大きくする 標準 小さくする
前ページ 次ページ

2008年04月18日(金)更新

効率的である前に効果的たれ

ドラッカーさんのおかげで、「劣後順位」という言葉がずいぶん普及しました

●私の友人の早崎速男君(仮名)は、その名の通りスピード感あふれる仕事ぶりが信条。「シューッ」といつも口からジェット音のような音を出しながら仕事をするので、仲間から「シュー」と陰口をたたかれています。
30歳になった昨年の春、念願かなって行政書士の資格をとり、個人事務所を開業しました。

●いつもノートパソコンと携帯ツールを併用する彼は、「ビジネスはスピードが命」が口ぐせ。彼と一緒にお酒を飲むときは、まず終わりの時刻を決め、議題を決めてから飲みはじめます。そして定刻になると腕時計のタイマーがなって閉会となります。ちょっとイヤな感じはしますが、それが彼のスタイルだから尊重しています。

●ある日のこと、早崎君が、私のオフィスにやってきました。開業後の成果は決して順調とは言えないようです。

早崎「武沢さん、目標の半分ちょっとくらいのペースで推移しています。もちろん満足はしていません。異業種交流会にも出席したり、経営者団体にも入会したりして人脈を拡大しています。来月からは私が主催する交流会もスタートします。今後の見通しは明るいですよ」

武沢「素晴らしいですね。ところで、早崎君の当面の優先順位を聞かせてよ」
●彼は“待ってました!”とばかりに、携帯ツールを取り出し計画を語ってくれました。それを聞く限り、彼の今後の優先順位は実に明確でした。やるべきこと、やりたいことなどが、身体全体からほとばしり出ているようです。

●そこで私はちょっと気になって、次の質問をしました。
劣後順位はなに?

●「劣後順位」とは、優先順位と逆の意味で使われます。やらないこと、やってはいけないことのリストです。目標に到達するためには、何をすべきかと同時に、何はすべきでないかということも決めておかねばならないからです。

●早崎君のスピード感あふれる仕事ぶりがいかに立派でカッコ良くても、時間管理がいかに上手であっても、お客様がいなければ成果には結びつきません。「効率的」であることと「効果的」であることとは別だ、ということです。

●「効率的である前に効果的たれ」。効果的であるためには、優先順位と劣後順位を決めて紙に書いておけ。という助言を早崎君にして差し上げました。

さて、今度彼が現れるときにはどのように変わっているのか注目です。

2008年04月11日(金)更新

もう一度思い切り仕事がしてみたい

●「ワークライフバランス」という言葉が流行っています。仕事とプライベートを調和させることが大切だ、ということなのですが、言われなくても当たり前の話だと思います。仕事に没頭するだけではなく、生活とのバランスが大切であるという意味の「ワークライフバランス」ですが、仕事の中身や質が充実していなければ、そのバランスは成立しないのではないでしょうか。

・・・
「もう一度思い切り仕事がしてみたい」
病床で井植は弟に向かってつぶやいた。でも井植には、女性に喜ばれる仕事ができたという充実感があった。
・・・

●上に紹介したのは、NHK「プロジェクトX 家電元年・最強営業マン立つ」でのラストシーンで主人公が語ったセリフです。洗濯機の開発に命を懸けた男・井植が、余命いくばくもない状況に追い込まれ、病院のベッドから外を眺めて言ったのが、「もう一度思い切り仕事がしてみたい」という言葉だったのです。
●「もっと仕事がしたかった」と言える人生ってなんて素晴らしいのでしょう。仕事の時間がそれだけ光り輝いていた証明ではないでしょうか。

●以前目にした、「ソニーの重役は他社とどこが違うか」を分析した記事を紹介しましょう。株主総会で開示された主要企業5社の役員報酬を比較した「ソニーの重役 大研究」という特集で、「週刊現代」2002/7/20号に掲載されたものです。少し古い数字になりますが、役員一人当たりの平均年収データを引用します。

・新日本製鉄     2,883万円(役員数 41人)
・三井住友銀行   2,826万円( 〃   23人)
・東芝         2,456万円( 〃   16人)
・大同生命保険   1,872万円( 〃   22人)
・ソニー        8,307万円( 〃   13人)

●ソニーの役員は少数精鋭で報酬が高くなっていることがわかります。重役出勤が許されない激務のようですが、「週刊現代」の記事は、「ソニーのような“ハッピーワーカーホリック”で大金を勝ち取るなら非難されるいわれはない。めざせ、サラリーマンの夢」と結んでありました。

ささやかな幸せには目をつむり、気力・体力・知力のすべてに全力投入を要求されるようなタフな仕事こそが面白い。一生を通してそんな仕事をし続けることはできないかも知れませんが、そうした時間がどれだけあったかが勝負です。しかもその仕事は、他人が運んできてくれるわけではありません。自ら作り出すものでなければならないのです。

●洗濯機の開発に命を懸けた三洋電機の井植のように、私たちはいま思い切り仕事をしているか、と自問してみたいものです。

2008年03月21日(金)更新

志を練る

●私はよく、「武沢さん、よく毎日メルマガが書けますね」と言わるのですが、自分では三日坊主タイプだと思っています。とてもムラッ気が強いのか、やるときには人の何倍も努力しますが、ひとたび集中が途切れると、その反動で人の何倍も怠惰になります。そして、いったんそのリズムに入ると何の仕事もしたくなくなったりします。

●もし努力家の部分だけが一生続いたとしたら、「上場会社のひとつやふたつ作って、億万長者になっていただろうな」と勝手な空想をしてしまうほどですが、不思議なことにメルマガを書くことだけは、8年間欠かさずに続けています。これは私の中の「奇跡」といってもいいでしょう。

●また、「三日坊主」とは反対に「志操堅固」という言葉があります。「志が堅い」という意味ですが、私にあてはめると、メルマガを書くことだけが志操堅固であり、他のことはほとんど三日坊主ということになるのでしょう。

●しかし、人間ってそんなものではないでしょうか。自分が大好き、かつ得意なことを本業にできたら、誰だって「志操堅固」になる可能性が高くなります。しかし、飽きっぽい人は、ちょっとした工夫がいる。その一工夫は「志を練る」という行為だと思うのです
●その昔、幕末の志士たちは墨痕あざやかに漢詩をつくり、仲間とそれを交わすことで自らの志を絶えず練っていたそうです。つまり、遊興のためではなく、志を錬磨しあうための飲み会をさかんに行っていたのです。

●禁門の変において25歳で自刃した久坂玄瑞は、松下村塾の師・吉田松陰から才能を高く評価されていました。その久坂は、長州藩士のなかでも檄文の達人としても名が通っていたようで、いくつかの過激な漢詩を残しています。以下に、「長州漢詩集」でみつけた久坂の詩を記載します。


------------------------------------------------------------
 そうあい ふみやぶる ばんちょうのやま
 雙鞋蹈み破る萬重の山

 ここのえにむかって やきんを けんじんと  ほっす
 九重に向かって野芹を獻じんと欲す

 このさい だんじ かぎりなしの こころざし
 此際男兒限り無しの志

 らんらくに ようふんを ふせしめん
 鸞輅に妖氛を付せしめん
------------------------------------------------------------
 【意味】
この草鞋で幾重に連なる山々も踏み破ってやろう。
田舎者ではあるが、人のため何かがしたくて、心は天朝に赴いている。
この国家の一大事に男児たる者、その天下の志は限りなく溢れ、神国日本に外夷の穢れなどを近づけさせはしない。


●現代に生きる私たちにとって、彼らが行っていた漢詩づくりに相当するものは何でしょうか。また、自らの志を練り上げるために何をしているのでしょうか。そうした、自らを鼓舞するために、何らかの習慣をもつことは、とても大切なことではないでしょうか

●ですから、私はメルマガを毎日書いています。毎日書くことを通じて、自分が日本の経営者に役立っていることを確認できるのです。ときどき感謝のメールをもらったりすると、ますます自分の行為に意味が感じられるようになります。これはつまり、書くことそのものが志を練るという行為になっているのでしょう

●経営者のみなさん。あなたは何を繰り返していますか?

2008年01月11日(金)更新

女神に好かれる

●プロ野球の中継を見ていると、コールドゲームのように大差で決着がつく試合が、年に数回あります。最初から一方的な展開の場合は、途中でチャンネルを替えてしまいますが、なかには中盤まで拮抗していたのに、たったワンプレイで流れが変わり、結果として大差で終わる試合もあります。

●そのような試合は、終わった後に「あのエラーがなければ…」「あの投手交代さえもう少し早ければ…」と思うもの。たった一つのプレーや采配で勝負の流れが一気に決まったとき、流れとか勢いといったものの凄さ・怖さというものを再認識させられます。

●もちろん、会社経営にも通じるものがあります。経営者としては、組織の勢いを大切にしなければなりません。さもなければ、会社を目標達成に導いてくれる勝利の女神は去ってしまうのです。しかも、一度去ってしまうとなかなか戻ってくれません。

●では、勝利の女神はどこにいるのでしょうか。私は、毎日の何気ない仕事の中に潜んでいると思っています。つまり、日ごろのちょっとした仕事ぶりが、良きにしろ悪きにしろ会社の勢いを左右してしまうのです
●決して、大々的なセールやキャンペーンだけが本当の勝負ではありません。その日その日の日常業務もまた勝負なのです。

●こんな名言があるのはご存じでしょうか?

・「革命とは車輪を回すことである」(音楽家:イーゴリ・ストラビンスキー )
・「功を奏するとどめの一撃などない。小さなステップの積み重ねだ」(リーマンブラザーズ元会長:ピーター・コーエン )
・「雨だれ石をうがつ」(日本のことわざ)

上記のいずれも「毎日の継続した努力こそが、将来の大きな成果に結びつくカギである」と教えてくれる名言です。

●そろそろお正月気分もおしまいにして、この一年に勝利するための闘争心をあらわにしていきたいものです。会社や個人の目的意識や挑戦意欲をリフレッシュし、勢いを呼び込めるような毎日を過ごしましょう。

2007年12月14日(金)更新

メンツを捨てるとき

●経営者としてのメンツ(面目、体面)にこだわるのは結構なことですが、あまり意識し過ぎると大胆さに欠けてしまい、行動が起こせなくなります。

●先日、起業準備中のサラリーマンが集まる場で講演する機会がありました。会場には多くの若者に混じって、団塊の世代とみられる方も散見されました。講演が終了し、事務局が回収した質問シートをみると、次のような質問が多く寄せられていました。

●「起業するタイミングを計っているのですが、どのような条件が揃えば成功確率を高められるのでしょうか? やっぱりある程度の資金を確保しておかないと、リスクは大きいのでしょうか?」

「私はAという新事業のアイデアをずっと温めてきたのですが、なかなか自分に対してゴーサインが出せません。『ノウハウが充分に備わっていない』と自己分析しているのですが、多少見切り発車してもうまくいくものでしょうか?」

いずれもタイミングに関するご質問でした。

●私はこうした質問を受けると、「勇気」という単語を真っ先に思いうかべます。辞書をひくと、勇気とは「何ものをも恐れない強い意気」と書かれています。現実には、恐れない経営者というのをこれまで見たことがありません。ですが、みな「恐い」という気持ちを乗り越えられるような「勇気」をもっている方ばかりでした
●起業や新規事業を起こすとき、なぜ「恐い」という気持ちになるのかというと、未知のことに一歩を踏み出すからです。仮に失敗に終わった場合、「資金がなくなるのではないか」「世間や周囲から笑われたりするのではないか」「家族に迷惑をかけはしまいか」など、誰しもその後に起こるであろう周囲の反応を心配してしまいます。

●しかし、このようなメンツを気にする迷いには、いくら時間をかけても結論はでません。打開策はただ一つ、メンツを捨てるしかないのです

●人は誰しも、自分の体面を傷つけられることを恐れがちです。しかし、あまりにこだわり過ぎると次のように考えてしまいます。
・計画通りに事を運び、カッコ良く成功したい
・みじめな姿は見られたくない
・変なヤツだと思われたくない…etc.

●そんな自尊心はあえて捨てるべきです。
・自分はかっこ悪く、たとえ泥水をすすってでも生きる
・私に失敗はない。なぜなら、何があっても絶対に諦めないからである
・私は"七転び八起き"ならぬ、"百転び百一起き"してみせる…etc.
といった考え方をチョイスするくらいでいいのです。

●歴史を見ても、一度も失敗したのない、やることすべてが成功していたという人はいません。釈迦も孔子もキリストも、生きている間は乞食同然の生活をして、外からみれば格好悪かったではないですか。個人生活でもビジネスでも、挑戦した結果として残るのは、達成の記録であって失敗の残骸ではないのです

●ユニクロが野菜事業に失敗し撤退を決めたとき、柳井社長は次のように言いました。
「当社の野菜事業が失敗した理由を振り返ってみれば、ノウハウも人材も資金も揃っていたからだ」
何とも皮肉で、含蓄のある言葉ではありませんか。

「無い無いづくしの状態からでも成功してみせるといった勇気さえあれば、それだけを頼りに多少見切り発車しても大丈夫」と私は思います。そのためには、まずメンツを捨てることからはじめましょう。
«前へ 次へ»