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2006年06月19日(月)更新

中国の経営者(その2)

<前号に続き、中国山東省の青島(チンタオ)で中国人経営者数十人を集めて講演会を行ったときの話を続けます。>

●私は講演の最後に、「質問や意見はありませんか?」と聴衆に水を向けました。すると、半分くらいの人が挙手しました。7年前の苦い思い出(前回のブログ参照)があるだけに、少々ドキドキしながら彼らの質問を待ちます。

●最初の質問者は30代半ばの男性経営者で、済南市にある中堅ホテルのオーナーでした。

「私の会社のスタッフは、あまり長期間定着してくれません。戦力になってきたなぁと
思うころには転職していってしまいます。引き抜かれることもあります。日本には、ソニーや松下のように会社と社員が家族的なつながりをもって、長期間働いてくれるような関係を作っている会社が多いと聞いています。そのために経営者がすべきことは何でしょうか」

●いきなりの難問でした。本題から離れるといけないので、ここでは質疑応答のくわしいやりとりをご紹介しませんが、この質問に端を発して、次から次へレベルの高い質問が飛んできます

・「良い経営理念は掲げたいが、それはどのようにしたら作れるのか」
・「経営方針を社内に徹底させるために、どのようなことをすればよいか」
・「採用面接で、優秀な人材とそうでない人材を見抜くコツはあるか」
・「社長(総経理)として、一番大切な役割は何か」

●私と聴衆の間に通訳が入るわけですから、一つの質問を終えるのに最低10分はかかりました。ですから質疑応答だけで1時間以上もかかったのですが、こうした真剣なやりとりを通して私は、「中国はこわい国になる」と思ったのです。
●ちょっと前までは「会社経営=金儲け」という単純な発想しかもっていなかった中国人経営者たち。ところが、彼らの多くは今、本当の会社経営者として成長してきました。なぜ彼ら中国人経営者は急速に経営力をつけてきたかを私なりに考えてみました。二つ原因があるように思います。一つは「失敗体験」、もう一つは彼らの「学習環境」です。

●かつて鄧小平が「金儲けは悪いことではない」と語り、一攫千金を夢みて都市部に出てきて事業を始める若者が急増しました。しかしその多くは、「会社経営=商売=金儲け」、「金持ち=経営上手」という短絡的な損得勘定だけを基準に会社経営をしていたのでしょう。そこには長期的な視点や善悪、信用、信頼という発想が欠けていたのです。

●しかしあれから時間がたちました。彼らも進化しているのです。猛スピードで学習し
ているのです。自分たちの考え方ややり方の限界を感じたのでしょう。「会社経営は金儲けだけではないぞ」と気づき始め、儒教の精神を経営に活かす経営者のことを「儒商」とよび、尊敬するようになってきたのです。私たちにとってこの変化は見逃せません。

●つまりは、「ダマされるな」「ひどい目にあう」という、私たちの中になる中国観を修正すべきなのです。

●彼らの学習環境についてですが、読書人口や読書数はまだまだ日本より見劣りがします。しかし、中国人が自由に入手できる情報の質と量は急増しました。一定規模以上の街になると市内の中心地には書城(しょじょう)と呼ばれるデパートのように大きな書店があります。日本の大型店と比べても規模的にまったくひけをとりません。しかも、そこには多数の客が押し寄せ、新しい知識や情報を入手しています。

●共産党支配の社会主義国ながら、中国でも比較的オープンに世界の最新知識や情報が手に入るようになっているのです。ドラッカーの本もジャック・ウエルチの本も、そして、大前研一の本も読めるようになっているのです。

●失敗体験に懲り、学習意欲をもった中国の若手経営者が真に効果的な学習を始めたとき、中国は私たちにとって信頼できる強力なパートナーとなるのか、それとも恐るべき難敵となるのか、それを決めるのは、ほかならぬ「あなた」なのです。