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2007年12月28日(金)更新

退職ダメージを減らす

●先日、行きつけの理髪店に行ったところ、私の担当だったT君が退職していました。「独立して、同じ名古屋市内で開業している」とのことでしたが、さすがにお店の場所を聞くのは気が引けたので遠慮しました。

●それから間もなくのことです。T君から届いたハガキには「念願かなって理美容店をオープンしました。是非、お越し下さい」とありました。翌月、出向いてみるとビックリ。待合室では来店客でごった返していました。「一時間以上待ち」でしたので、その日はやむなく引き返すことに。後で聞いたところ、「オープン以来ほぼ毎日フル稼働」だというのですから凄いではありませんか。

●結局、その日は元の理髪店に行ったのですが、対照的に来店客は少なく、暇そうですらありました。カットしてもらいながら、私は次のようなことを考えていたのです。

●「T君がもしどこかの営業マンだったら、ごっそり顧客を取られた格好なのだろう。一人の人間としてはおめでたい独立開業も、元いた企業にとっては痛手にほかならない。時と場合によっては、ケンカ別れになることもある。企業としてはT君の独立を止めることはできないが、顧客をごっそり取られるというダメージを減らすことはできないのだろうか」

●いわゆる社員の「退職ダメージ」というものです。このような場合、あなたの会社ではどんな対応をとるでしょうか。
●一般的に、行きつけの居酒屋やファミレスで働く店員さんが退職しても、顧客がその後を追うことはありません。外食産業だけではなく、書店の店長が独立したという場合であっても、同じことでしょう。飲食店や書店は立地やサービスが第一の利用目的であって、そこで働く人というのは第二義的なものだからです。ですが、「人は二義的」と断定できる業種のほうが、むしろ少ないのではないでしょうか。

社員個人と顧客との関係が太くなればなるほど、仕事は円滑になっていくものですが、一方では「退職ダメージ」も高まります。これは相当悩ましい問題のはずです。社長はそのような時に備えた覚悟をしておかなければなりません。

●もし「顧客の持ち逃げは絶対に許さない」とするならば次のような手があるでしょう。

・同業他社への転職禁止
・独立開業に際しては、顧客の持ち逃げや営業行為を一定期間禁止する

といった誓約書を書かせる方法です。法的拘束力が強いとは言えませんが、社員に対する牽制としては、十分に効果があります。

●逆に、「顧客の持ち逃げは構わない」とするならば、こんな手があります。

・同業他社への転職でも許可する
・独立開業の際は、顧客の持ち逃げも営業行為も許可する。そのうえで正々堂々と勝負し、
 顧客自身の選択を尊重する。
・それどころか、社員の独立を促進し、初年度から利益が出るように応援する

このような懐の深さをもつことも、経営者として立派な態度といっていいでしょう。

どちらの方法をとるにしても、退職ダメージとどう取り組むか、その時になって慌てることがないように、しっかりとした考え方を持っておくべきです

2007年12月21日(金)更新

名ドライバーの思い出

●客観的な事実として、日本全国どこのタクシードライバーも乗客の獲得に苦労しているようです。先日も、「忘年会ラッシュですね、景気のほうはどうですか?」とドライバーに聞くと、「全然だめですよ。だってね…」とグチをこぼされました。

●しかし、そのような状況下でも同僚たちより何倍も稼いでいるドライバーがいるのも事実です。それは才覚の違いといってしまえばそれまでですが、才覚の前に、私は心構えが違うように思うのです

●私も旅先で観光タクシーをチャーターし、名所旧跡を巡ることがありますが、2時間ほども観光すれば、タクシードライバーの腕前のよし悪しがわかります。

●青森市に行ったときも、お昼どきにタクシーを止めて市内観光の相談をしたところ、「今から三時間観光ですか? う~ん、この町にそんな観光名所などありませんよ」といわれてしまい、結局1,000円ほどで「ねぶた記念館」へいくだけになりました。

●その帰りのことです。別のタクシードライバーに同じ質問をしたところ、下記のようなまったく違う答えが返ってきました。
●「お客さん、青森は見所ばっかりで大変ですよ。3時間じゃ足りない足りない。でも近場にも見所が多いから効率よく回りましょう」と言われ、結局、彼に6時間近く案内してもらうことになりました。

●その人はMさんという50近くの男性でした。おそらく、最初のドライバーは自分のテリトリーである青森市内を回ることしか頭になかったのに対し、Mさんは青森県全域を思い起こしたのでしょう。十和田湖、八甲田、酸ヶ湯温泉、青荷温泉、棟方志功博物館などを効率よく案内してくれ、すっかり青森とMさんのファンになってしまいました。

腕のいいドライバーとは、運転技術の差だけで決まるのではなく、道路事情や観光名所に詳しい名ガイドであり、名コミュニケーターでもあるのです

●この年、私は再び彼に会いたくなって、夏のねぶた祭りを見に行きました。すると彼は、私のためにねぶた見物用のさじき席を確保してくれたのです。感動した私は、彼のことをメルマガやブログで何度も書いたところ、全国の観光客から指名電話が入るほどの人気になり、半月先の乗客まで決まっていることもあったそうです。

●最初のドライバーとMさんでは、売上に倍以上の開きがあるのではないかと、私は思います。そして、ビジネスの才覚とは「まず、お客様を喜ばせたい」という心構えから生まれてくるようにも思うのです

2007年12月14日(金)更新

メンツを捨てるとき

●経営者としてのメンツ(面目、体面)にこだわるのは結構なことですが、あまり意識し過ぎると大胆さに欠けてしまい、行動が起こせなくなります。

●先日、起業準備中のサラリーマンが集まる場で講演する機会がありました。会場には多くの若者に混じって、団塊の世代とみられる方も散見されました。講演が終了し、事務局が回収した質問シートをみると、次のような質問が多く寄せられていました。

●「起業するタイミングを計っているのですが、どのような条件が揃えば成功確率を高められるのでしょうか? やっぱりある程度の資金を確保しておかないと、リスクは大きいのでしょうか?」

「私はAという新事業のアイデアをずっと温めてきたのですが、なかなか自分に対してゴーサインが出せません。『ノウハウが充分に備わっていない』と自己分析しているのですが、多少見切り発車してもうまくいくものでしょうか?」

いずれもタイミングに関するご質問でした。

●私はこうした質問を受けると、「勇気」という単語を真っ先に思いうかべます。辞書をひくと、勇気とは「何ものをも恐れない強い意気」と書かれています。現実には、恐れない経営者というのをこれまで見たことがありません。ですが、みな「恐い」という気持ちを乗り越えられるような「勇気」をもっている方ばかりでした
●起業や新規事業を起こすとき、なぜ「恐い」という気持ちになるのかというと、未知のことに一歩を踏み出すからです。仮に失敗に終わった場合、「資金がなくなるのではないか」「世間や周囲から笑われたりするのではないか」「家族に迷惑をかけはしまいか」など、誰しもその後に起こるであろう周囲の反応を心配してしまいます。

●しかし、このようなメンツを気にする迷いには、いくら時間をかけても結論はでません。打開策はただ一つ、メンツを捨てるしかないのです

●人は誰しも、自分の体面を傷つけられることを恐れがちです。しかし、あまりにこだわり過ぎると次のように考えてしまいます。
・計画通りに事を運び、カッコ良く成功したい
・みじめな姿は見られたくない
・変なヤツだと思われたくない…etc.

●そんな自尊心はあえて捨てるべきです。
・自分はかっこ悪く、たとえ泥水をすすってでも生きる
・私に失敗はない。なぜなら、何があっても絶対に諦めないからである
・私は"七転び八起き"ならぬ、"百転び百一起き"してみせる…etc.
といった考え方をチョイスするくらいでいいのです。

●歴史を見ても、一度も失敗したのない、やることすべてが成功していたという人はいません。釈迦も孔子もキリストも、生きている間は乞食同然の生活をして、外からみれば格好悪かったではないですか。個人生活でもビジネスでも、挑戦した結果として残るのは、達成の記録であって失敗の残骸ではないのです

●ユニクロが野菜事業に失敗し撤退を決めたとき、柳井社長は次のように言いました。
「当社の野菜事業が失敗した理由を振り返ってみれば、ノウハウも人材も資金も揃っていたからだ」
何とも皮肉で、含蓄のある言葉ではありませんか。

「無い無いづくしの状態からでも成功してみせるといった勇気さえあれば、それだけを頼りに多少見切り発車しても大丈夫」と私は思います。そのためには、まずメンツを捨てることからはじめましょう。

2007年12月10日(月)更新

経営理念は「この指とまれ」方式で

経営理念やポリシーに、正解・不正解はありません。どんな理念や社是・社訓であっても、それはあなたが経営する会社の価値観の問題なので、第三者がその是非を語ることはできないのです。経営理念は「この指とまれ」で良いのです。

●むしろ重要なのは、その内容ではなく「こだわり」です。理念へのこだわりが社員の行動に反映されるような強烈な思想となり、顧客や社会に対するメッセージ性をもったとき、大きな力が発揮されるのです

●ある地方工務店の話をしましょう。経営理念の勉強をしてきたと思われる社長が、突然次のような発表をしました。

●「今後、我が社はすべての価値判断の基準を”顧客のため”とする。顧客のために働いて、仮に我が社が潰れるとしたら、それは資本主義制度それ自体の欠陥である。逆に言えば、我が社はこの理念にこだわるかぎり潰れることはない」

●しかし、この工務店は数年後に倒産してしまいます。ピークには300億円程度あった売上が、倒産直前には120億円になっていました。これだけ聞くと、経営理念を作ったことが倒産の原因に思えるかも知れません。しかし、実態は違います。社長が経営理念を作成して掲げたのはいいのですが、それに対するこだわりが浅かったのです。
●つまり、せっかく作った理念が管理職以下に浸透せず、現場でクレームが起きたときも、営業部長や所長は部下に対し、利益を優先するような指示をしました。その結果、経営理念と現場リーダーの指示に矛盾が生じ、多くの優秀な若手社員は立ち往生してしまったのです。彼らが会社を見限ったことが、倒産を早める原因となりました。

●社長は内心、倒産を回避したいがために、理念に救いを求めたのでしょう。しかし、それだけではうまくいきません。

●「我々は、常に一番でなければならない。二番以下のすべては敗者である」――過日お会いした小売業の経営理念には、こんな一節がありました。

●まるで「All or nothing」という、ドイツの自動車メーカーのポリシーのようです。事実、このお店が出店している8店舗はすべて地域一番店で、二番店以下だった4店舗を閉鎖したこともあるそうです。名は体を表すと言いますが、理念に忠実であろうとすると、営業政策にもそれが反映されるのです。

●また、別のガソリンスタンドチェーンでは、「お客様の喜びが私たちの喜びです。私たちの仕事はお客様の笑顔によって評価されます」という理念を掲げています。この会社では、顧客の喜びや笑顔というものを示す経営数字として、リピート率(再来店率)を定めています。個別の店舗ごとにリピート率の目標値を設定し、その達成率をチェックしているようです。

●これらの例からわかるように、経営理念そのものの優劣はありません。経営理念への忠実さとこだわりにこそ、優劣があるのです。冒頭に書いたように、あくまで経営理念の内容は「この指とまれ」で良いのです。その理念が社長そのものであり、あなたの会社そのものです。心してあなたの経営理念を作りましょう。

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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