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2007年08月10日(金)更新

成果主義に欠けるもの

●近頃、大企業・中小企業はもちろんのこと、家業と言っても差し支えないような零細企業にまで、成果主義賃金が普及するようになりました。たとえば、先日お会いしたリフォーム業(社員数2名、パート1名)の会社にも社員の評価表があり、驚かされた記憶があります。

●かつて、社員の雇用維持と生活の保証が、経営者にとってのいわば義務になっていました。しかし、最近は社員にプロフェッショナリズムが要求される時代になり、「成果主義」や「能力主義」の名の下に、会社に貢献した分だけ、報酬を分配するという考え方になってきています。

●私は、成果主義・能力主義が普及していくこと自体は賛成です。ですが、そうした制度さえ導入すれば、優秀な社員が皆やる気になってくれる、と信じている社長には、警告を発したいと思っています。

●成果主義は、昔の西洋の農園で発達したものだといわれています。農地所有者は、収穫時期になると人手が足りなくなるので、臨時に人を雇うことで、すみやかな収穫を期待しました。ですが、給料を固定給や時間給で支払うと、個人の能力差が反映されないため、出来高で支払うことを考えました。

●そこで一部の農地所有者は、他の農園よりも早く収穫を終え、いち早く市場に出荷するために、労働者に対する出来高報酬率を引き上げて、彼らの勤労意欲をそそろうとしたのです。
●少しでも多くのお金がほしい労働者は、報酬率の高い農園にあっさり移籍しますが、お金にこだわらない労働者は移籍しません。たとえば、こっちの農園は、休憩があるとか、食事が付いているとか、人間関係が良い、などといった理由が、その代表格です。

●上記の例のように、賃金の単純な上げ下げだけが、人間の勤労意欲をコントロールできるわけではないとわかっています。

●では、賃金以外にどのような要素が人の意欲を左右するのでしょうか。それは、一言でいうと「やりがい」です。この「やりがい」を因数分解していくと、

・理念や夢・ビジョンといった目的意識を共有できる
・物理的、精神的に恵まれる職場環境が用意されている
・信頼や尊敬できる上司や経営者がいる
・研修や教育などを通じて、自分が成長できる
・自由裁量の余地がある
・仕事そのものが面白い

などといった要素があります。これらをうまく組み合わせて、突出した魅力を作っていけば良いのです。

●話をわかりやすくするために、読者のみなさんに質問をしてみましょう。あなたがこれからアルバイトをするとしたら、次のどの会社に申し込みますか?

・ヤマト運輸
・ディズニーランド
・マクドナルド
・ヒロセ電機
・牛角
・ブックオフ
・セブンイレブン
・ユニクロ
・がんばれ社長

●もちろんあなたの好みなので、正解はありません。これらの企業に共通しているのは、思ったほど時給が高くないことです。しかし、パートやアルバイターも、場合によっては社員以上の自覚をもって、働いているような会社です(一番最後は私の会社です。少々冗談気味ですが、まったくの冗談でもありません)。

●たとえば、東京ディズニーランド・ディズニーシーでは、正社員が2,500名、パート社員(準社員)が2万人が働いていますが、パート社員の時間給は1,000円前後です。マクドナルドのアルバイトは、最高ランクでも1,000円強。パートが生産現場を取り仕切るため、「パート王国」とも呼ばれるヒロセ電機ですら、時間給が1,000円を切る水準、といずれもけっして高い時給ではありません。(ただし、賃金データは少し古くて2002年のものです)

●これらの事例を見ると、パートの戦力化と賃金水準は、けっして強い相関関係があるわけではないと、ハッキリしてきました。もちろん、パートだけではなく、正社員にも同じことが言えるのです。

●以前、「日経ビジネス」にこんな記事が載っていました。マクドナルドのアルバイト歴が9年になるPさんは、28歳の大学院生なのですが、ASWと呼ばれるアルバイト社員の中における最高ランクまで上りつめたそうです。Pさんの時間給は1,050円。他にも時給が高いアルバイトがあるのに、なぜ9年も続けたのかという質問に、彼は「面白みの更新があったんです」と答えました。

●「面白みの更新」とは素晴らしい表現です。経験を積むごとに、新しい仕事・より責任ある仕事を任され、今では40人いるアルバイトの評価をする立場にあるそうです。彼の言葉こそ、社員戦力化の大きな鍵を握っています。

「やりがい、面白み、楽しみ、喜び、感動」。これらすべてが更新されつづけるような会社でなければいけません。

●あなたの会社にどのような「更新」があるか、今一度点検してみませんか。

2007年08月03日(金)更新

無能集団を作る社長

●経営コンサルタントの仕事を始めたころ、「社長は、どうして自分の部下の悪口を言うのだろう?」と思ったものです。

●世間には、社員をあからさまに批判する社長がけっこう多いことに驚きました。逆に、決して部下や他人の批判をしない社長もいます。要するにそれらは、クセの問題でもあるのでしょう。もし、悪口や批判を言いたいのなら、本人に直接言うように心がけるべきです。

●しかし、それで解決できるほど、単純な問題ではありません。部下を批判する・しないというのは、単なるクセでは片付けられない、そうさせるような問題が別にあるのです。部下の悪口を言う社長は、悪口を言いたくなるような仕事のさせ方をしており、悪口を言わない社長は、悪口を言わずに済むような仕事のさせ方をしているものです。

●有名な「ピーターの法則」というものがあります。この法則の意味は、「階層社会にあっては、その構成員はそれぞれ無能のレベルに達する傾向がある」という、とてもコワイものです。もしかしたら、部下の能力を殺しているのは社長本人かも知れない、と考えてみることも必要なのです。
●ある社員が、日ごろの働き振りを認められて、課長に昇格しました。昇格してからも、さらに期待に応えてくれたる働きぶりでしたので、今度は部長にしてみました。しかし、部長としては「並」程度の仕事ぶりとなってしまい、取締役として経営陣に加えてからは、ほとんど「無能」に近い存在になってしまいました。

●こんなケースは決して少なくありません。行くところまで行きつき、その結果アップアップになっている人が管理職の大半を占めているのです。

●このように、人は成功し、出世するにつれて無能レベルに近づいていきます。また、このピーターの法則には、次のような「系」と呼ばれるものがあります。

◇系1・・・階層社会のすべてのポストは、時が経つに従って、その責任をまっとうできない従業員により、占められるようになる傾向がある。
◇系2・・・会社の仕事は、まだ無能のレベルに達していない従業員の手で遂行される。

とあります。

●一つの職場に何年も何十年も置いておく、ただそれだけで人は無能になります。そこからさらに、職位を上げていくわけですから、無能な人はアップアップになって当然なのです。

●部下の批判をする社長の会社では、このピーターの法則がはっきりと働いています。逆に、部下の批判をしない社長の会社では、ピーターの法則が働いていない場合が多いのです。

●社長としては、この法則が働かないように、未然に防止しなければなりません。そのために、例えば、人材の育成や流動化・活性化策が必要になります。

・体系的な社員教育の実施
・ジョブローテーション(定期的な配置転換)
・上司や部下、客先などの組み合わせ変更

●とにかく、日常をパターン化させない方法を考えることと、教育投資をし続けることが大切なのです。官庁のエリートは1~2年で異動すると聞きますが、それは理にかなっているといえるでしょう。

●このピーターの法則は、会社に限らずとも、なんらかの組織構成員であれば、誰にも当てはまります。そう、社長だって無為に過ごせば、この法則の例外ではなくなってしまうのです。他人の批判をする前に、まず自らをふりかえってみることが大切です。

2007年07月27日(金)更新

顧客満足は誰のため

●夏本番、もうすぐ高校野球も夏の甲子園大会が始まります。今年はどこが優勝するのでしょうか。今年の春の大会で準優勝したのは、希望枠で出場した初出場の「大垣日大高校」でした。私の出身地である岐阜県の大垣市から、甲子園出場校が出ることはまれなのですが、それが優勝候補の強豪を次々に撃破して準優勝を飾るというのは、奇跡のようでもありました。

●大垣日大高校の監督は、愛知・東邦高校時代に名将として知られた阪口慶三氏(62)です。東邦を定年退官されるのを機に、大垣日大高校が招聘しました。阪口監督が就任してから二年目の春で甲子園に出場した大垣日大高校は、「とにかく楽しめ、笑え」を合い言葉に笑顔のハツラツ野球でも甲子園を湧かせました。

●大垣市民にとっても、オラが町の高校が準優勝するというのは、「椿事」(ちんじ)です。しかしその椿事は、阪口監督を招いた同校の校長以下が、足並みを揃えて「本気で甲子園に行きたい」と思ったところからスタートしているのです。

●ひとりの名監督を招聘するということは、監督の人件費だけがコストになるのではありません。名監督であればあるほど、校長の本気さと協力体制を見極めるため、学校側に練習環境の整備から選手獲得まで、多岐にわたる要求を突きつけます。

●そうした障壁を乗り越えつつ、学校側も監督も本気の姿勢を見せることで、球児たちにもその気持ちが伝わります。なにせ、「甲子園」の経験がない学校ですから、本気で自分たちが甲子園に行けるとは思っていない生徒が多いはずです。そのような状況の中、監督に就任してから、わずか二年で準優勝という快挙には、驚かざるを得ません。組織はリーダー次第なのだと改めて痛感しました。
●そんなある日、友人が次のような話を聞きました。

●高級ホテルとして世界的にも有名な某ホテルが、東京進出を果たしました。ホテル好きの彼は、さっそくそのホテルに宿泊したのですが、ドアマンやフロントマン、レストランやベルボーイなど、すべての対応が良くできており、その極上のサービスに感動したそうです。その半年後、今度は家族も連れてそのホテルに宿泊したところ、その時のサービスは、前回のような「特上」ではなく、「やや上」程度のサービスに低下しており、彼はがっかりしたというのです。

●なぜだろう、と調べてみたら、この半年間でホテルのマネジャーが変わっていました。通常ホテルが外国進出を果たすときは、そのホテルグループのトップクラスのマネジャーを送り込むそうです。なのでその時期に訪れたゲストの大半は、特上のサービスを堪能することができます。しかし問題は、腕利きマネジャーが帰り、次のマネジャーに交代してからです。そのホテルでは、本来落ちてはならないはずの接客のクォリティが、落ちてしまったのです。

●もちろん、ホテルで働くスタッフは変わっていません。マニュアルも同じはずです。マネジャーの存在を除いては何一つ変わっていない。しかし明らかに接客レベルは低下し、同時に顧客満足度まで低下してしまいました。

●ここにリーダーの威力があります。残念ながら従業員の仕事ぶりというものは、上司が期待している水準以上には、なかなか上がらないのです。まして、部下から見て尊敬できない上司、嫌いな上司であれば、許容水準ギリギリの仕事しかしなくなるでしょう。

●以前のマネジャーのように、誰からも尊敬されるような上司であれば、その上司を喜ばせたい一心で最高のサービスを部下もするはずです。つまり、顧客満足の向上の背景には、上司を喜ばせたい、上司に認められたいという欲求が潜んでいることを見逃してはならないのです。

●私は、阪口監督の一件とホテルの一件から、次の結論を得ました。

・上司は、「甲子園へ行くぞ!」と選手を燃え上がらせた監督のように、部下の能力よりも高い水準の仕事を要求すること
・「監督を喜ばせたい、監督に認められたい」という選手のメンタリティを見習って、部下と濃密な信頼関係を築くこと

この二つが、上司に求められる大事な資質なのです。

2007年07月09日(月)更新

脱・ボヤキ

●かつてお笑いで、「責任者 出てこ~い!」などといった"ボヤキ漫才"が人気でしたが、今でもボヤくという行為には、プロ野球の"ボヤキ監督"やサッカーの"ボヤキ解説者"などに見られるように、一定の人気があるようです。

●利害関係のない者にとっては、ボヤキを聞くのも悪くないのですが、ボヤかれた当事者にとっては、たまったものではないでしょう。

●「またあいつか。武沢さん、うちのA社員にはホトホト手を焼いているのですよ。」などと、部下への不満と憤りを、ところ構わずぶちまける社長がいる一方、そうした個人批判をほとんどしない社長もいます。

●統計を取ったわけではありませんが、社長が社員の不満を言わない会社ほど、人材が定着して育っていき、組織的な経営が可能となっているようです。
●もちろん人間ですから、誰だって部下の仕事に対して、多少の不満はあるに違いありません。社長からみれば、下手な仕事をされるより自分がやった方が、早くかつ上手にできるという気持ちになる時だってあることでしょう。

しかし、会社は社長の下請け集団ではありません。ある分野においては社長よりも能力がある社員を仲間に引き入れ、理念と夢の実現にむけて共同で向かっていくのが会社です。

●したがって、創業時にありがちな「俺についてこい」「俺を手伝ってくれ」方式のリーダーシップでは、優秀な社員は定着しません。徐々にではありますが、組織づくりのためのリーダーシップに方向を変えていく必要があるのです。

●「組織づくり」はすなわち「人づくり」です。社長自身の「人材育成力」を開発していかねばなりません。

●会社の規模が小さいうちは、その社員が「好きか嫌いか」というのが、重要な採用ファクターだと思います。もし、生理的に好きになれない社員を採用してしまったら、その社員がミスしたときに、指導より攻撃が先になってしまうでしょう。だから、好きな人を入れるのは大切なことです。

●しかし、「好きか嫌いか」という採用基準は社員数が10名までのこと。それ以上になると、別のファクターが求められます。それは、価値観が共有できるかどうか、仕事ができるかどうか、です。

●社員数が二桁や三桁になる頃には、社員を思いのままに使おうというのはやめ、目標や規律が自分たちの共通の絆となるよう、リーダーシップを切り替える必要があります。

●特に中小規模の会社には、個性あふれる人材がたくさんいます。オール4の優等生タイプを使うのは大企業にまかせ、多くの1や2に混じって一個だけ5があるといった、大企業に入れず在野にあふれている人を、上手に使っていくのです。

そういう人を採用し、定着させ、人材として活用していくためには、社長にも粘り強い指導力が必要です。感情をぶちまけたり、ボヤいたりするのは我慢して、長所を誉めて伸ばすという心構えを大切にしましょう。

2007年06月29日(金)更新

文官を召し抱える

●武官と文官ということばがあります。武官とは軍事に携わる武将であり、文官とは軍事以外の行政事務に携わる事務方のことです。

●戦国武将の物語や中国の歴史物を読んでいると、必ず合戦の場面が出てきますが、その中で戦(いくさ)上手といわれている武将は、輜重(しちょう)隊などと呼ばれる補給部隊のリーダーに、優れた人材を配置しています。

●戦は武将だけでは勝てません。兵隊集めやその移動、武器弾薬・食料の輸送、資金調達などといった、裏方の戦略も勝つための重要な要素です。つまり、戦をする武官と裏方をつかさどる文官のそれぞれで、有能な武将を抱えていることが勝どきをあげる条件なのです。

●経営も同じです。企業にとっての武官とは、営業部門や技術部門の人材。文官とは、総務・人事や財務・経理など、総称して管理部門の人材です。会社によっては、「直接部門」「間接部門」という表現を使うこともあります。

●いろいろな会社を見ていて気づくのは、強い会社は必ず武官だけでなく、有能な文官を抱えているということです。
●私の友人であるA社長(49歳)の会社は、社員数17名。社名はA建設工業といい、建造物解体と産業廃棄物の中間処理を営んでいます。年商は10億を少し切るのですが、売上高税引前利益率は毎年5%前後を計上するなど、優れた財務体質の会社です。A社長は8年前、産業廃棄物の分野に参入した時点で優れた文官を採用しました。

●この文官であるB経理部長(51歳)が大変有能なのです。以前は役所に勤めていたほどの事務処理能力の高い人物なのですが、民間企業に必要な財務・経理からパソコン、総務・人事、労務においてまですべて独学で勉強し、業務をこなしていきます。

●攻めが大好きなA社長と守り重視のB経理部長の意見衝突はたびたびありますが、あくまでも衝突であって、対立ではありません。A建設工業が優れた財務体質を有しているのは、優秀な文官であるB経理部長を重用してきた、A社長の見る目があってこそでしょう。

●一方で、千人近い社員数規模でありながらも、ほとんど文官が存在しない会社もあります。つまり役員以下、幹部のほぼ全員が武官なのです。

●一応、何名かの文官がいるにはいるのですが、評価が低い社員ばかりで構成されています。当然そんな会社ですから、「賃金制度の改革をやろう」となっても、外部コンサルタント頼みになり、改革が完成しても運用がうまくいきません。武官揃いの幹部構成では、管理部門が弱くなってしまうのです。

◇コストダウンできない会社は、管理が弱い
◇人が育たない会社は、管理が弱い
◇優秀な人がとれない会社は、管理が弱い
◇労務に問題を抱えている会社は、管理が弱い
◇社長の方針が徹底しない会社は、管理が弱い
◇成長が止まった会社は、管理部門から弱体化する

「管理部門を強化するには、優秀な文官を召し抱える」ということを忘れてはなりません。
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