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2009年05月22日(金)更新

悪いサービスも悪くない

販売している商品や、提供しているサービスの質が高いことは大切ですが、質の高低のバラツキがないということも、同じように大切なことです。提供しているものやサービスに、当たり・はずれがあってはなりません。

●私は15年ほど前から、さまざまな理由により車を運転することをやめました。それ以来、市内の移動は大半がタクシーです。また、雨の日や歩きたくない日などは、たとえ数百メートルの距離でもタクシーに乗ります。

●数年前のある日のこと、こんな運転手に出会いました。

   私「悪いけど…、ヒルトンまでお願いします。」
運転手「えっ?」
   私「ヒルトンホテルです。」
運転手「伏見の…? ちっ!」

●はっきりと舌打ちが聞こえました。こちらも至近距離だということはわかっていますが、急いでいました。一方、運転手は運転手で駅のロータリーで何分もの間、客待ちしているのはわかっています。だから、運転手が気持ちのいい応対をしてくれれば、かかった運賃の釣り銭を受け取らないでいるつもりでした。でもこのような対応だったので、釣り銭はおろか、領収書までしっかり受け取ってやりました。

●今ではタクシー業界でも全国的なサービス競争が始まり、以前ほどひどい運転手は減りました。ですが、それでも私が友人や取引先のためにタクシーを拾うときには、タクシー会社を選別しています。もちろん、どのタクシー会社にもすばらしい運転手がいるのは知っていますが、嫌な態度の運転手は、教育にばらつきがある会社に多いのです。サービスとしての品質にこれほどばらつきがあるサービス業は、他に見あたらないと思えるのがタクシー運転手なのです
●冒頭のヒルトン行きの件があってから、私が名古屋駅でタクシーに乗るときには、必ず降車場で乗るようにしました。他の乗客が降りる降車場でタクシーを探し、それに乗るのです。そうすると不思議なもので、ワンメーターの行き場所を告げても嬉しそうに、「はい、ありがとうございます」と返事がきます。

●タクシーの顧客満足度のほとんどは、運転手の態度や人柄で決まるのではないでしょうか。もし、あなたがタクシー会社の経営者であり、運転手と顧客との関係を良好なものにしたいと願っているとしたら、どんな手をうちますか?

●ちなみに、私は次のような手を考えてみました。

1.ワンコインまたはツーコイン専用タクシーを作る
つまり、短距離しか乗せないことを売り物にしたタクシーを走らせるのです。先ほどの事例のようなトラブルがなくなるだけではなく、潜在的な顧客層を開拓できるはずです。

2.賃金制度を変える

最近、売上高に対する歩合制が主流ですが、それが諸悪の根元ではないでしょうか。大切なのは賃走回数、つまり、何人の顧客を乗せたかも成績評価に入れるようにすれば、逆に短距離客を歓迎することになり、タクシー会社の評判を高めることにもなるはずです。

3.基本訓練を徹底する
挨拶や言葉づかいはもちろん、人間性の教育を徹底します。また、運転手によって基本的な動作にもバラツキがありますので、それを解消します。たとえば、顧客の荷物をトランクに出し入れするとき、運転手が親切にやってくれるタクシーもあれば、全部自分でやらされるタクシーもあります。たとえ同じタクシー会社であっても、運転手によってサービスにばらつきがあるので、そうした基本訓練を再徹底します。

受けたサービスへの不満と感動を教訓にして自社に置きかえる訓練もしていけば、文字通り「他山の石」にもなるでしょう。そう考えれば、悪いサービスを受けるのもまんざら悪くないのではないでしょうか。

2008年12月26日(金)更新

10年後に成功する

●「恐慌前夜」とも「恐慌突入」ともいわれる昨今の世界経済。世界の国々、世界中の産業が同時かつ一気に悪くなるという経験は過去に記憶がありません。どこまで悪くなるのか、いつまできびしい状況が続くのか皆目検討がつかない情勢です。

しかし、今後どうなるのかわからないからこそ、社長は考えなければなりません。具体的には、緊急避難策として半年~1年間は効果が期待できる対策、そして、景気がもう一段悪くなり売上が2割や3割、さらに半減することも視野に入れた対策など、シナリオを何パターンも用意しておくのです。

また、景気の底を抜けた先の状態も想像しておきましょう。5年後や10年後を見越した抜本的な成長戦略を作っておくのです。5年後、あなたの会社が今とまったく別の姿になっているかも知れません。それは異業種に参入するという意味だけではなく、何かの分野においてトップシェア、オンリーワン企業になっていることだってあり得るという意味です。

●ビールを例にとって考えてみましょう。

「ビールはキリンとアサヒ、エビスとございますが」
「えっと、僕はキリン」「私はアサヒ」「じゃぁ俺はエビス」

レストランや居酒屋で上記のように複数のメーカーのビールが飲めることは、今では当然のことです。しかし、はるか昔に「ビールは『キリンラガー』」とほぼ決まっていた時期がありました。
●キリンラガーは1888年の発売以来、国民的ビールと称されており、私が社会人になりたてだった昭和50年代前半のシェアは63.8%にまで達していました。今でも、酒問屋や酒販店の経営者は、当時の様子を次のように語っています。

「とにかくキリンさんの営業マンと仲良くすることが大切な経営課題だった。彼らの機嫌を損ねると、ドル箱のビール(=キリンラガー)が入荷しなくなる。そうなると店はお手上げだから、キリンの営業マンをこちらが接待することも珍しくなかった」

それほどまでにキリン王国は盤石だったのです。

●一方、そのころのアサヒビールは、シェアが9.6%にまで落ち込んでいました。個人が積極的にアサヒを選択することなど滅多になく、後発のサントリーにまでシェアを抜かれかねない危機的状況で、当時は「夕日ビール」と陰口をたたかれるほどでした。

●しかし、そこからビールのような成熟製品の市場では珍しいほどの大逆転ゲームが始まったのです。アサヒの逆転ドラマの舞台裏については多くの書籍が出ているのでそちらにゆだねますが、ここでは、アサヒがとった二つのユニークな取り組みをみてみましょう。

1.10年後に喜ばれるビールの味を研究したこと
2.味と鮮度の関係を数値で調べあげ、工場在庫20日間を5日間に短縮したこと

●一方的に負けている「キリン」に対し、10年後に勝つにはどうしたら良いかを考えました。つまり、今すぐ追い上げを狙うのではなく、10年後の市場や顧客の先取りを狙ったのです

●そこでアサヒでは、小学生を対象とした味覚調査を実施しました。当時の小学生が10年後にビールを選ぶ若者になるからです。もちろん、小学生にビールを飲ませるわけにはいきませんので、調査にあたっては給食の味の傾向を調べたり街頭で聞き込み調査をすることで、おいしい味のキーワード探しに着手しました。

●その結果、成功しているキリンが「苦み」で押してきているのに対し、次世代は、「薄目でありながら『キレ』と『コク』がある」味を好むことがわかったのです。

「いけるぞ! 10年後は、今と味の好みが違う。キリンはそれに気づいていないに違いない。開発の方向性は決まった。軽めでありながら『キレ』と『コク』を求めよう」

アサヒはそう考えました。

●それからも膨大で地道な作業が続きました。世界中のホップを集め、新製品にふさわしいものを選びだす。味に「キレ」と「コク」を出すためには、どうすべきか。アルコール度はどうすべきか。すべてに答えを見つけてゆく作業です。

●また、味と鮮度は切り離せない関係にあることにも着目しました。私にも「プハァー、旨い。このビール最高っ!」と思うときと、「おや、今日はビールがまずいなぁ。体調が悪いのかなあ」と思うときがあります。もちろん、飲んだ本人の体調や気分、天候などによるところが大きいのですが、実は鮮度が味の分かれ目になっていることも多いのです。

●ビールの工場在庫日数を1日短縮することで、20日以内に消費される量が15%増加するという調査結果もでました。そこでアサヒでは、かつてビールの社内(工場内)在庫が約20日分あったものを、わずか5日以内に短縮する取り組みを実行したのです。

●こうして業界トップシェアだった「巨人・キリン」に対するためのアサヒの改革は成功しました。今すぐ勝とうとするのではなく、10年後に勝てば良いと考えたからこそ、腰をすえた改革ができたのです

そもそも企業の「戦略」とは、今期・来期ばかりに目を向けるのではなく、10年後、20年後を見据えたものも必要です。きびしい経営環境に直面している今は、そうした腰をすえた戦略に着手する絶好機でもあるのです

2008年05月23日(金)更新

わかりやすいところから入る

●まずは、米国のコンサルタント、トム・ピーターズ氏の著書『経営破壊』(TBSブリタニカ刊)の中に出てくる一節をご紹介しましょう。

・・・
その日、ホテルのボーイたちは見事な手際のよさで1,000台近い車を駐車させていた。身だしなみもこぎれいで、びっくりするほど丁重で、文字通り車の前後を走り回っていた。実に見事なショーだった。
そこで私はスピーチのなかでこの点に触れ、「マリオットに敬礼!」と言った。聴衆の間から盛大な拍手が起こったことからみて、ほかの人たちもあの素晴らしいショーを堪能していたようだった
・・・

●マリオットのボーイさんたちは駐車の訓練も受けているのか……。 と思われた方もいるかもしれませんが、実はそうではありません。駐車場で活躍していたのは、「プロフェッショナル・パーキング・サービス社」の駐車場誘導を専業とするプロ集団だったのです。ホテルのマネージャーであろうと、誰であろうと、彼らに勝る情熱で駐車誘導をする人間は他にいません。

●この会社は、プロの駐車場誘導スタッフを派遣するというニッチな分野に生死をかけているのです。そして、スタッフも、あたかもビル・ゲイツが次世代パソコンソフトの開発に情熱を注いだのと同じように、駐車場誘導に情熱を注いでいるのです。ちなみに、聴衆の中には創立者のパリスカもいたそうです。
●そういえば昔、ある町で一番繁盛しているというラーメン屋に案内されたことがありました。車でそのお店へ行ったのですが、駐車場のスペースが3台分しかなく、大混雑。近所に路駐もできず、結局お店に近づくこともできませんでした。かつおダシがよく効いた醤油ラーメンのスープが絶品だと聞き、お腹も減っていたのですが、その日は仕方なく断念しました。もし、このラーメン屋さんが、プロフェッショナル社と契約していたら、もっと売上を伸ばすことができたかもしれませんね。

●さて、本題に戻りましょう。プロフェッショナル社の仕事ですが、実は駐車場誘導だけで終わりではなかったのです。マーケティング戦略はしたたかなもので、その深慮遠謀は、凄みすら感じます

●まず「駐車誘導」というニッチでわかりやすい分野で「マリオット」や「ヒルトン」などの大手ホテルと契約し、信用を得ます。そして、絶大な信頼を得ながら次のステップで、ホテルのフロント業務全体を請け負うというやり方なのです。

●なるほど、そうだったのか! これぞまさしく「わかりやすいところから入り、わかりにくい所で勝負する」という戦略です。もし最初から「フロントを任せて下さい」と営業していたら、門前払いだったことでしょう。あなたの会社の営業活動にも活かすことができるかもしれません。戦略を見直してみてはいかがでしょうか?

2007年09月21日(金)更新

二大欲求、三大ニーズ

●いきなりですが、クイズです。

鰯(いわし)はいたみやすい魚として知られていますが、その鰯を遠距離まで普通に輸送すると、何匹かは弱ってしまうなど、ロスが出てしまいます。ところが、あるものを鰯と一緒に、輸送用のイケスにいれておくと、鰯のロスが減り、長距離輸送をしても活きがいいそうです。その、“あるもの”とはいったい何でしょうか?

●正解は「なまこ」。鰯はなまこが大の苦手なので、逃れるために元気よく泳ぎ続けるからだそうです。大好きなものより、大嫌いなものと同居させるほうが活気づくとは、少々意味深なものがあります。

●鰯と人間を一緒にしてはいけないのですが、私たち人間もそれに近いところがあります。「何で買うのか?」という問いに対し、「大好きだから買う」「大嫌いなものから逃れたいから買う」という両方の答えがあります。言いかえると、消費者が購買の意思決定をする理由として、

◇利益が得られるとき
◇損失が避けられるとき

の二つがあるということです。
●「得られる利益」と「避けられる損失」の二つが、支払金額よりも大きいとわかったとき、人は即座に購買します。よってマーケティングとは、この二つの欲求に直接働きかける活動をさすのです

●ここでいう「利益」「損失」とは経済的な側面に限りません。時間や情緒、知性、肉体などあらゆる分野における利益・損失です。それぞれについて、いくつか例を書き出してみました。

◇経済的側面:「儲かる」「経費を減らせる」「得をする」など
◇時間的側面:「手間が省ける」「楽になる」「余裕ができる」など
◇情緒的側面:「楽しい」「リラックスできる」「日常から解放される」など
◇知性的側面:「ためになる」「情報が得られる」「刺激がある」など
◇肉体的側面:「苦痛から逃れられる」「快適になる」「おいしい」など

●私たちは、商品やサービスそのものを売っているのではありません。消費者が「得られる利益」や「避けられる損失」を売っているということを深く理解しておくべきでしょう。そうすれば、おのずと販売方法なども変わってきます。

●さらに、別の角度から消費者のニーズについて考えてみましょう。消費者には、どんな世の中になっても変わることがない、「永遠不滅の三大ニーズ」というものがあります。それは、次の3つです。

◇ディスカウントニーズ(安い)
◇コンビニエンスニーズ(ありがたい)
◇スペシャリティニーズ(他に比べるものがない)

●3つのうちのどのニーズを満足させていくのかを、ハッキリと決めましょう。もちろん、複数でも構いません。そして、決めたニーズを満たすために自社の商品・サービスの品質や価格、提供方法はどうあるべきかを決めるのです。

このように、「消費者の二大欲求と三大ニーズ」という視点で、自社のあり方を定期的に点検することが大事なのです

2007年06月15日(金)更新

マーケットイン

●「より良い品をより安く」・・・美しい言葉です。

●品質を向上させながら、価格を下げていくわけですから、お客の立場としてはこれほどありがたいことはありません。実際に、「より良い品をより安く」という言葉をスローガンに掲げている会社やお店がどれほどあるのかGoogleで検索してみたところ、なんと11,200サイトがヒットしました。

しかし、「より良い品をより安く」が常に正しい経営戦略だと思うと大間違いで、一部の業種業態ではそのスローガンを捨てた方がよいこともあります。

●「より良い」「より安い」とは、あくまでも現状と照らし合わせての話です。今までにない、まったく新しいものを生み出そうとする会社にとっては、「初めてのものをより高く」という考えの方が適切でしょう。

●マーケティグに使われる用語で、「プロダクトアウト」と「マーケットイン」という言葉があります。「プロダクトアウト」とは、作ったものを売る、という生産者側の視点に立った言葉ですが、こうした自己都合の考え方では、会社は先細りする恐れがあります。一方、「マーケットイン」はその反対で、消費者の視点に立って商品作りを行なうことです。
●「従来の製品よりも高品質で、かつ低価格で提供しているのに全然売れない」ということがよくあります。例えば、素晴らしい品質の草鞋(わらじ)を一足100円という圧倒的な安さで提供したとしても、うまくいきません。製品そのものが顧客ニーズから逸脱してしまったわけですから。

●私たちは「マーケットイン」の発想をもちたいものです。そのための方策は、お寿司に例えると「並」と「上」の2つがあります。

「並」とは、顧客の意見や要望を取り入れそれに対応すること
「上」とは、顧客のニーズをくみ上げ、先回りして提案すること

「並」のことをやっている会社は顧客対応型企業、「上」のことが出来ている会社は顧客創造型企業と言えそうです。

●あるレストランが、市場調査会社に依頼して近隣住民から聞き取り調査を実施しました。その結果をもとに、最大公約数的なニーズを拾い集め、メニュー表にそれを反映しましたが、業績は振るいませんでした。マーケットインをやろうとしたまでは良かったのですが、「並」の方策を選んでしまったからです。

プロダクトアウトでは問題外ですが、マーケットインでも「並」の方策では勝てません。マーケットインの「上」だけが勝てるのです。そうした視点で、あなたの事業活動がどのように進められているか、もう一度見直してみましょう。
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