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2012年06月29日(金)更新

穴吹社長のオフサイト・ミーティング

●今年の4月に入社したばかりの新入社員と昼食会を開いたある社長。
幕の内弁当を食べながら、ひとりひとりの社員に感想を聞いていったそうです。すると、一人の新人が意外な指摘をしました。
「入社する前はもっと俊敏な会社だと思っていたのですが、意外に官僚的で意思決定が遅いです」
 
●とても新入社員とは思えぬ発言に社長は驚きました。企業体質をよく見抜いたと感心もしたといいます。新人はフレッシュであるがゆえに、長年会社にいる人よりも敏感なのでしょう。そうした若者の声は普通、会議で発言されるようなことはまずないでしょう。おそらく議題にものぼらないはずです。積極的に社員の声を吸収しようとしない会社では、上司や経営者の耳にこれらの声が届かないはずです。きっと居酒屋でのグチとして虚空に消えていくことが多いのではないでしょうか。
 
●この社長のように、昼食会という場で気軽にいろんなことが言い合える場を作るのも有効でしょう。また、上司面談や社長面談など、定期的な面談の場を通して話し合える機会を作るのも効果的です。
また、“オフサイト・ミーティング”も有効です。これは、真面目な話題を気軽な雰囲気で行うミーティングのことで、こちらのホームページに詳しくあります。
 
★オフサイト・ミーティング→ http://www.scholar.co.jp/fuudo/offsite-m_s.html
 
●旅行会社の穴吹観光(仮名)の穴吹社長は、「みんな、キリがついたらここへ集まってくれ」と午後5時にオフィス全体に声をかけました。
スタッフ8名全員にお茶菓子が行き届くのをみてこう切り出しました。
 
「今日はおつかれ。今からみんなで会社をよくするためのミーティングをやりたい。ミーティングとはいっても、いつもみたいにオレが司会をするわけでもないし、特定の議題やテーマがあるわけでもない。フランクに誰からでも自由に意見を言ってほしい。だれか口火を切ってくれるヤツはいるか?」
 
●穴吹社長の予想通り、みんな下を向いて押し黙っています。彼らは普段はよくおしゃべりするのに、なぜか会議になるとおとなしくなってしまうのです。
そこで、穴吹社長は個人的な話をはじめることにしました。今の会社を作ったときの経緯からはじまって、初めての受注の感動、お客様が感謝の絵ハガキをスペインから送ってくれたときの実物の絵ハガキも回覧したのです。
 
●約15分、社長の話を聞く社員たち。かなり興味をもって聞いてくれているのですが、このミーティングの主旨がわかっていないせいか、どことなく落ち着きがありません。この日は結局、失敗に終わりました。
 
●翌週、穴吹社長は別のやり方でオフサイト・ミーティングを開始しました。
各自の席には、5センチ四方のメモ用紙が10枚ずつ配られていました。
 
「みんな、まずメモを一枚使って今まで誰にも言っていなかった自分の自慢話をひとつ書いてくれ。どんなささいなことだって構わない。1分くらいの時間で思い出して書いてくれ」
 
●各自が書いたものを読み上げ、それを言葉で補足するようにしました。
 
・ちびっ子相撲の大会で3年連続優勝したことがある鈴木君
・小学生のとき作文コンクールで全校佳作をもらい、校長先生から筆箱をもらったという伊藤君
・不良だったので父親から勘当され、田舎から東京に来て10年。去年ようやく父親に許されたのがうれしくて、両親に温泉旅行をプレゼントしたという斉藤君
・年末ジャンボ宝くじで3等100万円を当てたことがある水谷さん
・スキーのジャンプ競技で国体にも出たことがある加納君
・バスガイド時代にお客様アンケートの結果でいつも社内ナンバーワンだった玉城さん
・・・etc.
 
お互いがけっこうスゴイ、ということがわかりムードが盛り上がってきました。穴吹社長はこの雰囲気が社内にほしかったのです。
 
●各自の自慢話を披露しあってムードが盛り上がってきたところで、穴吹社長はこう言いました。
 
「じゃ、次に仕事のことや会社のこと、個人的なことなどで今頭の中にあることを一件一枚で書き出していこう。互いに読めるていねいな文字でわかりやすく書いてほしい。5分くらいでやっちゃおう!」
 
穴吹社長自身もサインペンでサラサラと書きました。それにつられるように、一人、また一人という具合にやがては全員がペンをひたすら走らせました。
 
●皆のペンが止まらないので結局3分延長するほどでした。一人あたり数枚のカードを書いたようです。
 
書いたカードを一枚読み上げ、テーブルのしかるべき場所にそれを置きます。次の人が自分のカードを一枚読み、また置く。このようにして約30分、全員が自分のカードを読み上げ、テーブルの上にはカテゴリー分けされた状態のカードが島になっています。
 
●それを模造紙に貼り付けていきます。最後にその模造紙そのものも壁に貼る。こうして各自の意見がすべて貼り出され、一覧できるようになりました。
ここで大切なことは、本人にとっては重要なことが上司はそのように思っていないことがあることに気づくことです。
 
●子供が生まれたばかりの若い父親は、週に一度は子供を風呂に入れてやりたいと思っていました。だが、勤務が不規則でなかなかそれが実現できない。それはストレスになります。もし可能であれば、週に一回ぐらいは平日に早く帰宅できる方法を皆で考案できるはずです。助け合えばよいのですから。
こうした議論が遠慮なくできる会社のほうが、業績面に好影響をあたえることは容易に想像できるでしょう。
 
●各自の発言の中味も大切ですが、気軽になんでも発言できる機会があることのほうがもっと大切なことなのです。

 

2012年06月01日(金)更新

ある会社の社員総会

●父の会社を継ぐために大企業の管理職という立場を投げすてて、地元にもどったA社長(43歳)。
世界規模の製造業で20年間勤務し、営業、製造、品質管理、安全管理、労務管理や人事管理など、あらゆる経験と知識と技術を手みやげに父の会社に凱旋されました。いや、「凱旋」するはずでした。
 
●ところが、まるで異国に初めてやってきた外国人のように「言葉が通じない、常識が通じない」という思いをすることになります。トップダウンもボトムアップも通用しません。人対人のハートの振動が同じ波長にならない。立場や言葉だけでは人を動かせないことを痛感することになります。A社長にとっての本格的な格闘がはじまったのでした。いや「格闘」なんて表現でもきれい過ぎるかもしれません。彼が社長でなかったらとっくに胃潰瘍で入院しているか、会社を辞めていたはずです。それほどのもがき苦しみが「凱旋」のあと数年続いたそうです。
 
●つい先日、A社長の会社の第一回「社員総会」が開かれることになり、私も招かれました。百名近い社員が制服で勢揃いする中、第一部が「経営方針発表会」、第二部が「安全大会」という構成で行われました。
 
創業50年近くになるそうですが、こうした社員総会が開催されるのは初めてのこと。A社長が考えていることを伝えるだけでなく、各現場からあがった目標も部門長が発表されました。ようやくここまでたどり着いたというべきでしょうか。
 
●「経営方針書」の内容はまだ緒についたばかりの段階。
目指す全員参加型経営は今日が実質上の初日です。よちよち歩きではありますが、門出を祝ってあげたいという気持ちと、本当の格闘は今日からが本番! とゲキを飛ばしてきました。
 
 「がんばれA社長!」
 
 

2012年05月18日(金)更新

ある会社の真摯さ

●「うちは研修教育に力を入れています」と社長自身が胸をはる会社から研修を頼まれました。訪問してみると案の定すばらしい。
その日は新任部課長研修だったのですが、社長が最前列に座って私の講義を聴いておられました。しかも誰よりも大量にメモをとっていて、私の顔を見るより下をむいてノートをとる時間のほうが長いくらいでした。
 
●「背中で語る」という言葉がありますが、社長が一生懸命になってノートをとる姿を見ながら居眠りできる社員などいません。社長の存在と受講の姿勢によって会場内の空気がピーンとするのが講師として大変ありがたかったことを思い出します。
 
●そうした会社は研修後の懇親会までひと味違います。お酒が回るのですが、世間話のような会話はなにひとつ出ません。「今日の研修で何を学びましたか、順番に発表してください」と研修部長が音頭をとるので、私もうかうかビールも飲めないほど。実はそれぐらいの方がうれしいのです。ビールなんていつでも飲めますから。
 
●懇親会終了時にまたまた驚きました。研修部長のこんな締めの言葉で会がお開きになるのです。
 
「皆さん、それではいつも通り今日の研修レポートは明日の正午までにメールしてください。交通費はそれとひき替えに口座振込されます。レポートが遅れた場合は交通費支給ができませんから気をつけて下さい」
 
●この会社のレポート提出はすべてが翌日。それを怠ると交通費が出ないばかりか次回の研修を受けられなくなるそうです。研修も懇親会も仕事である以上、当然のしつけなのでしょう。
 
社長の真摯さが社員にも真摯さを求めるのです。

 

2012年04月13日(金)更新

社長の癖が会社の癖

●「経営体質が良い」とか「財務体質が強い」などと表現することがあります。先日もセミナーでそんなお話をしたところ、ある経営者から「"体質"ってなんですか?」と聞かれました。
かしこまってそう聞かれると言葉を失いそうでしたが、私はそのとき「時間をかけてできあがった『癖』のようなものです」とご説明しました。
 
●「癖」とは、積極的に選んでそうしている場合もあれば、何となくそれを続けるうちに癖になってしまったものもあるでしょう。朝寝坊や深酒のように、直したいと思いつつも、なかなか直らない癖だってあるでしょう。
浪費癖、遅刻癖、怠け癖、寝坊癖、散らかし癖などネガティブなものもあれば、努力癖、読書癖、勉強癖、売り癖、儲け癖、掃除癖、節約癖、貯蓄癖など好ましいものもあります。
 
●よい会社を作っていくということは、社員によい癖を作らせていくということでもあります。「よい癖とはどういうものか、悪い癖とはなにか」を教え、みなでそれを実行していくことが会社全体の癖になり、風土になり、体質になるのです。
 
●船井総研の船井幸雄さんは、社長には次の四つの癖が必要だと雑誌のコラムに書いておられました。
それは、
(1)働き癖
(2)学び癖
(3)節約癖
(4)儲け癖
の四つでした。
 
●私はそれを読んで「なるほどなぁ」と思うと同時に、その中でも「儲け癖」が一番大事なのではないかと思いました。なぜなら、他の三つにくらべてマスターするのが難しいからです。むしろ「儲け癖」の反対の「損癖」の方が一度でもついてしまうと、少し儲けが出ただけですぐに舞い上がったりお金を使ってしまったりすることが多いからです。
 
●「儲け癖」を養う一番てっとり早い方法は、「儲け癖」がある人と一緒にビジネスをすることです。しかし、現実にはなかなかそうした機会には遭遇しません。そこで、「儲け癖」がある経営者が書いた本を読むか、セミナーを受けるなどして儲け癖の心をあなたのなかに養っていくことが大切です。そして、その思いや決意を経営計画書にきっぱりと明記していくのです。
 
 

2012年03月09日(金)更新

社長だから正しい

●「社内の人間関係がうまくいっていないので、一度ミーティングの様子を見にきてほしい」と知人からメールが入りました。その方はエステサロンを経営される女性社長で最近起業されたばかりです。
 
●約束の時間にお店へ入っていくと、いきなり奧の方からけんか腰のやりとりが聞こえてきました。どうやら私のことに気づいていない様子です。
 
「ちょっとあなたさぁ、さっきから聞いてると何様のつもり? 社長は誰だと思ってるの。あなたじゃなくて私なのよ」
「ええ、わかってますよ、そんなこと」
「だったら社長に対する口のききかたってものがあるでしょうよ」
「社長社長って社長風をふかさないでください。私は自分の気持ちを正直にしゃべっただけなんですから」
「ここでは私が最終責任者なんだから、ちゃんと決めたことは守ってもらわないと困ります!」
「ああ、そうですか。今日はこれで帰ります」
「ちょっと、今からみんなでミーティングよ。コンサルタントの先生もお呼びしてあるんだから」
「私には関係ありません。じゃあ失礼します」
「・・・・・」
 
●他のスタッフもその場にいましたが、結局この日のミーティングは中止され、このスタッフはこれをかぎりに退職しました。
 
スタッフルームの壁面には、『お客さまの美しさと笑顔が私たちの喜びです。私たちはお客さまのために専門的サービスを提供するプロフェッショナル集団です』と額が掲げてありました。
エステの技術は高くても、店舗運営やコミュニケーションの技術はあまりお上手ではないようです。
しばしばスタッフと意見の衝突があるそうで、この日のトラブルもお客さまに対してシャンプーなどの商品販売のノルマを課そうとする社長と、それを嫌がるスタッフとの対立だったそうです。
 
●会議の原則は「衆議独裁」。つまり、全員で議論を尽くし、最終的に意志決定するのはリーダーという意味で、衆議をつくしたあとは多数決ではなく独裁で決めるのです。会議やミーティングの場で全員の意見をひとつにまとめようとして時間を浪費させるわけにもいきません。
 
●しかし「私が社長よ」というスタンスには問題があります。それをやり過ぎるとパワーハラスメントになってしまいます。
誰が社長かは言われなくてもみんなわかっています。そんなことが問題の本質なのではなく、「誰が正しいか、ではなく、何が正しいか」で議論されることが大切なのです。
 
社長だから、役員だから、スタッフだから、アルバイトだから・・という立場の違いを持ちだすようではいけません。
「経営理念や企業目標と照らし合わせたとき、何が正しいのか」を皆で論じたいものです。そうした組織の秩序を作っていくことは良い会社を作っていく重要なインフラなのです。
 
 
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