大きくする 標準 小さくする

2009年07月24日(金)更新

私たちはハイポニカ

●あまり目に見えないのでわかりにくいのですが、農業の生産性は、品種改良や技術改善などの成果により、年々向上してきています。しかし、それを上回るペースで地球人口の増加や環境汚染が進行しているため、農家の必死の努力にもかかわらず、食糧危機は避けられる見通しにはなっていません。

●そこで、根本から発想を変えた革命的農法として誕生したのが「ハイポニカ」と呼ばれる農法です。ハイポニカは、“土”が農業における障害の1つであると考えました。大地を媒体とする限り、植物の生産には制限があるということがわかったのです。農業は土作りにあるといわれ続けていますが、土作りはプロでも大変難しいものです。

●土には「空気を保持しにくい」とか、「根の伸長に対して抵抗になる」などの諸問題があります。そこで、ハイポニカは土ではなく水に活路を求めました

●従来の農法と根本的に違うため、新しい生育技術を備えなければなりませんでしたが、その結果は驚くべきものでした。トマトを例にとると、従来の農法では苗一株あたり20~30個程度しか実がなりませんでしたが、ハイポニカ農法を使えば同じ種でも1万数千個の実がなるそうです。特殊なバイオテクノロジーを使ったわけでもなく、土の代わりに十分な水の中に根を張りめぐらせ、必要な養分を絶え間なく与えただけです
●この農法を発明した野澤重雄氏のコメントが興味深いので、ご紹介しましょう。

・・・
種に良し悪しはない。大事なことは、まだ小さい苗の時に、自分はどんどん生長しても必要なものは充分与えられるんだという安心感があること。そうすれば苗は世界を信じ、疑うことなくどこまでも伸びていく。

そのような考えで植物が本来持つ潜在能力、生命力の大きさ、深さ、豊かさを引き出しただけである。自然は、我々の知識をはるかに超えた高いレベルの機能を持っているので、植物自身が信じて、選択して自分の能力を存分に発揮していく。
・・・

●もともと20~30個しかならなかったトマトが潜在能力を発揮したとたん、実が500倍も実るようになりました。ハイポニカといえばトマトが有名ですが、それ以外にゴーヤ、パプリカ、きゅうり、メロン、チンゲンサイ、小松菜、春菊などにおいても、驚くべき成果をあげています。

●ハイポニカですくすく育つ植物があるのなら、ハイポニカ的発想ですくすく人材が育つということもあり得るのではないでしょうか。野澤氏のコメントにある「自分はどんどん生長しても必要なものは充分に与えられるんだという安心感があること」を人間に適用して、栄養が足りなくなる不安を一度も抱かせずに育てるわけです

●そこで、人間にとって「栄養が足りなくなる不安」とは何かを考えてみましょう。人間と植物の大きな違いは、自然のままに育つ植物に対して、人間は自由意思が働くことです。その自由意思のなかに誤った情報が入っていると、生育が阻害されるのではないでしょうか。誤った自由意思の例として、

1. 将来に対する不安
2. もうこれで充分だという満足感
3. 他人の意見に過敏になって迷うこと
4. 時間がないという焦りとあきらめ
・・・etc.

が挙げられます。これらは、間違いなくあなたの健全な生育を邪魔するものでしょう。

私たちも、普通のトマトになることを拒否し、ハイポニカトマトのような豊かな会社経営、人生経営を行なおうではありませんか

2009年07月10日(金)更新

責任感は育てるもの その2

<前回のつづき>


●先日訪問したある会社には、遅刻の常習者のような人がいて、遅刻するたびに何らかの言い訳をするそうです。

●たとえば、「昨夜は遅くまで残業をやったので」とか「後輩につきあって昨夜は遅くまで飲ませてやったから」、「久しぶりに実家の親父が訪ねてきて話がはずんで」などと、毎回違う理由を言うそうです。同じ理由はまったく言わないとのことなので、彼なりに言い訳を真剣に考えてくるのでしょう。

●そこでリーダーが毅然たる態度で接すれば良いのですが、その会社の社長は穏健な人でした。朝から厳しいことを言いたくないのでウヤムヤにやりすごしてきたのですが、その結果、彼に対してだけではなく、社内全体に時間や期限を守るという規律と責任を要求するチャンスを失っていたのです

●社長なりに心を痛めていたのでしょう。私を呼んでまっさきにその話をするということは、それが一番の頭痛のタネだったはずです。私は遅刻撲滅の要諦をその社長に授けましたが、それ以降は彼の遅刻がほとんどなくなったそうです。要するに甘やかしていただけなのです
●さて、『現代の経営』でドラッカーは、こう述べていると前回ご紹介しました。

「働く人たちが責任を欲しようと欲しまいと関係はない。働く人たちに対しては、責任を要求しなければならない」。

●社長の方が部下に変な負い目をおってはいないでしょうか。たとえば、「うちは給料が安いから」「自分も出来ないときがあるので」「彼には普段から無理を言っているから」などの気持ちから上司が部下に責任を要求しなかったとしたら、リーダーとしての職務を放棄していることになります。自分が出来ていないのは問題ですが、部下が出来ていない場合も真剣に注意しなければなりません。

●会社全体の風土を責任感あふれるものにするにはどうすべきか。それについて、ドラッカーは以下の4つのポイントを挙げています。

1.正しい配置
2.仕事の高い基準
3.自己管理に必要な情報の提供
4.マネジメント的視点をもたせるための参画の機会提供

ドラッカーは、この4つの具体的な内容までは述べていませんので、それぞれについて私なりの解説を加えてみましょう。

1つめの「正しい配置」について

いつ、いかなる部署や職務に人を配置するかによって、会社全体の意欲や責任感、生産性が大きく変わってきます。そのためには、最適な配置というものを絶えず考える必要があります。何が「正しい配置」なのかは、細かい組織変更や人事異動などを通じて、試行錯誤の中から見つけていくものでしょう。

2つめの「仕事の高い基準」について

何をもって“合格の仕事”“不合格の仕事”というかは、仕事の最終成果だけでは判定できません。仕事のプロセスの中に品質があります。プロセス目標を設定し、その達成をめざして仕事の水準を進化させていきましょう。

3つめの「自己管理に必要な情報の提供」について

人は他人によって管理されることを望まず、自己管理にゆだねられることを欲するものです。自らの仕事ぶりを管理・評価し、必要によっては自分で軌道修正できるようになるのが望ましいでしょう。そのためには、それが可能となるような情報の提供や共有ができていなければなりません。

4つめの「マネジメント的視点をもたせるための参画の機会提供」について

働く人の意識に個人差があるのはやむを得ませんが、一段二段と、高い視点をもたせてるような取り組みが必要です。自分の仕事を、上司の視点、経営者の視点から見直すことができたとき、自らの責任を考えるようになります。部下が自ら視野を広げる機会を与えていきましょう。

●以上のように、仕事に対する責任を部下に要求するのがリーダーの仕事だということを忘れないようにしましょう。責任感とは、育てるものなのです。

2009年07月07日(火)更新

責任感は育てるもの その1

●私の自宅近くにあるマクドナルド・ハンバーガー(以下、「マック」)に、とても優秀な女性店員のAさんがいました。彼女は大学に通いながらここでアルバイトをし、同僚のアルバイトたちのリーダー格でもあり、顧客からの評判もとても良い人でした。私もときどき話しかけたりしましたが、受け答えもハキハキしていて、「うちで働いてくれないかな」などと考えたほどでした

●ある日を境にAさんを見かけなくなったので、他の店員に聞いたところ、家庭の事情で退職したということでした。

●それから3か月ほど経ったころでしょうか。地元商店街の書店で、週刊誌を手にとってレジに行ったところ、前の客が買った何十冊ものコミックに一冊ずつカバーを付けてほしいと要求したようで、時間がかかっていました。私は少し急いでいたので、後ろから「あとどれくらい掛かりそうですか」と声をかけました。

●すると、店員さんは手を止めてこちらを見たのですが、その顔をみて私はドキッとしました。Aさんだったからです。でも、彼女は私のことを覚えていなかったようで、表情を変えずにすぐに下を向いて作業を続けながら「5分ぐらいはかかりますが」と言いました
●そのとき私は、別人ではないかと思いました。なぜなら彼女は無愛想というよりも無表情で、カバー付けの作業もとても遅かったからです。幸い、前の客が私を気づかってくれたのですぐに雑誌を買うことができましたが、Aさんはそんな順番すらどちらでも良いようでした。

●マックでキビキビ・ハキハキしていたAさんは、すでにそこには居ませんでした。今でもその場面を思い出すと、いろんなことを考えてしまい胸が痛くなります。

・「家庭の事情」っていったい何だったのだろう? よほど辛いことでもあったのだろうか
・マックを辞めてこの本屋で働くということは、ひょっとしてここが実家なのだろうか
・この本屋ではやり甲斐がないのだろうか? なぜこんな無愛想になったのだろう
・それともマックではどのようにして彼女のやる気を引き出していたのだろう。

などと、考え出すとキリがありません。

●『現代の経営』でドラッカーは、「働く人たちが責任を欲しようと欲しまいと関係はない。働く人たちに対しては、責任を要求しなければならない」と述べており、続きにはこうあります。

・・・
責任は金で買うことができない。もちろん、金銭的な報奨や動機づけは重要である。しかしそれらのものは、消極的な意味をもつにすぎない。

金銭的な報奨についての不満は、マイナスの動機づけとして、仕事に対する責任感を低下させ、腐食させる。しかし金銭的な報奨についての満足は、明らかに、積極的な動機づけとして十分ではない。金銭的な報奨が動機づけとなるのは、他のあらゆる要因によって、働く人たちが責任をもつ用意ができているときだけである。
・・・

●そこで、働く人に対してどのようにして責任を持たせるのかが問題になります。次回のコラムでそのあたりを掘り下げて考えてみることにしましょう。

<次回につづく>

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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