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2011年05月31日(火)更新

お金より価値あるもの

●「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」とか、「論語と算盤(そろばん)の両立が大切」などを説いた渋沢栄一翁。
 
氏は、西洋渡来の資本主義に東洋思想の味付けをし、日本独自の資本主義や日本的経営とよばれるものの原型をつくりあげた人です。
 
「経営者は利益を上げなければならない」とする西洋の考え方にプラスして、「経営者は志をもち、道を究める人でなければならない」という考えも付け加えたと言えましょう。
 
●ついこの前まで士農工商の士分にいた渋沢たちが、そこいらの商人と一緒にされてはたまらないという誇りのような気分が混じっていたのかもしれません。
 
それによって日本の経営者は、ビジネスで利益を上げるだけでなく、道を究める人でもあらねばならなくなったわけで、考えようによってはずいぶんハードルがあがってしまいました。しかし、それは実に取り組み甲斐のある挑戦なのです。
 
●「士」の誇りと「商」の才覚の融合こそ日本的経営。
 
・理想とする企業を作ること
・理想とする経営者になること
・理想とする経営環境を作ること
 
その「理想」を明文化する必要が私たちにはあります。当然、その「理想」は借り物ではいけません。自らの言葉で理想を語り、その実現策も語りましょう。
 
それこそが、かねてより申し上げている「経営マニフェスト」というものの本質だと思うのです。


 

2011年05月20日(金)更新

会社に生命を吹き込む

●会社や組織というものには実体がありません。会社が入居しているビルやオフィス、店舗が会社ではないのです。あくまで登記簿謄本に記載された書類上にその存在が確認されるだけです。
 
●しかし、間違いなく会社や組織には命があります。
生命力あふれるダイナミックな会社もあれば、その反対に、沈滞ムードが漂っている会社もあります。また、同じ会社なのに元気な時とそうでない時があります。実体がないはずの会社なのに、そのあたりが面白いところです。
 
●かつて京セラの稲盛さんがこんなことを語っていました。
 
「会社のトップである社長が生命を吹き込んでいないと、社長が一人の素の人間になってしまったら会社の生命はなくなる、空っぽになる。社長の場合、いつも会社に対して思いをいたしていないといけない。他の役員や社員は仕事を離れれば個人にかえることが許されるが、トップである社長が個人になることは許されないのだ」
 
●会社の生命とは、すなわち社長そのものの生命だというのです。たしかにそれは事実でしょう。
社長のテンションや情熱がそのまま会社の生命になります。とくに、まだ規模が小さい会社の場合は、社長が寝食を忘れるほど会社のことに夢中になる必要があります。
寝ても覚めても仕事と会社、という状態が望ましいし、それが成功のための自然な姿なのです。
 
●社長が、夕方になるとソワソワと帰宅時間を気にし、子供との入浴やナイター中継を楽しみにして仕事を放り出して帰宅するような会社では成功しません。
魂を込めて仕事に打ち込み、人がアッと驚くような素晴らしい仕事をしましょう。

2011年05月13日(金)更新

100%のノー

今日は、ちょっとした実話ベースの物語を紹介しましょう。
 
●「あのぉ、お父さん。ちょっといいかしら」
 
リビングで趣味のクラシック音楽を楽しんでいた父・芳夫がヘッドフォンを外す。
 
「ああ、恵子か、どうしたんだい?」
 
今年大学生になる娘の恵子は、ちょっと言いにくそうな表情をしながらも父に近よって話し始めました。
 
●「お父さんね、私も今年から大学生になるので、そろそろウチを出てマンションで生活してみたいの。それって許してもらえるかしら?」
 
まったく予期していなかっただけに、芳夫は面食らいました。
「え~、マンション生活?なんだよ、それ。そんなのダメだよ。ダメに決まってる。何か理由でもあるわけ?大学は家から通っても充分近いでしょう」
 
「うん、家から通えるけど、前から大学生になったら独り住まいするのが夢だったの」
 
「夢といったって恵子、そんなにウチがいやなのか?」
 
●そうした押し問答のあげく、いつもの会話のように結局、折れるのは娘のほうでした。
 
「やっぱりダメかぁ・・・」

恵子は力を落とし、自室に戻りました。
恵子にとって大学生活をマンションで過ごすことが夢とはいえ、経済的にゆとりがないことも知っていたのでこの話はずっと黙っていたのです。
 
「アルバイトしようかしら・・・。でも美術をもっと勉強したくて入った大学なのだからアルバイトする時間がもったいないし」恵子は途方にくれました。
 
●一方、父の芳夫も音楽を止めてバーボンをかたむけながら考え込んでいます。
 
「娘の独り暮らしかぁ。恵子のやつ、相当思いつめた顔をしていたな。きっと、昨日や今日思いついた話じゃなかろう。もっとゆっくり話を聞いてやるべきだったな。でも、いくら話を聞いたところでマンション費用はどうする?それに心配のネタを増やしたくないし」
 
●この段階では、娘の希望に対して父が「NO」を宣告し、話は決裂したままです。
 
でも簡単には諦めきれない恵子は、友人の誘いで「がんばれ!ナイト」」という勉強会に参加し、コンサルタントの武沢先生に相談してみることにしました。
 
事の経緯を理解した武沢は、レターヘッドにペンを走らせました。
 
1.父はなぜ反対していると思うか
 
 
2.どのようにしたら父の反対理由を消し去ることができるか
 
 
と書いてあります。
 
 
●武沢は言います。
 
「アメリカには、『話す前に、相手の靴を履け』ということわざがあります。自己主張するまえに、まず自分の靴を脱ぎ、相手にも靴を脱いでもらい、許可を得てから相手の靴を履かしてもらう。それによって、お互いに深い理解が得られるということです。自分の立場だけに固執していると迷路にはまります。この場合、お父さんの気持ちとして、なぜ反対していると思うか、考えたことはありますか?」
 
恵子は、
「はい、あります。父もサラリーマンとしてがんばっていて尊敬しているのですが、自宅のローンが残っていて私のマンションの賃料を新たに負担するのは大変なのではないかと」
 
「じゃぁ、それを1番の欄に書きましょう」
と武沢は、「マンションの賃料負担が困難」と書きました。
 
●恵子はさらに続けて、
「反対理由は費用だけじゃないと思います。親として娘の独り暮らしが心配なのだと思います」
「ほぉ、それはなぜ」
「生活が乱れたりしないかと」
「生活が乱れるとは、例えばどのようなこと」
「う~ん、食生活が偏ったりとか、夜更かしして睡眠不足になったりとか、男性が遊びに来たりとか・・・」
「じゃあ、それも書こう」
 
●このようにして、次のようなものが完成しました。
 
1.父はなぜ反対していると思うか
  ・マンションの賃料負担が困難
  ・生活の乱れ(食事、睡眠などの健康管理や時間管理、友人と遊
         びすぎて勉学がおろそかになること)
 
2.どのようにしたら父の反対理由を消し去ることができるか
 
  ・マンション賃料は10万円するので、その負担法について父と相
   談する。
   私としては、一年生のうちは特に学業に専念したいので、二年
   になったら家庭教師と音楽のアルバイトで数万円以上稼ぐ。趣
   味の洋服と旅行はしばらく我慢する。図書館利用で本代も浮か
   す。
 
  ・生活の乱れについて
   信頼してもらえるまでの間は、父と母にもマンションの鍵を渡
   し、いつでも飛び入り査察を受け入れる。
   毎日帰宅・就寝報告メールを両親に送る。
   
●恵子は完成したシートを見ながら、明るい笑顔を取り戻していました。
 
「これでもう一度、お父さんにぶつかってみる。私も、二年生になるまで我慢する覚悟ができたし、お父さんとお母さんには決して心配かけないという自信がもてたから。ありがとう、武沢さん。『がんばれ!ナイト』ってすごい会なのですね」
 
恵子は翌日からメルマガ読者になってくれました。
 
●「部長、そろそろホームページをリニューアルしたいのですが」
「ダメだ。今でも有効に使われていないのに。とんでもない」
 
「社長、新しいパソコンを買って欲しいのですが」
「ダメだ、あそこに機械が余っているだろう」
 
などなど、
あなたも時と場合に応じて恵子役や芳夫役を演じることがあるはずです。
家庭や仕事での人間関係は、対立する関係ではないはず。最初は困難に思えた対立的問題も、粘り強く接していくことによって解決の糸口が見つかることが多いのです。
 
「100%のノー」なんてそんなにあるものではありません。

 

2011年05月06日(金)更新

同じことをくり返す

●かつて「世界一受けたい授業」(テレビ番組)にメジャーリーグで活躍している松井秀喜選手が登場しました。彼の授業テーマは、"どのようにしたら緊張せずに、普段通りの力が発揮できるか"というテーマでした。授業の内容は記憶に残らなかったのですが、その後のちょっとしたパフォーマンスが素晴らしかった。
 
●日米通算で500本近い数のホームランを打っている松井選手ですが、そのすべてのホームランを覚えているというのです。そこで実験として出演者が「じゃあ、72本目は?」などと聞く。それに対して松井選手は、
「ん~、たしか広島市民球場で○○投手から直球を打ったホームラン」
 
と返答していくのです。
 
●全部正解しているので司会者が、「松井さんは覚えようと努力しているのですか?」と聞くと「いいえ、自然に覚えました」と。
毎打席終わるたびにベンチでバッティングを修正してきた証拠でしょう。きっと夜、自宅に戻ってからも日記などに記録を付けているに違いありません。
 
●そういえば、将棋でも囲碁でも試合後の感想戦で、今の対局をそのまま再現できるのはもちろん、ずっと以前の棋譜までを記憶のデータベースに格納し、それらを参照しながら今の対局に臨んでいるといいます。
 
恐るべし、プロの記憶力。
 
●「武沢さん、あなたはメルマガの1000号記念で何を書いたの?」と聞かれたら、私の場合は絶句してしまいます。
正直言って、いつ1000号に到達したのかも覚えていません。
 
●松井選手みたく、
「1000号目のメルマガ記事は?」と聞かれ、『不人気メルマガも悪くない』とスラスラ答えたいものです。
ですが、それらのことを覚えていることに価値があるのではないはずです。
 
毎回の体験を次に活かすために整理し、修正していくからこそ自然に覚えられるものなのでしょう。だから、自らの体験をふり返り、整理することに意味があると思います。
 
●高野山専修学院の添田隆俊大僧正は、「同じことをくり返すことが一番大切な修業である」と次のような主旨のことを語っておられました。
 
・・・
熱があろうが風邪をひいていようが、朝のお勤めを365日果たす。それを50年くらい厳粛にする。
修行するということは、水をかぶったり断食したりすることではない。
そんなのは、特別な人がやることであって、大切なのは誰でもできるものでなければ修行にならない。
だから、同じことをくり返すということが一番大切な修行の信心だ。
何を信心するかというと、同じことをくり返すこと、なのだ。
・・・
 
●どれだけ上手くできようが浮かれず、奢らず。また、どれだけミスし、失敗しようが決してくじけない。ただ淡々と自らの体験から学習し、他人の体験からもヒントや教訓をもらい、次に活かす。自らのテーマを決めてくり返す。真理はそんなシンプルなことのようですが、それに倦くことがあってはいけません。

 

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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