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専務号泣

投稿日時:2008/09/29(月) 19:03rss

●ある日のことです。住宅資材商社であるM社の経営方針発表会に参加しました。
M社のM専務は、私が開催した経営セミナーの修了生で、彼の会社の成長ぶりには以前から関心があったので、喜んで出席することにしたのです。

●このM専務(33)には、同社の社長でもある父がいます。見たところ大変若く、あとで65歳と聞いてびっくりしたのですが、人をそらさぬ見事な人格者のようでした。また、これまでは業界の成長とともに、父の代で会社を大きくしてきたのですが、そろそろ専務体制にシフトしていきたいという様子もうかがえました。


●M専務は入社5年目で、それ以前はハウスメーカーで営業の仕事をしていました。弁舌さわやかで勉強熱心な人ですが、若さと社歴の浅さからか、まだまだ社内のベテラン職人さんたちを率いていく力が空回りしているようにみえました。

●そのような状況の中、今年の発表会では、初めてM専務が一人で作り上げた経営方針書を発表するというのです。はたしてどの程度受け入れられるのか、あるいは総スカンを食ってしまうのか、私もドキドキしながら席につきました。

事業承継をするときは、新しいリーダーと従業員の間で信頼関係を築き上げることができ、社内が一丸となって目指す方向に進んでいけるかどうかが、非常に重要です。おそらく、この経営方針発表会でM専務の力量を試すことも、社長にとって目的の一つだったのでしょう。
●名古屋市内の某ホテルで行なわれた発表会の参加者は、全従業員10数名と来賓数名。司会はM専務の奥様でもある総務部長です。社長あいさつ、来賓の紹介と進み、いよいよM専務による方針の発表がはじまりました。

●私は来賓なのになぜか最前列の真正面だったので、彼の息づかいの様子が手にとるようにわかったのですが、彼は最初こそ緊張していたものの、やがて落ち着いていきました。
そして10分もしないうちに、緊張がとけてふだんの彼になり、徐々に興奮気味になっていきました。「うちの会社は変わらねばならないんだ~」と最後の方は、完全にハイテンションでした。

●そして、いよいよラストの締めくくり、という段階になって異変がおきました。
「最後になりますが…。ああ、ごめんなさい…。ちょ、ちょっと失礼。あ、ダメだ。…フー。どうしたんだろ…。あ、ごめんなさい。」

やがて、M専務は天井を見上げました。そして両方の目尻からスルスルと涙がこぼれ、頬を伝いました。やがて、声をあげて号泣しはじめました。
あまりに突然のことで、周囲も私も最初はきょとんとしていましたが、30秒、1分と彼の泣き顔をみているうちにこちらまで感極まってきました。

●彼はついに結びの言葉を言うことができず、お辞儀だけで発表を締めくくりました。そして、来賓の言葉ということで私の出番になったのですが、こちらももらい泣きしてしまっていたので、自分でも何をお話ししたのか覚えていません。

●懇親会のときM専務は私にこう言いました。

とにかく、社員のみんなにお礼を言いたかった。『ふだんから出来の悪い自分をカバーしてくれてありがとう。それに、ふだん足を引っぱっている自分が、前で偉そうなことを言って申し訳ないという気持ちと、うちの会社を辞めず、毎日朝早くから夜遅くまで働いてくれて本当にありがとう』という気持ちが入り混じって、みなさんに無様な格好をお見せしてしまいました」

●あれから数年経ちました。彼の会社は今完全にM専務体制になり、新しいリーダーのもとで社内が一丸となってとてもムードが良いそうです。こういう誠実な姿勢が言葉を越えて互いの信頼関係を作っていくのだと思います

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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