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2013年11月08日(金)更新

私の抵抗勢力

●数年前の「小泉改革」のときに話題になった「抵抗勢力」という言葉にはものすごいインパクトがあった。
若手議員のみならず、中堅もベテランも問わない。とにかく郵政民営化に反対した議員には皆、「抵抗勢力」のレッテルを貼って自民党から放逐した。抵抗勢力の彼らがスケープゴートになって自民党内の結束を高め、国民に向かっても「改革の火を消すな」という姿勢を鮮明にした。

●「抵抗勢力」つまり仮想敵を明確にすることには効果がある。
あなたの今の改革テーマは何だろう。その改革の妨げになるような「抵抗勢力」は何だろう。それを明確にしておくことで、今までとはひと味違う成果を上げることができるはずだ。

●私的な話題で恐縮だが、ある年のこと、『肉体改造から始まる今年のスタートダッシュ!』をスローガンにして徹底的に体を絞り上げようという目標を掲げた。
まずは、ジム(又はヨガ)に通うという習慣づくりと、毎日汗を流す気持ちよさを味わうことを主眼に据えた。「週二回のジムなんて生ぬるい。毎日ジムだ!」というわけだ。
それだけでなく、徹底した小食によって胃袋のサイズを小さくしてしまう計画もたてた。そして実行し始めた。1月3日からジムに通い始め、最初の一週間で10回ジムまたはヨガへ通った。やるならとことんクレイジーにならねば。改革に躊躇やためらいは不要だ。やるならトコトンなのだ。

●だが、二週目あたりから「抵抗勢力」がジャマをし始めた。それは、私の心の中の「抵抗勢力」で、こんなことを私に向かってささやくのだ。
・やり過ぎだろ、いくらなんでも。スポーツマンじゃないんだから、体を痛めてまで運動するなんてナンセンスだ。
・過ぎたるは及ばざるがごとしと言うじゃないか、休むのもトレーニングの一部のはずだ。
・自分の年令を考えろ、いい年して毎朝ジムへ通い出して、仕事をどうする気だ?まずは仕事だろう。

そういえば、左肩が痛いし、膝にも違和感を感じる。これらはいずれもが朝、ジムに行く前の抵抗勢力だ。

●仕事が佳境に入り出した午後になると別の抵抗勢力が表れる。
・おまえは早起きしてジムへ行ったんだから無理すんなよ。今は肉体改造がメインなんだろ、だったら仕事は少しスローダウンしろよ。
・明朝もジムに行くのだろう?だったら仕事はその辺で切り上げて、さっさとウチへ帰ろうよ。家族がみんな君の帰りを待ってるよ。

●とんでもない。肉体改造は良い仕事をするためにやるものだ。仕事の妥協なんてしない。ジムもヨガも仕事もどれひとつ手抜きなどしない。正確に言えば、すべての活動を楽しみ、満喫するために今月の旗印を掲げているのだ。

●体が悲鳴を上げているのならペースダウンも必要だろうが、悲鳴を上げているのは心の抵抗勢力の方だ。
こんなときは、もっとペースアップしてやろう。自分に無理を強いて、まずは心の抵抗勢力(甘え)を駆逐することが必要だと突っ走った。
結局、二ヶ月後、膝の違和感が現実の膝痛になり、プール歩行を中心にした穏やかなメニューにはなったものの、改革初期の抵抗勢力には打ち勝つことができ、半年で18キロ減量に成功することができたのである。

2013年10月25日(金)更新

勝因は逃げなかったこと

●長沢社長(仮名)47才。家業の土木業を継いで7年めになる。本来なら兄が家業を継ぐはずだったが、外国で結婚し、現地で起業してしまった。それは父にとっても弟の長沢にとっても、よもやの出来事だった。さらにその一年後、父が急逝した。

●葬儀のとき、長沢の母が「おまえがお父さんのあとを継いでくれないかい」と長沢に頼みこんだ。大手ガス会社で人事畑をあゆんでいた長沢だったが、自分に白羽の矢が立つことはこの時点ですでに覚悟していたという。

●長沢は引き受けた。だが、父のまねはできないと思っていた。創業者である父は、職人たちを魅了してやまない人間味あふれる親分肌であり、同時にMBAこそ取得していないものの、語学堪能なエリートでもあった。正直、そんな偉大な父のまねをしたくとも出来ない。

●「自分は自分の器以上のことは出来ない。やれることをやるだけだ」長沢は真摯に働き、努力し、幹部や社員の意見を聞いてまわった。だが、最初の1~2年は勉強だけに明け暮れたようだ。
社長ってなんだ?経営ってなんだ?社長業の孤独も味わった。長沢が「粗利益を改善して20%を目指しましょう」とか、「受注価格も決まらずに仕事を受けるのはやめましょう」などと方針をだしても、誰一人それを本気に実行する者がいなかった。長沢の思いは空回りしつづけた。

●正直言って長沢も建築土木の世界は好きではなかった。とくに、職人たちの「同じ釜のメシを喰ってきた人間だけを大切にする」というような文化にとまどいを覚え、社内の人間関係にとけ込めなかった。
できるものなら逃げたかったが、それが許される状況ではない。幸い肝臓が丈夫な長沢は、積極的に社員を居酒屋に誘い出し、連日酒をふるまいながら意見を交換した。

●一年ほどたったころ、若手リーダー格の江藤(30才)が長沢の人柄と方針をはっきり支持してくれるようになった。その江藤がオピニオンリーダーとなり、若手の多くが長沢の方針を支持するようになっていった。
社長就任4年目から始めた新卒学生の採用は、最初のうちこそ一人も採用できなかったが、去年と今年、2名ずつ採用できるようになった。

●今では長沢の経営に懐疑的だった不満分子は一人もいない。先代社長に仕えていた古参部下も数人残っているが、みな二代目長沢をリーダーとして認めている。
長沢は語る。
「この業界のことをまったく知らない人間に社長がつとまるかどうか不安でしたが、今思えば、業界の常識をしらないのが幸いしています。社内に無理難題を言えるのも、自分が現場を知らないから。大切なことは逃げないことです。ファイティングポーズをとり続けることです。酒に逃げない、遊びに逃げない、趣味に逃げない、権力に逃げない。いつも一番いやで面倒なことに立ち向かうようにしてきたつもりです。会社経営のあるべき姿は業界が違えど変わらないもので、私は同業他社よりも異業種や他国の経営事例、それに歴史のほうが参考になると思っています。父のまねはできませんが、自分流の社長にはなれると思います。こんな私ができたのだから、中学生になる我が息子だったらもっと出来るはず。キーワードは、『逃げないこと』だと子ども達に言っています」

2013年10月11日(金)更新

すごい朝礼

●ある日のこと、名古屋市内のある会社で会議を終えてオフィスに戻ろうとしたら、「武沢先生、ご夕食はいかがでしょうか」とお誘いいただいた。あいにく先約があったため辞退したところ、「せめて、4時半から始まる朝礼だけでも見学されませんか」とおっしゃる。元気朝礼が見学できるというのでお供することにした。
 
●行ってみると、店内には「日本一」とか「DREAM」、「すごい仲間たち」など、力がこもった文字による手書きポスターがところ狭しと張ってある。この標語を見ただけで、すでにただならぬ雰囲気が伝わってきた。
だが私が本当に驚くことになるのはそれからだった。
 
●ちょうど定刻になった。
10名のスタッフ全員が客席に座り、店長とおぼしき20代の女性が進行役をつとめる。スタッフが勢揃いしたこの段階ですでにお店のスゴサが分かった。
全員が店長の顔に熱い視線を集め、その発言をひとことも逃すまいと聞き入り、高速でメモもとっているのだ。
店長が「何か連絡事項はありますか?」と聞くと、それぞれの担当者からバッと手があがる。
 
●「デザートはこれがウリなので積極的にアピールしてほしい」とか「○○の魚は数量が少ないので、今日は△△を中心におすすめして下さい」などだ。
次に店長が、昨日お客さんに褒められたことや苦情を言われたことをそのまま全員に伝える。
そのことに対してどう思うか?と皆に水を向けると、瞬時に全員から手があがる。
「はい、ゆうこちゃん」
「はい。ありがとうございます。私はそのお客様が苦情をおっしゃる気持ちがよく分かります。正直いって自分たちが毎日全力を出し切っていると思っているのは勝手に自分が自己満足でそう思っているだけであって、お客様から見ればプロのレベルになってないんだと教えられる思いがしました。瞬間瞬間の仕事ぶりのなかに勉強のネタがひそんでいると思うので、満足したりすれば気がぬけて、そのネタが発見できないので、気を抜かずに今日もベストを尽くそうと思います。以上です!」
「ゆうこちゃん、ありがとう。たしかにあなたの言うとおり・・・」
と店長が寸評を加える。
「ほかにありますか? はい、さとう君」
「はい、ありがとうございます。僕はそのお客様の気持ちが・・・」
などと進んでいく。そのやりとりのレベルが20才代前半の若者同士のものとは思えないほど高度なのだ。
 
●次に顧客サービスに関する著書の輪読だ。
一人1ページずつ、数人で輪読するのだが、ここでも読みたい人が立候補し、当てられた人は嬉しそうにする。当てられなかった人は悔しそうだ。元気よく朗読がおわると、その箇所の感想を言いあう。
 
●そのような感じで最後はお店の標語を全員で大声で唱和し、30分丁度の朝礼を終える。見ている我々までぐったりするほど力が入った朝礼で、終わったとき客席から拍手がわき起こった。
この本気朝礼は毎日行われているといい、希望者があればお客様にも公開しているという。
 
●この朝礼に社長はいない。社長が朝礼に加わっていたら、かえって全員参加の朝礼にはならなかったことだろう。だが、社長は裏にいた。バックヤードで仕込みをしていたのだ。当然、材料を仕込みながらも朝礼の雰囲気は充分に伝わってくる。
 
社長が引っ張るのではない。こうした朝礼の仕組みを作ることが社長の仕事だと教えられた気がした。
それにしてもこの居酒屋の料理を味わってみたい。朝礼見学だけではもったいない。
 

2013年10月04日(金)更新

ヘンリーおじさん

●夏の暑い日に道路へ水を打てば涼しくなる。
冬の寒い日はストーブにヤカンをおいておけば湯も沸くし乾燥対策にもなる。
科学を知らなくても人が編み出す経験の知恵は大したものだ。半世紀前の経営者が今の経営者ほど知識や情報を持っていたとは思えない。だが、そんな彼らが編み出した知恵の多くは、実に理にかなったもので効果的なものが多い。
 
●そんな好例として、究極のクレーム処理法を開発したヘンリーおじさんのことをドラッカーは次のように書いている。
・・・
(ベルンハイムというデパートを経営していた)ヘンリーおじさんは、クレーム処理の仕方も独特のものを開発していた。クレームを受けた者はいつでも大声で「クレーム担当副社長!」と大声で周囲の誰かを呼びつけることができる。すると近くにいた35歳以上の誰かが飛んでいって自己紹介をし、「いかがされましたか?」と聞く。ひととおり顧客のクレームを聞いたあと、「当ベルンハイムでは、そのようなことはあってはならないことです。おい担当は誰だ、連れて来い」と近くの店員に言う。
 近くの店員が顔を出す。
 「お前はクビだ」。驚いた客がクレーム担当副社長をなだめる。担当が泣き出す。そこで仕方なく執行猶予にしてやる。お客が帰る。するとただちにクレームの徹底調査を行う。怒鳴られ役をさせられた店員には、後で特別手当てが出る。
・・・
(「ドラッカー わが軌跡」ダイヤモンド社 より)
 
●ヘンリーおじさんが開発したこの方法が、今も使えるかどうかはわからないが、どこか余裕と愛嬌を感じる”クレーム対応ルール”ではないだろうか。
 
●もうひとつある。
大恐慌時代になって、ヘンリーおじさんのお店でも店員による商品の盗みが増えた。他の会社では、透かし鏡をつけたり、監視員を配置したりして社員の不正を見つけ出そうと躍起になったものだが、効果はなかった。ここでもヘンリーおじさんは知恵を発揮した。
・・・
うちの店では正常な減耗率(ロス率)というものを想定してみた。半年ごとの棚卸しで、その率以下だった売り場には特別賞与を出し、月給2%分の商品券と、何%分かの割引券を支給した。そうしたら減耗率は一挙に下がり、正常な率のはるか下で収まってしまったんだ。売り場ごとの取り組みが進んだんだ。
・・・
(前著より)
 
●人間中心の経営とはこういうことを指すのだろう。
ヘンリーおじさんのデパートは後継者の孫が大手デパートチェーンに売った。株式交換でもらった大手デパートの株をヘンリーおじさんはすぐに処分してしまったという。理由は、「チェーンの連中と話したとき商品を店のために仕入れていることに気づいたから。商品はお客のために仕入れねばならないのに」2年後、この大手デパートは本当に客足も売上も利益も減り始めたという。
 
●ヘンリーおじさんのように現場に精通し、人の心を理解でき、経験則のなかから知恵を出せる人材は宝ものである。日本の製造業や建設業にはそうした経験志向の人材がたくさんいた。だが、私たちは「KKD」による経営を排除しようともしてきた。「KKD」とは、勘・経験・度胸の頭文字だ。
だが、正しくは「KKD」のみに頼るのは危険という意味であって、KKDがなければその真逆の論理と科学だけの経営に陥るのだ。他人が開発した知識や理論だけに依存するのではなく、私たち自身の知恵を発揮した経営が大切なのである。
 
●ドラッカーはこう結んでいる。
・・・
半世紀前、人々はあまりに経験志向だった。システム、原理、抽象化が必要とされていた。しかし今日では、われわれは逆の意味で再びヘンリーおじさんを必要とするに至っている。プラトンの言うように、論理の裏付けのない経験はおしゃべりであって、経験の裏付けのない論理は屁理屈にすぎないのである。
・・・

2013年09月27日(金)更新

お金の支払いに姿勢が出る

毎年この時期は講演依頼が増える。招かれる先は、金融機関が主催する勉強会や公的機関の経営講座など、多岐にわたる。いずれも、地域の企業がよくなってほしいという主催者の情熱を感じるが、講演依頼の仕方にはいろいろな流儀がある。

 

そんな中にあって、ちょっとご遠慮願いたいなと思っていることがいくつかある。

ひとつは、打ち合わせ過多である。60分の講演のために二度、三度と打ち合わせされる主催者がいるが、一度で済ませたいものだ。微調整はメールもしくは電話で充分である。

もうひとつは、開演前の談話。講師控え室で名刺交換と立ち話をする程度ならよいが、ここで長話されると気分が落ち着かない。できれば講演やセミナーの前は一人で心を整理したい。

 

もうひとつ大切なことを付け加えるなら、講師料の支払いについてである。

時々、講演料や交通費が後日精算という組織があるが、できれば当日払いか先払いにされた方が良いだろう。

一度だけ「月末締めの60日後支払い」という講演の打診を受けたが、そうされる理由を聞いても満足できるお答えがなかったので辞退したことがある。

 

外部講師に支払う謝礼は、通常の仕入れや経費の支払いとはまったく別の基準をもたねばならない。現金支払いにすべきだと思うのだ。意外と多くの組織が、他の支払いと同じ基準を外部講師に対してまで当てはめようとしている。講師としては講演料の決済のことでいちいち目くじらを立てたくはないが、内心では気になる。

 

「人たらし」のブラック心理術』(内藤誼人著、大和書房)の中にこんな例がでてくる。ある調査機関が「健康に関する調査の一環」として2147名の医者にアンケートを郵送した。謝礼として20ドル(約2,400円)を同封して郵送する場合と、「協力してくれたらあとで20ドルお渡しします」という条件とで返信率の違いを比較したという。その結果、先に現金を同封した場合には78%の医者がアンケートに協力したのに対し、約束だけした場合には66%しか返信がなかったという。

 

人をその気にさせる基本は金払いを良くすることだ。

誤解のないように補足するが、私のワガママをあなたにお伝えするのが今日の主旨ではない。

あなたが次回、どなたかに講師にお願いするときに講師の気持ちをノセるための条件を書いているのだ。

これは講師だけに限った話ではなく、支払うべきものは早めにスパッと支払うことが目にみえないブランディングになっていることを覚えておこう。

 

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