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社長業を極めるためのカリキュラムについて、「日本的経営のリニューアル」という視点から紹介します
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2007年01月12日(金)更新
成果主義とは何か
●前回は、7つの経営スタイルについて、私の考えを述べました。あなたの経営スタイルは、いずれかにあてはまるかも知れませんが、欲を言えば、あなた独自の経営スタイルというものを築いていただきたいものです。
●ある経営者が私にこう語ったことを覚えています。
「武沢さん、うちは完全な能力主義でやっていますからある意味、気が楽なんです。社員も大人ですから独立独歩、固定給は低くし、あとはすべて歩合給にしました。やればやっただけ報酬がもらえるし、自分や家族のためにもがんばらざるを得ないでしょう。それと、新人研修以外の社員教育も減らしていって、本人たちの自己責任で勉強してもらおうとも考えています」
この考え方は「独立独歩の経営」のようで、もっともらしく聞こえますが、何だか変だと思いませんか?
●トヨタ自動車の奥田前会長は、かねがね「全力で雇用を維持するのが会社の責務であり、終身雇用が前提であることに変わりはない」と強調していました。同時に「トヨタの社員もプロ化しないと生き残れない」とも語っています。
●一見すると矛盾しているように聞こえますが、「雇用の維持」と「実力主義人事の導入」とは矛盾したものではありません。
●昨今の実力主義型人事を語るときに、言葉が誤用されていることがあるので確認しましょう。それは、
「能力主義=成果主義=業績主義ではない」
ということです。
●能力主義とは、文字通り能力に対してお金を払うものです。技能の成長や管理力、育成力などの能力を評価し、成長した部分が昇給されます。その最たるものが、何かの国家資格をとると手当が加算されるというものです。
●一方の成果主義とは、なしとげた成果に対してお金を払う。したがって、能力の高低は評価せず貢献してくれた成果を評価し、それを賃金などに反映させるのです。
●業績主義とは、社員の評価基準がズバリ「業績」だけにある会社です。売上高とか利益とかの数字だけが期待されている会社です。
●昭和40年代から50年代にかけての高成長を支えてきた日本的経営とは、終身雇用を前提としていただけに、もともとは「能力主義」だったことがわかります。社員の成長を促進するような期待給賃金でもあったわけです。
●そして今、トヨタに代表されるように日本の企業は、大急ぎで「成果主義」に移行してきているわけで、その流れは中小零細企業にまで及んできています。
●成果主義型人事に必要なものは、期待される成果を定量化することです。それも部門ごと、個人ごとに行われる必要があります。そして四半期ごと、または半期ごとに評価し、評価結果をフィードバックして納得性と透明を高めるべきものでしょう。
●管理職であれば、人材の育成についても目標を数値化する必要があります。たとえば、「今期中に新しくマネージャーを1名養成する」などです。
●もちろん、経営者の仕事は目標設定とその割り当てだけで終わってはなりません。社員の成長を促し、目標達成を支援するのが経営陣の大切な仕事です。成果主義を導入したからといって、冒頭の経営者のようにふんぞり返って人材育成まで放棄するようでは、本末転倒なのです。
●いずれにせよ、会社の経営管理システムは、経営者の意向を充分にふまえたものでなければならないことは、言うまでもありません。
●ある経営者が私にこう語ったことを覚えています。
「武沢さん、うちは完全な能力主義でやっていますからある意味、気が楽なんです。社員も大人ですから独立独歩、固定給は低くし、あとはすべて歩合給にしました。やればやっただけ報酬がもらえるし、自分や家族のためにもがんばらざるを得ないでしょう。それと、新人研修以外の社員教育も減らしていって、本人たちの自己責任で勉強してもらおうとも考えています」
この考え方は「独立独歩の経営」のようで、もっともらしく聞こえますが、何だか変だと思いませんか?
●トヨタ自動車の奥田前会長は、かねがね「全力で雇用を維持するのが会社の責務であり、終身雇用が前提であることに変わりはない」と強調していました。同時に「トヨタの社員もプロ化しないと生き残れない」とも語っています。
●一見すると矛盾しているように聞こえますが、「雇用の維持」と「実力主義人事の導入」とは矛盾したものではありません。
●昨今の実力主義型人事を語るときに、言葉が誤用されていることがあるので確認しましょう。それは、
「能力主義=成果主義=業績主義ではない」
ということです。
●能力主義とは、文字通り能力に対してお金を払うものです。技能の成長や管理力、育成力などの能力を評価し、成長した部分が昇給されます。その最たるものが、何かの国家資格をとると手当が加算されるというものです。
●一方の成果主義とは、なしとげた成果に対してお金を払う。したがって、能力の高低は評価せず貢献してくれた成果を評価し、それを賃金などに反映させるのです。
●業績主義とは、社員の評価基準がズバリ「業績」だけにある会社です。売上高とか利益とかの数字だけが期待されている会社です。
●昭和40年代から50年代にかけての高成長を支えてきた日本的経営とは、終身雇用を前提としていただけに、もともとは「能力主義」だったことがわかります。社員の成長を促進するような期待給賃金でもあったわけです。
●そして今、トヨタに代表されるように日本の企業は、大急ぎで「成果主義」に移行してきているわけで、その流れは中小零細企業にまで及んできています。
●成果主義型人事に必要なものは、期待される成果を定量化することです。それも部門ごと、個人ごとに行われる必要があります。そして四半期ごと、または半期ごとに評価し、評価結果をフィードバックして納得性と透明を高めるべきものでしょう。
●管理職であれば、人材の育成についても目標を数値化する必要があります。たとえば、「今期中に新しくマネージャーを1名養成する」などです。
●もちろん、経営者の仕事は目標設定とその割り当てだけで終わってはなりません。社員の成長を促し、目標達成を支援するのが経営陣の大切な仕事です。成果主義を導入したからといって、冒頭の経営者のようにふんぞり返って人材育成まで放棄するようでは、本末転倒なのです。
●いずれにせよ、会社の経営管理システムは、経営者の意向を充分にふまえたものでなければならないことは、言うまでもありません。
2006年12月23日(土)更新
君子と小人
●西郷隆盛さんが面白いことを語り残しています。
「人材には、君子(立派な人)と小人(凡人)があり。人を採用するにあたっては、君子と小人との区別をあまり厳しくするとかえって禍を大きくするものである。こういう凡人の心情を思いはかって、そのいいところを取って、これを下役に使って、その持っている才能や技能を十分発揮させることが重要である」
(『「南洲翁遺訓」を読む―わが西郷隆盛論』渡部昇一著 致知出版社刊より)
●また、多くの経営者は「ジンザイ」という言葉をもじって、三種類あることを知っています。
人財・・・なくてはならない宝のような人
人材・・・使いみちのある人
人罪・・・いてもらっては困る人
できるものなら「人財」と「人材」ばかりにしたいもので、「人罪」は社内にいてほしくないのが社長の心情です。
●でも、三種類の人材がいることはわかっても、それをどうやって見抜くのかが肝心なところ。ちょっと会話をするだけでそれが見抜けるほど、人間は簡単にできていません。100%の正確さで「ジンザイ」を見抜くなど不可能に近い芸当です。
●しかし、面接に工夫しているいくつかの会社では、ちょっと変わった面接法を編み出しています。そのひとつが「圧迫面接」なるもの。ドコモのiモードを開発した松永真理氏のベストセラー図書『iモード事件』(角川文庫)によれば、iモード開発チームもこの「圧迫面接」で選考されたとあります。
●「圧迫面接」とは、あるテーマを面接者に与え、その答えに対して面接官が次々に質問を浴びせかけ、相手を追いつめていくもの。面接官はあえて心を鬼にして厳しい質問をしていかなければなりません。きっと次のようになるでしょう。
社長:「あなたの将来の夢は何ですか?」
相手:「世の中に必要とされる人になりたいと思います」
社長:「それはどのような人ですか?」
相手:「まず専門的な知識や技術をもつことです」
社長:「どのような専門分野をもちたいですか?」
相手:「コンピュータに関する分野ですが、できればネット関係を」
社長:「ネット技術者はゴマンといますが、あなたはその中で今何ができますか?」
相手:「△×△×・・・」
社長:「うちの会社では、あなたの技術を必要としないとわかったらどうしますか?」
相手:「△×△×・・・」
●圧迫面接の主旨は、相手の回答内容ではありません。その態度です。
●すべてにおいて適切な回答を返す人材もいれば、うまく質問をはぐらかす人、無言で通す人、聞き返す人、支離滅裂になる人など対応はさまざまです。その対応の仕方から、どの程度の芯があるか、柔軟性があるかなどを見分けることができるのです。
●圧迫面接は、通常の面接でよく見受けるような表面的な一問一答のやりとりでは見抜けない、相手の真価を知ることができるでしょう。
●さて、冒頭の西郷さんのことば「君子と小人の区別を厳しくしすぎてはいけない」について。
A君は、仕事の成果が大きく、いつも会社の目的や目標達成のために身を粉にして働いてくれる。残業はいとわないし、会議でも前向き発言が多い。
B君は、与えられた仕事だけしかやらない。いつも自分の給料や休みのことばかりを気にするし、不平や不満も多い。会議でも否定的な発言が多い。
この場合、明からにA君が君子でB君が小人です。
●社長の願望としては、会社中をA君のようなタイプで埋めつくしたいと願いがちです。しかし、それは非現実的であるばかりか、やってはいけない事だと西郷さんは説くのです。決められたことだけをきっちりこなしてくれる人材は必要だし、待遇改善をつきつける人材も必要なのです。人材バランスの問題だということです。
●しかし、中小企業経営において、私は1つの事を付け加えたい。それは、
「社長を中心とした経営陣は、君子のような人財でなければならない」
ということです。
●社長自身および、経営陣が「人財」であること、あるいは「人財」になるよう努力を怠らないことは、会社の命運を握る課題です。もし、経営陣がそのような陣容になっていないとしたら、それこそが、人に関する緊急課題となるでしょう。
「人材には、君子(立派な人)と小人(凡人)があり。人を採用するにあたっては、君子と小人との区別をあまり厳しくするとかえって禍を大きくするものである。こういう凡人の心情を思いはかって、そのいいところを取って、これを下役に使って、その持っている才能や技能を十分発揮させることが重要である」
(『「南洲翁遺訓」を読む―わが西郷隆盛論』渡部昇一著 致知出版社刊より)
●また、多くの経営者は「ジンザイ」という言葉をもじって、三種類あることを知っています。
人財・・・なくてはならない宝のような人
人材・・・使いみちのある人
人罪・・・いてもらっては困る人
できるものなら「人財」と「人材」ばかりにしたいもので、「人罪」は社内にいてほしくないのが社長の心情です。
●でも、三種類の人材がいることはわかっても、それをどうやって見抜くのかが肝心なところ。ちょっと会話をするだけでそれが見抜けるほど、人間は簡単にできていません。100%の正確さで「ジンザイ」を見抜くなど不可能に近い芸当です。
●しかし、面接に工夫しているいくつかの会社では、ちょっと変わった面接法を編み出しています。そのひとつが「圧迫面接」なるもの。ドコモのiモードを開発した松永真理氏のベストセラー図書『iモード事件』(角川文庫)によれば、iモード開発チームもこの「圧迫面接」で選考されたとあります。
●「圧迫面接」とは、あるテーマを面接者に与え、その答えに対して面接官が次々に質問を浴びせかけ、相手を追いつめていくもの。面接官はあえて心を鬼にして厳しい質問をしていかなければなりません。きっと次のようになるでしょう。
社長:「あなたの将来の夢は何ですか?」
相手:「世の中に必要とされる人になりたいと思います」
社長:「それはどのような人ですか?」
相手:「まず専門的な知識や技術をもつことです」
社長:「どのような専門分野をもちたいですか?」
相手:「コンピュータに関する分野ですが、できればネット関係を」
社長:「ネット技術者はゴマンといますが、あなたはその中で今何ができますか?」
相手:「△×△×・・・」
社長:「うちの会社では、あなたの技術を必要としないとわかったらどうしますか?」
相手:「△×△×・・・」
●圧迫面接の主旨は、相手の回答内容ではありません。その態度です。
●すべてにおいて適切な回答を返す人材もいれば、うまく質問をはぐらかす人、無言で通す人、聞き返す人、支離滅裂になる人など対応はさまざまです。その対応の仕方から、どの程度の芯があるか、柔軟性があるかなどを見分けることができるのです。
●圧迫面接は、通常の面接でよく見受けるような表面的な一問一答のやりとりでは見抜けない、相手の真価を知ることができるでしょう。
●さて、冒頭の西郷さんのことば「君子と小人の区別を厳しくしすぎてはいけない」について。
A君は、仕事の成果が大きく、いつも会社の目的や目標達成のために身を粉にして働いてくれる。残業はいとわないし、会議でも前向き発言が多い。
B君は、与えられた仕事だけしかやらない。いつも自分の給料や休みのことばかりを気にするし、不平や不満も多い。会議でも否定的な発言が多い。
この場合、明からにA君が君子でB君が小人です。
●社長の願望としては、会社中をA君のようなタイプで埋めつくしたいと願いがちです。しかし、それは非現実的であるばかりか、やってはいけない事だと西郷さんは説くのです。決められたことだけをきっちりこなしてくれる人材は必要だし、待遇改善をつきつける人材も必要なのです。人材バランスの問題だということです。
●しかし、中小企業経営において、私は1つの事を付け加えたい。それは、
「社長を中心とした経営陣は、君子のような人財でなければならない」
ということです。
●社長自身および、経営陣が「人財」であること、あるいは「人財」になるよう努力を怠らないことは、会社の命運を握る課題です。もし、経営陣がそのような陣容になっていないとしたら、それこそが、人に関する緊急課題となるでしょう。
2006年12月01日(金)更新
責任とは何か
●社内報を毎月発行している会社での話です。
●この会社では編集スタッフ2名が担当ページを分担して仕上げるのですが、毎月締切日近くになると2人とも大わらわになります。このスタッフのAさん、Bさんの仕事ぶりがとても対照的で、面白いのです。
●Aさんは、原稿依頼をした相手に何度も電話確認をし、原稿締切日までに必ず提出するよう促します。それでも送られてこないときもあるので、電話確認をした月日と時刻の記録まで残してあります。しかし、たまには原稿が揃わずに記事に穴をあけてしまい、イラストや写真でごまかすことがあるそうです。
●一方のBさんも、確認の電話を入れるところまではAさんと同じです。違う点は、締切日に原稿が届いていない人には電話取材で原稿を仕上げるか、翌日に出かけてインタビューして記事を完成させるところです。その結果、いままで一度も記事に穴をあけたことはないといいます。
●あなたならどちらの人を高く評価するでしょうか? 二人ともがんばっているのですが、それでもBさんの方を評価するのではないでしょうか。
●「自分は、やるべきことをやりました。打つべき手を全て打ちました。それでも相手が協力してくれなかったので、最終的には出来ませんでした」というのは、責任感があるとはいいません。
●仕事には、「経過責任」と「結果責任」があり、Aさんのようなタイプは「経過責任」しか果たしていないのです。自分には「結果責任」はない、と思っている分だけ無責任です。
●「いろいろありましたが、最終的には出来ました。次回以降の課題として、……という問題を解決していきます」という発言をする人が本当に責任がとれる人です。経過責任と同時に結果責任も果たしている人です。
●プロスポーツの選手や監督は結果を出さないと使ってもらえなくなります。不振が続くと、過去に偉大な業績があっても更迭されるのがプロの結果責任というものです。
●給料の高さは、責任の大きさの順でもあります。1人ひとりの仕事には明確な責任が存在するはずです。あなたの会社では、社員ごとに「いつまでにどのような状態をつくることがあなたの結果責任ですよ」という目標の共有ができているでしょうか。
●「責任をとる」という言葉の意味は、「評価を甘んじて受け入れます」ということです。「下された評価には異議をはさみません」というのが責任をとる者のスタンスです。
●人材を育成し、明日の経営者を育てていくには、このような「結果責任」のとれる仕事ぶりを教えていくことでもあるのです。
●この会社では編集スタッフ2名が担当ページを分担して仕上げるのですが、毎月締切日近くになると2人とも大わらわになります。このスタッフのAさん、Bさんの仕事ぶりがとても対照的で、面白いのです。
●Aさんは、原稿依頼をした相手に何度も電話確認をし、原稿締切日までに必ず提出するよう促します。それでも送られてこないときもあるので、電話確認をした月日と時刻の記録まで残してあります。しかし、たまには原稿が揃わずに記事に穴をあけてしまい、イラストや写真でごまかすことがあるそうです。
●一方のBさんも、確認の電話を入れるところまではAさんと同じです。違う点は、締切日に原稿が届いていない人には電話取材で原稿を仕上げるか、翌日に出かけてインタビューして記事を完成させるところです。その結果、いままで一度も記事に穴をあけたことはないといいます。
●あなたならどちらの人を高く評価するでしょうか? 二人ともがんばっているのですが、それでもBさんの方を評価するのではないでしょうか。
●「自分は、やるべきことをやりました。打つべき手を全て打ちました。それでも相手が協力してくれなかったので、最終的には出来ませんでした」というのは、責任感があるとはいいません。
●仕事には、「経過責任」と「結果責任」があり、Aさんのようなタイプは「経過責任」しか果たしていないのです。自分には「結果責任」はない、と思っている分だけ無責任です。
●「いろいろありましたが、最終的には出来ました。次回以降の課題として、……という問題を解決していきます」という発言をする人が本当に責任がとれる人です。経過責任と同時に結果責任も果たしている人です。
●プロスポーツの選手や監督は結果を出さないと使ってもらえなくなります。不振が続くと、過去に偉大な業績があっても更迭されるのがプロの結果責任というものです。
●給料の高さは、責任の大きさの順でもあります。1人ひとりの仕事には明確な責任が存在するはずです。あなたの会社では、社員ごとに「いつまでにどのような状態をつくることがあなたの結果責任ですよ」という目標の共有ができているでしょうか。
●「責任をとる」という言葉の意味は、「評価を甘んじて受け入れます」ということです。「下された評価には異議をはさみません」というのが責任をとる者のスタンスです。
●人材を育成し、明日の経営者を育てていくには、このような「結果責任」のとれる仕事ぶりを教えていくことでもあるのです。
2006年11月04日(土)更新
社長の器~太閤秀吉より
●よく、「会社は社長の器以上にはならない」と言われます。では、「社長の器」とは具体的にどんなことを指すのか。今回は、太閤・豊臣秀吉の例で考えてみましょう。
●日本史上最大の急成長組織は豊臣秀吉がつくりあげた豊臣家でしょう。尾張中村郷(今の名古屋市中村区)の農民の倅(せがれ)が蜂須賀小六と出会い、織田信長に仕えてから天下を平定するまでわずか30年。おそらく世界史でみても指折りの急成長です。
●織田家での秀吉のスタートは雑役夫で、足軽以下です。しかも、当時彼はすでに18歳。この時代としてはかなり遅いスタートでもあります。
●しかし、30年後には徳川、毛利、上杉、伊達など歴史と伝統と格式をもつ大大名を傘下におさめる巨大組織の頂点にたつのです。その間、秀吉とその組織は成長と変質をくりかえしてゆきます。
●企業でいえば、サラリーマンから個人の自営業として独立。零細企業の社長から中小企業、中堅企業の社長を経て、一部上場会社、そして日本中の会社を傘下におさめることになるのです。
●そのプロセスで秀吉の組織はどのように進化し続けたのでしょうか。
●足軽頭になった頃の部下は、数人から数十人の規模です。企業でいえば、零細企業から中小企業のトップです。一人ひとりの足軽に対して、直接指揮をとる段階といえましょう。
●やがて、墨俣築城の頃が数十人から二百人規模。元気の良い中小企業規模で、秀吉とその部下とのドラマチックなエピソードがもっとも多い時期でもあります。
●近江長浜の城主になるころには、部下が千人から三千人規模。この時期には竹中半兵衛や黒田官兵衛などの知将が部下に加わっています。さらに、加藤清正や石田三成といった小姓組織も作っています。
●企業でいえば、中堅企業から上場企業という段階ですが、織田家という親会社をもつ気楽さと大らかさをあわせもっていたようです。
●やがて、本能寺で信長が急死。その直後、天下分け目の天王山の戦いを勝ち、賤ヶ岳の合戦で勝利をおさめ、天下をとると、諸大名のすべてが部下となりました。個人的な裁量で組織を動かすことはできなくなり、規則・規定と事務官僚が組織運営の中枢を握り出すという段階です。
●さて、秀吉個人はこの間に、兄貴分からおやじに、大将から殿、やがて太閤へと呼称は変わるわけで、その都度、彼は部下のと関係や自分のリーダーシップを変えていくのに成功しているのです。
●呼称が変わるだけでなく、その時々の組織改革とみずからの変身を同時に成し遂げたところに、類をみない成功の原因があります。その変身ぶりは今日のビジネス社会でいうところの「自己啓発」などという生やさしいものではなく、命をかけた環境適応でした。
●組織が小さい段階ではお互いに気心をつかみ、規則に反するものがいても寛大。戦場で結果を出せ、といったところです。しかし、組織が巨大化し、お互いの気心がつかめなくなると、就業規則も賃金規程も必要になり、それを守らなければならなくなります。
●古参の武将からはそうした官僚的な組織運営に対する不満と若手エリートが幅を効かせることへの不信感が芽ばえるでしょう。しかし、秀吉はそうした対立への処置が実に適切でした。
●たとえば、初期の段階で役に立った猛烈社員は、天下平定後の豊臣家ではほとんど役に立っていません。しかし、俸禄で報いることで対立のバランスをとり続けたのです。
●秀吉の生涯は、強運としか言いようのないものですが、実は彼自身がものすごい成長をしていたという点に注目したいものです。
●もちろん左遷も経験し、腹を切ってもおかしくないほどの失態も演じています。しかし、もともとが尾張中村郷の水飲百姓の小せがれ、はなっから捨て身ですから陽気です。
●私たちも太閤秀吉のような変身力をもつことが、「天下平定」「目標実現」の大きな条件になっていると思います。立場や年令を超越して変身・成長できることが、社長の器ではないでしょうか。
●日本史上最大の急成長組織は豊臣秀吉がつくりあげた豊臣家でしょう。尾張中村郷(今の名古屋市中村区)の農民の倅(せがれ)が蜂須賀小六と出会い、織田信長に仕えてから天下を平定するまでわずか30年。おそらく世界史でみても指折りの急成長です。
●織田家での秀吉のスタートは雑役夫で、足軽以下です。しかも、当時彼はすでに18歳。この時代としてはかなり遅いスタートでもあります。
●しかし、30年後には徳川、毛利、上杉、伊達など歴史と伝統と格式をもつ大大名を傘下におさめる巨大組織の頂点にたつのです。その間、秀吉とその組織は成長と変質をくりかえしてゆきます。
●企業でいえば、サラリーマンから個人の自営業として独立。零細企業の社長から中小企業、中堅企業の社長を経て、一部上場会社、そして日本中の会社を傘下におさめることになるのです。
●そのプロセスで秀吉の組織はどのように進化し続けたのでしょうか。
●足軽頭になった頃の部下は、数人から数十人の規模です。企業でいえば、零細企業から中小企業のトップです。一人ひとりの足軽に対して、直接指揮をとる段階といえましょう。
●やがて、墨俣築城の頃が数十人から二百人規模。元気の良い中小企業規模で、秀吉とその部下とのドラマチックなエピソードがもっとも多い時期でもあります。
●近江長浜の城主になるころには、部下が千人から三千人規模。この時期には竹中半兵衛や黒田官兵衛などの知将が部下に加わっています。さらに、加藤清正や石田三成といった小姓組織も作っています。
●企業でいえば、中堅企業から上場企業という段階ですが、織田家という親会社をもつ気楽さと大らかさをあわせもっていたようです。
●やがて、本能寺で信長が急死。その直後、天下分け目の天王山の戦いを勝ち、賤ヶ岳の合戦で勝利をおさめ、天下をとると、諸大名のすべてが部下となりました。個人的な裁量で組織を動かすことはできなくなり、規則・規定と事務官僚が組織運営の中枢を握り出すという段階です。
●さて、秀吉個人はこの間に、兄貴分からおやじに、大将から殿、やがて太閤へと呼称は変わるわけで、その都度、彼は部下のと関係や自分のリーダーシップを変えていくのに成功しているのです。
●呼称が変わるだけでなく、その時々の組織改革とみずからの変身を同時に成し遂げたところに、類をみない成功の原因があります。その変身ぶりは今日のビジネス社会でいうところの「自己啓発」などという生やさしいものではなく、命をかけた環境適応でした。
●組織が小さい段階ではお互いに気心をつかみ、規則に反するものがいても寛大。戦場で結果を出せ、といったところです。しかし、組織が巨大化し、お互いの気心がつかめなくなると、就業規則も賃金規程も必要になり、それを守らなければならなくなります。
●古参の武将からはそうした官僚的な組織運営に対する不満と若手エリートが幅を効かせることへの不信感が芽ばえるでしょう。しかし、秀吉はそうした対立への処置が実に適切でした。
●たとえば、初期の段階で役に立った猛烈社員は、天下平定後の豊臣家ではほとんど役に立っていません。しかし、俸禄で報いることで対立のバランスをとり続けたのです。
●秀吉の生涯は、強運としか言いようのないものですが、実は彼自身がものすごい成長をしていたという点に注目したいものです。
●もちろん左遷も経験し、腹を切ってもおかしくないほどの失態も演じています。しかし、もともとが尾張中村郷の水飲百姓の小せがれ、はなっから捨て身ですから陽気です。
●私たちも太閤秀吉のような変身力をもつことが、「天下平定」「目標実現」の大きな条件になっていると思います。立場や年令を超越して変身・成長できることが、社長の器ではないでしょうか。
2006年10月27日(金)更新
あえて部下と特別な関係を結ぶ
●前号で、「才能ある部下が遅刻の常習犯。あなたならどうしますか?」という質問をしました。代表的なご意見を紹介しましょう。
◇服務規程や就業規則に違反する社員は、規定にそって罰することが組織の秩序維持には欠かせない。
◇遅れたら、その分よぶんに働いてもらえば結構だ。
◇時間を守れないのは時間にルーズな証拠。ましてや常習犯なら解雇する。
◇才能重視で考えるのなら、フレックスタイム制を検討するべきでは。
どの回答も誤りではありません。各社各様の対応策があってしかるべきでしょう。
しかし、それらの行動の前にやるべきことがあるはずです。
●前号のマガジンでご紹介したギャラップ調査によると、すぐれたマネージャーは、異口同音に次のような回答をしたといいます。
「まず、理由を聞く」
●この答えはマネージャーと部下との信頼関係をあらわしています。
「理由のいかんにかかわらず、遅刻は遅刻。つまり規則違反なので罰する」
というのではなく、まず理由を聞く。それは、甘やかすという意味ではありません。
上司と部下との間にある特別な信頼関係の重要さです。
●固定観念にとらわれて物事を考えてはいけません。この場合の固定観念とは、
◇誰であろうと規則やルールを守らなければならない。したがって、今のルールを守れない人間には、ペナルティーを課さねばならない。
◇遅刻は本人の怠慢によるもので、理由のいかんを問わず許すわけにはいかない。
◇社員は平等に扱うべきであって、個人ごとに異なる対応をしていては組織が維持できない。
これらはいかにも、もっとらしく聞こえる固定観念です。
●もちろん、単なる怠慢と甘えによってルールを破る社員もいます。それに対しては毅然とした処置が必要でしょう。しかし、その場合でもまず、理由を聞くのが先決です。
●才能ある部下、しかし遅刻の常習犯、こんな部下に理由を聞くといろいろな個人的事情がみえてきます。単なる私生活のルーズさもあるでしょう。でも、もしかすると家族の健康問題、バスの運行事情、本人の体調の問題などが隠れているのかも知れない。
●部下がもつ才能を存分に活かし、組織の目的を達成することが経営者やマネージャーの任務です。そのためであれば、捨てなければならない常識というものがあります。
●部下全員に同じような貢献を期待してはいけない。たとえば、営業課長が3人いれば3人とも異なる成果を要求して良いはずです。社員が20人いれば20通りの期待があっても構いません。それを鋳型にあてはめて画一的な評価基準を作ろうとするところに無理が生じます。
●有能な部下ほど上司に対して、特別な扱いと特別な関係を期待するのです。それを無視し、全員が同じ時間に勤務を開始し、同じ時間に終わることに価値をおく意味はありません。
●経営の現場では、欠点を是正させるような教育指導が目につきますが、中小企業やベンチャーには欠点だらけの人間が集まるものと開き直りましょう。いや、それこそ武器なのです。
●欠点をはるかにしのぐ個人的才能をもっていれば、その欠点を補う工夫をするのがマネージャーの仕事です。誤解をおそれずに言えば、社員に対しては不平等に接し、えこひいきも辞さないことが、中小企業の強みを活かすことにつながるのです。
◇服務規程や就業規則に違反する社員は、規定にそって罰することが組織の秩序維持には欠かせない。
◇遅れたら、その分よぶんに働いてもらえば結構だ。
◇時間を守れないのは時間にルーズな証拠。ましてや常習犯なら解雇する。
◇才能重視で考えるのなら、フレックスタイム制を検討するべきでは。
どの回答も誤りではありません。各社各様の対応策があってしかるべきでしょう。
しかし、それらの行動の前にやるべきことがあるはずです。
●前号のマガジンでご紹介したギャラップ調査によると、すぐれたマネージャーは、異口同音に次のような回答をしたといいます。
「まず、理由を聞く」
●この答えはマネージャーと部下との信頼関係をあらわしています。
「理由のいかんにかかわらず、遅刻は遅刻。つまり規則違反なので罰する」
というのではなく、まず理由を聞く。それは、甘やかすという意味ではありません。
上司と部下との間にある特別な信頼関係の重要さです。
●固定観念にとらわれて物事を考えてはいけません。この場合の固定観念とは、
◇誰であろうと規則やルールを守らなければならない。したがって、今のルールを守れない人間には、ペナルティーを課さねばならない。
◇遅刻は本人の怠慢によるもので、理由のいかんを問わず許すわけにはいかない。
◇社員は平等に扱うべきであって、個人ごとに異なる対応をしていては組織が維持できない。
これらはいかにも、もっとらしく聞こえる固定観念です。
●もちろん、単なる怠慢と甘えによってルールを破る社員もいます。それに対しては毅然とした処置が必要でしょう。しかし、その場合でもまず、理由を聞くのが先決です。
●才能ある部下、しかし遅刻の常習犯、こんな部下に理由を聞くといろいろな個人的事情がみえてきます。単なる私生活のルーズさもあるでしょう。でも、もしかすると家族の健康問題、バスの運行事情、本人の体調の問題などが隠れているのかも知れない。
●部下がもつ才能を存分に活かし、組織の目的を達成することが経営者やマネージャーの任務です。そのためであれば、捨てなければならない常識というものがあります。
●部下全員に同じような貢献を期待してはいけない。たとえば、営業課長が3人いれば3人とも異なる成果を要求して良いはずです。社員が20人いれば20通りの期待があっても構いません。それを鋳型にあてはめて画一的な評価基準を作ろうとするところに無理が生じます。
●有能な部下ほど上司に対して、特別な扱いと特別な関係を期待するのです。それを無視し、全員が同じ時間に勤務を開始し、同じ時間に終わることに価値をおく意味はありません。
●経営の現場では、欠点を是正させるような教育指導が目につきますが、中小企業やベンチャーには欠点だらけの人間が集まるものと開き直りましょう。いや、それこそ武器なのです。
●欠点をはるかにしのぐ個人的才能をもっていれば、その欠点を補う工夫をするのがマネージャーの仕事です。誤解をおそれずに言えば、社員に対しては不平等に接し、えこひいきも辞さないことが、中小企業の強みを活かすことにつながるのです。
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