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2009年12月18日(金)更新

目標とマイルストーン

計画を立てるときは、あれこれ盛り込みすぎたものにしてはいけません。まして、ただでさえ内容が盛りだくさんの計画を、同時に進行してやろうなどと考えないほうが賢明です

●ある日、来年経営コンサルタントとして独立する予定の銀行マン(31歳)に、「武沢さん、来年の10大目標を作ったので見て欲しいのですが」と言われました。「えっ! もう来年の目標が決まったのですか?」と言いながら見てみると、次のような項目が並んでいました。

<仕事目標>・・・起業を成功させる

1. メルマガを1月に創刊し、読者数を一年で3,000人にする
2. 地域内で異業種交流会を企画・開催し、年末には100人規模の会にする
3. ホームページを立ちあげて、毎日100アクセスを目指す
4. 年末までに顧問先を10社にする(月商200万円・月収100万円を達成する)
5. 本を一冊出版し、「キャッシュフロー経営の専門家」というブランドを打ちたてる

<個人目標>・・・自己管理の徹底で進化する

1. 筋トレを週2回行ない、体重62キロ、体脂肪率15%にする(今はそれぞれ66キロ、20%)
2. 家族旅行を年2回実施する(春は国内、秋はグアム旅行を予定)
3. 年間に100冊の読書をする(今は年50冊のペースなので、倍増する)
4. 英語力を高め、今は550点のTOEICスコアを650点にする
5. 経営に関する専門知識と営業力を身につける

●一通り目を通し、「ほぉ、なかなかスゴイじゃないですか」と讃えてから、

・この10大目標をどうやって具体化して、行動するのですか?
・この中で一番大切な目標はどれですか?

といった質問をしてみたところ、次のような答えが返ってきました。
●「この10大目標をエクセルでガントチャートにしてあります。横軸に来年の1月から12月までを、縦軸にこれらの目標を設定し、セルを使って詳細な予定を書き込んであります。また、このなかで一番大切なのは、仕事目標の4番目にある「年末までに顧問先を10社にする」です。起業してから1年以内に月収100万を達成できれば、自分に合格点を付けてもいいと思います」

なるほど、良くできた計画です。完ぺきと言ってよいでしょう。

●しかし、私は計画が完ぺきすぎるがための弱点を知っています。「細部にいたるまで完ぺきにしようと欲ばって計画を立てると、枝葉にとらわれて逆に幹が見えなくなる」という弱点です。

●みなさんは、有名な“ブレイクスルー発想”のなかに、次のような逸話があるのをご存知でしょうか?

・・・
ある大手電力会社では、長年のあいだ頭を悩ませている、停電の原因が1つありました。カラスが鉄塔に集まって巣作りをはじめたときに、針金を落としてショートすることがある、というのがその原因です。

そこで、その電力会社はいろいろな専門家にお願いをして、カラスが近寄らない方法を研究しました。カラスが嫌う音、カラスが近寄らない臭い、カラスが恐がる天敵などといろいろ手を打ちましたが、どれもいたちごっこで解決には至りませんでした。

そこでブレイクスルー発想の専門家に相談したところ、瞬時に解決法を考案してくれました。

それは、カラスの巣をあらかじめ鉄塔に作っておき、巣を作る必要をなくすというものでした。それを実行したところ、見事に停電が起こらなくなりました。
・・・

●停電の理由は、カラスが近づくことではなく、カラスが針金を落とすためです。なので、カラスを近づけない工夫をするのではなく、巣作りを不要にしてあげれば良い、という本質を見抜いたことがこの話の要点です。

●話を銀行マンの彼に戻しましょう。

彼が一番重要視している目標は、「来年末に顧問先を10社にし、月商200万円・月収100万円を実現すること」です。つまり、仕事目標にあるそれ以外の項目は、マイルストーン(通過点)にすぎません。あるいは、目的と手段の関係と言い換えてもいいでしょう。

●意欲的に目標を掲げ、詳細な計画を作って行動するのは素晴らしいことです。しかし、「カラスを近づけないのではなく、停電を防ぐのが目的」という発想と同様に、あなたの目標を整理し、手段と分けて考えることの必要性を忘れないでください

2009年10月30日(金)更新

利益を出す意欲

●フジテレビの軽部アナウンサーがトム・クルーズにインタビューしたときのことです。軽部アナに「私とあなたは同い年なのに、あなたがそんなに若々しいのはなぜですか。最近僕はすぐに疲れるようになってしまったので、なにか秘訣があれば教えてほしい」と聞かれたトム・クルーズは、ガッツポーズを作りながら、「僕は人生を生きる意欲が強いから」と明るく答えていました。

●私から見れば、軽部アナも一般的な同世代とくらべたらずいぶん若い感覚の持ち主だと思うのですが、それにしても「トムにかなわない原因が生きる意欲とは面白い」と感じました。

経営者も、生きる意欲を強くもつのは当然ですが、会社をよくする意欲も強くもつ必要があります。とくに大切なことは、目の前の現実を好転させることです。つまり、利益を出し、現金収支をプラスにすることに強い意欲をたぎらせるのです。それなくして、次のステージには進めません。

●私は経営者に会うことを職業にしてから25年になりますが、この間に何社もの経営者が世代交代しました。中小企業経営者の平均在任年数が30年だとすれば、世の中にある大半の企業で経営陣が入れ替わったことになります。
●世代別に比較すると、若い経営者はお金や利益に対する意欲が、戦前・戦中生まれの経営者より乏しくなってきているようです。とくに、団塊以前と団塊ジュニアの世代を比べると、あきらかに精神構造が違っています。

●「お金がそれほど欲しいわけでもなく、いい生活をしたいわけでもない。かといって、欲しいものがそんなにあるわけでもない。だから、儲けはホドホドにして好きなことをしていたい」という若手経営者がたくさんいますが、経営者が現状に満足してしまっては会社の未来がありません。経営者という立場にはいつもハングリー精神が求められ、それを養うことは社長の責任なのです。

利益を上げ、資金力をつけることにもっともっと強い意欲をもちましょう。「なぜ、当社は利益を追求するのか」について、社員にわかりやすく語りましょう。それを通じて、自分自身の気持ちを鼓舞するのです。

あなたが利益を求める理由は何かを自問してみてください。そして、トム・クルーズのようなパッションで、利益を追求する意味を語ってみてください

2009年10月16日(金)更新

腕が良い、とは

●「私は特別な人間だ。特別にカッコ良いし、特別に長生きしそうだし、特別な金持ちになりそうだし、歴史に名を残すような特別な何かをなし遂げる人間」だ、とひそかに思っている人がいるかもしれません。それどころか、真剣にそう思っている人もいることでしょう。

社長やリーダーの役目としては、そう思うことが正しいし、みながそう思うように応援してあげることが大事です。

●一方で、「言うだけならタダだとわかっていても、嘘つきになりたくないから軽率なことは言わない」という考えもあると思います。しかし、社長は正確なことを話すだけでなく、いつも明るい未来を語れる人間でなければなりません

●わかりやすくするために、たとえ話をしましょう。医者が頭痛で訪れた患者を診察し、薬を渡すという場面を思い浮かべてください。そのとき、医者Aは必ず「このクスリを飲めば、あなたは必ず良くなります」と言うようにしていました。

●一方、医者Bは、ものすごく几帳面なタイプで、「このクスリがあなたに効く可能性は、データに基づくかぎり60%です。また、副作用が出てしまう危険性も20%ほどあります」と言っていました。
●患者を前にした医師として、どちらが腕が良いのでしょうか。あなたならどちらの医師の病院に行きたいですか? 時と場合にもよりますが、頭痛程度ならば「私はAのほうにかかりたい」と思う人が多いのではないでしょうか。正確な診察という点ではBかもしれませんが、おそらく多くの患者を直してみせるのはAのほうだと、私は思うのです。

●“正確さ”と“腕の良さ”は一緒ではありません。一番よいのは、“正確さを背景にした腕の良さ”であり、顧客に勇気と確信を与えられる実力・実績を持ち、そして言葉を巧みに駆使することです

●「あなたは出来る」、「あなたは治る」、「あなたは良くなる」と言えるリーダーになりましょう。そもそも、夢やビジョンといった将来のことから今月の売上にいたるまで、未来のことはすべて不確かなものなのです。

●腕の良い経営コンサルタントは、赤字だらけのクライアント社長の前でこう断言します。
「社長、僕の言う通りにやって下さい。必ず儲かるようになりますから」
「本当かい?」
「信じてください。御社の未来を」
「わかった、信じよう」

そう言う社長の目に輝きが生まれます。それは、コンサルタントを信頼したのではなく、自分と自社の未来を信頼できた瞬間なのです

こうした言葉の威力と魔力を最も必要としているのは、自分自身です。自分の中の自分、つまり潜在意識に向かって、力強く明るい未来を断言してあげましょう。「私がうまくいく可能性は57%」などと正確に表現しようとするよりは、「私の前にもはや不可能の文字はない」と断言する社長のほうが“腕が良い”のです。

2009年10月02日(金)更新

迷子にならないために

●フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』によれば、「『迷子(まいご)』とは、自分の所在がわからなくなり、目的地に到達することが困難な状況に陥った子供、もしくはその状態を指す」、とあります。また、百貨店や行楽地、その他の雑踏などにおいて、本人の目的に関わりなく、引率者が子供の所在を確認できなくなった時点で迷子とみなされる、ともあります。

●迷子は子供だけがなるものではありません。大人でも迷子になります。実際私も、初めて訪れた外国の町で迷子になったことが何度もありました。しかし、子供とは違い、お金は持っていますし、携帯電話もあるのでパニックにはならないで済んでいるだけのことです。

最近は、人生の迷子、経営の迷子をよく見かけます

・目的地がどこか分からない
・目的地への道順が分からない
・そもそも、今どこにいるのか分からない

という意味での「迷子」は、全国にたくさんいるのではないでしょうか。
●私がコンサルタントを始めた15年前、ある社長からこんな話を聞きました。

「うちは創業以来20年間一度も赤字を出したことがないし、金銭的苦労をしたこともない。こんなにも会社経営って簡単なものなのに、世間では社長業って大変だなんて言っている。

そんなとき、俺も一発、社長らしいことをやってみようと、自社ビルを建てることを決め、生まれて初めて借金をした。当時の売上高の何倍もの金額を借り、ようやく完成した自社ビルの落成記念パーティの案内状を作っているとき、バブルが崩壊した。その後、あっという間に倒産の危機に見舞われ、今では社長業って本当に大変だなあと実感している」

●私が「社長、顔色もいいし、お元気そうですがよく生き残ってこられましたね」と言うと、その社長は神妙な顔でこんな話しをしてくれました。

「武沢さん、私はものすごくラッキーだったと思う。なぜなら、倒産の危機に見舞われて以来10数年間、運転資金を銀行から借りることができなくなった。そのおかげで、利益と現金が酸素のように大事なものだと実感できるようになったし、それを先行管理するための方法を考案し、社長らしい仕事をやれるようになっていったのだと思う

●そこで私が、「社長らしい仕事って何ですか」と質問すると、「現実に向き合い、将来に向き合うことでしょ」という答えが返ってきました

●この社長、資金繰りに追われて困窮しているときは、すべてを経理に任せ、自分は現実から逃げていたそうです。しかし、逃げていてはかえって不安が広がるのだと気づき、月末にいくら足りないのか、いつなら支払えるのか、来月はどんな見通しなのか、といった問題や現実に社長自身が向き合いました。その結果、会社が良い方向に向かいだしたといいます。

逃げると迷子になるのです。経営者自身が「今自社はどこにいるのか」を確認し、向かうべきゴールをもう一度フォーカスしなおす作業をちゃんとやっている会社は、どんな時代がやってきてもしなやかに対応することができます。

●2009年もいよいよ最終四半期に入りました。今どこにいるのか? 残り3か月の目標は何なのか? をもう一度確認しましょう。

2009年09月25日(金)更新

志をまもる工夫

●先日、講演会で経営理念について語り、その後の質疑応答で次のような質問を受けました。

「経営理念の大切さについては重々承知しているつもりです。そこで昨年、納得のいく経営理念を作り、社内外に発表したのですが、何も変化が起きません。正直なところ拍子抜けだったのですが、これは理念の中身に問題があるのですか? それとも作る過程で何かが足りなかったのでしょうか?」

●この問いに対し、私は次のように答えました。

中小企業において、“経営理念”という大がかりなテーマに興味を持っているのは社長だけです。幹部も含めたほとんどの社員は、自分の口に入る小さなサイズの食べ物にしか興味がありません。ですから、経営理念も幹部や社員の口に入るよう、小さなサイズにカットしてあげれば食べてくれますし、咀嚼もしてくれます

●以下は、司馬遼太郎の小説『峠』(新潮社刊)からの抜粋です。

・・・
志は塩のように溶けやすい。男子の生涯の苦渋というものはその志の高さをいかにまもりぬくかというところにあり、それをまもりぬく工夫は格別なものではなく、日常茶飯事の自己規律にある、という。

箸のあげおろしにも自分の仕方がなければならぬ。物の言いかた、人とのつきあいかた、息の吸い方、息の吐き方、酒ののみ方、あそび方、ふざけ方、すべてがその志をまもるがための工夫によってつらぬかれておらねばならぬ、というのが継之助の考え方であった。
・・・
●私は、この文の中にある「志」というくだりを、「経営理念」に置きかえることができると思います。

「いくら崇高で立派な経営理念を作ったとしても、それは塩のように溶けやすいものである。その崇高な理念をいかにまもりぬくかというと、日常茶飯の仕事に理念が反映されておらねばならぬ。

商品の品質、価格、パンフレットやホームページのあり方、営業マンの売り方、社内での会話や会議のやり方、人材の採用や育成、評価制度や賃金制度など、経営のすみずみにいたるまで、経営理念を実践する工夫によってつらぬかれておらねばならぬ」

●話を講演会での質疑応答に戻しましょう。質問者の会社の社員は、与えられた経営理念が自分の口に入らないのでリアクションのしようがなかったのでしょう。ですから、「何も反応が返ってこなかった」のはある意味では当然なのです。

●ごく稀に、「社長、すばらしい理念です。僕は一生この会社で、理念を実現するためにがんばります」という人がいますが、それは百人に一人か二人かという逸材でしょう。それほど少数派なのですから、反応がないからといって落胆する必要はありません

正しい問題認識というのは、「この経営理念を実現するには、これからわが社にどのような変化が必要か」を考えることです。社員に向かってそうした問いかけをすることではじめて、社員もアイデアを出すようになるでしょう。そうした方向で議論し、一歩ずつ行動していくことで、社員の目の色が変わってくるはずです。それが、志や理念といった観念的なものを実現していく手順なのです
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