大きくする 標準 小さくする

2010年12月10日(金)更新

念ずることの磁力

●壇上の講師が聴衆にむかって質問しました。

「このじゃがいもにストローが貫通すると思う人、手をあげて下さい」

「そんなのムリだ」と思った私は手をあげませんでした。周囲をみてみたら、なんと半数以上の人が手をあげています。「そんなバカな」と私。

指名された数人がステージにあがり、講師の号令にあわせて「突き通す」と言いながらストローを振り下ろすと、全員が貫通しました。

●私は目を疑いました。
「では、もう一グループあがってもらいましょう」と私も指名され、ステージにあがることになりました。さっきは全員貫通したわけですから、私もできると思いました。「突き通す」と言いながら迷わず振り下ろすと、見事貫通しました。
しかし、隣の人は結局数回やってもできず、「ほら、やっぱりできない」と言いながら席に戻っていきました。

●それは今も忘れられない神戸でのできごとでした。
席にもどって、改めて「念ずる」ということがどういうことなのかと考えさせられました。そのときの講師が「加賀屋感動ストアーマネージメント」の加賀屋克美さんでした。彼は「念ずる人」でした。

●加賀屋さんが東京ディズニーランドに初めて行ったのは小学校6年生のときだったそうです。それは、ディズニーランド開園の年でした。
子供ながらに「僕を子供扱いせず、ひとりのお客さんとして接してくれることに感動した」という加賀屋さんは、以来、ディズニーのことなら何でも知りたい、見たい、欲しいというディズニー・フリークの人生が始まりました。

●「ディズニーランドで働きたい」と思うようになるまでに時間はかからなかったそうです。
学生になったとき、近くでアルバイトさがしするときも、将来に備えたバイトを選びました。それはマクドナルドでした。当時、女性の深夜労働が禁止されていたので、午後10時以降になると加賀屋さんはカウンターで接客できました。「0円スマイル」を毎日実践したそうです。

●「念ずれば花ひらく」

やがて加賀屋さんはディズニーランドを運営するオリエンタルランドに入社しました。悲願達成でしたが、それで満足しませんでした。
今度は、アメリカ・フロリダにあるウォルト・ディズニーワールドで働きたいと思いました。まず英語を覚えよう! と、自宅にあった中学校の教科書を引っ張り出してきて英語の特訓をはじめました。そして、ついに1年後、渡米勤務が実現したのです(今では、加賀屋さんはイギリス人も賞賛する美しい英語を話すまでになりました。私はその場面を目撃したことがあります)。

●日本勤務にもどったとき、「スプラッシュ・マウンテン」が日本にも出来ると聞きました。加賀屋さんはその乗務員になろうと決意します。どんなアトラクションになるのか誰よりも早く知りたいと思った加賀屋さんは、毎日工事現場に通って、作業員たちと仲良くなりました。作業の様子を聞きながら情報収集にはげみ、自らは「ビッグサンダーマウンテン」に乗って一瞬だけみえる「スプラッシュ」の工事現場をカメラにおさめました。それを紙で模型にして、自宅に完成予想の模型を作り上げてしまいました。加賀屋さんの自宅でそれをみた友人は、絶句するとともに、念じている男の執念を感じたといいます。

●「念ずれば花ひらく」

加賀屋さんの感動追求はまだ始まったばかりです。今はディズニーを退職し、「加賀屋感動ストアマネージメント」という会社を設立しました。こんどは自分自身がテーマパークになるのです。自らの人生体験を通して、感動作りを求める企業や店舗を支援するサービスを始めたのです。感動の輪を全国、全世界に広げていきたいという加賀屋さんの思いが形になったのです。


●「念ずれば花ひらく」

幕末の思想家・吉田松陰は、「思想を維持する精神は狂気でなければならない」と語っています。周囲の人からみれば、狂気変人のようにみえるぐらいにひとつのことに打ち込むことを恐れてはなりません。

思いの力があれば、じゃがいもだって貫通します。同じじゃがいもでも、「できない」と思っている人にとっては、できないのです。できるかできないかは、自分で前もって決めていることが多いのです。最初は単なる思いつきに過ぎなかった夢やアイデアも、徹底的に念ずることによってそれを可能にするエネルギーが生まれてくるようです。