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2006年12月28日(木)更新

なぜ利益を上げるのか?

●ある会社の経営方針発表会での出来事。終了後の立食パーティで入社一年目の新人が社長に質問しました。

「社長、どうして毎年売上高や利益を上げていく必要があるのですか?」
という素朴な疑問です。社長は答えました。
「それはだね、我々全員が豊かになるためだよ。」
社員はけげんな顔をしていたが、たぶん理解していないでしょう。

●また、別の会社の営業部長は幹部会議でこんな発言をしました。

「社長、上半期の売上は前年割れしました。営業利益段階ではほぼ前年比で半減していますが、まだ累計で1,000万円近い営業利益が残っていますので、会社としては大丈夫かと・・・」

この営業部長氏、利益というモノがわかっておられないようです。「利益=単なる会社の儲け」と盲信しているのですね。

●まず、「利益とは何か」ということと、その利益を毎年増やしていく理由はどこにあるのか? ということを語れる経営者になりましょう。たとえば、

利益とはわが社が提供している製品・サービスがお客様からどのように評価されているかというバロメーターであり、社会がくれた通信簿でもある。ここで赤字(赤点)をもらうということは、社会からみて不要かつ悪だということだ」

という根本思想を教え込むべきです。

●しかも、利益の半分が税金にまわるのであり、納税の義務を果たすためにも利益は必要です。納税したあとに残る純利益から借金が返済されるわけですから、少なくとも借金返済額の2倍の利益を出さないと、現金収支はマイナスになるということです。

●利益は以下の5つの目的のためにも必要です。
1.従業者の生活(雇用や待遇)を改善・安定させるため
2.勉強する費用や時間を稼ぐため
3.有能な人材を採用するため
4.健全な財務基盤を築き、経営の自立を勝ち取るため
5.新しい製品・サービス・機会に投資するため
6.経営理念を実現する原資を確保するため

●もう少し具体的にみてみましょう。

1.従業者の生活を改善・安定させるため
  社員や経営者の収入を安定させることと、労働法規に沿った環境を整備することです。収入面や労働時間面の不安が長引いては、生活が安定しませんし、仕事にも集中できません。
  
2.勉強する費用や時間を稼ぐため
  社会全体のことから経済、経営、実務にいたるまで私たちが知るべき知識や技術は多いのです。目の前の実務をこなす勉強だけではやがてアンバランスな人間になるでしょうから、社員の人間教育のようなものも会社の責任といえるでしょう。
  そうした勉強をするための費用を捻出するのは利益からです。勉強するための時間も、利益がなければ厳しくなります。

3.有能な人材を採用するため
  会社全体の成長を確保するためには、絶えず組織に有能な人材を補充していかねばなりません。欠員が出たから補充するという行き当たりばったりの採用では、やがて成長が止まります。

4.健全な財務基盤を築き、経営の自立を勝ち取るため
  まず、つぶれない会社にすることです。不況が長引いても雇用不安を起こさない会社にすること。そのためには、他人資本への依存度を下げて、自己資本を充実させなければなりません。

5.新しい製品・サービス・機会に投資するため
  これは挑戦のための費用です。そして挑戦には失敗がつきものでもあります。新規事業への参入や、新製品の開発、技術開発や研究開発など数年後のために支払う経費を確保するにも利益が必要です。

6.経営理念を実現する原資を確保するため
  経営理念はお題目に終わらせていては意味がありません。理念に少しでも近づく努力が必要で、その原資になるものがやはり利益なのです。
  
●こうした6つの理由によって、会社は絶えず収益を向上させていかねばならないのです。別の表現をすれば、この6つの課題に取り組まずに上げた収益には意味がない、ということです。

2006年12月23日(土)更新

君子と小人

●西郷隆盛さんが面白いことを語り残しています。

人材には、君子(立派な人)と小人(凡人)があり。人を採用するにあたっては、君子と小人との区別をあまり厳しくするとかえって禍を大きくするものである。こういう凡人の心情を思いはかって、そのいいところを取って、これを下役に使って、その持っている才能や技能を十分発揮させることが重要である」
(『「南洲翁遺訓」を読む―わが西郷隆盛論』渡部昇一著 致知出版社刊より)

●また、多くの経営者は「ジンザイ」という言葉をもじって、三種類あることを知っています。

人財・・・なくてはならない宝のような人
人材・・・使いみちのある人
人罪・・・いてもらっては困る人

できるものなら「人財」と「人材」ばかりにしたいもので、「人罪」は社内にいてほしくないのが社長の心情です。

●でも、三種類の人材がいることはわかっても、それをどうやって見抜くのかが肝心なところ。ちょっと会話をするだけでそれが見抜けるほど、人間は簡単にできていません。100%の正確さで「ジンザイ」を見抜くなど不可能に近い芸当です。

●しかし、面接に工夫しているいくつかの会社では、ちょっと変わった面接法を編み出しています。そのひとつが「圧迫面接」なるもの。ドコモのiモードを開発した松永真理氏のベストセラー図書『iモード事件』(角川文庫)によれば、iモード開発チームもこの「圧迫面接」で選考されたとあります。

●「圧迫面接」とは、あるテーマを面接者に与え、その答えに対して面接官が次々に質問を浴びせかけ、相手を追いつめていくもの。面接官はあえて心を鬼にして厳しい質問をしていかなければなりません。きっと次のようになるでしょう。

社長:「あなたの将来の夢は何ですか?」
相手:「世の中に必要とされる人になりたいと思います」
社長:「それはどのような人ですか?」
相手:「まず専門的な知識や技術をもつことです」
社長:「どのような専門分野をもちたいですか?」
相手:「コンピュータに関する分野ですが、できればネット関係を」
社長:「ネット技術者はゴマンといますが、あなたはその中で今何ができますか?」
相手:「△×△×・・・」
社長:「うちの会社では、あなたの技術を必要としないとわかったらどうしますか?」
相手:「△×△×・・・」

圧迫面接の主旨は、相手の回答内容ではありません。その態度です。

●すべてにおいて適切な回答を返す人材もいれば、うまく質問をはぐらかす人、無言で通す人、聞き返す人、支離滅裂になる人など対応はさまざまです。その対応の仕方から、どの程度の芯があるか、柔軟性があるかなどを見分けることができるのです。

●圧迫面接は、通常の面接でよく見受けるような表面的な一問一答のやりとりでは見抜けない、相手の真価を知ることができるでしょう。

●さて、冒頭の西郷さんのことば「君子と小人の区別を厳しくしすぎてはいけない」について。

A君は、仕事の成果が大きく、いつも会社の目的や目標達成のために身を粉にして働いてくれる。残業はいとわないし、会議でも前向き発言が多い。

B君は、与えられた仕事だけしかやらない。いつも自分の給料や休みのことばかりを気にするし、不平や不満も多い。会議でも否定的な発言が多い。

この場合、明からにA君が君子でB君が小人です。

●社長の願望としては、会社中をA君のようなタイプで埋めつくしたいと願いがちです。しかし、それは非現実的であるばかりか、やってはいけない事だと西郷さんは説くのです。決められたことだけをきっちりこなしてくれる人材は必要だし、待遇改善をつきつける人材も必要なのです。人材バランスの問題だということです。

●しかし、中小企業経営において、私は1つの事を付け加えたい。それは、
社長を中心とした経営陣は、君子のような人財でなければならない
 ということです。

●社長自身および、経営陣が「人財」であること、あるいは「人財」になるよう努力を怠らないことは、会社の命運を握る課題です。もし、経営陣がそのような陣容になっていないとしたら、それこそが、人に関する緊急課題となるでしょう。

2006年12月15日(金)更新

理念をみんなで作る

●「経営理念を成文化するために合宿研修をやってきました。おかげで素晴らしい経営理念ができました」
 と嬉しそうに報告されたA社長。
「よかったですね」
 と私は返答したものの、社員全員で理念を作るという発想に抵抗を感じました。なぜなら、経営理念は経営者が作るものだから。

●ドラッカーは『現代の経営』において、「事業とは顧客を創造することである」と定義していますが、私も彼の「事業とは顧客創造業」という考え方に賛同します。

●さらに踏みこんで申し上げるならば、事業の目的は、「顧客創造を通して理念を実現すること」 ではないでしょうか。

●営業部はもちろん、技術部も開発部も経理部も人事部も、すべての社員は顧客創造と理念の実現に向けて「役割分担」・「分業」を行っているということです。

●さらに、ドラッカーは同じ著書で「三人の石工」の例話を紹介しています。

●ある建築現場で、何をしているのかを聞かれた三人の石工のうち、「一人めの男は『これで食べている』と答えた。二人めは手を休めずに『腕のいい石工の仕事をしている』と答えた。三人めは目を輝かせて『国で一番の教会を建てている』と答えた」という話です。

●私はこの例話からドラッカーが言わんとすることは、社内のベクトルを合わせようという提言だと思うのです。

・自分たちは何のために今の仕事を行っているのか
・そして、この先何を目指しているのか


●顧客から見れば、良い仕事をやってくれればそれでよいということかも知れませんが、組織の中で働く仲間としては、自分たちの会社の目的を共有していないと何かと意見や考え方にミゾが生まれるものです。

●それを成文化したものが「経営理念」なのです。

●ベクトルは明確でなければならないし、そのベクトルをまっさきに指し示すのは経営者です

●ですから、「理念をみんなで作る」という社長は社員に甘えすぎだと私は思うのです。

2006年12月09日(土)更新

ドラッカーが指摘する「劣後順位」という観点

出前の握り寿司がここにあります。あなたは何から順に食べますか? 
 私は、大好きな穴子と玉子を最後に残し、まずは白身かタコあたりから手をつけることが多いです。

●先日、ある経営者と出前の寿司を一緒に食べたとき、私のそうした食べ方を見て、笑いながら忠告されました。

「武沢さん、どうして好きな順に食べないのですか? 嫌いな順に食べると、まず一番嫌いなもの、次に二番目に嫌いなもの、最後に一番嫌いではないものを食べる、という順になる。それじゃ、いつまでたっても好きなものにありつけない」
「その点、私は好きな順に食べるので、いつも寿司おけの中の一番好きなものを食べることができる。それに今、もし地震があって逃げることになっても後悔しない」

どちらから食べようと好みの問題なので、お互い罪のない話ではあります。

●ところが、仕事の進め方となると笑っては済まされない問題です。仕事には、目標設定と優先順位が大切であることはご存知の通りですが、実はそれだけでは不充分かもしれません。

●ドラッカーが指摘しているように「劣後順位」という観点も忘れてはならないのです。
●劣後順位とは、優先順位の逆さの意味で使われます。手をつけてはならない仕事を決めることです。経営者がやるべきことは、優先順位の設定だけではなく劣後順位の決定も大切なのです。 

●寿司であれば、どちらから食べようともやがてはすべてを平らげる。しかし、仕事は永遠に私たちの許容量を超えるのです。すべてをこなすことは出来ません。
 
●「社長としての私は、何をしてはならないか」
 ある勉強会で、この質問を投げかけました。参加者は各自、ノートにその回答を書き込んでいきます。最初のうちは、集金や伝票発行、コンピュータ入力などの無難なものが並ぶ。やがて経営者は考えます。
 「本当に自分でなければならない仕事とは何か

●そうすると、今やっている仕事の大半が本来は劣後順位のリストに入れるべき項目であることがわかります。ですが、なかには屁理屈をいう人もいます。
「集金は自分でなくてもやれるが、自分が行くことでお客の生の声も聞ける」
「自分の手でコンピュータに営業マンの個人成績を入力することで、一人一人の活動状況が手にとるようにわかる」
 などの言い逃れをするのです。

●ドラッカーはさらにこうも言います。
「トップ本来の仕事は、昨日に由来する危機を解決することではなく、今日と違う明日をつくり出すことである

私たちの合い言葉は、
◇日常業務をこなすよりは明日のための仕事を
◇問題解決よりも機会の創造を
◇他社の後追いではなく独自性を
◇無難な調整ではなく、勇気ある変革を
です。

●劣後順位という考え方は、経営者の仕事の仕方にとどまらず、会社全体にも普及させたいものです。

●私自身の反省にもなりますが、中小企業の経営計画書がうまく機能していない理由のひとつに優先順位主義があるのではないでしょうか。社長が勉強しておられる会社ほど総花的な経営計画書になりやすいのです。

2006年12月01日(金)更新

責任とは何か

●社内報を毎月発行している会社での話です。

●この会社では編集スタッフ2名が担当ページを分担して仕上げるのですが、毎月締切日近くになると2人とも大わらわになります。このスタッフのAさん、Bさんの仕事ぶりがとても対照的で、面白いのです。

●Aさんは、原稿依頼をした相手に何度も電話確認をし、原稿締切日までに必ず提出するよう促します。それでも送られてこないときもあるので、電話確認をした月日と時刻の記録まで残してあります。しかし、たまには原稿が揃わずに記事に穴をあけてしまい、イラストや写真でごまかすことがあるそうです。

●一方のBさんも、確認の電話を入れるところまではAさんと同じです。違う点は、締切日に原稿が届いていない人には電話取材で原稿を仕上げるか、翌日に出かけてインタビューして記事を完成させるところです。その結果、いままで一度も記事に穴をあけたことはないといいます。

●あなたならどちらの人を高く評価するでしょうか? 二人ともがんばっているのですが、それでもBさんの方を評価するのではないでしょうか
●「自分は、やるべきことをやりました。打つべき手を全て打ちました。それでも相手が協力してくれなかったので、最終的には出来ませんでした」というのは、責任感があるとはいいません。

●仕事には、「経過責任」と「結果責任」があり、Aさんのようなタイプは「経過責任」しか果たしていないのです。自分には「結果責任」はない、と思っている分だけ無責任です。

●「いろいろありましたが、最終的には出来ました。次回以降の課題として、……という問題を解決していきます」という発言をする人が本当に責任がとれる人です。経過責任と同時に結果責任も果たしている人です。

●プロスポーツの選手や監督は結果を出さないと使ってもらえなくなります。不振が続くと、過去に偉大な業績があっても更迭されるのがプロの結果責任というものです。

●給料の高さは、責任の大きさの順でもあります。1人ひとりの仕事には明確な責任が存在するはずです。あなたの会社では、社員ごとに「いつまでにどのような状態をつくることがあなたの結果責任ですよ」という目標の共有ができているでしょうか。

●「責任をとる」という言葉の意味は、「評価を甘んじて受け入れます」ということです。「下された評価には異議をはさみません」というのが責任をとる者のスタンスです。

●人材を育成し、明日の経営者を育てていくには、このような「結果責任」のとれる仕事ぶりを教えていくことでもあるのです。

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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