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2007年03月23日(金)更新

日報を社員教育ツールに

●「武沢さん、うちはホウレンソウ(報告・連絡・相談)がまったく出来てないんです。とくに日報は、何回言っても出してこない。あきれちゃうんですわ。他社さんはどうやってるんですか?」
 とぼやく建設会社のA社長。たしかに、日報の不徹底に悩ましい思いをしている経営者は多いようですが、あえて私はA社長に「なぜ、日報が必要なのですか?」と聞いてみました。

●すると、次のような回答が返ってきました。
「日報とは働いたことを証明をするものであり、従業員の義務でしょ。経営者は日報を見て、仕事の流れを把握するものであり、これがなければ誰が何をやっているかわからない」
たしかにその通りですが、残念ながら「50点」の回答と言わざるをえません。

●日報の活用法やスタイルなどは各社各様ですが、うまくいっていない会社では、日報の目的をはき違えているか、運用の仕方に問題がある場合が多いようです。そこでもう一度、日報の目的を確認してみましょう

●日報の効用をまとめると、次のようになります。

1.上司に対してその日にあった出来事を報告・連絡・相談するためにある
2.上司に対してその日の実績を報告するためにある
3.上司から本人に対してタイムリーな指導や教育をするための情報源である
4.上司が各部署や全社の状況を把握し、今後の対策や方針を決めるための情報源である

●ここまでのことなら、読者のみなさんはすでに理解しているかも知れません。そこで、事例を交えつつ、日報の戦略的な活用法をもう少し突っ込んで研究してみましょう。

●ある生命保険代理店に腕利きのマネジャーがいると聞きました。普通の成績の営業マンがこのマネジャーの部下になったとたん、半年もしないうちに営業実績が上がりだすそうです。このマネジャーの部下指導法のどこかに学ぶべきポイントがあるのではないかと思い、彼のもとに出向きました。

●あいにくマネージャー氏は不在でしたが、部下の営業マンから興味深い話が聞けました。

うちのマネージャーはものすごい質問魔なんです。マネージャーが同行してくれて営業に出向くと、恒例行事がある。お客さんとの商談終了後には必ず5分以内にファミレスか喫茶店に入るのです。そして、根ほり葉ほり質問攻めされるのですよ。この前なんかは、お客さんと会っている時間より長くなっちゃいました」

●どんな質問をされるのかを尋ねると、次のような問いかけが続くのだそうです。

・「さっき面談したお客様のニーズは何か?」
・「商談の中でお客様が決算資料を見せてくれたけど、あれはどういう意味だと思うか?」
・「最初の数分間、お客様は不機嫌そうだった。そんな時、君一人だったらどんなことに注意するか?」
・「お客様は商談中に一度も時計を見なかったと思うが、君は何か気づいたか?」
・「この商談を成功に導く最大のポイントは何か?」
・「この商談が失敗に終わるとしたら、それはどんな時か?」

●恐るべし、マネジャー氏。これぞまさしく「追体験」なのです。わずかな商談時間の中にも無数の学習ヒントがあります。それは商談直後の生々しさがあるうちに反芻、確認されるべきなのです。

●商談の成功失敗に一喜一憂するのではなく、部下の経験を確実な学習機会にしようとするこのマネジャーの姿勢に、学ぶべき点は多いのです。

●さて、今日の主題は日報なのですが、もうおわかりでしょう。マネジャーの追体験教育そのものが日報の目的なのです。一日の仕事の中から何を感じ、何を学び、何をなすべきかを振り返る作業こそが、日報を書くという行為です。

●先ほど、私は日報の目的として次の四つをあげました。

1.上司に対してその日にあった出来事を報告・連絡・相談するためにある
2.上司に対してその日の実績を報告するためにある
3.上司から本人に対してタイムリーな指導や教育をするための情報源である
4.上司が各部署や全社の状況を把握し、今後の対策や方針を決めるための情報源である

●そして今、ここにつけ加えるべき日報の目的には、

5.一日の仕事を振り返り、明日の成果と成長につなげる学習機会とするため本人と上司がコミュニケートするためにある

という項目を加えるべきでしょう。

2007年02月23日(金)更新

人材に関するインフラ整備<その2>

●あなたは、これまでの人生経験のなかで「この人のためなら死ねる」という思いを持たれたことはあるでしょうか。人が理想や主義・主張に対して命を賭ける行為の裏には、きっと「人」の存在があるはずです。

●私は20才代の頃に、それに近い思いをもてる上司に出会うことができました。その会社の経営理念は「顧客第一主義」でしたが、お客様のために死ねるとは思っていませんでした。上司のために死ねる、と思っていたのでお客様に尽くしました。

●不純かも知れませんが、大なり小なりそうした属人的な面が、企業経営のなかにはあるように思います。いつの時代でも、「人間と人間の絆が一番強い」と思いたいものです。

●さて前号から、優秀な人材の獲得とその定着・育成をはかるための諸条件を6つのインフラに分けてご説明しています。この6つの合計値の高さが企業力を左右すると言っても良いでしょう。

1.採用インフラ・・・求人採用に関する基盤
2.組織インフラ・・・組織を運営するための規則・規定などの基盤
3.環境インフラ・・・仕事をしやすい職場環境基盤
4.人間インフラ・・・目標とすべき先輩・上司の存在という基盤
5.育成インフラ・・・人を育てるための基盤
6.ビジョンインフラ・・・人の情熱や意欲をかりたてるための基盤

前回は「採用インフラ」についてかなり詳しく説明しました。今回はその続です。
2.組織インフラ・・・組織を運営するための規則・規定

「今日の社長の機嫌はどう?」などと社員が社長の顔色を見ながら仕事をしているようでは困ったもの。社員も社長も一緒になって目標を目指して仕事をするチームワークが、会社には必要なのです。

●では、経営者が他人である従業員を雇用し、組織を維持管理していくためにはどのような諸規定が必要になるのでしょうか。

●大きい書店に行くと、『会社規定全集』のような類の本を売っています。社内で必要になりそうな書式や規定類が網羅されているので、そうしたものを参考に必要な「組織インフラ」としての規定・規則・書式などを一気にそろえてしまいましょう。

3.環境インフラ・・・仕事しやすい職場環境の整備

●製造業では「労働装備率」といって社員一人あたりの固定資産額を計算しています。この労働装備率の向上は、生産性の向上に直結することがわかっています。

●非製造業にあっても基本は同じはずです。たとえば、パソコンのハード、ソフト、営業車両や駐車場などなど、快適に仕事をするうえで理想となる状態を紙に書き出し、着々と労働装備率を高めていく配慮が、勤労意欲や生産性に直結しているのです。

●そうしたことは、当然既存社員のみならず、今後出会う未来の社員に対する訴求点にもなるはずです。

4.人間インフラ・・・目標人物やライバルが社内にいること

●目標となりうる上司・先輩がいることや、同期の仲間やライバルがいることなどが、社員に力を与えてくれます。

●定期的な社員アンケートなどで、「尊敬している社員は誰ですか」という項目を設けて調査している会社もあるほどです。この会社によると、最初のうち、アンケートの回答のほとんどを「社長」が占めていたそうです。ところが、数年後には「部長」や「課長」の名前が登場するようになりました。「人間インフラ」が徐々に充実していったのです。

●尊敬できる先輩や上司が社内にたくさんいることが強い会社の条件ですし、尊敬される彼らがさらに尊敬しているのが社長であれば、申し分ありませんね。

5.育成インフラ・・・人を育てるシステムがあるか

●新入社員を採用したら、労働生産性が極端に悪化する会社があります。つまり、新人が戦力になるのに時間がかかり、最初のうちはタダメシを食べているというわけです。

●新人が戦力になるのに要する期間は、業種によって異なります。また、同じ業種でも企業によって歴然とした差があるのも事実です。業務マニュアルの充実、先輩によるOJT、権限の委譲がどの程度なされているか、研修教育制度がどの程度整っているか、といった人材育成に関するインフラが、人の能力開発や定着問題をも左右しているのです。

6.ビジョンインフラ・・・社員は会社に夢を感じているか

●「ビジョンインフラ」とは、会社として夢があること、先輩上司が夢のある仕事ぶりをしている事などを指します。

●先日、遠方にある会社を訪問したときの出来事。途中で道に迷い、近くを歩いているビジネスマンに道を尋ねました。偶然にもその人は、その会社の社員でした。ともに歩きながら、「どんな会社ですか」と尋ねると、「夢のある会社です」という答えが返ってきました。会社に夢があり、それが社員と共有できている証拠です。



先週から引き続いて2回にわたったお届けした6つのインフラは、人の採用・定着・育成に直結するものです。一歩一歩確実に基盤整備していきたいものですね。

2007年02月16日(金)更新

人材に関するインフラ整備<その1>

●企業経営の基盤を確固たるものにするためには、優秀な人材の獲得とその定着・育成が欠かせません。つまり、求人活動から始まって、採用・定着・育成に至る一貫したインフラ(基盤)を整備していくことが求められるのです。

●そうした「人」にまつわる一連のインフラを、次の6つのグループに分類しました。この6つの合計値の高さが、「企業力」を左右すると言っても良いでしょう。

1.採用インフラ・・・求人採用に関する基盤
2.組織インフラ・・・組織を運営するための規則・規定などの基盤
3.環境インフラ・・・仕事をしやすいハード・ソフト両面の環境整備基盤
4.人間インフラ・・・目標とすべき先輩・上司の存在という基盤
5.育成インフラ・・・人を育てるための基盤
6.ビジョンインフラ・・・人の情熱や意欲をかりたてるための基盤

今週は、もっとも重要と思われる「採用インフラ」に絞って詳しく説明しましょう。
「人材獲得合戦からバトルが始まっている」。これが私の考えです。
●プロ野球では、シーズンオフになると同時にFAやドラフト、トレードといった「人」の動きが活発になります。この期間中に効果的な補強ができたチームが、次年度のシーズンを有利に戦えるのです。

●球団としての選手登録人数枠が決まっているなかで最高の布陣を敷くために、フロントやスカウトが何年も前から学生や社会人と接触して、人材獲得競争に血道をあげています。

●他方、一般企業には登録選手枠がありません。あるとすれば、あなたの会社の要員計画の数値だけなので、予算があれば何人獲得しても構いません。逆に、予算がなければ補強しなくても構いません。

●そもそもビジネスには、シーズンオフという概念がありませんから、通年で好きなときに補強できるのも特徴です。

●人事部がない会社や、あってもその規模が1~2名の会社では、社長自らが採用活動のリーダーシップをとるべきでしょう。とりわけ中小企業では、一人の人材に対する依存度がきわめて高いので、優秀な人材を獲得できるかどうかが、その後の栄枯盛衰を決めると言っても過言ではないのです。

●採用活動を進める上で大切と思うことを列挙してみました。そして、これらは人事担当者任せではなく、経営者が自分自身で決めるべきことです。

①獲得したい人材像を具体的にイメージする
②求人予算の決定する
③採用媒体の選択と、自社の魅力を存分に表現した広告誌面づくり
④インパクトが大きい会社説明会の企画・運営
⑤企業訪問や手紙のやりとりなど、面接以外の方法により採用活動

●採用で真っ先にすべきは、欲しい人材のイメージや人数を決めることです。たとえば中途採用の場合、

「30~40歳の営業管理者。建設業界での営業経験者で、設計図面が読めること及びパソコンが使えること。健康で情熱的なプラス発想の人。年収は500~600万程度を目安とする。」

などと決めておきます。理想通りの人に出会えるとは限りませんが、採用活動のスタートはこうした目標設定から始まります。

●新卒採用や中途採用にかける費用には、適正基準というものがありません。
一人当たり10万円以下で成果を出している会社もあれば、100万円を超すケースもあります。雇用情勢によって必要額も変化しますが、最近は以下の額が一つの目安ではないでしょうか。

新卒採用・・・一人当たり30万円
中途採用(一般職)・・・一人当たり30万円
中途採用(コア人材)・・・一人当たり100万円

●人材斡旋会社の成功報酬は、獲得人材の年収の3割というところが多いので、コア人材の採用ではその金額がおおむね上限予算となります。仮に年収500万円の人材をとるのであれば、その3割(150万円)が上限。ただし、会社案内などの制作物を除いた予算額と考えてください。

●採用媒体というと大手しか考えない会社も多いですが、それでは工夫が足りません。欲しい人材のイメージを明確にすれば、求人方法や予算も変わってくるものです

●たとえば、ある総菜店では大手媒体誌に掲載した求人広告により4名の応募がありましたが、いずれも満足できる人材ではなかったそうです。そこで、喫茶調理に関する専門学校に求人案内を掲載したところ、半額の経費で2倍の応募があり、めでたく採用につながったのだとか。

●結論として、「採用インフラ」を強化するとは、優秀な人材を獲得する確率を高めることです。そして、その成否をにぎるのは、社長みずからが採用活動に参画するかどうか、なのです。

<次号につづく>

2007年02月09日(金)更新

社長の存在価値

●ある会合で、次のような問題提起がありました。
社長の仕事と社員の仕事との違いは何だろうか? 社長の存在価値って何だろう?

<最終決定権者というだけの存在なのだろうか? であれば、権限はなるべく委譲しないほうが社長らしくいられるのではないか>

<いや、それじゃ人は育たない。見本を示して人を育てるのが社長の存在価値だ>

 などなど、議論は大いに盛り上がりました。そこでわかったことは、みなさんそれぞれ、社長業に関するイメージが異なるということです。

●創業間もない会社であれば、社長自らが営業に飛び回り、納品から資金の回収、クレーム処理に至るまで、すべて社員とともに汗を流すことでしょう。率先垂範が必要な時ですし、そうしなければ会社は回りません。
「どうしたらもっとたくさん売れるか」
「どうしたらもっとコストダウンできるか」
 を社員とともに考え、陣頭指揮します。こうしたことで利益が出ていれば、毎日が充実していますし、楽しいはずです。

●しかし、この段階をずっと続けると「一代限りの社長」に終わります。組織やシステムや人材が残らないのです。

●逆に言うと、社長の存在価値とは、組織や人を残すことです。そのためにやるべき仕事は、社長にしかできないのです。
●「社長の仕事」jの具体的な例をあげてみましょう。

1.事業の選択とビジネスモデルの決定(事業戦略)
2.雇用政策と要員管理(人事政策)
3.金融機関の選択と関係構築(金融政策や資本政策)
4.取引先や外部協力者などとの関係構築(パートナー政策)

 
つまり、社長固有の仕事とは、「~戦略」とか「~政策」といった語尾がつくもの、と言うことができるでしょう。

●“今日、今週、今月”のことを心配するのは社員に任せ、社長はこうした“来年、3年後、5年後、10年後”のことを心配するようになりましょう。そうした意味では、「いつのことを悩んでいるか」で社長の差がつくのです。

●「武沢さん、うちのような零細企業が社長業に専念するなんてムリですよ」
 という声が聞こえてきそうですが、ムリではありません。社長業に専念する時間を決めておけば良いのです。

●名古屋のある建設会社(社員数10名)の社長は、毎週土曜日を「社長業の日」と決めて、先ほど箇条書きした1~4の「社長ならではの仕事」をしておられます。また、別のある社長は、毎朝8時から9時までの1時間を「戦略タイム」と名づけて、 この時間に集中して「社長の仕事」をしています。

●要するに、社長業として何をすべきか、どのようにすべきかが決まっていれば、それをやる時間などは簡単にに捻出できる ということです。

社長の存在価値とは、社長しかやれない仕事をきっちりやることに尽きるのです

2007年02月05日(月)更新

複数の報酬制度

●最後の最後までギリギリの交渉をした結果、松坂大輔投手のレッドソックス入りが決定しました。「実力が未知数なのだから、まずは早く契約して、あとは実力でお金を稼げばよいのに」とか「代理人がお金に細かすぎる」などの陰口が聞かれましたが、私は「これぞプロ同士の仕事」と感心しながら事の成りゆきをみていました。

●球団側と選手側、お互いが納得いく条件で合意しようと最後の最後まで調整をはかるような場面は、企業でも必要ではないかと思うのです。

●すでに一部の企業では、会社と社員が話し合って待遇を決めるケースも出ています。全社員画一の賃金制度ではなく、個別に話し合う「臨機応変」な対応をしているケースが増えているのです。

●アメリカのジョンソン&ジョンソンは、ヘルスケア企業として国際市場で事業を展開しています。かつてこの会社は、内視鏡手術の分野ではライバルに大きく立ち後れていました。そこで、ある有能な経営幹部にこの難しいミッションを依頼。彼は、「5年間で業界トップにしてみせます」と答えたといいます。そして、報酬制度についても話し合いました。

●会社側は当初、年度ごとの数値目標を決めて、達成した場合にはチームにボーナスを支払う方式を提案したそうです。反面、達成できない場合には、今まで受け取っていたボーナスがもらえなくなります。せっかく難しい仕事にチャレンジしようというのに、下手をしたら待遇が悪化しかねない。賃金交渉は難航しましたが、結局、今までの固定給を上回る条件で努力してもらうことにしたそうです。
●最初の2~3年間はお先真っ暗な状況だったといいます。もし、会社が提示した最初の条件のままだったら、彼のチーム全員が待遇悪化に苦しんだことでしょう。そんな状況では、今後、誰も火中の栗を拾うようなチャレンジをしなくなったに違いありません。

●結果的に、この内視鏡チームは、4年目にして業界首位の座を獲得したのです。

●大企業といえども賃金制度は一本ではありません。複数の報酬システムを使い分けているというか、無数の報酬システムが社内にある、と言った方がイメージしやすいかもしれません。大企業がこうした柔軟な対応をしてくる時代ですから、中小零細企業ではさらに小回りの効いた柔軟なシステムが要求されるでしょう。

●あなたの会社は、松坂大輔クラスの優秀な社員を十分満足させるような報奨制度を用意しているでしょうか。意欲的な社員の冒険や挑戦を後押しするような制度になっているでしょうか。再点検してみましょう。
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