大きくする 標準 小さくする

2012年08月31日(金)更新

S社長の迷い

●「武沢さん、人の為(ため)と書いて偽り(いつわり)と読むように、会社経営もお客や社員のためにやっているようでは偽りのそしりを免れない。もっと正直に、"自分が儲けるためにやっている"と言い切ってしまえる勇気が必要だと思う」とS社長。
 
●持論を述べるのは結構なことだが、私が経営理念の重要性について語った講演会のあとでの質問がそれだ。下手をすれば講演会そのものがぶち壊しになりかねないタイミングでの発言だった。
私はつとめて冷静に「なぜそのように思うのですか」と理由を尋ねてみた。すると、S社長はつい先月まで「顧客第一主義」という経営理念を後生大事に守ってきたのだということがわかった。だが、いつまでたっても売上や利益が伸びない。だから迷っていた。
 
●そこで先日、S社長が尊敬している大物社長(財界の著名人)から直接教えを請う機会があったそうだ。最近の業績不振を相談したところ、「S君、まず儲かる会社を作ることが先決だ。それが出来てはじめて理念を論じるべきだ。順序というものがあるのだよ。ひょっとしたら、あなたの会社は理念の存在によって儲からない会社になっている可能性すらある。いったん、理念なんか捨ててしまったらどうだ」と。
 
●S社長が心酔している大物社長が言った「理念なんか捨ててしまえ」説。私が想像するに、それは一般論を語ったものではなく、今のS社長の状況を察しての発言だったと思う。
そこで私は、渋沢栄一翁の「道徳経済合一説」の話を切り出し、儲かる会社作りと道徳的にも立派な会社になることとは何一つ矛盾しないと説明した。
 
●すると、S社長はさらに粘った。
「その大物社長いわく、そもそも『道徳』なるものは時の権力者が大衆を治めるためにデッチあげたものである、という。だから、道徳=すばらしいもの、とも言えないと思う」
 
●道徳の否定まで飛び出し、議論は平行線をたどったが、私はS社長に自分自身の意見を述べてほしかった。
最近聞いたばかりの大物社長の言葉を受け売りし、まだ自分のものとして咀嚼していない段階で公開質問にのぞむなど稚拙な行為である。
それに、根掘り葉掘り聞けばその大物社長といえどもサラリーマン社長ではないか。一代で大企業を作った経営者ならいざしらず、組織を生きぬいて立身出生を遂げた者と、無名の中小企業を率いて会社を大きくしていこうとする者とでは生き方が違う。
もちろん尊敬すべきサラリーマン経営者もたくさんいるが、中小企業や零細企業、中堅企業、ベンチャー企業、自営業などなど、一国一城の主には、崇高な理想と理念がなくて何するものゾ、と申し上げたい。
「義を見て為さざるは、勇なきなり」(人として当然なさねばならなぬ正義と知りながら、自分の利害のみをはかって実行しないのは、真の勇気がないからである)という孔子のことばを忘れてはならないのだ。
 
 

2012年08月10日(金)更新

強そうな組織

●相手のオーラを見た瞬間、「あっ、今日は負ける」と思った。
ある年の高校野球・東海地区秋季大会でのこと。私が応援する岐阜県代表の学校と戦うのは愛知県代表の愛工大名電でした。体の大きさからして愛工大名電に分があるだけでなく、キャッチボールの正確さ、投げる玉のスピード、ノックの打球の早さや守備の軽快さなど、すべてにおいて相手が上回っているのがスタンドから観ていてもはっきり分かりました。
 
●「今日は負けるぞ」と思ったのは私だけではなかったはずです。岐阜県代表の高校生たちも息を飲むようにして愛工大名電の練習をみていました。戦う前から相手の迫力に飲み込まれてしまったのでしょう、結果はコールドゲームで岐阜代表が敗れ、春の選抜出場への道は断たれたのでした。
 
●この時のように、試合が始まる前から勝敗が分かっていることがよくあります。
2005年にイラクのサマーワの復興支援群長を務めた番匠幸一郎・陸将補の言葉が月刊『致知』に紹介されていました。それによれば、「強い軍隊と弱い軍隊は一目で分かります。『弱そうだ』と思われたらそれまでです。そしてそれは服装の着こなし、目つき、武器の手入れ、清掃など些細なところに表れます」とありました。
 
●野球の強さも軍隊の強さも、ひと目みたら分かるもののようです。
番匠群長による日の丸復興支援群が無事にイラクから帰還できたのは、幸運だけによるものではなく、一糸乱れぬ規律がもたらすオーラが備わっていたからでしょう。「こりぁ、かなわん」と相手に思わせることが大切です。
 
●会社の強さも同様です。会社の強さ、すなわち実力とは、その会社の主力製品や財務内容、ホームページなどを分析しなくてもすぐにわかるものです。オフィスを訪問し、応接セットで10分も座っていれば、強い会社か弱い会社か一目瞭然です。それは社員の活気、清掃レベル、会話などから判明するものです。
 
●あなたも積極的に他社を訪問してみましょう。
 
かつて私は株式投資をしている時期がありました。そのころには、投資候補企業の本社を訪問し、IR部や総務部をおじゃましたことが何度かあります。たかが個人投資家のわずかな資金なのですが、個人投資家を大切にしてくれる企業は株価も堅調でした。それと同時に、会社におじゃますることで雰囲気がよく分かり、とても重要な投資判断材料になりました。あなたも企業訪問を積極的に行ってそこで感じるものを大切にしてみましょう。同時にあなたの会社が来訪者からどう思われているのかもこの際、きびしくチェックしてみよう。
 
 

2012年08月03日(金)更新

Myカタログ発表会

●呉竹光学株式会社(仮名)の醍醐社長(仮名)は、20年前から毎年秋の連休を利用して二泊三日の社員合宿を定期開催しているといいます。合宿の初日は経営理念や方針を実践するための行動計画づくりの一日で、ユニークなのは二日目。朝から全員が「Myカタログ」の発表をおこなう。
 
●「Myカタログ」は A4サイズのファイルに綴じることだけが統一されていますが、あとはすべて各自の自由。少なくとも次の項目だけは必ず盛り込むように指導されているそうです。
 
・My ミッション (個人の志)
・My キャリア 私のこんにちまでの歩み、特徴のある経験や実績
・My profession 誰にも負けない私の専門分野の実績およびこれからの開発計画
・My Vision 私の20年後の姿をイメージ画像やイラスト、デザインなどで表現する
 
●秋の社員合宿は、精魂込めて作り上げた「Myカタログ」をお披露目する一世一代のプレゼンの場。一人7分間の発表+3分間の質疑応答で、社員40名全員が発表を終えるまでに7時間以上かかります。しかし、誰一人この7時間が長いと感じることがないほど、各自の「Myカタログ」は充実し、個性的なのです。
 
●それもそのはず、社名にちなんだ「呉竹賞」(最優秀者)を受賞すると、ベネチアングラスの盾に副賞として50万円の賞金がもらえるのだ。しかも昨年、一昨年と該当者なしだったため、今年の受賞者は繰越金と合わせて150万円もの副賞賞金がもらえるのです。
 
●先日、醍醐社長にお目にかかり、社長自身の「Myカタログ」も見せていただいたが、実に楽しげな内容で私も作りたくなりました。社内のデザイナーに "アルバイト" して書いてもらったというマンガが駆使され、全ページフルカラーで美しい仕上がりでした。時間をかけ、手塩にかけた「Myカタログ」は手放せないし、人に見せたくなるものだといいます。
 
●醍醐社長の談話。
 
・・・25年前に今の会社を起こしたころ、産業能率大学出版部から出ていたナポレオン・ヒル著の『成功哲学』を読んで感動しました。その本のなかに転職を有利にする「私のカタログ」という記載があり、それを社内に応用しようと考えたのです。最初のうちは、社員数も少なくて盛り上がりも乏しかったのですが、年々社員の実力と比例するように「Myカタログ」のレベルも向上し、賞金額もアップしてきて、今では社内最大のお祭りになっています。お客さんの会社から合宿を見学したいという希望も多くなっているのですが、これだけは私と社員とのサシの勝負としたいのでご勘弁願っているのです。・・・と誇らしげ。
 
●醍醐社長のひそかな喜びは、独立するために退職した社員や、転職していった社員が、「Myカタログ」発表会にOBとしてゲスト参加してくれること。そうしたOB社員の中には、今でも呉竹光学とビジネスしている会社の経営者も少なくないそうです。
 
●いずれにしても、レベルの高い「Myカタログ」を全員が作れるようになるには、毎年こうした発表会があり、きちんと評価される場があるという点がカギだと思います。
 
 

ボードメンバープロフィール

board_member

武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

バックナンバー

<<  2012年8月  >>
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31