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2009年08月21日(金)更新

悪い配パイ?

●野菜ビジネスで失敗したユニクロ。「カネがあり人材もいたから、うまくいかなかった」と柳井会長は雑誌のインタビューで語っています。
さらに、こう続けます。

カネがない、ヒトがいない、モノがない、チャンスがないことは、事業を成功させる4大条件だと僕は思っています」と。

●ないないづくしのどこが素晴らしいのでしょうか? それは、知恵をふりしぼる以外に道がなくなるからです。経営は知恵の勝負。どうやら知恵という資産が最高の価値をもつようです。

●それを証明するかのようなある地方商店の話をご紹介しましょう。

ある程度通いなれたお客さんですら迷子になるような商店がありました。
広いから迷うのではなく、狭いのに迷うような造りなのです。

ドーム型の店内は放射線状に通路が伸び、東西南北の感覚がなくなってしまうような店舗設計になっています。先代社長が懲りすぎたようです。

売り場のセオリーでは、店内の通路は広く、売り場やトイレなどの案内表示はわかりやすくされている必要があります。ですが、この店はそれとは逆行するかのような、「ドン・キホーテ」も真っ青のワンダーランド状態なのです……。
●先代社長からこの店舗を引き継いだ現社長は、「セオリーに反した店ながら、この店が僕に与えられた配パイ(はいぱい、麻雀用語で最初に配られた手札のこと)。この配パイをもとに切り盛りして成功していこう」と腹をくくりました。金を頼りにして安易に改装する道を拒否し、知恵をふりしぼることにしたのです。

●「トイレはどこ?」、「レジは?」とたびたび聞かれることはハンデキャップだと最初は思っていましたが、この社長は、発想を変えてみたのです。お客さんから店員に話しかけてくれるということは、その内容に関わらずありがたいことだ、と。

「この通路の突き当たりを右に回って、四つめの通路手前にトイレがあります」と答えるのをやめて、店員がお客を目的地まで誘導することにしました。

●「あのぉ、トイレはどこですか?」と聞かれると、ニコッと笑って「どうぞ、こちらです」と案内するのです。それだけではありません。案内しつつ店員は、「今日も暑かったですねぇ」とか「今日は何かお探しですか?」などと自然な感じで話しかけるそうです。
店員とこうした個人的会話をすることによって、店とお客との距離がぐっと縮まるといいます。

●さらにすごいのは、雨の日が一番混み合うという驚愕の事実。

店舗が小さく、駐車場もそれほど広くないことを武器にする逆転の発想です。女性店員が駐車場に入ってきたお客さんの車まで傘をもって歩み寄る。そして、相合い傘で店内まで誘導する。お客が車に戻るときには再び相合い傘で見送る。

そのおかげでこのお店、雨の日が一番繁昌するようになりました。これも、駐車場が広大な大型店ではできないサービスです。

カネがなくても知恵がある。
人材がいなくても知恵がある。
優れたウリモノがなくても知恵がある。
優れた立地でなくても知恵がある。
問題だらけの会社やお店でも知恵がある


知恵を働かせるには、情熱が必要です。勝つんだ、勝てるんだ、という気力さえあれば、知恵は無尽蔵に生まれてきます。

さあ、今の配パイを武器にするような知恵を出しましょう。

2009年03月27日(金)更新

わたしはあなたの味方です

●私は出張が多いので、カバンにこだわりがあります。そのため、カバンの専門店やデパートのカバン売り場に立ち寄ることが多いのですが、いつも「買う所はAカバン店」と決めていました

●Aカバン店の店員では、30歳前後のY子さんをひいきにしていました。出張や旅行先でカバンがどのように使われるのかを熟知しているだけではなく、カバンの歴史からブランドの比較、商品知識から接客態度など、すべてに及第点がつけられる接客をしてくれるからです

●ところが、数年前のある「事件」をきっかけに、私はその後A店には一度も行かなくなりました。

●ある年の瀬のことです。私はいつものようにA店で出張用につかうS社製のキャスターバッグを買いました。気に入って使っていたのですが、購入して4か月後に、カバンを引っ張って歩くための取っ手部分が上に持ちあがらないというトラブルが起きました。

●さっそくA店に出向き、修理を依頼しました。Y子さんはその日お休みだったので、彼女の上司に事情を説明したのですが

「まだ4か月しか経っていないし、週に1回程度の出張でごく普通に使用していた。それが急にこんな具合になってしまったので、早急に直してほしい」という私の希望に対し、
「メーカーに修理に出しますので、1か月ほどお時間がかかる場合があります。また、修理費用が発生する場合は、お見積もりを電話にてご連絡します」という対応でした。
●「費用が発生する場合がある」という説明に多少の違和感をおぼえましたが、とにもかくにも今のままでは使えませんので修理を依頼し、その日から私は古いバッグを出張に使っていました。

●40日ぐらいたってから、Y子さんから電話がありました。

「遅くなりましたが、カバンの修理が完了しました。いつでも良いのでご都合のよい時に受け取りに来て下さい」ということでしたので、翌日A店に出向き、Y子さんからカバンを受け取りました。

●受け取るとき、Y子さんはこう言いました。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。フレーム部分がかなり歪んでいたようです。フレームの強度を超える荷重があったのだと思われます。メーカーの方でフレーム交換しましたが、お客様ご負担金として5,000円の請求があがってきました。まことに申し訳ありませんが、パーツ交換分のご負担をお願いします」と言われました。

●使って4か月目に壊れたカバンの修理に40日以上かかり、かつ修理代金として5,000円を負担してほしいという説明に私は納得がいかなかったので、「それはおかしいと思います。むしろ不良品に近いものだと私は思います。実費負担どころか、メーカーからお詫びをされるぐらいの話だと思っています。負担金を払えというのは、Y子さんからみてどう思いますか?」

●Y子さんのその後の説明は、これまで私のことを熟知してくれていた人が、向こう側に行ってしまったと思わせるようなものでした。メーカーのS社の立場を代弁するような説明を始めたからです。

「お客様、メーカーの方でもこのケースは異例なことだと驚いていました。例えば、取っ手を上に出した状態でカバンを長時間持ちあげ続けるとこのようになる場合があるそうですが、それ以外ではちょっと考えられないという話をしていました」

私がY子さんに期待したのは、メーカーの釈明ではありません。ましてや私の使用法に疑いの念をもつような発言はしてほしくありませんでした。極端に言うと、こんな発言を期待していたのです。

「武沢さん、もちろん私はあなたの味方です。40日も待たせた上に実費負担だなんて、ひどい話だと思います。もう少し私にお時間をくださいませんか。武沢さんはうちのお得意様ですから、メーカーか店長にかけあってみます。もし万一、それでもダメな時は私がその実費分をお支払いしますよ。とにかく、この大切なおカバンは今日お持ち帰りになって、さっそくお使いください」

Y子さんがもしそう言ってくれたら、私は大感激してその場で5,000円払って帰宅したことでしょう。なぜなら、Y子さんに余分な心配をかけさせたくないからです。

言葉の裏にあるスタンス(立ち位置)がどこにあるのか、顧客はそれを敏感に感じているのです

2008年04月25日(金)更新

テイスティングと切り売り

●温泉地の土産店の入り口で、まんじゅうを蒸かしています。浴衣でそぞろ歩きしながら、ホカホカのまんじゅうを食べるのはとても風情があって気に入っています。さて、そんな土産店に関する面白い調査結果を紹介しましょう。まんじゅうを無料で配っているお店と、一個100円で売っているお店との業績の違いです。あなたはどちらが勝つと思いますか、無料派? それとも有料派?

●正解は有料派の方です。有料で売って店内でお茶でも振る舞いながら他のお土産を買ってもらうスタイルの方が、売上げが伸びるのです。無料の場合は、たくさんのお客さんがまんじゅうを食べてくれますが、ほとんどがその場から立ち去っていくというのです。

●安くても構わない、まずはお客さんとして遇してあげようという意味では温泉まんじゅうは「入り口商品」「フロントエンド商品」と考えることができます。

●最近はもう一歩進んで、「本命商品」「バックエンド商品」も小口に切り分けて購入しやすくするというアイデアが広まっています。
●私はときどき一風変わったワインバーに出向きます。都内にあるそのお店は、カウンター越しに400種類ものワインがずらりと並んでいます。その中から好みのワインをオーダーするのですが、発注単位がユニークで、グラス、ボトルという単位の他に50cc、100ccという単位もあるのです。

●1本3万円もするワインを飲む機会はそんなに多くはありませんが、50ccなら2000円程度で飲める。これなら毎週だってOKじゃありませんか。ちなみに、この店舗のシステムを支えるのは特許出願中のワインセーバーだとか。小口販売してもワインが酸化しない技術を開発したからこそ可能になったビジネスモデルです。

キーワードは、小口に分けて切り売りするということ。クイックマッサージやコインパーキングなども小口の切り売りの一種です。魚の切り身にしても小口の切り売りなので、決して今に始まったアイデアではありませんが、あなたの事業にそれを当てはめることでまったく新しい可能性も出てくると思います。一度社内で議論してみてはいかがでしょうか?

2008年02月01日(金)更新

不満なし≠満足

●一般に「事業とは顧客創造活動である」とよく言われていますが、あなたの会社ではどうでしょうか。「顧客創造は問題なくできている」と断言できる自信がありますか?

●顧客というものは、何もしないでいると自動的に減っていくものです。とくに流行商品を取り扱う事業を行なっている場合、全顧客のうち半分くらいは毎年入れ替わっていくと言われています。

●明日の顧客創造(または顧客喪失)を決めている要素は一体何なのでしょうか。答えは「今日提供した製品やサービスが、顧客を満足させているかどうか」です。顧客に不満を与えるのは論外ですが、かといって満足も不満も与えていないのもいかがなものでしょうか。

●ある意味、無言の顧客ほど怖い存在はありません。いつ黙って他社に乗り換えられるかわからない危険性を孕んでいるからです。

●何年か前のことですが、私自身がお客として次のような(冷たい)ことをしました。告白も兼ねて紹介します。
●オフィスコーヒーの供給事業を行なっているB社の営業マンが、飛び込み営業の形でやってきました。コーヒー好きの私は、やはり同じ事業を運営しているA社と一年半前から契約してたため、「間に合ってます」と一度断ったのですが、B社の営業マンは食いさがってきました。

●そして、彼は私にB社のコーヒーがいかに優れているかを熱っぽく語ったのです。その時、セールスポイントとして

・B社のコーヒー豆は品質が高く、一流カフェ並の風味があること
・取り扱っている豆の種類が多く、コーヒー以外の飲料のラインナップも豊富であること
・営業所も近く、電話一本で担当者がすぐに駆けつけられること

などを強調し、「一度でいいから、当社のコーヒーを試してほしい」と言われました。

●彼からすると、「そもそもオフィスコーヒーとは何か」を説明する必要がなかったので話が早かったのでしょう。私はその三日後にB社のコーヒーを試飲し、確かにうまいと認めました。加えて、値段も若干安くなることから断る理由がなくなり、その場でB社と契約したのです。

●この瞬間、これまで取引してきたA社は一件の顧客を失ったことになります。私としても「すこし気の毒なことをしたなぁ」という後ろめたさがあるにはあったのですが、あっさり契約を打ち切られてしまうような、希薄な関係しか作ってこなかったA社に不備があると考えることもできます。

●私はもともとA社に不満があったわけではありませんが、満足しているわけでもなかったので簡単に浮気してしまったのです。

●オフィスコーヒーのサービスは、営業と配達それぞれ別の担当が行います。それはA社もB社も同じでしょうが、A社は契約後のフォローに甘さがありました。

●配達スタッフが毎月1~2回やってきてコーヒー豆を補充し、機械をメンテナンスしていきますが、ほとんど私と会話をしたことがありません。新製品のパンフレットも事務的に置いていく程度で、私から感想や要望を聞きだす姿勢もありませんでした。加えてA社の営業マンも、一度釣りあげた魚にエサをやる必要はないと思っているのか、契約後に顔をみせたことは一度もありませんでした。

一度契約を結んだ顧客は、これからもずっと顧客でいてくれるかどうかわかりません。だからずっと顧客でいてもらうためには、「あなたは当社の大切なお客様です」ということを自覚してもらう必要があるのです。

●訪問、郵便、メールやFAX、手段は何でもかまいません。あらゆる方法で顧客とコンタクトをとり続けましょう。そして、見込客であるかのように扱い、上得意先であるかのように接するのです。そうすれば、いつもあなたの会社の顧客であることを自覚してくれるようになります。

●件のA社には、そうした体制がありませんでした。これは担当者の力不足という問題ではなく、営業責任者と経営陣の問題です。言い換えれば、A社のシステムと教育体制の不備が原因でしょう。

●ちなみにB社は、翌月すぐに「もうすぐ夏ですから、アイスコーヒーメーカーも無料で設置します」と提案してくれました。たったそれだけのことですが、「セールスの継続」を意識しているかどうかが、顧客創造につながるのです

2007年12月21日(金)更新

名ドライバーの思い出

●客観的な事実として、日本全国どこのタクシードライバーも乗客の獲得に苦労しているようです。先日も、「忘年会ラッシュですね、景気のほうはどうですか?」とドライバーに聞くと、「全然だめですよ。だってね…」とグチをこぼされました。

●しかし、そのような状況下でも同僚たちより何倍も稼いでいるドライバーがいるのも事実です。それは才覚の違いといってしまえばそれまでですが、才覚の前に、私は心構えが違うように思うのです

●私も旅先で観光タクシーをチャーターし、名所旧跡を巡ることがありますが、2時間ほども観光すれば、タクシードライバーの腕前のよし悪しがわかります。

●青森市に行ったときも、お昼どきにタクシーを止めて市内観光の相談をしたところ、「今から三時間観光ですか? う~ん、この町にそんな観光名所などありませんよ」といわれてしまい、結局1,000円ほどで「ねぶた記念館」へいくだけになりました。

●その帰りのことです。別のタクシードライバーに同じ質問をしたところ、下記のようなまったく違う答えが返ってきました。
●「お客さん、青森は見所ばっかりで大変ですよ。3時間じゃ足りない足りない。でも近場にも見所が多いから効率よく回りましょう」と言われ、結局、彼に6時間近く案内してもらうことになりました。

●その人はMさんという50近くの男性でした。おそらく、最初のドライバーは自分のテリトリーである青森市内を回ることしか頭になかったのに対し、Mさんは青森県全域を思い起こしたのでしょう。十和田湖、八甲田、酸ヶ湯温泉、青荷温泉、棟方志功博物館などを効率よく案内してくれ、すっかり青森とMさんのファンになってしまいました。

腕のいいドライバーとは、運転技術の差だけで決まるのではなく、道路事情や観光名所に詳しい名ガイドであり、名コミュニケーターでもあるのです

●この年、私は再び彼に会いたくなって、夏のねぶた祭りを見に行きました。すると彼は、私のためにねぶた見物用のさじき席を確保してくれたのです。感動した私は、彼のことをメルマガやブログで何度も書いたところ、全国の観光客から指名電話が入るほどの人気になり、半月先の乗客まで決まっていることもあったそうです。

●最初のドライバーとMさんでは、売上に倍以上の開きがあるのではないかと、私は思います。そして、ビジネスの才覚とは「まず、お客様を喜ばせたい」という心構えから生まれてくるようにも思うのです
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