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2007年07月27日(金)更新

顧客満足は誰のため

●夏本番、もうすぐ高校野球も夏の甲子園大会が始まります。今年はどこが優勝するのでしょうか。今年の春の大会で準優勝したのは、希望枠で出場した初出場の「大垣日大高校」でした。私の出身地である岐阜県の大垣市から、甲子園出場校が出ることはまれなのですが、それが優勝候補の強豪を次々に撃破して準優勝を飾るというのは、奇跡のようでもありました。

●大垣日大高校の監督は、愛知・東邦高校時代に名将として知られた阪口慶三氏(62)です。東邦を定年退官されるのを機に、大垣日大高校が招聘しました。阪口監督が就任してから二年目の春で甲子園に出場した大垣日大高校は、「とにかく楽しめ、笑え」を合い言葉に笑顔のハツラツ野球でも甲子園を湧かせました。

●大垣市民にとっても、オラが町の高校が準優勝するというのは、「椿事」(ちんじ)です。しかしその椿事は、阪口監督を招いた同校の校長以下が、足並みを揃えて「本気で甲子園に行きたい」と思ったところからスタートしているのです。

●ひとりの名監督を招聘するということは、監督の人件費だけがコストになるのではありません。名監督であればあるほど、校長の本気さと協力体制を見極めるため、学校側に練習環境の整備から選手獲得まで、多岐にわたる要求を突きつけます。

●そうした障壁を乗り越えつつ、学校側も監督も本気の姿勢を見せることで、球児たちにもその気持ちが伝わります。なにせ、「甲子園」の経験がない学校ですから、本気で自分たちが甲子園に行けるとは思っていない生徒が多いはずです。そのような状況の中、監督に就任してから、わずか二年で準優勝という快挙には、驚かざるを得ません。組織はリーダー次第なのだと改めて痛感しました。
●そんなある日、友人が次のような話を聞きました。

●高級ホテルとして世界的にも有名な某ホテルが、東京進出を果たしました。ホテル好きの彼は、さっそくそのホテルに宿泊したのですが、ドアマンやフロントマン、レストランやベルボーイなど、すべての対応が良くできており、その極上のサービスに感動したそうです。その半年後、今度は家族も連れてそのホテルに宿泊したところ、その時のサービスは、前回のような「特上」ではなく、「やや上」程度のサービスに低下しており、彼はがっかりしたというのです。

●なぜだろう、と調べてみたら、この半年間でホテルのマネジャーが変わっていました。通常ホテルが外国進出を果たすときは、そのホテルグループのトップクラスのマネジャーを送り込むそうです。なのでその時期に訪れたゲストの大半は、特上のサービスを堪能することができます。しかし問題は、腕利きマネジャーが帰り、次のマネジャーに交代してからです。そのホテルでは、本来落ちてはならないはずの接客のクォリティが、落ちてしまったのです。

●もちろん、ホテルで働くスタッフは変わっていません。マニュアルも同じはずです。マネジャーの存在を除いては何一つ変わっていない。しかし明らかに接客レベルは低下し、同時に顧客満足度まで低下してしまいました。

●ここにリーダーの威力があります。残念ながら従業員の仕事ぶりというものは、上司が期待している水準以上には、なかなか上がらないのです。まして、部下から見て尊敬できない上司、嫌いな上司であれば、許容水準ギリギリの仕事しかしなくなるでしょう。

●以前のマネジャーのように、誰からも尊敬されるような上司であれば、その上司を喜ばせたい一心で最高のサービスを部下もするはずです。つまり、顧客満足の向上の背景には、上司を喜ばせたい、上司に認められたいという欲求が潜んでいることを見逃してはならないのです。

●私は、阪口監督の一件とホテルの一件から、次の結論を得ました。

・上司は、「甲子園へ行くぞ!」と選手を燃え上がらせた監督のように、部下の能力よりも高い水準の仕事を要求すること
・「監督を喜ばせたい、監督に認められたい」という選手のメンタリティを見習って、部下と濃密な信頼関係を築くこと

この二つが、上司に求められる大事な資質なのです。

2007年07月20日(金)更新

仕事の懐石料理化

●先週、北海道の知床に旅行してきました。野生のエゾシカやヒグマ、キタキツネなどが棲息していて、大自然のなかで動物と人間が一緒になって生活している様子が感じられ、とてもリフレッシュできました。実際に、目の前でシカやキツネの写真も撮ることもできました。

●今回の旅で、一番印象に残ったのは料理でした。北海道へ年二回は行っている私ですら感動する魚介料理。道東は、ウニやカニなどの北海道ならではの魚や、野菜に恵まれており、知床の旅館でいただいた夕食は「過去最高」だったかもしれません。

●ちょうどハイシーズンに入りだしたのか、旅館はとても混んでおり、夕食会場は満席の状態。和食の懐石料理だったので、出てきた皿を平らげた頃に新しい皿が来るのですが、混雑のせいか、なかなか食べ終わった料理皿を片付けてくれません。

●幸い大きいテーブルなので気にしませんでしたが、食べ終わる頃には並んだ皿の多さにビックリしました。「こんなにも平らげたのだ~」という満足感と、「大食漢だなぁ」という嘆き。もし、最初からドーンと全部の皿がテーブルに乗っていたら、いくつかは残していたでしょう。小分けに出てくるからこそ、完食できたのです。

●その時私は、次の出来事を思いだしていました。

●N社長(41才)は内装工事を専門に請け負う会社の女社長です。6名の社員も全員女性で、独特の感性を武器にしているために、ゼネコン・サブコンからの信頼が厚く、業績も安定しています。

●その一方で、NさんにはTO-DOリストが増える一方だという悩みがありました。最近は、仕事がちっとも減らず、毎日夜遅くに仕事を終わらせても、「やった~」という達成感が味わえなくなっているというのです。
●「やるべきこと」や「やりたいこと」は、愛用のパームPCに全て入力してあるそうです。そうしてTO-DOを管理し、一日あたり数項目のリストを消化しているのですが、それを上回るリストが毎日追加されていくということでした。先日TO-DOが一体いくつあるのか数えてみたところ、プライベートなものを含めて500以上あったそうです。

●私のTO-DOの何倍もあったので、「それはおめでとう」と冷やかそうとしましたが、Nさんの真剣な表情を見て、ジョークは控えました。その後の二人の会話は、以下のようなものでした。

N氏:「助けて下さいよ、武沢さん。忙しいのは歓迎なのですが、時間管理がメチャクチャです。」
武沢:「秘書でも雇ったらどうですか?」
N氏:「えっ? 秘書ですか?」
武沢:「そうです。あなたが秘書を採用するとしたら、どのような秘書を雇いますか?」
N氏:「以前、秘書検定の勉強をしたことがあるのですが、ビジネスマナーとか接遇とかの一般的な内容でしたので、有能な秘書像が思いつかないのです。私が楽になるようなマネジメントをやってもらえたら助かりますねぇ。」
武沢:「社長が楽になるようなマネジメントって、具体的には?」
N氏:「よくテレビで出てくる有能な秘書みたいに、社長が目の前の仕事に集中できるように関係者との予定調整や諸連絡、雑用などを全てやってくれることですかね。」
武沢:「それは何のために?」
N氏:「社長が常に優先順位の高いことだけをやれるようにするためでしょう。今の私は、本来自分がやるべきじゃないことまでたくさんやっているような気がして・・・。」
武沢:「なるほど。では逆に、最悪な秘書とはどのような秘書だと思いますか?」
N氏:「外部から頼まれた仕事を何でもすべて引き受けて、社長の時間を混乱させるような秘書でしょうか。」

●さすが秘書の勉強をされたというN社長、本質をよく理解しておられます。社長がやるべき事に専念できる時間を、いかに作り出すかが秘書の腕のみせどころです。無能な秘書は、社長のスケジュールを予定で真っ黒にするでしょう。

社長は、まず自分自身の有能な秘書でなければならないのです。旅館の懐石料理を思いだしてください。出される一皿ずつを食していく方が、満足感を得ながらたくさんの料理が食べられます。

●自身の仕事を懐石料理化しましょう。そのためには、朝昼晩10分ずつだけでも、立ち止まって考える時間を作るべきです。その時間で仕事の目標や予定などを確認し、TO-DOリストをメンテナンスすることで、以後の仕事がコントロールできるようになるのです。

2007年07月13日(金)更新

禁止・抑制・義務

●先日、私のメタボを見かねた友人が、『BOOCSダイエット』という本を贈ってくれました。その中には従来のダイエット法とは違って、大脳に直接アプローチして脳を癒すことで肥満を解消する、といった内容が書いてありました。その根底にある2つの原理と3つのルールがなかなかユニークなので、ご紹介しましょう。

○2つの原理
・自分の嫌いなことをしない(禁止・禁止の原則)
・自分にとって快いことをする(快の原則)

○3つのルール
・たとえ健康によいことであっても、嫌いなことは決してしない
・たとえ健康によくないことでも、好きでたまらない場合は、とりあえず禁止しない
・自分にとって快く、かつ健康によいことをする

●さらに本文には、
「これを踏まえて1日に1食は好きなものを好きなだけ食べてもOKです。我慢して苦しい思いをせずに、食べる楽しさや食事のおいしさを満喫しながら、ダイエットによるストレスを減らし、自然とやせるカラダを手に入れましょう」とありました。

●意志の力よりも数倍強い、本能の力を味方に引き入れることで、ダイエットしようという作戦なのですが、これらの原理・ルールは、経営や人生に積極的に応用するべきでしょう。
●私たちは失敗しないために努力するのではなく、成功するために努力するのです。「○○したい」という内的な欲求があるからこそがんばれるのであって、決して「××したくない」という恐怖感や外的要求に屈してがんばるのではありません。

●先日、『2007年版新規開業白書』を見ていたら、すこし気になるデータがありました。「開業にふみきった直接のきっかけは?」という問いに対する回答内容だったのですが、そのなかで第一位の理由(20.4%)は、「勤務先に不満・不安があったから」というものでした。

●「○○したい」という積極的な理由ではなく、「このままでは不満や不安があるから」という消極的な理由で開業する人がトップであるということに対し、懸念せざるを得ません。

●もしかすると、背景には団塊の世代をはじめとする中高年が、一気に定年をむかえるという事情があるのかもしれません。ですが、「年金だけでは足りないから、やむなく開業した」というネガティブな理由では、開業してもうまくいきません。「○○したいから開業した」というポジティブな方向に自らを変えていく必要があります。

●経営者も同じです。事業計画書や経営方針書を毎年作るのは、「○○したい」という目的や目標を、いつも最新の状態に保つためです。冒頭のダイエットの原理と同じく、あなたの本能の力を味方にするような、モチベーション管理を行う必要があるでしょう。

●BOOCSダイエットの本には、「××したくない」「△△せねばならない」という禁止や抑制、義務感がたくさんある毎日を送っていると、「脳疲労」という現象を起こす、とありました。大切なのは、自分に厳しいだけではなく、時には脳に優しくしてあげることなのです。

2007年07月09日(月)更新

脱・ボヤキ

●かつてお笑いで、「責任者 出てこ~い!」などといった"ボヤキ漫才"が人気でしたが、今でもボヤくという行為には、プロ野球の"ボヤキ監督"やサッカーの"ボヤキ解説者"などに見られるように、一定の人気があるようです。

●利害関係のない者にとっては、ボヤキを聞くのも悪くないのですが、ボヤかれた当事者にとっては、たまったものではないでしょう。

●「またあいつか。武沢さん、うちのA社員にはホトホト手を焼いているのですよ。」などと、部下への不満と憤りを、ところ構わずぶちまける社長がいる一方、そうした個人批判をほとんどしない社長もいます。

●統計を取ったわけではありませんが、社長が社員の不満を言わない会社ほど、人材が定着して育っていき、組織的な経営が可能となっているようです。
●もちろん人間ですから、誰だって部下の仕事に対して、多少の不満はあるに違いありません。社長からみれば、下手な仕事をされるより自分がやった方が、早くかつ上手にできるという気持ちになる時だってあることでしょう。

しかし、会社は社長の下請け集団ではありません。ある分野においては社長よりも能力がある社員を仲間に引き入れ、理念と夢の実現にむけて共同で向かっていくのが会社です。

●したがって、創業時にありがちな「俺についてこい」「俺を手伝ってくれ」方式のリーダーシップでは、優秀な社員は定着しません。徐々にではありますが、組織づくりのためのリーダーシップに方向を変えていく必要があるのです。

●「組織づくり」はすなわち「人づくり」です。社長自身の「人材育成力」を開発していかねばなりません。

●会社の規模が小さいうちは、その社員が「好きか嫌いか」というのが、重要な採用ファクターだと思います。もし、生理的に好きになれない社員を採用してしまったら、その社員がミスしたときに、指導より攻撃が先になってしまうでしょう。だから、好きな人を入れるのは大切なことです。

●しかし、「好きか嫌いか」という採用基準は社員数が10名までのこと。それ以上になると、別のファクターが求められます。それは、価値観が共有できるかどうか、仕事ができるかどうか、です。

●社員数が二桁や三桁になる頃には、社員を思いのままに使おうというのはやめ、目標や規律が自分たちの共通の絆となるよう、リーダーシップを切り替える必要があります。

●特に中小規模の会社には、個性あふれる人材がたくさんいます。オール4の優等生タイプを使うのは大企業にまかせ、多くの1や2に混じって一個だけ5があるといった、大企業に入れず在野にあふれている人を、上手に使っていくのです。

そういう人を採用し、定着させ、人材として活用していくためには、社長にも粘り強い指導力が必要です。感情をぶちまけたり、ボヤいたりするのは我慢して、長所を誉めて伸ばすという心構えを大切にしましょう。

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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