武沢信行の「社長の学校・事始め」 | 経営者会報 (社長ブログ)
社長業を極めるためのカリキュラムについて、「日本的経営のリニューアル」という視点から紹介します
N社長の事件簿
●「面接では、自社や自分の情けない所や弱みを隠さず伝えないとダメだね。良い所ばかり見せるとあとで失望させることになる」と語るはN社長(愛知県、51才)。
●たしかにその通りで、たった一回の面接だけで望み通りの社員なのか否か、望み通りの会社・社長なのか否かを判断することなど出来っこありません。だから試用期間がある、とは言うものの、試用期間を設けてあることでそれが有効に機能しているケースはまれです。ほとんどは自動的に本採用になっていくケースが多いです。ではどうしたら優秀な人を見極め、優秀でない人をふるい落とせるのでしょうか?
以前、N社長にこんなミニ事件がありました。
●N社長の会社はまだ小規模ですが、社長自身がインターネットサイトやメルマガ、ブログで大活躍していて活動範囲は日本中です。社長自ら本も出し、かなり売れています。その様子をずっとウォッチしていたという若いビジネスマンA君が、メールで「Nさんのもとで働きたい。是非御社に就職させてほしい」と面接を申し入れてきたといいます。
●Nさんの会社では社員募集をしていないので当惑しました。ですが、熱心な文面だし、頑張り屋さんなのがよく分かったのでとにかく本社で一時間ほど面接しましょう、ということになりました。
●25才というA君の第一印象は可もなく不可もない。とりたてて個性的でもないが、A君の話しぶりを聞いているとすごく芯がしっかりしています。学業も優秀だったみたいだし、N社長が若い頃よりも人生ビジョンをもっています。それに何よりも入社意欲が強烈に強い。
「Nさんのような人を探し求めていた」と言わんばかりで、面接というよりは、彼からの一方的な売りこみの時間だったといいます。
●「できるものなら、たった一回の面接で社員の採用決定をしてはいけない」という「がんばれ社長!」で読んだ武沢の教えをN社長は破りました。
面接がはじまって約一時間後、情にほだされる格好で、「よしA君、あなたは採用だ。いつから来られるの?」と尋ねていました。
A君は関東から単身で引っ越してくるというので10日後には大丈夫だといいます。「よし、5月の連休明けから仕事してもらおう。担当してもらう仕事は僕のほうで良く考えておくから」とN社長もすっかりその気になって再会を約束しました。
●ところが不幸なことにわずか4日後に入社辞退の申し入れを受けることになります。いや、4日後にこの「事件」が起きたことはお互いのために幸運だったのかも知れません。
●面接から4日後、彼が引っ越し先をどこにするかを決めるため再び愛知県に来るといいます。N社長はその日、午前中は商談が入っていたのですが正午には終了予定のため、A君とは12時半からランチをとる約束をしました。
どの物件に引っ越すべきか、どのような条件で仕事をしてもらうか、などの詳細を煮詰める予定でもありました。
●ところが、予定よりも前の商談が長引きました。A君の約束時間である12時半近くになりましたが、まだ終わりそうにありません。A君の携帯電話番号は登録していないので、携帯をかけるためにはカバンの中に入っているA君の履歴書を見なければなりません。とうとう12時半ちょうどになってしまいました。A君から携帯がなりました。ですが出られません。
●商談が終わったのは12時40分でした。駐車場に出てすぐにA君に電話しました。「Nですが、申し訳ない。今名古屋駅の近くで商談が終わりました。あと15分ほどでそちらに到着できそうです」
●すると、A君の様子が変です。まるで別人のような低いトーンで、「あ、N社長ですか。遅れる?あ、そうですかぁ、お忙しそうですね。何ならもう結構ですよ」と。
●約束のレストランに到着したのが12時55分でした。
A君はレストランの店内ではなく、駐車場で待っていました。店内へ促すN社長に対してA君はそれを辞退し、「私からとても大切なお話しがありますが、この場所で結構です」と立ったまま何かを話そうとします。
●A君から出た言葉はこんな内容だったといいます。
「小さな約束を守れない人に大きな仕事はできません。社長のお仕事から見て、私との約束など小さなものなのでしょうが、だからこそ誠意を見せていただきたかった。遅れるとわかった時点で連絡を下さるのが人としての最低限の常識ではないですか。このような人のもとでは残念ながら安心して仕事はできません。今回の採用のお話しはなかったことにして下さい。短い時間でしたがいろいろ勉強させていただきありがとうございました」
●Nさんは何も言わなかったといいます。いや、あっけにとられて何も言えなかったのでしょう。「サヨナラ」と言うのがやっとでした。
遅刻したことに弁解したい気持ちも少しはありました。A君のあまりに狭量な所などにも今後のために忠告してあげたかった。ですが、自分で遅れておいて忠告するのも変です。ですが、それよりも何よりも、こちらだって、A君をそんな人だと思っていませんでした。正式採用する前にそれがわかってホッとしたというのです。
●良いところ、悪いところ、清濁あわせ飲んでみてウマイかマズイかを見てもらいましょう。良いところだけを抽出して飲んでもらってはウマイに決まっています。清濁あわせ飲むためには最低でも一週間程度は実務面接試験がいると思うのです。
教訓:人を採用したければ、一週間ほど実務面接試験をしてから採用か不採用を決定しましょう。その間に、あえて会社や社長の弱みや問題点もさらけだし、開き直るのではなく、問題は問題として共有しましょう。
この事件簿を読んであなたは何を感じましたか?
●たしかにその通りで、たった一回の面接だけで望み通りの社員なのか否か、望み通りの会社・社長なのか否かを判断することなど出来っこありません。だから試用期間がある、とは言うものの、試用期間を設けてあることでそれが有効に機能しているケースはまれです。ほとんどは自動的に本採用になっていくケースが多いです。ではどうしたら優秀な人を見極め、優秀でない人をふるい落とせるのでしょうか?
以前、N社長にこんなミニ事件がありました。
●N社長の会社はまだ小規模ですが、社長自身がインターネットサイトやメルマガ、ブログで大活躍していて活動範囲は日本中です。社長自ら本も出し、かなり売れています。その様子をずっとウォッチしていたという若いビジネスマンA君が、メールで「Nさんのもとで働きたい。是非御社に就職させてほしい」と面接を申し入れてきたといいます。
●Nさんの会社では社員募集をしていないので当惑しました。ですが、熱心な文面だし、頑張り屋さんなのがよく分かったのでとにかく本社で一時間ほど面接しましょう、ということになりました。
●25才というA君の第一印象は可もなく不可もない。とりたてて個性的でもないが、A君の話しぶりを聞いているとすごく芯がしっかりしています。学業も優秀だったみたいだし、N社長が若い頃よりも人生ビジョンをもっています。それに何よりも入社意欲が強烈に強い。
「Nさんのような人を探し求めていた」と言わんばかりで、面接というよりは、彼からの一方的な売りこみの時間だったといいます。
●「できるものなら、たった一回の面接で社員の採用決定をしてはいけない」という「がんばれ社長!」で読んだ武沢の教えをN社長は破りました。
面接がはじまって約一時間後、情にほだされる格好で、「よしA君、あなたは採用だ。いつから来られるの?」と尋ねていました。
A君は関東から単身で引っ越してくるというので10日後には大丈夫だといいます。「よし、5月の連休明けから仕事してもらおう。担当してもらう仕事は僕のほうで良く考えておくから」とN社長もすっかりその気になって再会を約束しました。
●ところが不幸なことにわずか4日後に入社辞退の申し入れを受けることになります。いや、4日後にこの「事件」が起きたことはお互いのために幸運だったのかも知れません。
●面接から4日後、彼が引っ越し先をどこにするかを決めるため再び愛知県に来るといいます。N社長はその日、午前中は商談が入っていたのですが正午には終了予定のため、A君とは12時半からランチをとる約束をしました。
どの物件に引っ越すべきか、どのような条件で仕事をしてもらうか、などの詳細を煮詰める予定でもありました。
●ところが、予定よりも前の商談が長引きました。A君の約束時間である12時半近くになりましたが、まだ終わりそうにありません。A君の携帯電話番号は登録していないので、携帯をかけるためにはカバンの中に入っているA君の履歴書を見なければなりません。とうとう12時半ちょうどになってしまいました。A君から携帯がなりました。ですが出られません。
●商談が終わったのは12時40分でした。駐車場に出てすぐにA君に電話しました。「Nですが、申し訳ない。今名古屋駅の近くで商談が終わりました。あと15分ほどでそちらに到着できそうです」
●すると、A君の様子が変です。まるで別人のような低いトーンで、「あ、N社長ですか。遅れる?あ、そうですかぁ、お忙しそうですね。何ならもう結構ですよ」と。
●約束のレストランに到着したのが12時55分でした。
A君はレストランの店内ではなく、駐車場で待っていました。店内へ促すN社長に対してA君はそれを辞退し、「私からとても大切なお話しがありますが、この場所で結構です」と立ったまま何かを話そうとします。
●A君から出た言葉はこんな内容だったといいます。
「小さな約束を守れない人に大きな仕事はできません。社長のお仕事から見て、私との約束など小さなものなのでしょうが、だからこそ誠意を見せていただきたかった。遅れるとわかった時点で連絡を下さるのが人としての最低限の常識ではないですか。このような人のもとでは残念ながら安心して仕事はできません。今回の採用のお話しはなかったことにして下さい。短い時間でしたがいろいろ勉強させていただきありがとうございました」
●Nさんは何も言わなかったといいます。いや、あっけにとられて何も言えなかったのでしょう。「サヨナラ」と言うのがやっとでした。
遅刻したことに弁解したい気持ちも少しはありました。A君のあまりに狭量な所などにも今後のために忠告してあげたかった。ですが、自分で遅れておいて忠告するのも変です。ですが、それよりも何よりも、こちらだって、A君をそんな人だと思っていませんでした。正式採用する前にそれがわかってホッとしたというのです。
●良いところ、悪いところ、清濁あわせ飲んでみてウマイかマズイかを見てもらいましょう。良いところだけを抽出して飲んでもらってはウマイに決まっています。清濁あわせ飲むためには最低でも一週間程度は実務面接試験がいると思うのです。
教訓:人を採用したければ、一週間ほど実務面接試験をしてから採用か不採用を決定しましょう。その間に、あえて会社や社長の弱みや問題点もさらけだし、開き直るのではなく、問題は問題として共有しましょう。
この事件簿を読んであなたは何を感じましたか?
ボードメンバープロフィール
武沢 信行氏
1954年生まれ。愛知県名古屋市在住の経営コンサルタント。中小企業の社長に圧倒的な人気を誇る日刊メールマガジン『がんばれ社長!今日のポイント』発行者(部数27,000)。メルマガ読者の交流会「非凡会」を全国展開するほか、2005年より中国でもメルマガを中国語で配信し、すでに16,000人の読者を集めている。名古屋本社の他、東京虎ノ門、中国上海市にも現地オフィスをもつ。著書に、『当たり前だけどわかっていない経営の教科書』(明日香出版社)などがある。
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