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2007年12月10日(月)更新

経営理念は「この指とまれ」方式で

経営理念やポリシーに、正解・不正解はありません。どんな理念や社是・社訓であっても、それはあなたが経営する会社の価値観の問題なので、第三者がその是非を語ることはできないのです。経営理念は「この指とまれ」で良いのです。

●むしろ重要なのは、その内容ではなく「こだわり」です。理念へのこだわりが社員の行動に反映されるような強烈な思想となり、顧客や社会に対するメッセージ性をもったとき、大きな力が発揮されるのです

●ある地方工務店の話をしましょう。経営理念の勉強をしてきたと思われる社長が、突然次のような発表をしました。

●「今後、我が社はすべての価値判断の基準を”顧客のため”とする。顧客のために働いて、仮に我が社が潰れるとしたら、それは資本主義制度それ自体の欠陥である。逆に言えば、我が社はこの理念にこだわるかぎり潰れることはない」

●しかし、この工務店は数年後に倒産してしまいます。ピークには300億円程度あった売上が、倒産直前には120億円になっていました。これだけ聞くと、経営理念を作ったことが倒産の原因に思えるかも知れません。しかし、実態は違います。社長が経営理念を作成して掲げたのはいいのですが、それに対するこだわりが浅かったのです。
●つまり、せっかく作った理念が管理職以下に浸透せず、現場でクレームが起きたときも、営業部長や所長は部下に対し、利益を優先するような指示をしました。その結果、経営理念と現場リーダーの指示に矛盾が生じ、多くの優秀な若手社員は立ち往生してしまったのです。彼らが会社を見限ったことが、倒産を早める原因となりました。

●社長は内心、倒産を回避したいがために、理念に救いを求めたのでしょう。しかし、それだけではうまくいきません。

●「我々は、常に一番でなければならない。二番以下のすべては敗者である」――過日お会いした小売業の経営理念には、こんな一節がありました。

●まるで「All or nothing」という、ドイツの自動車メーカーのポリシーのようです。事実、このお店が出店している8店舗はすべて地域一番店で、二番店以下だった4店舗を閉鎖したこともあるそうです。名は体を表すと言いますが、理念に忠実であろうとすると、営業政策にもそれが反映されるのです。

●また、別のガソリンスタンドチェーンでは、「お客様の喜びが私たちの喜びです。私たちの仕事はお客様の笑顔によって評価されます」という理念を掲げています。この会社では、顧客の喜びや笑顔というものを示す経営数字として、リピート率(再来店率)を定めています。個別の店舗ごとにリピート率の目標値を設定し、その達成率をチェックしているようです。

●これらの例からわかるように、経営理念そのものの優劣はありません。経営理念への忠実さとこだわりにこそ、優劣があるのです。冒頭に書いたように、あくまで経営理念の内容は「この指とまれ」で良いのです。その理念が社長そのものであり、あなたの会社そのものです。心してあなたの経営理念を作りましょう。