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2011年08月05日(金)更新

インディの銃

●ひとたびメガフォンを持てば子供のように無邪気に映画撮影に興じた黒澤明監督も撮影現場に行くまでは布団から抜け出るのが苦手だったようです。
 
「やる気が起こらない、サボりたい、なんて誰でも思うことさ」という言葉を残しているのです。しかもこんな言葉まで。
 
「ロケ先の宿屋で朝起きるとカーテンから首を出して "雨降ってたらいいな" なんてしょっちゅう思うよ。でも否が応でも現場に行けば、夢中になっちゃう、そんなもんだよ」
 
●この夏は節電の影響でどこもエアコンの設定温度が高くなっていますが、あなたは夏バテしていませんか。もし体調が悪ければ、無理してでもがんばろうとせず、思い切って臨時休養するか、もしくは体調が悪いなりの仕事をしたほうがよいでしょう。
 
●映画スターだって風邪をひきます。高熱で寝込んでしまうときもあるでしょう。そんなとき、ロケ地ではどうしているのでしょうか。
 
『インディ・ジョーンズ/失われたアーク』でハリソン・フォード演じるインディが、カイロの街中で恋人を追う場面があります。この収録の日、実は主演のハリソンはウィルス性胃腸炎にかかっていて、体調は絶不調だったそうです。
 
●監督のスピルバーグは迷いました。
「どうしよう。ハリソンを休ませるべきか? でも撮影を遅らせたくない」
 
その日の収録は、ハイライトシーンの一つとなる場面が撮られる予定でした。台本ではインディがムチを駆使して大刀を持つ敵と激しくバトルすることになっていたのです。
クレイジーな表情で大刀を振り回しながら迫ってくる悪漢。しかし、我らがインディには有名なムチがあります。だれが観ても、大刀対ムチの壮絶なバトルを予想する場面です。
 
●ところが肝心のハリソンの体調が悪いことから、スピルバーグは現場で急きょ台本を変えました。
体調に配慮してバトルをやめさせ、拳銃で相手を撃たせることにした。これがかえって観客の期待をはぐらす名場面として映画の評判を高めることにもなったそうです。
 
●できるものなら、いつも心身ともにベストコンディションで仕事をしたいもの。しかし、そうでない時だってあります。そんな時にはそんな時のやり方をみつけるのがプロなのでしょう。インディがムチではなく、珍しく銃で相手をやっつけたことから「インディの銃」としてこの教訓を胸にしまっておきましょう。