし、本当に見習うべきなのは経営者の方だと私は思います。「優秀な人材がこない」と嘆いているばかりでなく、彼の逆をやればよいのです。
 
●「人材攻略ノート」を作り、望む人材のプロフィールを明らかにしましょう。
「優秀な人材」とはどういう人を言うのか定義するのです。そうした人材を採用するためには、どのような会社になるべきか、また、今すぐ行動できることは何なのかを決め、実際に行動しましょう。
 
●本当に人材がほしいなら、校門の前で変な目で見られながらも狙った学生をカフェに誘うでしょう。そうした気構えがあれば、今すぐできることはかなりあるはずです。大切なのは心の底から人材が欲しいと思い、行動を開始することです。事実、人材が会社を変えるのですから。
 
 
 

2012年01月20日(金)更新

ある地方都市にて

子供のころ、戦国の英雄ものがたり『真田十勇士』を読んで興奮したことを覚えています。真田幸村につかえる十人の勇士のものがたり。

猿飛佐助、服部半蔵(皇居、半蔵門の由来となった)、霧隠才蔵、三好晴海入道、祢津甚八など、個性派揃いのキャラクターはいずれもが子供たちのスーパースターでした。

 

真田幸隆、昌幸、信之、そして幸村が実際に活躍したのは、信玄、謙信、信長、秀吉、家康などが覇権を争った戦国時代のことです。地方大名として誰に味方するか、誰に弓引くかは、そのままお家の存亡にかかわる意志決定でした。そうした中、誰が天下を取ろうが関係なく見事に泳ぎ切り、家名を守り抜いた真田一族の才覚は「したたか」そのものといえましょう。

 

戦国の真田家と同じようなしたたかさで、現代の「食品スーパー戦国時代」を生き抜く地方会社があります。

 

幸い、その会社の社長とも親しくさせていただいていますが、許可を得ていないので実名は伏せてご紹介しましょう。この食品スーパーの本社は人口数万人の地方都市。こんな小さな街にも大手スーパーの乱入が始まって15年になります。しかし、この『F』(仮名)は、「したたか」に戦い勝ち目がないと見た相手は次々に徹退していくのです。

 

「体力(資本)勝負に持ち込めば大手の全国チェーンに必ず負ける。であれば、知恵と知識と情報を武器にして、お客様にどちらが近いかという接近戦に持ちこもう」と考え、様々な施策を打ち出してきました。

 

・戦略会計の導入

・MG(マネジメントゲームの社内開催)

・計数知識に関する全社員対象の社内テスト(定期開催)

・FSPの導入

 FSPとは

  http://www.jmrlsi.co.jp/menu/yougo/my08/my0811.html 

・MY法による計画経営の導入

 MY法とは http://www.myhou.co.jp/ 

 

矢継ぎ早の経営改革。

 

経営陣も社員も猛烈に働き、猛烈に勉強したそうです。昌幸と幸村の真田一族のように、スーパー『F』でも社長を支えようと二人の息子が経営に馳せ参じ、中心的役割を果たしました。

 

経営改革の途上、こんなエピソードがあったそうです。

 

ある中堅社員は仕事ぶりはまじめなのですが、計数にあまりに弱い。毎回の数字テストの点数がとても低いのです。彼を育てようと、社長自身が深夜にまで及ぶ個人補講を行ったのですが、その甲斐なく、泣く泣く彼を更迭人事しました。そのショックから彼は退職してしまったというのです。社長もその幹部も互いに大いに悲しんだことでしょう。

「こんな方針で良いのだろうか」と社長は自らの信念が揺らいだこともあるそうです。しかし、そこに活路を求めた限りは、決めたことは断固やり抜きました。

 

社員全員が個人商店のオーナー並に経営とビジネスに精通し、数字と情報をマネジメントできるようになりました。間もなく50回目の決算をむかえる『F』は、創業二年目から一度も赤字を出していないそうです。

 

そうした自信がなせるワザでしょうか、10年近く前には社運を賭ける意志決定をしました。

それは、新しい店舗をオープンするのに約5億円かかるなか、それを見送って、ほぼ同金額をコンピュータ投資にふりむけたのです。

そしてどこにもマネできないFSPシステムを構築し、チラシ投入をゼロにし、それ以上の成果をあげる作戦を始めたのです。

 

FSPの目玉は独自のポイントカードです。徹底した地域密着と顧客指向のプログラムによって、社員はお客様の顔と名前を覚える必要が生じました。それをやり抜いた結果、びっくりするほどの結果が出始めたのです。

 

ところで、あなたは、一人の売り場担当者がクリスマスケーキを年末に何個売るか想像がつくでしょうか?

 

彼女の一声で予約申込書にサインした人の数は、なんと「400人!」

 

クリスマスケーキは必ずどこかで買うもの。だったら、あの人から買おうということになるのです。

 

「鈴木さん、本タラバ(蟹)の良いのが今入りましたが今日のご夕食にいかがですか」などと電話を入れるのです。当然、その場で予約が入って売れていきます。

この商品だったらあの人に・・・、そんな連想ができる八百屋感覚のスーパーなのです。コンピュータによって、ベテラン八百屋店主の才覚を全社員が持てるようにしたのですから大型スーパーだって叶いません。

 

「かつてほど利益が出にくくなった」とはいうものの、本当の企業力によって生み出している今の利益は明日につながります。

 

がんばれ地方企業! がんばれ小企業!

 

ボードメンバープロフィール

board_member

武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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