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2006年11月10日(金)更新

会社を環境適応させる

●「経営の仕事とは、環境適応である」と言われることがあります。経営者の仕事は、会社を環境適応させるようにかじ取りすることです。

●社長も含めて、社員全員が額に汗して懸命にはたらいているのに利益がでないというのは、責任のすべてが経営者にあるのです。環境に適応しようとせず、コツコツと努力するだけでは勝てません。

●先日、ある団体で「経営計画を策定するための社長講座」のセミナー講師を仰せつかりました。参加者はいずれも中小企業の経営者。規模や業種、それに年齢もさまざまですが、その大半は、自社の経営計画をつくるのが初めての方々でした。

●こうした講座でレクチャーをして気づくのですが、最近の経営者は年々基礎能力が高くなってきています。みなさんきっちりと宿題をこなします。毎回、課題となる書式を完成させる熱心さと学習能力を持ち合わせています。もちろん、パソコンやメールも使いこなします。

●二次会では、経営の問題ばかりでなく、政治や経済、社会の出来事など、豊富な話題で盛り上がります。

●もし、社長の経営力が、知識量や情報量で評価されるのであれば、今の若手経営者の大半は、すでに「社長合格」です。しかしながら、経営者とは何を知っているのかではなく、何をなしとげているかが問われる職業なのです。
●すでにもっている情報・知識・経験・アイデアをベースにして、会社全体のビジョンと計画を描くことこそ、社長業の本質です。そのためには、自ら実践し、社員に実践させるヒューマンスキルが非常に重要となってきます。

●一般に、ビジネスパーソンに必要とされる技能は、以下の3つに大別されます。

1.テクニカルスキル(業務遂行能力)
2.ヒューマンスキル(対人関係能力)
3.コンセプチャルスキル(概念構築力)

●新入社員から中堅社員に求められる技能は「1」がもっとも大きく、「3」がもっとも低い。一方、経営者は「3」がもっとも大きく「1」がもっとも低い。管理職はその中間です。この3つのうち、ビジョンを描く能力は「3」の領域。つまり、経営者にもっとも必要な能力であり、代理を務めてくれるスタッフはいません。

●経営環境は毎年・毎月・毎日、確実に変化していきます。為替や株式のマーケットが世界のどこかで毎秒変化しているように、経営環境も厳密にいえば毎秒変わっていきます。同業他社の動向も刻々と変わります。ただ、目に見えるものや、数字に表せるものはすべて変わっていく中で、人間の心や原理原則など、変わらないものも存在します。

●そうした環境要因にさらされているものが企業です。経営者としてかじを取って持続的成長を図るためには、経営計画策定能力は不可欠なスキルです。しかも、このスキルは決算期にあわせて年一回だけ使うものではなく、必要に応じていつでも使えるように鍛えておかねばなりません。

●そうした能力を身につけることが、会社を「環境適応」させるのです。

2006年10月13日(金)更新

十三の徳・応用編

●前号でご紹介したフランクリンの「十三の徳」とは、節制、沈黙、規律、決断、節約、勤勉、誠実、正義、中庸、清潔、平静、純潔、謙譲でした。これらの項目は、フランクリンがビジネスを発展させるために自分に課した成長目標です。

●これらの徳を同時進行で磨こうとしていては、かえって注意が散漫になります。一定期間どれか一つに注意を集中させ、その徳が修得できたら次に移る。また、順番にも工夫をこらし、基本的なものを優先し、応用的なものは後回しにします。

●そして、一つの徳を一週間かけて自己チェックする。一年は52週間あるので、十三徳あればちょうど4回転することになります。

●第一週が「節制」であれば、日曜日~土曜日までは、「節制」だけに注意を集中させる。チェック表に毎日、○△×の印か、あるいは点数をつけていく。これ以上詳しくお知りになりたければ、『フランクリン自伝』(岩波文庫)の137ページ以降をお読みになってください。

●この方法を組織全体で用いると、どうなるか。「基本の徹底」というスローガンを掲げている会社なら、その「基本」自体をいくつかの項目に分けて、毎週チェックするしくみを作ることもできます。

●たとえば、時間厳守、服装・身だしなみ、笑顔、挨拶、お辞儀、報・連・相、などという項目に落とし込んでいきます。もちろん13項目にこだわる必要はないですし、部署単位で異なる内容にしてもいいでしょう。応用の仕方は無限です
●私自身もこうした取り組みに挑戦してきたし、組織全体で取り組んだこともあります。その経験から助言を。

1.本当に必要性を感じる徳を選ぶこと
フランクリンの十三の徳のうち、私にも必要だったのは半分くらいでした。残りの半分は、「目標意識」「素早い始動」「奉仕」「読書」「部下育成」などの項目に差し替えたのです。これらは私にとって必要なテーマだったからです。

2.継続が大切なので、仲間を作ろう
十三の徳を自らに課すのは、孤独な作業でもあります。フランクリンのように一人で一生続けるのは並大抵ではありません。しかし、一緒に取り組む仲間がいれば、話は別です。会社全体でやれば、なお良いでしょう。

●あなたが考えている「良い経営者像」を定めるのが十三の徳の制定であり、フランクリンのこの方法は、日々“複利計算”のようなイメージで自らを成長させる効果的なしくみではないでしょうか。

2006年10月06日(金)更新

十三の徳

●アメリカ資本主義の育ての親、ベンジャミン・フランクリンをご存知の方も多いと思います。岩波文庫『フランクリン自伝』でもおなじみですね。

●そのフランクリンを称して、「Selfmade man」(自らを創り上げた人)という言い方をします。この表現に込められた意味は、“人生の成功は自己啓発の成功にほかならない”、ということです。

●フランクリンは、印刷工から身を起こし、実業界で立身出世。科学者、出版業者、哲学者、経済学者、政治家、そしてさまざまな啓蒙活動を通してアメリカ資本主義の原点を作った人物です。

●彼は、独立宣言書の起草者でもあります。そのフランクリンが25歳の頃、借金を背負って印刷会社を経営しつつ子供が誕生。いままで以上に、自分が精進しなければならない、と発奮して「十三の徳」を樹立しました。

生まれながらの性癖や習慣、交友のために陥りがちな過ちを克服したい、との動機から生まれたこの「十三の徳」は、フランクリンにとっての成功のパスポートでした。

第一 節制・・・飽くほど食うなかれ、酔うほど飲むなかれ
第二 沈黙・・・自他に益なきことを語るなかれ、駄弁を弄するなかれ
第三 規律・・・物はすべて所を定めて置くべし。仕事はすべて時を定めてなすべし。
第四 決断・・・なすべきことをなさんと決心すべし。決心したることは必ず実行すべし。
第五 節約・・・自他に益なきことに金銭を費やすなかれ。すなわち浪費するなかれ。
第六 勤勉・・・時間を空費することなかれ。つねに何か益あることに従うべし。無用の行いはすべて絶つべし。
第七 誠実・・・いつわりを用いて人を害するなかれ。心事は無邪気に公正に保つべし。口に出すこともまた然るべし。
第八 正義・・・他人の利益を傷つけ、あるいは与うべきを与えずして人に損害を及ぼすべからず。
第九 中庸・・・極端を避くべし。たとえ不法を受け、憤りに値すと思うとも、激怒を慎むべし。
第十 清潔・・・身体、衣服、住居に不潔を黙認すべからず。
第十一 平静・・・小事、日常茶飯事、または避けがたき出来事に平静を失うなかれ。
第十二 純潔・・・性交はもっぱら健康ないし子孫のためにのみ行い、これに耽りて頭脳を鈍らせ、身体を弱め、または自他に平安ないし信用を傷つけるがごときこと、あるべからず。
第十三 謙譲・・・イエスおよびソクラテスに見習うべし

●彼が、これらの徳を作りあげるときに気をつけたのは、ひとつの「徳」に多数の内容を盛り込みすぎないことでした。その結果、名称は増えても、おのおのに含まれる意味は、狭く限定しようと考えたのです。

●この「十三の徳」は、もちろん各人各様でアレンジできることは言うまでもありません。

●私自身も15年ほど前、セールス関係の会社にいた頃に、自分と部下のためにこの「十三の徳」を応用しました。仕事に密着した内容に改め、「時間」「読書」「情熱」「集中」などの項目を取り入れ、実践しました。

●フランクリンは、これらの徳を自らの第二の天性である習慣にまで育て上げるために、さらに工夫を凝らしています。次回は、その知恵と応用に関してお伝えしましょう。

2006年09月22日(金)更新

戦略タイム

●マイクロソフトのビルゲイツ氏が、年に一回別荘に籠もる、というのは有名な話です。一週間ほど一人になって山荘で生活し、経営戦略を練り上げる。経営の現場に埋没していては、できない仕事があるようです。

●ある経営者は、「ボスデー」と称して毎月の最終土曜日を戦略タイムにあてています。この日は、いっさいの仕事を入れず、必要な資料とノートパソコンを持ち込んでホテルに籠もる。また、別の社長は毎日、始業前の30分間をそれにあてているそうです。

●中小企業経営者は、大半がプレイイングマネージャーですから、何らかの実務を受けもつケースが多いはず。おのずと就業時間中では、戦略や方針決めのことまでは考えが及びません。そこで、なかば強制的に時間を設けようという知恵なのでしょう。

●毎年、経営計画を作成し、発表している会社では、少なくとも年に一回は会社のあるべき姿を見直し、具体的な戦略や方針を考えることができます。ですが、それでも足りません。年に一度の経営計画作成で事が足りるほど現実は甘くない。

●計画通りにいかない事が多いし、状況も変わります。当然、目標の修正や計画の変更がせまられます。そこで、定期的な戦略タイムが必要になるわけです。

●プロ野球も監督のサインによって選手は動きます。「バント」なのか「エンドラン」なのか、あるいは「待て」なのか……。勝負どころでは一球ごとにベンチからサインが出ます。当然ながらサインは、具体的でなければなりません。まさか、「ヒットを打て」とか「ホームランを打て」というサインを出すような監督はいないでしょう。

経営の現場におけるサインはどの程度具体的なものか、考えたことがあるでしょうか。

●会議での席上、「なぜ、売れないのだ?」「もっと売れるはずだ」「努力が足りない」などの叱咤激励をよく聞きます。

●これなどは、野球の監督が「ホームランを打て」というサインを出しているようなものです。有能な監督やコーチならば、「直球に的を絞れ」とか「右打ちに徹せよ」という具体的なサインを出すはずです。

●定期的な戦略タイムを設けるということは、時間の経過を止めて日頃の経営活動をふりかえることです。そして、社員に対してより適切なサインを出せるように内省することでもあります。

●コツコツと経営方針を書きためるもよし、日頃の検討課題に対する解決策を考えるもよし、ツンドクにしておいた本を読むもよし、自由かつ生産的に過ごしたいものです。

●私は、「経営課題リスト」を日頃から作ることをおすすめしています。これは、日頃気になったテーマをその都度、箇条書きに記入しておくだけのシンプルなものです。会社に託す夢や、日常の問題点など、ごった煮のようなリストでも構いません。

●こうしたリストを作っておくことで、今なにを考えなければならないのかを絶えず具体的にしておくことができます。許すかぎりの範囲内で、すべての経営者が戦略タイムを設け、よりよいサインを出せるようにしていただきたいと願っています。

2006年09月08日(金)更新

4つのG

●収益率の低い会社にはわかりやすい共通点があります。それは、収益率の低い事業を営んでいるということです。わかりきったことなのに、なぜ、その事業から撤退できないのかが問題です

●私たちは、新しい事業をはじめる際には慎重に計画をたて、準備を整えてから取りかかります。ある意味で、臆病なくらい慎重です。

●しかし、現在の事業を継続することにおいては、ほぼ無防備に近い。継続するかどうかが検討課題になることはめったになく、議題にのぼる頃には、かなり手遅れなのです。

●「新しく事業をはじめるとしたら、今の事業をやりますか?」という問いかけを定期的にする必要があります。しかも、何らかの基準で見直しができればなお良い。

●その手法の一つとして、「4つのG」という概念をご紹介しましょう。

●4つのGとは、米国企業ゼネラルエレクトリックのジャック・ウエルチ元会長による言葉で、

1.Good technology(グッドテクノロジー)
2.Good Market(グッドマーケット)
3.Good People(グッドピープル)
4.Good Plan(グッドプラン)

のことです。この4つのGが揃うことが、その事業の成功の鍵だというのです。

●「グッドテクノロジー」とは、良き技術、良き製品、良きサービスであり、良き価格や良きシステムもここに入ります。売り物自体に競争力がどの程度あるかを問うものです。「グッドマーケット」とは、市場の将来性や顧客のニーズがあることを指します。
「グッドピープル」とは、良き経営陣、良きスタッフが揃っているかどうかを評価するもの。「グッドプラン」とは、良き作戦、良き計画のことです。

●評価の方法は、○△×でも5段階評価でも構いません。この4条件による評価結果は、たえず変化します。評価結果の推移を見守ることに意味があるのです。なぞなら、低収益企業でも、創業のころからずっとそうだったわけではなく、徐々に収益が悪化しているのに手を打たなかった会社が多いのです。

●定期的かつ客観的な評価が大切なゆえんです。
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