大きくする 標準 小さくする

2008年02月29日(金)更新

ギュッと締める力

●最近、「重役」という意味合いでよく使われている「エグゼクティブ(executive)」という言葉がありますが、これはエグゼキュート(execute)が語源といわれています。executeとは、「実行する・遂行する」という意味のほか、(刑を)執行するとか、(ニワトリなどを)ギュッと締める、という意味でも使われます。

ですから本来のエグゼクティブとは、まさに「実行する人」であり、部下を「ギュッと締める」ことができる人なのです。会社組織で誰よりも実行力を要求されるという点において、頂点に立つのが社長であることは、言わずもがなでしょう。

●親鸞がまだ松若丸と呼ばれていた9歳のとき、慈円和尚に弟子入り志願したものの断られ、次のような歌を詠みました。

 「明日ありと 思ふ心の あだ桜 夜半に嵐の 吹かぬものかは」

「今この瞬間に事をなし遂げないと、明日があるという保証は何もないんだ」、という若き親鸞の緊張感が伝わってくる名句ではないでしょうか。

●会社経営にとって「明日はない」という緊張感は大切です。実際には明日も明後日もあるでしょうが、「明日」と「今日考えている明日」は同じではなく、「来年」は「今と同じ環境の来年」ではありません。経営はいつも「今」しかないのです。
●たとえば、「5か年経営ビジョン」を作ったら、その達成の命運は今期、いや今月にかかっているんだ、という気迫を大切にしなければなりません。そうした会社だけが長期ビジョンを実現できるのです。これは、ギュッと締める人が社内にいるからです。

●新しいことに挑戦しようとすると、面白いアイデアはどこの会社でもでてきます。ところが、そこで締める力がないと、アイデアを実行に移せません。往々にして、「そういえば、あの件どうなったの?」「さあ、どうでしょう…」と中途半端になってしまい、はたしてアイデアが良かったのか悪かったのか、評価不能になってしまいます。

●逆に、社内をギュッと締める力がある会社では曖昧なことは起こりません。これは、「しつけ」の差です。リーダーに組織を締めるだけの力があれば、部下もおのずと引き締まった仕事をするのです

●これからは、エグゼクティブとか重役という単語を聞くたびに「ギュッと締める力」の重要性を思い出していきたいものです。

2008年02月15日(金)更新

困ったらあかん

●東京に本社のある松下電送(現・パナソニック コミュニケーションズ)がファクシミリをつくり始めた頃の話です。社長の木野親之氏が松下幸之助氏から呼ばれて、大阪の門真にある松下電器本社をたずねました。

●そして幸之助翁に「君、何か困ったことはあるか?」と問われ、木野氏はとっさに「はい、問題はいろいろありますが頑張っています」と答えたそうです。

●そうしたやりとりの後、幸之助翁は最後に「困っても困ったらあかんで」と言われたそうです。それを聞いた木野社長は、帰りの飛行機のなかで心が晴ればれとして、やる気がみなぎってきたとか。

●このやりとり自体は禅問答のようなものだと思います。しかし、ファクシミリという新しい商品を世に送り出し、事業として軌道に乗せることは、決して容易なことではなかったはずです。新規商品の開発につきものの問題があちこちで発生し、困ったことばかりだったのでしょう。

●当然そのことは、幸之助翁も知り抜いていたはず。その上で翁はこう言いたかったのではないでしょうか。
「困るような事はいっぱいあるやろうが、しかしそれは外的なことや。けど、そのせいで君の心までもが困ったらあかんのや」と。
木野社長をわざわざ来阪させたのは、そのメッセージを伝えるためだったのかもしれません。

●また、幸之助翁は別の場所でこんなことも語っています。
「心配するのが社長の仕事や。社長が心配するのが嫌になってしまったら、それは社長を辞めるときや」
心配し、心まで困り果てるのが社長の仕事。ナンバー2以下はその必要なしということでしょう。トップらしい、潔い心意気ではないでしょうか。

2008年02月08日(金)更新

間接的リーダーシップ

●ある学習塾の社長の話です。彼は毎日毎日、何時間も生徒の送迎バスの運転をしていました。

●「こんな大切な仕事を部下に任せるわけにはいかない」というのがその理由です。そのうち、この学習塾が地域で評判になり、生徒数がついに500名を超える規模になっても、彼はハンドルを離しませんでした。

●もちろん仕事は送迎だけではありません。授業も教えていることからフル稼働の日が続き、しまいには糖尿病が原因の高血圧で入院までしてしまい、事業を縮小せざるをえなくなりました。

●会社は社長の器より大きくならないといいます。例外的に大きくなってしまう場合もあるでしょうが、長いスパンでみれば社長の器以上にはなりません。ですから社長は、会社を経営しながら自らの器を広げていかねばならないのです。そこで、社長の器とはどのようにして広げていくべきなのか、三つの段階に分けて考えてみましょう。
●最初は「兵たる器」という段階です。まずは兵として優秀である状態をめざしましょう。肩書きこそ「代表取締役社長」であったとしても、現実には一人で営業活動から納品、請求書発行、代金回収、クレーム処理などすべて処理しなければなりません。だから、まず兵として優秀な状態を目指すのです。

●その次は「兵の将たる器」という段階です。従業員を採用し、社長はプレイングマネージャーとなって指揮をとりながら、率先して動きます。この段階になると、社長は「兵」としての強さだけでなく、部下を指揮して戦いに勝利できるリーダーシップを学ぶのです。

●最後は「将の将たる器」という段階。将の将、長の長として、今までとは次元が違う戦略的な仕事をこなさなければなりません。たとえば、組織の目的やビジョンを掲げることや組織づくり、人財育成に提携戦略など、明日に向けた仕事をする段階です。

言い換えれば、兵の将をやっている時は「直接的リーダーシップ」、将の将になると「間接的リーダーシップ」が求められると言えるでしょう

●直接的リーダーシップとは、「1+1はいくつですか?」と部下に聞かれたとき、「2」と即答してやるようなリーダーシップです。そうすることで感謝や尊敬されるでしょう。

●ところが「間接的リーダーシップ」は答えを言いません。足し算や引き算の解き方を教えたり、時計を作って見方を教えてやるのが仕事なのです。部下の誰もが「1+1=2」を解けるような教育・原則の作成、つまり社内環境の整備や方針づくりなどが求められます。それが「間接的リーダーシップ」なのです

●直接的と間接的、どちらのリーダーシップも同じように大切です。そして経営者とは、その両方を兼ね備えていなければならないのです。

2008年02月01日(金)更新

不満なし≠満足

●一般に「事業とは顧客創造活動である」とよく言われていますが、あなたの会社ではどうでしょうか。「顧客創造は問題なくできている」と断言できる自信がありますか?

●顧客というものは、何もしないでいると自動的に減っていくものです。とくに流行商品を取り扱う事業を行なっている場合、全顧客のうち半分くらいは毎年入れ替わっていくと言われています。

●明日の顧客創造(または顧客喪失)を決めている要素は一体何なのでしょうか。答えは「今日提供した製品やサービスが、顧客を満足させているかどうか」です。顧客に不満を与えるのは論外ですが、かといって満足も不満も与えていないのもいかがなものでしょうか。

●ある意味、無言の顧客ほど怖い存在はありません。いつ黙って他社に乗り換えられるかわからない危険性を孕んでいるからです。

●何年か前のことですが、私自身がお客として次のような(冷たい)ことをしました。告白も兼ねて紹介します。
●オフィスコーヒーの供給事業を行なっているB社の営業マンが、飛び込み営業の形でやってきました。コーヒー好きの私は、やはり同じ事業を運営しているA社と一年半前から契約してたため、「間に合ってます」と一度断ったのですが、B社の営業マンは食いさがってきました。

●そして、彼は私にB社のコーヒーがいかに優れているかを熱っぽく語ったのです。その時、セールスポイントとして

・B社のコーヒー豆は品質が高く、一流カフェ並の風味があること
・取り扱っている豆の種類が多く、コーヒー以外の飲料のラインナップも豊富であること
・営業所も近く、電話一本で担当者がすぐに駆けつけられること

などを強調し、「一度でいいから、当社のコーヒーを試してほしい」と言われました。

●彼からすると、「そもそもオフィスコーヒーとは何か」を説明する必要がなかったので話が早かったのでしょう。私はその三日後にB社のコーヒーを試飲し、確かにうまいと認めました。加えて、値段も若干安くなることから断る理由がなくなり、その場でB社と契約したのです。

●この瞬間、これまで取引してきたA社は一件の顧客を失ったことになります。私としても「すこし気の毒なことをしたなぁ」という後ろめたさがあるにはあったのですが、あっさり契約を打ち切られてしまうような、希薄な関係しか作ってこなかったA社に不備があると考えることもできます。

●私はもともとA社に不満があったわけではありませんが、満足しているわけでもなかったので簡単に浮気してしまったのです。

●オフィスコーヒーのサービスは、営業と配達それぞれ別の担当が行います。それはA社もB社も同じでしょうが、A社は契約後のフォローに甘さがありました。

●配達スタッフが毎月1~2回やってきてコーヒー豆を補充し、機械をメンテナンスしていきますが、ほとんど私と会話をしたことがありません。新製品のパンフレットも事務的に置いていく程度で、私から感想や要望を聞きだす姿勢もありませんでした。加えてA社の営業マンも、一度釣りあげた魚にエサをやる必要はないと思っているのか、契約後に顔をみせたことは一度もありませんでした。

一度契約を結んだ顧客は、これからもずっと顧客でいてくれるかどうかわかりません。だからずっと顧客でいてもらうためには、「あなたは当社の大切なお客様です」ということを自覚してもらう必要があるのです。

●訪問、郵便、メールやFAX、手段は何でもかまいません。あらゆる方法で顧客とコンタクトをとり続けましょう。そして、見込客であるかのように扱い、上得意先であるかのように接するのです。そうすれば、いつもあなたの会社の顧客であることを自覚してくれるようになります。

●件のA社には、そうした体制がありませんでした。これは担当者の力不足という問題ではなく、営業責任者と経営陣の問題です。言い換えれば、A社のシステムと教育体制の不備が原因でしょう。

●ちなみにB社は、翌月すぐに「もうすぐ夏ですから、アイスコーヒーメーカーも無料で設置します」と提案してくれました。たったそれだけのことですが、「セールスの継続」を意識しているかどうかが、顧客創造につながるのです

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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