大きくする 標準 小さくする
前ページ 次ページ

2007年01月05日(金)更新

7つの経営スタイル

●経営者にとって、自信をもって会社経営を行うことはとても大切です。しかし、それが過信になると問題が起こります。その意味で、経営者の最大の敵は「自己満足」かもしれません。

●今の仕事に関して、知るべきことは全て知り尽くしてしまったかのように錯覚したり、経営者として自らの経営スタイルを変えようとしないのは、大変危険なことなのです。経営者の経営能力開発というテーマは、終わりなき旅であると言ってもよいでしょう。

●経営者は、自分にあった経営スタイルを持っています。私は、経営スタイルは7つに分類できると考えています。

1.民主的経営
2.家族的経営
3.育成型経営
4.権威型経営
5.率先垂範型経営
6.強制型経営
7.権力誇示型経営

それぞれについて、具体的に説明しましょう。

1.民主的経営
  社員の意思やアイデアを尊重し、合意形成に重きをおく経営。社員からの経営への参画意欲を高めることや、目標達成のモチベーションを高めることを重視します。経営陣と社員との信頼関係があり、社員の基礎能力が高い場合には、お互いがパートナーのような関係になれる可能性があります。

2.家族的経営
  「人間対人間」というよりは「親対子」として社員に接するもの。友好的で家族的な
関係を重視することで信頼関係を築き、成果も上げようとするもの。事業規模が小さく、経営が安定している場合に有効でしょう。
  
3.育成型経営
  経営者というよりは教育者であるかのように、人を育てることに重きをおく経営。社員の成長を支援し、動機づけし、絶えず成長課題を明確にしようと努力します。組織を作り、事業を長期にわたって発展させるために有効です。

4.権威型経営
  会社の理念や方針、ビジョンを明確にし、あるべき姿に向けて社員を導こうとする経営。新たな方向付けが必要とされる企業や、起業家にとって有効です。
  
5.率先垂範型経営
  社長自らが現場で行動し、模範を示す経営。社員に仕事のやり方を学ばせるとともに、共感を呼ぶこともできる。独立したい社員、向上心が強い社員が多い場合に有効です。

6.強制型経営
  超ワンマンで、社員を手足のように使う。しかし、それが的確なので社員もそれに付いてくる。カリスマ社長と素直な幹部、社員が揃っているとこうなりやすい。会社が
危機にあるときや、思い切った方向転換が必要な場合に有効です。

7.権力誇示型経営
  雇用を維持し、賃金を支払う立場である強みをちらつかせることで社員を動かそうとする経営。かつてはこれが有効な時代もあった。きわめて高い給与水準にある場合にのみ、今でも限定的ですが有効ではあります。
  
●このように、実にさまざまな経営スタイルがあることがおわかりいただけたと思います。経営者は意識しているかどうかはともかとして、これらのスタイルのいずれかを採用しているか、あるいは複数のスタイルを組み合わせています。

●そして、大切なことは、次の3点を知ることではないでしょうか。

 ◆今の経営スタイルだけが最善とは限らないし、「唯一正解」と呼べるようなスタイルも存在しない
 ◆会社の状況に応じて、経営スタイルを変えていくことも必要である
 ◆各々のスタイルの完成度を高めるために勉強すべきことはたくさんある

ということです。

●今回は、7つの経営スタイルの確認をしました。次回は経営能力の開発について考えてみましょう。

2006年12月28日(木)更新

なぜ利益を上げるのか?

●ある会社の経営方針発表会での出来事。終了後の立食パーティで入社一年目の新人が社長に質問しました。

「社長、どうして毎年売上高や利益を上げていく必要があるのですか?」
という素朴な疑問です。社長は答えました。
「それはだね、我々全員が豊かになるためだよ。」
社員はけげんな顔をしていたが、たぶん理解していないでしょう。

●また、別の会社の営業部長は幹部会議でこんな発言をしました。

「社長、上半期の売上は前年割れしました。営業利益段階ではほぼ前年比で半減していますが、まだ累計で1,000万円近い営業利益が残っていますので、会社としては大丈夫かと・・・」

この営業部長氏、利益というモノがわかっておられないようです。「利益=単なる会社の儲け」と盲信しているのですね。

●まず、「利益とは何か」ということと、その利益を毎年増やしていく理由はどこにあるのか? ということを語れる経営者になりましょう。たとえば、

利益とはわが社が提供している製品・サービスがお客様からどのように評価されているかというバロメーターであり、社会がくれた通信簿でもある。ここで赤字(赤点)をもらうということは、社会からみて不要かつ悪だということだ」

という根本思想を教え込むべきです。

●しかも、利益の半分が税金にまわるのであり、納税の義務を果たすためにも利益は必要です。納税したあとに残る純利益から借金が返済されるわけですから、少なくとも借金返済額の2倍の利益を出さないと、現金収支はマイナスになるということです。

●利益は以下の5つの目的のためにも必要です。
1.従業者の生活(雇用や待遇)を改善・安定させるため
2.勉強する費用や時間を稼ぐため
3.有能な人材を採用するため
4.健全な財務基盤を築き、経営の自立を勝ち取るため
5.新しい製品・サービス・機会に投資するため
6.経営理念を実現する原資を確保するため

●もう少し具体的にみてみましょう。

1.従業者の生活を改善・安定させるため
  社員や経営者の収入を安定させることと、労働法規に沿った環境を整備することです。収入面や労働時間面の不安が長引いては、生活が安定しませんし、仕事にも集中できません。
  
2.勉強する費用や時間を稼ぐため
  社会全体のことから経済、経営、実務にいたるまで私たちが知るべき知識や技術は多いのです。目の前の実務をこなす勉強だけではやがてアンバランスな人間になるでしょうから、社員の人間教育のようなものも会社の責任といえるでしょう。
  そうした勉強をするための費用を捻出するのは利益からです。勉強するための時間も、利益がなければ厳しくなります。

3.有能な人材を採用するため
  会社全体の成長を確保するためには、絶えず組織に有能な人材を補充していかねばなりません。欠員が出たから補充するという行き当たりばったりの採用では、やがて成長が止まります。

4.健全な財務基盤を築き、経営の自立を勝ち取るため
  まず、つぶれない会社にすることです。不況が長引いても雇用不安を起こさない会社にすること。そのためには、他人資本への依存度を下げて、自己資本を充実させなければなりません。

5.新しい製品・サービス・機会に投資するため
  これは挑戦のための費用です。そして挑戦には失敗がつきものでもあります。新規事業への参入や、新製品の開発、技術開発や研究開発など数年後のために支払う経費を確保するにも利益が必要です。

6.経営理念を実現する原資を確保するため
  経営理念はお題目に終わらせていては意味がありません。理念に少しでも近づく努力が必要で、その原資になるものがやはり利益なのです。
  
●こうした6つの理由によって、会社は絶えず収益を向上させていかねばならないのです。別の表現をすれば、この6つの課題に取り組まずに上げた収益には意味がない、ということです。

2006年12月15日(金)更新

理念をみんなで作る

●「経営理念を成文化するために合宿研修をやってきました。おかげで素晴らしい経営理念ができました」
 と嬉しそうに報告されたA社長。
「よかったですね」
 と私は返答したものの、社員全員で理念を作るという発想に抵抗を感じました。なぜなら、経営理念は経営者が作るものだから。

●ドラッカーは『現代の経営』において、「事業とは顧客を創造することである」と定義していますが、私も彼の「事業とは顧客創造業」という考え方に賛同します。

●さらに踏みこんで申し上げるならば、事業の目的は、「顧客創造を通して理念を実現すること」 ではないでしょうか。

●営業部はもちろん、技術部も開発部も経理部も人事部も、すべての社員は顧客創造と理念の実現に向けて「役割分担」・「分業」を行っているということです。

●さらに、ドラッカーは同じ著書で「三人の石工」の例話を紹介しています。

●ある建築現場で、何をしているのかを聞かれた三人の石工のうち、「一人めの男は『これで食べている』と答えた。二人めは手を休めずに『腕のいい石工の仕事をしている』と答えた。三人めは目を輝かせて『国で一番の教会を建てている』と答えた」という話です。

●私はこの例話からドラッカーが言わんとすることは、社内のベクトルを合わせようという提言だと思うのです。

・自分たちは何のために今の仕事を行っているのか
・そして、この先何を目指しているのか


●顧客から見れば、良い仕事をやってくれればそれでよいということかも知れませんが、組織の中で働く仲間としては、自分たちの会社の目的を共有していないと何かと意見や考え方にミゾが生まれるものです。

●それを成文化したものが「経営理念」なのです。

●ベクトルは明確でなければならないし、そのベクトルをまっさきに指し示すのは経営者です

●ですから、「理念をみんなで作る」という社長は社員に甘えすぎだと私は思うのです。

2006年12月09日(土)更新

ドラッカーが指摘する「劣後順位」という観点

出前の握り寿司がここにあります。あなたは何から順に食べますか? 
 私は、大好きな穴子と玉子を最後に残し、まずは白身かタコあたりから手をつけることが多いです。

●先日、ある経営者と出前の寿司を一緒に食べたとき、私のそうした食べ方を見て、笑いながら忠告されました。

「武沢さん、どうして好きな順に食べないのですか? 嫌いな順に食べると、まず一番嫌いなもの、次に二番目に嫌いなもの、最後に一番嫌いではないものを食べる、という順になる。それじゃ、いつまでたっても好きなものにありつけない」
「その点、私は好きな順に食べるので、いつも寿司おけの中の一番好きなものを食べることができる。それに今、もし地震があって逃げることになっても後悔しない」

どちらから食べようと好みの問題なので、お互い罪のない話ではあります。

●ところが、仕事の進め方となると笑っては済まされない問題です。仕事には、目標設定と優先順位が大切であることはご存知の通りですが、実はそれだけでは不充分かもしれません。

●ドラッカーが指摘しているように「劣後順位」という観点も忘れてはならないのです。
●劣後順位とは、優先順位の逆さの意味で使われます。手をつけてはならない仕事を決めることです。経営者がやるべきことは、優先順位の設定だけではなく劣後順位の決定も大切なのです。 

●寿司であれば、どちらから食べようともやがてはすべてを平らげる。しかし、仕事は永遠に私たちの許容量を超えるのです。すべてをこなすことは出来ません。
 
●「社長としての私は、何をしてはならないか」
 ある勉強会で、この質問を投げかけました。参加者は各自、ノートにその回答を書き込んでいきます。最初のうちは、集金や伝票発行、コンピュータ入力などの無難なものが並ぶ。やがて経営者は考えます。
 「本当に自分でなければならない仕事とは何か

●そうすると、今やっている仕事の大半が本来は劣後順位のリストに入れるべき項目であることがわかります。ですが、なかには屁理屈をいう人もいます。
「集金は自分でなくてもやれるが、自分が行くことでお客の生の声も聞ける」
「自分の手でコンピュータに営業マンの個人成績を入力することで、一人一人の活動状況が手にとるようにわかる」
 などの言い逃れをするのです。

●ドラッカーはさらにこうも言います。
「トップ本来の仕事は、昨日に由来する危機を解決することではなく、今日と違う明日をつくり出すことである

私たちの合い言葉は、
◇日常業務をこなすよりは明日のための仕事を
◇問題解決よりも機会の創造を
◇他社の後追いではなく独自性を
◇無難な調整ではなく、勇気ある変革を
です。

●劣後順位という考え方は、経営者の仕事の仕方にとどまらず、会社全体にも普及させたいものです。

●私自身の反省にもなりますが、中小企業の経営計画書がうまく機能していない理由のひとつに優先順位主義があるのではないでしょうか。社長が勉強しておられる会社ほど総花的な経営計画書になりやすいのです。

2006年11月17日(金)更新

中小企業にとっての「戦略」とは

●毎年3月と9月は決算の会社が多く、おのずとこの時期には「経営計画発表会」が多くなります。私も縁のある会社の発表会に招かれることが多いのですが、こうした発表会を毎年行う会社は、その9割が黒字です。これも計画経営の成果でしょうか。

●しかし、最近の傾向から気になることもいくつかあります。

●数年前までは、どの会社にも中長期構想があり、そのなかに今期の単年度計画がありました。しかし、最近では単年度計画しか作れない、作らない会社が目立ちます。私見ですが、これでは「先行きがわからない」「夢が感じられない」などの印象を社員に与えているように思えるのです。

●「戦略なき国家は滅びる」といわれますが、企業も同じです。

●「戦略」という言葉は本来が軍事用語です。戦略とは、敵が存在し、その敵に対してどのように戦うかを考えるおおもとの作戦のことを意味します。したがって、逃げることも戦略、籠城作戦で日数をかせぐことも戦略、野戦で真っ向勝負することも戦略、奇襲作戦も和議などの外交交渉も、みな「戦略」です。

●敵に対する接し方は多数あるものの、相手の出方に応じて臨機応変に戦略を組み立てるのが大将の役割なのです。

●孫子の有名な言葉に、
彼を知り己を知らば、百戦殆うからず、彼を知らず己を知らば、一勝一負す。彼も知らず己も知らざれば戦う毎に必ず殆うし
 というのがあります。私は中小企業にとっての戦略を考えるとき、この言葉にすべてが集約されているように思います。
●敵情を知り、わが力をも知る場合は、戦いに敗れることはない。つまり、敵情とは、経済全体の流れや市場のニーズ、業界の動向、ライバル企業の動きのこと。そうした外部与件を経営陣全体で共有しておくことです。

●こうした情報のほとんどは、新聞などから入手できます。その都度切り抜いておけば充分なデータベースになります。

●とくに、ライバル企業の経営状況や商品戦略に関する情報は、意識して入手する必要があります。よく観察していくと、同業他社の売れている商品とそうでない商品がわかってくる。売れている商品は長く売られている商品であり、売れない商品はすぐに消えてしまう。さらに、組織図などを入手できれば、ライバル企業が経営上で打つ手も見えてくるのです。

●己を知るとは、内部与件のことです。人・物・金の状態がどのような競争力をもっているのかを再確認し、経営陣全体で認識を共有することです。具体的には、以下のポイントを押さえることです。
「人」のポイントとは、社員の士気や能力をいかに高めるかということ。
「物」のポイントとは、競争力ある商品やサービスをいかに作るかということ。
「金」のポイントとは、必要な資金をいかに調達するかということ。

●戦略や方針があいまいな会社には、このような視点が欠けています。経営方針を作る際には、いったん当事者であることを忘れて、軍師であるかのように今の会社の長短得失を洗い出し、企業の内部外部の与件も洗い出してみるべきです。

●そうした中から活路を見出し、成長の絵を描くのが経営者の大切な役割なのです。
«前へ 次へ»