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2012年05月25日(金)更新

実車に付け

●「 "実車に付け、空車に付くな" が僕のモットーです」と語ってくれたのは東京の大手タクシー会社の運転手・須藤さん(仮名、33才)。
彼は今のタクシー会社に入る前には、コンピュータプログラマーをされていました。運転好きであることと、都内の地理に精通しているという理由でタクシー会社に転職し、もうすぐ半年になるそうです。
 
●仕事の感想を尋ねると、こんな答えが返ってきました。
「自分の才覚次第で収入が大きく変わってくるので、とてもやり甲斐があります。IT 業界にいたときの知恵の使い方がこの世界(タクシー業界)でも使えそうな気がしますし」
先月の月収は40万円だそうで、決して悪くない数字です。好成績の秘訣を聞いてみたら冒頭の言葉がかえってきたのです。
「 "実車に付け、空車に付くな"」
 
●その意味するところはこうです。
須藤さんがタクシー会社に入って最初の月は先輩の助言を無視して、とにかくガムシャラに流したそうです。タクシーを拾ってくれそうな場所を何ヶ所か教わって、そこを中心に流しに流しました。先輩ドライバーが休憩したり仮眠をとっているときも彼は真剣に流したそうです。
 
●一週間もしないうちに彼はメキメキ頭角を現します。中堅社員並みの成績を上げだしたのですが、その頃彼はあることに気づいたそうです。
それは、「実車中によく手を挙げられる」という法則です。果たしてこれが法則なのか、それとも単なる気のせいなのか。どうも気になるのでデータをとってみることにした。
 
●一日何回お客から呼び止められるかというデータで、実車中の時と空車の時との回数を比較して彼は驚くことになります。
ある一週間の集計ですが、空車の時より実車の時のほうが手を挙げられる回数が1.5倍も多いというデータが出たのです。
 
●「なぜだろう?」と彼は考え込みました。でも理由が思いつきません。ず~と考え続けたのですが、「運」とか「ツキ」という結論しか思い浮かばなかったそうです。
結局、いくら考えても理由が思いつかなかったのですが、須藤さんはデータを信じました。そしてデータに基づいて行動することにしたのです。自分が空車でも、他の実車中の車のあとを追いかければ稼働率が上がるのではないかという仮説を打ち立てたのです。
 
●そうした工夫が積み重なって須藤さんの営業成績は入社半年なのに営業所のトップ10%に入っているというのです。科学的営業法はいかなる世界でも有効なのでしょう。

 

2012年05月18日(金)更新

ある会社の真摯さ

●「うちは研修教育に力を入れています」と社長自身が胸をはる会社から研修を頼まれました。訪問してみると案の定すばらしい。
その日は新任部課長研修だったのですが、社長が最前列に座って私の講義を聴いておられました。しかも誰よりも大量にメモをとっていて、私の顔を見るより下をむいてノートをとる時間のほうが長いくらいでした。
 
●「背中で語る」という言葉がありますが、社長が一生懸命になってノートをとる姿を見ながら居眠りできる社員などいません。社長の存在と受講の姿勢によって会場内の空気がピーンとするのが講師として大変ありがたかったことを思い出します。
 
●そうした会社は研修後の懇親会までひと味違います。お酒が回るのですが、世間話のような会話はなにひとつ出ません。「今日の研修で何を学びましたか、順番に発表してください」と研修部長が音頭をとるので、私もうかうかビールも飲めないほど。実はそれぐらいの方がうれしいのです。ビールなんていつでも飲めますから。
 
●懇親会終了時にまたまた驚きました。研修部長のこんな締めの言葉で会がお開きになるのです。
 
「皆さん、それではいつも通り今日の研修レポートは明日の正午までにメールしてください。交通費はそれとひき替えに口座振込されます。レポートが遅れた場合は交通費支給ができませんから気をつけて下さい」
 
●この会社のレポート提出はすべてが翌日。それを怠ると交通費が出ないばかりか次回の研修を受けられなくなるそうです。研修も懇親会も仕事である以上、当然のしつけなのでしょう。
 
社長の真摯さが社員にも真摯さを求めるのです。

 

ボードメンバープロフィール

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武沢 信行氏

1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。

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