大きくする 標準 小さくする

2007年01月19日(金)更新

サービスを売る

●某日、ある地方家電販売店の社長とお会いしました。この会社は、50坪程度の売り場面積の本店と、30坪程度の支店が3店舗あるそうです。大手による寡占化が進み、利益率の悪化に苦しむ同業他社が多い中で、この会社は順調に業績を伸ばし、一度も減収減益になったことがないのです。

●"当店よりも安く売る店があればそのチラシをご持参下さい。そうすれば、それよりも安く売ります"という商法が流行るなか、この店ではそうした流れに追随しない。きっちりと粗利益を確保しているというのです。

●秘訣を聞いてみると意外な答えがかえってきました。
「私は家電製品が好きだから今の商売を始めたんじゃないんですわ。商品にこだわっていたら販売店はやっていけない。我々がこだわるのは、お客さんなんです。」

●この会社では、お店から半径3キロ圏内の全世帯をデータベース化しているのです。
住所・氏名・電話から始まって家族構成や家庭にある家電製品の品名や品番・購入日・購入店など入手した情報がすべてデータベース化されているというのです。

●もちろん空欄も多いそうですが、当面の目標は50%を把握することだといいます。「個人情報保護法」でガードが固くなった個人宅ですが、このような情報を入手するのは比較的簡単だともいいます。その秘訣は、「無料出張修理」にあります。

●「電気製品無料修理(部品交換実費)。他店製品も設置無料」
まず、新聞にチラシに入れます。そして、「テレビが映らなくなった」とか「大店量販店でDVDレコーダーを買ってきたけれど据え付け方法がわからない」などの電話がかかってきた個人宅へ24時間以内に訪問します。可能ならばその場で直しますし、部品交換が必要ならば取り寄せて後日訪問します。

●こうして誠心誠意作業をする合間を利用して、お客様に「家電アンケート」の協力をお願いすると、ほとんど抵抗なく情報を提供してくれるというのです。

●このお店ではこうした地道な努力を始めて、はや20年。今ではパソコンやテレビなどの購入相談から操作指導なども無料サービスに加えており、サービス拡充のために若いスタッフも増員しているそうです。

●「一人のお客さんが困っていることは、百人のお客さんの悩みでもあるはずです。それを解決しますよってアピールしたら、みんなうちへ電話してきてくれます。そこからお客さんとの長~いお付き合いが始まるんです。」
と語る社長さんに、気になる収益の仕組みを質問したところ、次のような答えが返ってきました。

●「感謝してくれたお客さんでもパソコンや大型テレビのような高額品は量販店で買われます。でも、子供さんが独り暮らしを始めることになったとか、ご主人が単身赴任されることになったとかいえば、すべてうちで揃えてくれる場合が多いですね。大手量販店と同じ土俵に立たない。それは我々逃げているのではなく、彼ら(大手)こそが我々から逃げているというべきでしょう」

●こうした中小零細店の生き残り戦略には、私たちに多くのヒントを与えてくれます。決してスモールビジネスに限定された収益モデルなどではなく、地域に根ざした高収益かつ高顧客満足戦略だからです。

●今回は、“サービスを売り物にする”と場合の典型的な事例をご紹介したわけですが、あらゆる業界にも似たようなニーズが存在するのではないでしょうか。「ニッチ市場=スモールビジネス」ではありません。ニッチでもトップに立てば、リターンは大きいのですから。