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2007年03月30日(金)更新

五省(ごせい)

●前号では日報の五つの目的について、実例を交えてご紹介しました。会社におけるホウレンソウ(報告・連絡・相談)のツールとして、日報は大切な役割を担っているのです。

●さて、今回は他人のためのホウレンソウではなく、“自分自身のなかにいる最良の自分”に対するホウレンソウというものを考えてみたいと思います。

●ある日のこと、私は広島県西部にある江田島市を訪問しました。明治時代中頃から第二次世界大戦が終わるまでの間、この地には海軍兵学校が置かれていました。「イギリスのダートマス」「アメリカのアナポリス」と並らんで「日本の江田島」が三大海軍学校として世界に知れわたっていた時期もありました。

●わが国における海軍の歴史は、1869年(明治2年)に海軍操練所が開設されのがはじまりです。その後、海軍兵学校と改称。兵学校が江田島に移転されたのは、1888年(明治21年)のことでした。現在この場所は、海上自衛隊幹部候補生学校、第一術科学校になっています。

●さてこの江田島の学校を見学した際、「五省」と書かれた文章を発見しました。その内容は、次のようになっています。

一.至誠に悖る(もとる)なかりしか
一.言行に恥ずるなかりしか
一.気力に欠くるなかりしか
一.努力に憾み(うらみ)なかりしか
一.不精(ぶしょう)に亘(わた)るなかりしか
●この「五省」を定めたのは明治15年当時の海軍学校校長・松下元少将です。松下校長は、当時の世相を鑑みて、将来海軍将校となるべき兵学校生徒に対し、日々の行為を反省させ、明日の修養に備えさせるためにこの五箇条を制定したといいます。

●「五省」の意味はこうです。

一、至誠に悖(もと)るなかりしか・・・真心に反するようなところはなかったか
一、言行に恥ずるなかりしか・・・自分の発言や行動に恥じるべきところはなかったか
一、気力に欠くるなかりしか・・・惰性ではなく、気力に満ちていたか
一、努力に憾みなかりしか・・・最善の努力をしたか
一、不精に亘るなかりしか・・・妥協や手抜き、自己満足に陥ることはなかったか


●毎晩、自習終了五分前になると「G一声」のラッパが鳴り響きます。すると、生徒はみなすばやく書物を机の中におさめ、粛然と姿勢を正します。当番の生徒が「五省」の五項目を読み上げる。生徒は瞑目して心の中でその問いに答えながら、その日一日を自省自戒するそうです。「自習やめ、解散」のラッパが鳴り響くまでの五分間が「五省」の時間です。

●終戦後に来日した米国海軍のウィリアム・マック海軍少将がこの「五省」に感銘を受け、自国に持ち帰り翻訳しました。それは現在でも、アナポリスの海軍兵学校で利用されているといいます。もちろん、現在の海上自衛隊幹部候補生学校、第一術科学校でもこの伝統が受けつがれてるそうです。

●ちなみに英語で「五省」は、こうなります。

Five Reflections Japanese Imperial Neval Academy
 
1.Hast thou not gone against sincerity?
1.Hast thou not felt ashamed of thy words and deeds?
1.Hast thou not lacked vigor?
1.Hast thou exerted all possible efforts?
1.Hast thou not become slothful?

●私たちも、内なる自分と対話するために、この「五省」を活用しようではありませんか。

2007年03月23日(金)更新

日報を社員教育ツールに

●「武沢さん、うちはホウレンソウ(報告・連絡・相談)がまったく出来てないんです。とくに日報は、何回言っても出してこない。あきれちゃうんですわ。他社さんはどうやってるんですか?」
 とぼやく建設会社のA社長。たしかに、日報の不徹底に悩ましい思いをしている経営者は多いようですが、あえて私はA社長に「なぜ、日報が必要なのですか?」と聞いてみました。

●すると、次のような回答が返ってきました。
「日報とは働いたことを証明をするものであり、従業員の義務でしょ。経営者は日報を見て、仕事の流れを把握するものであり、これがなければ誰が何をやっているかわからない」
たしかにその通りですが、残念ながら「50点」の回答と言わざるをえません。

●日報の活用法やスタイルなどは各社各様ですが、うまくいっていない会社では、日報の目的をはき違えているか、運用の仕方に問題がある場合が多いようです。そこでもう一度、日報の目的を確認してみましょう

●日報の効用をまとめると、次のようになります。

1.上司に対してその日にあった出来事を報告・連絡・相談するためにある
2.上司に対してその日の実績を報告するためにある
3.上司から本人に対してタイムリーな指導や教育をするための情報源である
4.上司が各部署や全社の状況を把握し、今後の対策や方針を決めるための情報源である

●ここまでのことなら、読者のみなさんはすでに理解しているかも知れません。そこで、事例を交えつつ、日報の戦略的な活用法をもう少し突っ込んで研究してみましょう。

●ある生命保険代理店に腕利きのマネジャーがいると聞きました。普通の成績の営業マンがこのマネジャーの部下になったとたん、半年もしないうちに営業実績が上がりだすそうです。このマネジャーの部下指導法のどこかに学ぶべきポイントがあるのではないかと思い、彼のもとに出向きました。

●あいにくマネージャー氏は不在でしたが、部下の営業マンから興味深い話が聞けました。

うちのマネージャーはものすごい質問魔なんです。マネージャーが同行してくれて営業に出向くと、恒例行事がある。お客さんとの商談終了後には必ず5分以内にファミレスか喫茶店に入るのです。そして、根ほり葉ほり質問攻めされるのですよ。この前なんかは、お客さんと会っている時間より長くなっちゃいました」

●どんな質問をされるのかを尋ねると、次のような問いかけが続くのだそうです。

・「さっき面談したお客様のニーズは何か?」
・「商談の中でお客様が決算資料を見せてくれたけど、あれはどういう意味だと思うか?」
・「最初の数分間、お客様は不機嫌そうだった。そんな時、君一人だったらどんなことに注意するか?」
・「お客様は商談中に一度も時計を見なかったと思うが、君は何か気づいたか?」
・「この商談を成功に導く最大のポイントは何か?」
・「この商談が失敗に終わるとしたら、それはどんな時か?」

●恐るべし、マネジャー氏。これぞまさしく「追体験」なのです。わずかな商談時間の中にも無数の学習ヒントがあります。それは商談直後の生々しさがあるうちに反芻、確認されるべきなのです。

●商談の成功失敗に一喜一憂するのではなく、部下の経験を確実な学習機会にしようとするこのマネジャーの姿勢に、学ぶべき点は多いのです。

●さて、今日の主題は日報なのですが、もうおわかりでしょう。マネジャーの追体験教育そのものが日報の目的なのです。一日の仕事の中から何を感じ、何を学び、何をなすべきかを振り返る作業こそが、日報を書くという行為です。

●先ほど、私は日報の目的として次の四つをあげました。

1.上司に対してその日にあった出来事を報告・連絡・相談するためにある
2.上司に対してその日の実績を報告するためにある
3.上司から本人に対してタイムリーな指導や教育をするための情報源である
4.上司が各部署や全社の状況を把握し、今後の対策や方針を決めるための情報源である

●そして今、ここにつけ加えるべき日報の目的には、

5.一日の仕事を振り返り、明日の成果と成長につなげる学習機会とするため本人と上司がコミュニケートするためにある

という項目を加えるべきでしょう。

2007年03月16日(金)更新

客離れ対策

●ある印刷会社の経営者との会話。

武沢:「客離れが目立つようになったという事ですが、理由は何でしょうか?
社長:「最近は経営者の世代替わりが進んで、以前からうちと取引実績があるにもかかわらず、簡単に他社に乗り換えられてしまう。薄情なもんですよ。」
武沢:「どのような対策をたてておられますか?」
社長:「相手の世代にあわせて、当社も後継者か若い担当者をつけることで対応しています。信頼関係ができるまでには時間がかかりますからね。」

これだけの発想では、少々的はずれの努力と言わねばなりません。

●過去の取引実績が、未来の取引を保証してくれるものではありません。そのことは、この印刷会社の社長も充分承知しています。事実、この会社でも長年のつきあいがあった近所の原材料納入業者を、ネットで見つけた安い業者に切り替えたばかりです。

仕事における信頼関係とは、担当者同士の人間関係で決まるものではありません。ましてや、社長同士の交友の有無で決まるものでもないのです。仕事の中身で決まります。中身とは、顧客の側からみた満足度や価値なのです。

●私たちは、新しく買ってもらうための努力は一生懸命しますが、それに比べてこれからも買い続けてもらうための努力は軽くなりがちなもの。

●ある保険代理店は、顧客に対して毎年一回、手紙に沿えてレポートを添付しています。そのレポートには、顧客の契約保険の内容と、その保障内容や特長がわかりやすく箇条書きにされています。こうしたフォローのおかげで、顧客は、なんのためにこの保険に入ったのかを再確認でき、契約の更新率が上がるだけでなく、新規の保険購入という面でも実績につながっているといいます。

●また、ある食品販売会社では顧客を工場に招待し、その衛生管理の徹底ぶりや食材へのこだわり、化学物質無添加などを訴えています。バス旅行も兼ねて無料招待しているので、毎月一回のこの企画は絶えず満席だそうです。

●こうした話を講演で話したところ、住宅建材販売の経営者から、こんな質問を受けました。
「当社では社長の人脈だけに頼った客先開拓をしてきて、これといったウリモノがないのです。どうすれば良いのですか?」
 そこで、私はこう答えました。
「あなたの会社のウリモノが何なのか、再検討しましょう。できれば、それをお客様の側からみたゴリヤクで表現しましょう

●最初は社長の人脈で営業できた相手とはいえ、顧客からみれば何らかのゴリヤクがあったはずです。それがあなたの会社の本質的なウリモノなのです。

マーケティングを成功させる第一のキーワードは、「総合化」と「専門化」。関連製品やサービスや総合化することで顧客満足を高める作戦です。逆に、製品やサービスを特化し、顧客満足を高める作戦もある。名古屋のある印刷会社では何年も前から、「社内報」制作に特化したサービスを展開し、全国から注目を集めています。

●まずは、総合化の道を歩むのか、専門化の道を歩むのかを決めましょう。

第二のキーワードは、「市場」と「ウリモノ」。第一と第二のキーワードを組み合わせて考えると、4つの選択肢が生まれます。

1.「市場」と「ウリモノ」をともに「総合化」する作戦
2.「市場」と「ウリモノ」をともに「専門化」する作戦
3.「市場」を「総合化」し、「ウリモノ」を「専門化」する作戦
4.「市場」を「専門化」し、「ウリモノ」を「総合化」する作戦

●経営コンサルタントを例にとれば、こうなる。

1.とは、あらゆる業界を対象にしたあらゆるコンサル活動
2.とは、特定業界に向けた特定メニューのコンサル活動
3.とは、あらゆる業界に向けた特定メニューのコンサル活動
4.とは、特定業界に向けたあらゆるコンサル活動

●こうして見てくると、冒頭の印刷会社の対応が的外れであることがおわかりでしょう。そして今、成長している会社は、ウリモノの矛先がしっかりとんがっているのです

2007年03月09日(金)更新

コントロール係数<その2>

●前号の続き「コントロール係数」について取り上げます。改めて、「コントロール」可能な出来事と、「コントロール」不可能な出来事とを整理してみましょう。

●まず、「コントロール」という言葉の意味は、"自分の意思で結果を左右できる能力"のことでした。思った通りの場所へボールを投げることができるピッチャーのことを「コントロールがいい」と言いますが、それと同じ意味です。

●一方、起きてしまった出来事を受け入れ、そこから最善の対応を素早くとれる能力のことを「マネジメント」と言う、とも説明しました。

●つまり、経営の仕事とは、「コントロール」と「マネジメント」という2つの力の“和”を高めることでもあるわけです。

◇コントロール可能・・・自分自身とその未来
◇コントロール不可能・・・天候やアクシデント、社会現象、それに、過去
◇中間・・・他人(顧客、上司、部下、家族)や世の中

といったところでしょうか。

●自分が決めた目標をきっちりと達成しようとしたら、未来に対するコントロール係数を高めていかねばなりません。そのためには、粘り強さが必要になります。

●たとえば、営業という仕事を例にして考えてみましょう。目標が未達に終わった営業マンは、達成した営業マンと違ってサボっていたのでしょうか? サボっていた人もいるかも知れませんが、それがすべての理由とは思えません。

●『成功哲学』の著者ナポレオン・ヒルは、「大多数の人間が失敗するのは、失敗した計画に勝る新しい計画をたてるだけの粘り強さに欠けるからである」と語っています。この理論をそのまま当てはめるなら、未達成の営業マンは、よりよい計画作りをする粘り強さに欠けているということになります。

●部下の販売実績が計画を下回ったときには、その原因を尋ねてみましょう。いろいろな返答が返ってくるでしょうが、“自分の中に原因がある”ときちんと受け止めているなら、見込みがあります。もし、そうでなければ、実績が上向く可能性はありません。これこそが、結果をコントロール可能とみているのか、そうでないのかの違いなのです。

●計画未達の営業マンから返ってくる典型的な回答を分析してみましょう。

1.「どの客先も要求が厳しく見積もり負けします」
  これは、売れない理由を景気や他社のせいにしており、自分ではコントロールできない、と表明しているようなものです。そこから脱却して、具体的に自分はどうしたいのかを考えることによって、コントロール係数は上がるでしょう。
  
2.「うちの商品では他社に太刀打ちできません」
  売れない理由は自社製品の競争力のせいとしています。これも、計画未達は自分のコントロール圏外の問題、と言わんばかりです。

3.「今までの売り方が通用しなくなってきました。新しい作戦を考案する必要があります
  計画未達を自分自身もしくは、自部門の問題ととらえています。ここからは、結果をコントロールしようという姿勢が感じられます。
  
●もちろん、うまくいかない原因を頭の中でじっくり考えることも大切ですが、膨大に試してうまくいったものを残すという、エジソンの発明手法も参考になります。

●いずれにしろ、未来に対するあなたのコントロール係数を高めることが目標達成への精度を上げることにつながるわけです。ぜひ、主体的にこのテーマと格闘していきましょう。

2007年03月02日(金)更新

コントロール係数<その1>

●世の中には、自分一人の力で結果が出せることと、一人の力ではどうにもならないことがあります。この二つの分かれ目となるキーワードを、仮に「コントロール係数」と呼ぶことにしましょう。

●「コントロール係数」が100%とはどのようなことかと言うと、自分一人の力によって思い通りに事態を変えられるということです。たとえば、あなたの行動はあなた一人の意志で動かすことができるでしょう。お昼に何を食べるか、夜は何時に就寝するか、明日の朝は何時に起きるか、などはあなたの自由意志で決められますから、「コントロール係数」は100%といえます。

●逆に、あなた一人ではどうにも変えられない状態を「コントロール係数」0%と言います。たとえば、今日の電車が時刻表通り動いているか、お天気はどうか、ドルの為替相場は今後どうなるか、といったことは、あなたの意志や努力ではどうにもなりませんから、「コントロール係数」は0%です。

100%と0%は比較的わかりやすいのですが、問題はその中間です
たとえば、以下の文章の~に「コントロール係数」を当てはめてみてください。
・あなたの部下の~は?
・あなたの伴侶の~は?
・あなたの子どもの~は?
・あなたの会社の今期業績の~は?
・10年後のあなたの会社の~は?

●ところで、経営に関することの大半は、これら「コントロール係数」が1%以上100%未満の間にあると言ってもよいでしょう。
●「一寸先は闇」という言葉がありますが、この言葉の本当の意味は「未来は闇のように暗い」という意味ではなく、「未来は闇の中にあるようにわからない」という意味です。

●未来の会社も未来の私も、「闇」の中にあるのは誰にとっても同じなのですが、濃淡のアミがかかっているようなもので、アミ100%の人は文字どおり真っ暗なのです。ですから先のことは皆目見当がつかないはずです。

●濃淡のアミ50%の人は半分くらいは見えるが半分はまったくわからない人。アミ10%の人はかなりよく見える人ということです。

●「コントロール係数」が高い人とはアミが薄い人なのですが、誰もがアミがかかっているという事実には変わりありません。そして、経営という仕事はこのコントロール係数をいかに高めていくかという勝負ではないかと思うのです。さらに言えば、コントロール不可能な出来事への対処能力をいかに高めるか、ということも経営上の大きな課題です。

●「コントロール」とは反対の意味で使われる言葉に、「マネジメント」があります。マネジメントとは、起きてしまった出来事にどれだけ上手に対応できるか、つまり「状況対応力」のことを指すのです。

●言葉の意味を整理すると、以下のようになります。

・コントロール・・・自分の意思で結果を左右できる能力のこと
・マネジメント・・・起きてしまった出来事を受け入れて、そこから最善策を素早くとる 能力のこと

●そこで提案です。経営者としてまず成すべき事は、「コントロール係数」100%の分野に関心を集中させることです。間違っても、「コントロール係数」0%のことに時間やエネルギーを浪費してはなりません。

●もちろん、部下に対しても、同じように指導しましょう。部下も自分でできることに専念しなければならないのです。

●次号では、私たち自身の生産性を高めることに的を絞って、「コントロール係数」の応用方法について考えていきしょう。

<次号につづく>

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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