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2008年09月12日(金)更新

誤った能力主義

●それぞれが自己紹介するのではなく、相手のことについてお互いが質問して理解しあうことで、かえってメンバー同士の理解が進むということがあります。これを他己紹介というのですが、初対面ばかりの会合でもこれをやると意外に盛り上がります。

●また、私たちは自分だけのためにがんばるよりも、相手や他人、あるいはチームのためにがんばる、というモチベーションのほうがより強く働くようです。当然、企業の人事評価制度においても、そうした心理をふまえることが望ましいのですが、個人単位の成果主義にして失敗する会社が、まだまだあとを絶ちません。最近もこんなことがありました。

●ある社長から、「武沢さん、当社も去年から能力主義型賃金にしたのだけど、どうもうまくいっていない。どこがいけないのだろうか?」と相談されました。この会社は子供服専門のお店を4店舗ほど経営しており、正社員やアルバイトなど、あわせて40名近いスタッフが働いています。

●実は、この会社は最近になって業績が急激に低迷し、二年前に初めて赤字転落して以来、毎月赤字が続いているそうです。でも、その割に社員に危機感が見られず、目標意識も希薄だということでした。
●「創業以来、ずっと仲良し集団でやってきた弊害がここにきて出始めている」と社長は思ったそうです。そこで昨年、「能力主義型賃金制度」を思い切って導入し、全社一丸でこのピンチを乗り切ろうとしました。

●この制度を導入するにあたり、社長は書店や図書館に足繁く通い、何冊もの賃金設計の本を読み込んで、独自の評価・賃金制度を設計したというのですから大したものです。『キャスティング・プラン』というしゃれた名前をもつこの制度は、社員一人ひとりの販売額をポイントに換算して合計し、1点に付きいくらというかたちで給与に加算するというものでした。

●つまり、基本給を大幅に下げ、歩合給の要素を相対的に大きくしたのです。また、お互いの販売額を競わせるため、店長室には個人ごとの目標達成度合いを表す棒グラフを貼りだしました。

●ですが、この評価制度を導入して一年近く経っても業績は全然伸びず、逆に社員からはブーイングが浴びせられています。とくに、若い女性スタッフが多いこの会社では、「こんな個人競争はいやです」と言われているそうです。

●デミング賞でおなじみのデミング博士は、「一年に1~2回、伝統的に行なわれる個人業績評価は、かえってチームワークを損なう」と言っています。進学校の受験競争のような、「あなたは○○人中△△番目の結果です」と言わんばかりの評価制度は有害であり、組織の雰囲気を破壊しかねないというのです。

●業績連動型の賃金にするのは結構なことでしょう。ただし、それはもっと緩やかなかたちで導入すべきです。たとえば、店舗全体の業績に対し、チームメンバーは全員連帯責任を負う。しかし、「信賞必罰」はすべて賃金に反映させるのではなく、社員旅行や食事会の予算にはねかえってくるなど、チーム全体が盛り上がるような方法を模索した方がいいのではないでしょうか。