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2012年01月20日(金)更新

ある地方都市にて

子供のころ、戦国の英雄ものがたり『真田十勇士』を読んで興奮したことを覚えています。真田幸村につかえる十人の勇士のものがたり。

猿飛佐助、服部半蔵(皇居、半蔵門の由来となった)、霧隠才蔵、三好晴海入道、祢津甚八など、個性派揃いのキャラクターはいずれもが子供たちのスーパースターでした。

 

真田幸隆、昌幸、信之、そして幸村が実際に活躍したのは、信玄、謙信、信長、秀吉、家康などが覇権を争った戦国時代のことです。地方大名として誰に味方するか、誰に弓引くかは、そのままお家の存亡にかかわる意志決定でした。そうした中、誰が天下を取ろうが関係なく見事に泳ぎ切り、家名を守り抜いた真田一族の才覚は「したたか」そのものといえましょう。

 

戦国の真田家と同じようなしたたかさで、現代の「食品スーパー戦国時代」を生き抜く地方会社があります。

 

幸い、その会社の社長とも親しくさせていただいていますが、許可を得ていないので実名は伏せてご紹介しましょう。この食品スーパーの本社は人口数万人の地方都市。こんな小さな街にも大手スーパーの乱入が始まって15年になります。しかし、この『F』(仮名)は、「したたか」に戦い勝ち目がないと見た相手は次々に徹退していくのです。

 

「体力(資本)勝負に持ち込めば大手の全国チェーンに必ず負ける。であれば、知恵と知識と情報を武器にして、お客様にどちらが近いかという接近戦に持ちこもう」と考え、様々な施策を打ち出してきました。

 

・戦略会計の導入

・MG(マネジメントゲームの社内開催)

・計数知識に関する全社員対象の社内テスト(定期開催)

・FSPの導入

 FSPとは

  http://www.jmrlsi.co.jp/menu/yougo/my08/my0811.html 

・MY法による計画経営の導入

 MY法とは http://www.myhou.co.jp/ 

 

矢継ぎ早の経営改革。

 

経営陣も社員も猛烈に働き、猛烈に勉強したそうです。昌幸と幸村の真田一族のように、スーパー『F』でも社長を支えようと二人の息子が経営に馳せ参じ、中心的役割を果たしました。

 

経営改革の途上、こんなエピソードがあったそうです。

 

ある中堅社員は仕事ぶりはまじめなのですが、計数にあまりに弱い。毎回の数字テストの点数がとても低いのです。彼を育てようと、社長自身が深夜にまで及ぶ個人補講を行ったのですが、その甲斐なく、泣く泣く彼を更迭人事しました。そのショックから彼は退職してしまったというのです。社長もその幹部も互いに大いに悲しんだことでしょう。

「こんな方針で良いのだろうか」と社長は自らの信念が揺らいだこともあるそうです。しかし、そこに活路を求めた限りは、決めたことは断固やり抜きました。

 

社員全員が個人商店のオーナー並に経営とビジネスに精通し、数字と情報をマネジメントできるようになりました。間もなく50回目の決算をむかえる『F』は、創業二年目から一度も赤字を出していないそうです。

 

そうした自信がなせるワザでしょうか、10年近く前には社運を賭ける意志決定をしました。

それは、新しい店舗をオープンするのに約5億円かかるなか、それを見送って、ほぼ同金額をコンピュータ投資にふりむけたのです。

そしてどこにもマネできないFSPシステムを構築し、チラシ投入をゼロにし、それ以上の成果をあげる作戦を始めたのです。

 

FSPの目玉は独自のポイントカードです。徹底した地域密着と顧客指向のプログラムによって、社員はお客様の顔と名前を覚える必要が生じました。それをやり抜いた結果、びっくりするほどの結果が出始めたのです。

 

ところで、あなたは、一人の売り場担当者がクリスマスケーキを年末に何個売るか想像がつくでしょうか?

 

彼女の一声で予約申込書にサインした人の数は、なんと「400人!」

 

クリスマスケーキは必ずどこかで買うもの。だったら、あの人から買おうということになるのです。

 

「鈴木さん、本タラバ(蟹)の良いのが今入りましたが今日のご夕食にいかがですか」などと電話を入れるのです。当然、その場で予約が入って売れていきます。

この商品だったらあの人に・・・、そんな連想ができる八百屋感覚のスーパーなのです。コンピュータによって、ベテラン八百屋店主の才覚を全社員が持てるようにしたのですから大型スーパーだって叶いません。

 

「かつてほど利益が出にくくなった」とはいうものの、本当の企業力によって生み出している今の利益は明日につながります。

 

がんばれ地方企業! がんばれ小企業!