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2007年05月25日(金)更新

リーダーシップを発揮するために

●「武沢さん、社長に就任してわかったことなのですが・・・」
ある日、父親から会社を受け継ぎ、先月社長に就任したばかりのA社長からこんな相談を持ちかけられました。
「社長業って、部門間の利害調整や意見調整がけっこう大変なのですねえ。」
私は「そうなんですか」とは言いながらも、彼の発言に違和感を覚えずにはいられませんでした。

社長はリーダーです。マネージャーではありません。リーダーとは文字通り、組織を目的に向かってリードしていく人です。ですから、常日頃からリーダーシップを発揮しやすい組織や環境、風土を作る必要があり、そのための人間関係というのが、とても大切なものとなります。ふだんの何気ない人間関係がそのまま、リーダーシップの土壌を作り上げていくのです。

●ドラッカー教授が書いた次の一節が、とても私の印象に残っています。

――私が知っているなかで最もよい人間関係をもっていた者はだれかと問われるならば、次の3人をあげる。第二次大戦中のマーシャル将軍、1920年~1950年代半ばにGMのトップを務めたアルフレッド・スローン、スローンの年上の部下で不況のさなかにキャデラックを豪華車として成功させたニコラス・ドライスタットの3人である。彼ら3人は、これ以上違いようがないほど違っていた。
(中略)
その彼らが3人とも、同じように部下たちから深い献身と愛情をもたれていた。3人とも、それぞれの仕方で、上司・部下・同僚との関係を築いていた。3人とも、仕事の必要上、多くの人たちと密接な関係をもって働き、気を配った。
もちろん3人とも、人事については厳しい意思決定を行わなければならなかった。しかし、彼らのうちの一人として、人間関係に悩むことはなかった。彼らは、人間関係を当たり前のこととしていた。――
(※P.F.ドラッカー著『経営者の条件』(ダイヤモンド社刊)より)
社長は、社内の人間関係のストレスを当然のこととして、受け止めねばなりません。時には辛い決定や、厳しい決断も必要でしょう。しかし、だからと言って落ち込んだり悩んだりする必要はありません。なぜなら、それこそがリーダーの仕事だからです。

●たとえばプロスポーツの場合、「勝つ」ことが監督と選手の共通目標です。ベテランバッターがスランプに陥っている場合を考えてみましょう。監督は「打席に立つことでスランプを脱出できれば」と思っていても、成績が振るわない選手は試合に出しません。温情をかけたことで負けてしまっては、チーム全体に迷惑がかかるからです。

●会社経営も同じです。特に中小企業経営には、大企業ではマネできないような俊敏な経営という武器があります。それは、まさしく社長の強いリーダーシップがあるからこそできる芸当なのです。

●それには、社長の思い通りに一糸乱れぬ動きをする組織作りが必要です。社長は思いきりワガママになって、好きな部下と仕事をして、自分に望むように働いてもらい、望ましい結果を出させるべき存在なのです。

●決して嫌いな人がいてはいけません。もし、部下の中に「あの社員は嫌いなのだけど、仕事ができるので我慢して使っている」という人がいたら、それは社長のリーダーシップを曇らせ、社長自身のテンションだって最高潮にはなりません。つまり、好きになれない人は雇うべきではないのです。

●もう一度言います。社長はリーダーシップを発揮しましょう。そして自分の望むような経営が可能となる組織を、日頃から作っていくのです。それが社長の仕事、責任なのですから。

2007年05月21日(月)更新

責任の行き止まり

●ホワイトハウスにある大統領執務室の壁に、「責任の行き止まり」と書かれた一枚のプラカードがかけられているそうです。これは、「自分にとって、責任を転嫁する相手は存在しない」ということを暗示しているのでしょう。大統領であれ、社長であれ、最終責任者には常にそれくらいの覚悟が要求されます。

●「会社組織における最終責任者は、社長である」ということは、もはや言うまでもないでしょう。

●では、幹部や社員には責任転嫁する相手がいてもいいのでしょうか? 時と場合によっては、幹部や社員の席にも「責任の行き止まり」カードをぶら下げておく必要があると思うのです。

●「おっかしいなぁ。なぜこんな結果になるのか、理由を聞かせてくれ」
靴販売の「シューズマート田仲(仮名)」の田仲社長は、経営会議の席上でそう言って、眉間にシワを寄せました。その理由は粗利益の急激な落ち込みです。3か月前に改装したばかりの本店の粗利益が29%から22%にまで低下したのです。

●「シューズマート田仲」は本店の改装オープンにあわせ、外国製の低価格シューズを目玉商品に据えました。このシューズ自体の粗利益は40%あり、他の定番商品を値下げ販売しても、最終的には全体で30%を超える粗利益が出るはずでした。それなのに、結果が22%というのがどうにも解せないというのです。
●この会社の役員は、社長、専務(奥さん=経理担当)、仕入部長、店舗運営部長、総務部長の5名です。商品価格の決定権は仕入部長にありますが、値下げする権限は店舗運営部長にも与えられています。また、7店舗それぞれの店長にも値引きをする裁量が与えられているのです。田仲社長は「いったい、だれの責任だ?」と続けました。

●社員数が増え、組織として仕事をこなすようになると、責任の所在があいまいになることがあります。

●この会社の場合、本来なら粗利益責任は仕入部長にあるはずです。店舗での値下げ権限があるとは言え、それらを常に把握して粗利益をコントロールする責任があります。しかし、仕入部長は仕入れのための出張が多く、社内にいることはめったにありません。外国出張も多いため、この件について責任を追及するのは気の毒だ、ということは社長もわかっています。

●一方、店舗運営部長も7つの店舗の指導で忙しく、粗利益の低下をリアルタイムで把握することは困難な状況にありました。販売促進の企画に加え、チラシや販売マニュアルの制作など、同じく多忙を極めているからです。

●この場合、二つの視点が必要です。一つは、社長が発した質問の通り、「誰の責任か?」という視点。もう一方は、「何が原因で、どうすれば改善できるのか?」という視点です。多くの会議に参加して気づくことは、「何が原因なのか?」という議論は必ずされますが、「誰の責任か?」という議論が足りないことです。どうすれば改善されるかを論じる前に、まずは誰の責任なのかを明確にしておくべきでしょう。

●会議では次のような結論が出ました。

1.これまでは、粗利益をコントロールする責任の所在が曖昧であった。
2.今後は、毎週月曜日に専務が販売集計表を作成し、各役員に配付する。
3.各役員は、その集計表をもとに問題を発見して解決策をレポートにまとめ、火曜日の経営会議に提出する。
4.それに伴い、月曜日に開催していた経営会議を火曜日に変更する。
5.売上高は店舗運営部長、粗利益と在庫は仕入部長、経費は専務を、それぞれ最終責任者とする。

責任の所在を曖昧にしたままでは、組織全体としての問題を議論しても真剣味に欠けるのです。もちろん、すべての結果に対する最終的な責任は社長にありますが、個々の現象に対しては社長が最終責任者なのではありません。役員や幹部なのです。

●明日の経営者を育てるためにも、幹部に責任を負わせることを避けてはなりません。たとえば、「粗利益責任の行き止まり」「売上高責任の行き止まり」というようなカードを作って、天井からぶら下げてみてはいかがでしょうか。

2007年05月11日(金)更新

改革スローガンを作ろう

●小泉純一郎氏が退陣してからというもの、政治への興味が薄らいだのは私だけでしょうか。

●小泉氏は、総理としての手腕や業績には賛否両論こそありましたが、国民の関心を政治に向ける事に関しては、成功したと言えるでしょう。とりわけ、選挙中や在任時に何度も繰り返された、

・「郵政民営化なくして構造改革なし」
・「構造改革なくして景気回復なし」
・「改革断行政権!」

などといったフレーズは、シンプルながらも力強く、今なお多くの人々の記憶に残っていると思います。

●国民にわかりやすいということは、政治家や官僚にもわかりやすかったに違いありません。きっと当の本人もわかりやすかったことでしょう。改革をすすめるリーダーとしては、メッセージがシンプルであることや、それを何度も繰り返すということをためらってはならないのです。
●GWに入る前、我が家では「アグレッシブで行こう!」をスローガンに掲げました。連休はいつもダラダラ過ごしがちになるのですが、GW前に家族揃って外食に行った時、いかにして今回はそうならないようにするか相談しました。そのとき、スローガンを作ることが決まり、「アグレッシブで行こう!」となったのです。

●「アグレッシブで行こう!」と互いに声をかけあう。ただそれだけなのに効果はテキメンです。いつもは母親から「もう○時だよ、早くしないと」とか、「いつまでパジャマ着てるの?」などと叱られている子供たちですが、スローガンの効果もあってか、今年の連休だけは自発的に過ごしていました。私もそれに影響され、休みであるにもかかわらず、朝6時に起きて8時に散歩や仕事、ジム通いをするなど、生産的な時間を過ごすことができました。

わかりやすいスローガンの反復は、政治や家庭の運営だけでなく、会社経営にも活かせます。経営目標や事業計画を作る場合でも、シンプルなスローガンを決め、反復しましょう。小泉流スローガンにならって、

・「顧客創造なくして利益なし、利益なくして繁栄なし」
・「改革断行経営!」
などでいきましょう!

私も今は、
「経営 is エンタテインメント。日本の社長を応援するネットベンチャー『がんばれ社長!』」
をスローガンにして、燃えています。

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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